50.ついに
昨日の夜会はちょー頑張った。
招待客は全部王族だし、私を見るのが目的なのは分かり切っているので、全員とお話ししました。二時間も(実質六時間)。
何故だかみんな色んな物をくれて、ぜひ自国へ来て欲しいと懇願されたけど、無理なものは無理です。
エルフ王のような転移魔法なら可能かもしれないけど、この世界の移動手段は主に馬車。引いているのが馬じゃない場合もあるけど、乗る所はそう変わらない。あのサスペンションじゃあ、長距離は無理なんです。
お出かけの時の三十分でもヤバかった。
一時間半も震度3で揺られてみ?
かなりしんどいから。
しかもずっと抱っこしてもらって、だからね?
テンションが上がっていたから何とかなったものの、ずっと気持ち悪かった。黙っといたけど。
ルーシャス様とならまだ楽だけど、そこまでして他国に行きたいかと言われれば否だ。必要ないし、行きたくない。それにどこかに行こうものなら、我も我もと言われるのが目に見えているもん。
まあ、フィー様のお陰で私の価値が上がったらしく、無理強いする国はどこもなくて、それはよかったけど。
そんな訳で疲労困憊だった私は、部屋に戻ってお風呂に入れてもらっている間に寝てしまったらしい。
よく寝て、すっきりと目覚めたら夜中だった。
するとすぐにカールさんがやって来た。
「こんな時間に申し訳ございません、アリス様」
「ううん、問題ないです。何かありましたか?」
「実はあれから各国の王妃様方が、ぜひアリス様とのお茶会をと希望されておりまして。王妃殿下がもしアリス様が良ければ、開いてもらえないだろうかと尋ねられました。如何なさいますか?」
「王妃様達とお茶会……」
「勿論準備は王妃殿下がなさるそうなので、アリス様は参加してくださるだけで結構なのですが」
あー……うん。仕方ないね。
これもプレゼンと割り切って頑張るか。
「分かりました、参加します。……多分お昼からですよね?」
「おそらくそうなるかと思います」
「では午前中に相談したい事があるので、ルーシャス様とカールさんで来てもらえませんか?」
「畏まりました。それではわたくしはこれで。夜分に失礼いたしました」
カールさんが帰った後で、私がした事は──
おでこの確認だった!
だってだって、触った時になんかあったんだよ?
気になるじゃん!
そ〜っと鏡を確認してみると、そこには卵型の黒い石が嵌っていた。
黒といっても半透明でキラキラと輝いている。
……ブラックダイヤモンド? そんなのあったっけ?
まあ、真っ黒じゃなくて良かったかな。
だって真っ黒だったらでっかい黒子じゃん。ヤダー。
◇
夜が明け、ルーシャス様とカールさんがやって来た。
「おはよう、カエデ。体調はどう?」
「おはようございます、ルーシャス様。しっかり寝て疲れも取れましたよ」
「それはよかったです」
「何か相談があるそうだね?」
「はい、実は──」
昨日の夜会を見て、今まで私へのお茶会や夜会などの誘いは王家、つまりエリザベス様が捌いてくださっていたが、これからは自分でやらなければいけないと気付いたのだ。
私としては正直、お茶会も、夜会も、出たくない。
心理的にも物理的にもしんどいから。
お茶会は割と楽だが、自分で移動するのは大変だし、ましてや開催などは無理である。夜会に至っては、ダンスもできなければ、一人で行動も難しい私に参加する意味はないと思う。
それに誘われてどこかに出ようものなら、それこそお誘いが殺到するだろうし。いちいちお断りをするのも、はっきり言って面倒くさい。
だからルーシャス様に問題なければ、今後私にいかなるお誘いもしない様に、王様にお願いしてみようかと思っていると告げた。
「なるほど。確かに昨日のお誘いも大変でしたからね」
「はい。申し訳ないのですが、もし必要ならルーシャス様だけ参加していただく形でお願い出来ませんか?」
「私は元々社交を必要としていないから、大丈夫だよ。それにもし出席したいものがあれば、事前に伝えれば良いだけだからね」
「そうですか。ではそれでお願いします」
「では陛下への謁見を申し込んでおきますね」
「有難うございます」
そんな風に話がまとまった時に、ディアナさんから来客の先触れが告げられた。
「アリス様。第二王子殿下がお会いしたいとの事ですが、如何なさいますか?」
第二王子? ああ、赤髪王子ね。何の用だろう?
「構いませんよ」
「ではお伝えしておきます」
部屋から出て行くディアナさんを眺めながら、ルーシャス様とカールさんが眉間に皺を寄せながら話していた。
「一体何の用だ?」
「さあ? 何でしょうね?」
私も苦手だが、周りも嫌いらしい。
しばらく待つと赤髪王子が護衛と共にやって来た。
護衛を外に残し一人で入ってくると、スッとルーシャス様が私の前に立った。ピリッとした空気を感じ取った赤髪王子はちょっと傷付いた顔をしたが、私の近くまでやって来ると片膝を立てて首を垂れた。
「聖女様! 今まで貴女様に対してひどい態度を取ったこと、お詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした!」
いきなりの謝罪に誰もが驚いた。
「許しを乞おうとは思いません。ですが、今後あのような態度を取ることは決してございません。それだけはご理解いただきたく、参上いたしました」
謝っている彼を見て、私をちらりと見た後ルーシャス様はそっと横に控えた。
真摯に謝る彼は、良くも悪くも真っ直ぐな性格なのだろう。
確かまだ17歳。日本で言えば高校生。
その年代で自分の非を認めて謝るって、中々出来ない事だと思う。
ちょっとだけ見直した。
「では、私はハズレではないですか?」
「そ! それは……はい、勿論違います!」
「ふふ、では当たりですか?」
「……あたり? あぁ! 当たり! はい! 我が国に貴女様を喚べた事を誉に思います」
「分かりました。謝罪を受け入れます」
「有難うございます!」
何やらスッキリした顔で赤髪王子は帰って行った。
私はルーシャス様やディアナさんを見て、微笑んだ。
「私、当たりになれましたよ!」




