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54.恥ずか幸せ


 ゴンッ! ゴンッ!


「どうぞ」


 この厳つい音はノッカー。しかも普通サイズのため、輪っかがハンドルくらいの大きさなのでこんな音。

 私用の扉に、たまについているモノ。


 何故なら私如きのノックでは扉の向こうには、な〜んにも聞こえなかったから。ドンドンと思いっきり叩いても、微かにしか聞こえないってどうよっ!?いや、非力なのはわかってるけどさ〜。


 ま、それは置いておいて、中に入るとルーシャス様はソファーで本を読んでいらした。初めて見るラフな格好で、ボタンも全部止めてなく、チラリと鎖骨が見える。



 ぐはぁ。

 色気が半端ない。


 こんな人に色仕掛け?

 いやいやいや、無理でしょ〜!!


 心の中でパニクっている間に、本をおいてルーシャス様が迎えに来てくれた。そのまま抱っこされ、ソファーに戻る。

 ルーシャス様は私の頰を撫で、嬉しそうに言った。


「今日からずっと一緒にいられるね。夜も一緒ならカエデも少しは楽かな?」


 どうやら一緒に寝るのは、私が夜暇なのを気にかけてくれた結果みたい。


「でも……夜中にルーシャス様を起こしてしまうかもしれませんよ?」

「構わないよ。カエデは何をしてても良いんだよ?」

「寝ているルー様に、悪戯してしまうかもしれなくても?」


 悪戯? とクスクス笑いながら、頭を撫でてくれる。


「そうですね……たとえば、ルー様の綺麗な銀髪を三つ編みにするとか! 寝ているルー様の睫毛や眉毛に触ってみるとか!」


 ついにはハハハと声を出して笑い出した。


「そんな可愛い悪戯なら、いつでもやって良いよ?」


 む〜。

 

 よし、言質はとったし今度絶対、編み込みにしてやろう! と心に決めた。



 むくれている私に「本当にカエデは可愛いね」と言いながらスリスリされる。


「……それにしても今日の格好は扇情的だね」

「はい……ディアナさんが今日のためにって作ってくれたそうです」

「そっか……でも私はカエデを愛しているけど、どうこうしたい訳じゃないよ?」


 じゃあ、と言ってモゾモゾと動きルーシャス様から降りて、少し間を開けてソファーに座る。

  

 目を瞑り、大きくな〜れ〜と願って目を開く。

 目線が高くなったのを確かめて、ルーシャス様に向き直る。



「これなら……どう……で……す…………か……」




 あぁっ!! もう! 私のバカっ!

 どうにか出来る訳なんかないじゃないっ!!


 私は目の前の等身大(?)のルーシャス様の美しさの前に、真っ赤になりながら何も言えなくなってしまった。


 ルーシャス様は美しい。神様みたい。更に言えばめっちゃ好みだ。

 ずっと一番近くで見てきて、ちょっとは慣れたと思ってた。


 でも全然違う!

 大きなお顔と実寸大(?)のお顔では、破壊力が倍どころの話じゃないですぅっ!!

 一気に男の人だと自覚した。いや、否が応でも自覚させられた。


 ルーシャス様の笑顔を見て、倒れた侍女さん達の気持ちがようやく分かった気がした。



 ルーシャス様は、少し驚いた風に眼を見張り、ゆっくりと閉じた。


「カエデは…………悪い子だね」


 そして開いた瞳には、男の熱が籠っていた。


「煽ったカエデが悪いんだからね?」


 もはや動く事すら出来なくなった私の顎に手をかけ上を向かせると、そっと柔らかな唇が降ってきた。


 額に、瞼に、頬に、鼻先に。


 温かさと共に、愛が伝わる。


「ルー様……」

「カエデ、愛しているよ」


 ゆっくりと唇を重ね合った。






◇◇◇





 そして私は今、嬉しそうにいそいそと用意したルー様に、ベッドの上で甲斐甲斐しく朝食を食べさせられている。


「はい、あーん」


 キラキラした満面の笑顔で、ルー様がスプーンを差し出してくる。

 体が怠くて動けないから、有難いのだけれども、色々恥ずかしい。


 何故だか朝から清々しいオーラを発しているルー様には、シャワーでもしてきたのか髪が濡れている。それがまた色気をだだ漏れさせまくっていて、目のやり場に困る。私は私で浄化魔法をかけてもらい、スッキリしている。


 ……が、途轍もなく恥ずかしいんですっ!!


 真っ赤になりながら口を開けて食べると、ルー様は「はぁ……可愛い」と悶えながらまたスプーンを出してくる。


 何なの!?

 この恥ずかしいループはっ!!


 羞恥心さんは旅行から帰ってきたのっ!?



 息も絶え絶えになりながら、朝食を食べ終えた頃、家令のヴィクターさんが「旦那様、そろそろお時間です」とルー様を呼びにきた。


 チッと舌打ちが聞こえた気がするけど、きっと気のせいよね。


「ちょっと仕事をしてくるけど、カエデはゆっくりしててね」


 ルー様はそう言いながら私を抱き寄せ、頭にキスを落として渋々といった感じで向かっていった。

 


 


 バタン。


 閉まった扉を確認した私は「はあぁぁぁ〜」と息を吐き、パタンとベッドに倒れた。

 そして小さく戻る。



 とても恥ずかしいけれど、同時に嬉しいから困る。

 



 昨夜の事を思い出すと、ボボボボボと顔が熱くなる。

 


 あぁ……私はルーシャス様に愛されて幸せですっ!




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