47.式典
いよいよ式典が始まった。
高らかなトランペットのような音が鳴り響き、端に控えた楽団が厳かな音楽を奏でだした。
それを合図に枢機卿が祭壇に向かい、開催の挨拶と私の紹介を行う。
そして私が入場となる訳だが、私が向かう先は祭壇の上にある台である。
祭壇自体が一段高くなっているのに、更に台が置いてある。
言うまでもなく、私を見やすくするためのものだが、何とも豪華な装飾が施された台で、上るための階段もついている。が、当然柵などなく、足を踏み外せば落っこちる仕様となっている。
一応私的には広く作られているけど…………高いんですぅ〜。
練習で一度上ってみたが、祭壇の上から広場まで見渡せちゃうくらい高い。
なるっべく、真ん中に立って端を見ないようにして、何とかこなしたのは記憶に新しい。
枢機卿に呼ばれたので、そこにしずしずと歩いて向かう。
…………視線が痛い。
ザックザク刺さってますが?
ちらりと列席者を見ると真ん中の通路を挟み、私から見て一番前の右側に竜王が、左側にエルフ王が座っていた。主催者である王様やエリザベス様はその三列後ろに居た。ちなみに間の二列は空白となっております。
その竜王様の眼光が鋭すぎます。
……何かしたでしょうか?
冷や汗が流れる中何とか祭壇に上り、対フィー様用の礼をとり跪く。
そして枢機卿が朗々とこの世界の成り立ちとフィー様への感謝を、お経や 祝詞のように、独特の節をつけて歌い上げるように述べていく。古い言い回しが多いので、私には何と言っているのかよく分からないけど、これがまた良い声で、聞いていると穏やかな気持ちになる。
……でも、ちょっと長いよね。
そろそろ足が痛くなってきたんだけど……まだ続くの?
終わったかな? と思うと息継ぎだったりして、中々終わらない。
この間も全視線が、私の背中に集中してる気がするし。
めちゃくちゃ敬虔に祈っているように見える私だけど、その内容は「早く終わって〜」だったりする。不敬にも程がある。
身体がぶるぶる震え出した頃、ようやく終わったようで私の番になった。
一旦身体を起こして、一息ついてからもう一度頭を下げる。
「わたくし、有栖川楓、ゼフィーナ神様に選ばれ、招かれた事、恐悦至極にございます。謹んでこの世界のより一層の繁栄を、心よりお祈り申し上げます」
何度も練習した言葉を述べると、目を瞑っているのにパァッと明るくなった。不思議に思って目を開くと私の足元の周りに、スポットライトのような光が見えた。
ん? と思い顔を上げると、遥か空から光が降りていた。
あ、コレ、見たことあるヤツ。
そのまま見上げていると、光の塊が降りてきた。
その光は私の近くまで来ると、ふわりと解けて周りに降り注いだ。
そこに神々しい輝きを放ったフィー様が現れた。
私を見てにこりと微笑み、あの不思議な声で『我が愛し子に祝福を』と言いながら人差し指で私の額に触れた。
その瞬間、額がカッ! と熱くなったと思ったら、身体全体が熱くなり思わずぎゅっと目を瞑る。
その瞬間、後ろの方から「おぉっ!?」と言う驚きの声が上がった。
これは大きくなれたって事かな?
そろそろと目を開けると、見た事のない目線の高さだった。
思わずキョロキョロと周りと確認してみると、足元の台が小さい。てか、降りられる高さの台になっている。
そっと額に触れてみると、何か硬い石みたなものがくっついている。
ハッと服を確認したけど、ちゃんと着てた。
良かった〜。お偉いさんたちの前でいきなり全裸じゃなくて。
服もちゃんと大きくなってる。流石、フィー様。抜かりが無い。
フィー様を見上げると、満面の笑みでこちらを見ていた。
…………フィー様……演出が過ぎませんかね?
半目で見てると、それに気付いたフィー様は日本語で話しかけてきた。
『どう? 何か違和感ある?』
「いえ、大丈夫です。……それにしてもフィー様、昨日あれから何かしたんですか?」
『? どうして?』
「だって……今朝突然、エルフ王と竜王が来られたんですよ?」
『ああ、帰り際にちょっと気配を出しただけだよ。彼らくらいなら感知出来たんだろうね』
「はぁ……やり過ぎじゃないですか?」
『ん? そうかな? あの子達が来たら、楓に箔が付くかなと思ってさ』
「……そんなのフィー様で十分過ぎる程、付きまくってますよ」
この世界ではまだ誰もフィー様を見た事がない事を、神殿に来てから思い出したのだ。
それなのに私ときたら、フィー様と会って、お話しして、お菓子も食べて、祝福までもらっちゃってる。
箔がつきまくって、もはや原型が見えないくらいだ。
「フィー様。有難うございます」
私は立ち上がり、深々と頭を下げた。
『……一応、目安は付けておいたけど、あくまで目安だからね。まあ、僕は楓が望む通りに生きてくれたら、それで良いよ』
「はい!」
それからフィー様は竜王とエルフ王を見て、微笑み、すぅっと消えていった。
私はくるりと振り返り、胸に両手を重ね合わせ、目を瞑る。
フィー様、本当に、本当に有難うございます……。
フィー様が、ルーシャス様が、ディアナさんが、カールさんが、そしてみんなが、私を大切に思ってくれている。私はなんて幸せ者なんだろう。
どうか、みんなも幸せに。
そんな思いを込めて、両手を広げ祈る。
「この素晴らしき世界が、幸せで満ち溢れますように」
近くから、遠くから、ざわめきが聞こえる。
目を開けてみると、私を中心に光の波が広がり、それが遥か遠くまで届いていくのが見えた。
……なんか凄い事、やっちゃった感があるけど、私大丈夫かな?




