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45.私の願い


『……そっちかぁ〜』


 フィー様は手を目元に当て、上を向いてしまった。擬音をつけると『あちゃー』って感じ。

 うーん……反応からすると予想と違ったみたい。 


「……あの……やっぱり無理でしょうか?」

『ん? いや、出来なくはないよ。……ただ対価が大きいだけ』

「……それはどのくらいでしょう?」


 すると今度は顎に手を当てて、うむむ……と考え込んでしまった。


『そうだね……簡単に言うと、大きくなる為には10倍の時間が必要かな?』


 10倍……。

 

 目を瞑って考えてみる。


 つまり1時間で10時間過ぎる計算で、こちらの世界で1時間だと30時間。

 私が頑張って後60年生きるとして、6年。こっちでは2年。


 ……ちょっと短いなぁ。

 目的も達成出来なさそう。

 でも……うーん……。


 私がうんうん唸りながら、悩んでいるとフィー様が尋ねてきた。


『大きくならなきゃダメ? 僕はてっきりカエデは長生きしたいのかと思っていたんだけど……』

 

 ……それも悪くないけど、それだと叶わない。

 2年か……。


『カエデはどうして大きくなりたいの?』

「……私は…………ルーシャス様との子供が欲しいんです……」

『…………そっか』

「はい……」






 それを知ったのは偶然だった。

 

 この世界では当たり前過ぎて、何の疑問にも思われていなかった。だから私も知らなかった。教えてもらえなかった。ううん、教えるという考えすらなかったんだと思う。



 ディアナさんの結婚式の話をしていた時だった。

 日本人らしく、冠婚葬祭というイメージがあったのでお葬式はどこでするのか聞いてみたのだ。この世界にはお寺はないし、教会もない。まさか神殿でするのだろうかと疑問に思ったからだ。


 すると流石に神殿では行わないが、神官が行うと言われた。王族クラスになると王宮で別れの儀式を行い、王族の代々の霊廟に収めるらしいが、一般的には親族のみの場で神官が祈りを捧げ、日本でいう火葬場に運び骨まで残さず燃やしてしまう。基本的にお墓はなく、遺髪や故人が大事にしていたもので故人を偲ぶのが一般的らしい。


 じゃあ、聖女のお墓があるのかと聞いてみたら、聖女が亡くなるとその体は消えてしまうのだと言われた。

 

 文字通り世界にとけ込み、この世界の一部となる。

 そして聖女が亡くなると世界の空に虹が現れる。

 

 それを見て、人々は聖女の死を悼むのだと。

 だからこの世界での虹は、あまり歓迎されていないらしい。


 

 そう言われて気付いた事があった。

 

 こちらに来てから一度も抜け毛を見ていない事に。


 長くて黒い髪は意外と目立つのに、今まで見た事がなかったのだ。

 最初は浄化魔法で消してくれているのかと思ったけど、流石に髪をとけば何本かは抜けるはずなのにそれもなかった。


 まさかと思い、一本抜いてみる。


 しばらく見てると、ゆっくりとキラキラとした粒子になり消えていってしまった。




 ……そっか、私が死んだら、何もかも消えてしまうのか。

 異世界人である私は何一つこの世界に残せないのだ、と思った。

 

 

 お墓が重要だとかも思っていないし、死体をどうこうされるのも何だし、それは別に良かったのだけれども…………ただ……何となく寂しいと思った。


 勿論、記憶には残るだろう。

 でもそれだけじゃなくて、何か、確かなものを残したかった。


 


 それに、ルーシャス様は私が小さいからペットのように愛してくれているのだと、私はずっと思っていた。

 

 でも違った。


 どうも私の外見が理想そのものだったらしく、一目惚れだったと頬を染めて告白されたのだ。

 その時の可愛らしさといったら、もうっ!!

 私まで真っ赤になったわよっ!


 この世界の人は美人さんが多いのにね。不思議。

 まあ、人の好みは其々だから、何とも。



 それから何をどうしたのか分からないけど、最初は外見からだったけど私を見ているうちに益々好ましくなったんだって。

 最近では、会えばまさに肌身離さずって感じで、ずっと抱っこされている。

 更にこんな事も言われた。


「カエデが小さくて助かったよ。ずっとこうしていられるよね。本当は誰にも見せたくないんだけど、カエデは聖女だから仕方ないよね。ずっと一緒にいられるから、まあ、良いかな」


 おっとー?

 ルーシャス様、ヤンデレでしたかね?

 

 まあ、この世界なら私は誰とどこに行っても、監禁、もしくは軟禁されるような生活になるだろうから、別にそれは良い。ルーシャス様以外に監禁されるつもりはないけど。


 ヤンデレも需要と供給があっていれば、問題ないでしょ。


「それに……大きかったら……結婚迄どころか、出会ってすぐに我慢出来なかったと思うし。本当、カエデが小さくて良かったよ」


 そう言った時のルーシャス様の色気は半端なかった。

 抱っこされているのに、腰が抜けたもん。



 でも、そんなに私を愛してくれているのだと、純粋に嬉しくもなった。


 私だって、ルーシャス様が好きだし、愛してる。


 神様のように美しくって、優しくて、頼りになって、何より、触れていて安心出来る。


 私がこの世界に来て、初めて無条件で私を受け入れてくれた人。

 

 惹かれない訳がない。



 私だって女だ。

 ルーシャス様に愛されたい。

 キスだってしたいし、抱っこじゃなく抱き締めて欲しい。


 それに……私が死んだ後のルーシャス様も心配だ。

 かなり私に執着してるように見える。


 私が死んで何一つ残らなかったら……どうなるのだろうか?

 



 ……ううん、それは建前かな。


 私が死んでも、忘れて欲しくないんだと思う。

 他の誰にも渡したくない。

 ずっとずっと私を思っていて欲しい。


 私が居なくなったら、他の人と幸せを見つけて、なんて絶対に言えない。



 だからルーシャス様との子供が欲しい。


 私が生きた証。

 ルーシャス様に愛されたという確かな証拠。

 そして、私が死んだ後も、私を忘れないように、他の人を愛さないように。

 



 狡くて、嫉妬深くて、欲深い、最低な女だ。


 聖女だなんて、口が裂けても言えない。



 誰にも言えない、卑怯な私の願い。







 ……2年ならギリギリ産めるかな?


 そう考えていると、フィー様がポンと手を打って言ってきた。


『じゃあ、大きくなる時間を限定しよう!』

「……そんな事、出来るのですか?」

『まあ、オマケで。カエデの好きな時に大きくなったり小さくなったり出来るようにするよ。そうしたらもう少し長生き出来るんじゃない?』

「! はい! 有難うございます!!」


 良かった。

 それなら子供の成長も少しは見れるかもしれない。

 

『うーん。じゃあ、そういうアイテムを作ってあげるね。……そうだなぁ。明日渡すよ』

「え? 明日ですか?」

『うん。とびっきりの演出で!! 楽しみにしてて!』


 何やらワクワクしてるフィー様。


「分かりました。楽しみにしてますね」

『……カエデはそろそろ帰らないと、寝る時間がなくなるね』

「そうですね、もう帰ります。フィー様、有難うございました。……本当に」

『じゃあね、カエデ。また明日』



 

 光る扉から自分の部屋に戻る。

 扉が閉まった瞬間、ぱあぁぁと消えてなくなってしまい、後には元の壁しかなかった。



 時計を見ると、時間がほとんど経っていなかった。


 まだ十分寝れる時間があったので、着替えて眠りについた。



 明日、大変な事になりそうだと思いながら。




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