41.まあ……ねぇ……
ふっと目が覚めた。
ん?
今、起きる時間だっけ?
……あれ?
「カエデ!! 目が覚めたのか!? ……良かった……本当に、良かった」
横を見るとルーシャス様が、私の手をとり頰に当てすりすりしている。
そのルーシャス様には目の下にうっすらと隈が見える。それでもなお、美しいことに変わりはないが、いつもの神様度が少し下がっている気がする。
「ルー……ゴホッゴホッ!!」
声をかけようとしたが、全然出ずに咳き込んでしまう。
「大丈夫かい? カエデはずっと寝込んでいたんだ。無理をしてはいけないよ。ほら、白湯を飲もう」
そう言って、ゆっくりを体を起こしてくれた。
温めの白湯は飲みやすく、体に染み渡るようだった。
ゴクゴクと飲み干し、ほっと一息つくとまた横に寝かされた。
「ルー様。私、一体……?」
「カエデは拐われて、猫に襲われたんだ。傷は治してもらったが、どこか痛い所はあるかい?」
そう言われて、はっと思い出す。
そう言えば、仔猫に襲われて、吹っ飛ばされたりしたくらいまでは覚えているが……その後はどうしたのだろう?
周りを見てみると、いつもの自分の部屋だったし、ルーシャス様が居るってことは助けてもらえたって事かな。
身体に意識を向けてみるが、痛みはない。でも全身が重くて、全く動かせない。
「痛くはありません。でも……体が動きません」
「そうか、なら良かった。カエデは全身何箇所も骨折していたんだ。表面的な傷はポーションで治ったが、体内の傷は治癒魔法で治してもらったんだ。ただ、治癒魔法はとても疲れるんだ。緊急時以外あまり使うことはない。それに失った血液も補充していない。出来なくもないが、余計に疲労が溜まるのでやめてもらった。ゆっくり休めば、回復するよ。少し、何か口に入れた方がいい。今、持ってきてもらうよ」
そう言ってルーシャス様はディアナさんを呼んだ。
部屋に入ってきたディアナさんは起きた私を見て、泣きながら喜んでくれた。「直ぐにご用意いたします」と言って足早に去っていった。
後から聞いたが、ポーションも飲めばある程度体内の傷も治せるそうだ。だが私に意識がなかったのと、小さ過ぎて口移しで飲ませられなかったために、治癒魔法をかけもらったのだそうだ。
直ぐにディアナさんがパンをミルクで柔らかく煮たものを持ってきてくれて、食べさせてくれた。
空っぽの胃が温かくなり、身体がほわほわしてきた。
そっと寝かされると、すぐにうとうとしてしまう。
「ゆっくりお休み、カエデ」
そう言って優しく頭を撫でてくれるルーシャス様。
「……ルー様も。寝てないんでしょう?」
そう言うと、軽く目を見開きバツが悪そうにふっと苦笑いされた。
「ふふ、わかったよ。カエデが眠ったら、私も少し眠るよ」
「ちゃんと寝てくださいね」
「ああ。さ、おやすみ」
そう言って頰にキスをされ、それがスイッチのように眠りへと誘われていった。
◇◇◇
あれから24時間体制で皆お世話をしてくれた。最初は気付かなかったけど、いつ起きても誰かが居てくれた。申し訳なかったが身体が全然言う事聞かないので、有難くお世話になった。
そのお陰もあって私的に五日、こちらでは二日後には起きられるようになり、次の日には歩けるようになった。
久しぶりにお風呂に入れてもらい、改めて身体を見たけど、傷一つ残っていなかった。
爪や牙がぶっ刺さり、結構穴が空いていた筈なのに、綺麗なもんだ。
治癒魔法、すげ〜と感心して見ていると、グスッと頭の上から聞こえた。
見上げるとディアナさんが「本当に良かった……」と涙ぐんでいた。
目覚めてからはディアナさんの過保護さに拍車がかかり、ルーシャス様は毎日訪れるようになった。
起きられるようになってからも、24時間誰かしら居るようになった。
常に誰かが部屋にいるのはちょっと疲れるのだが、心配かけたのは重々承知しているので、甘んじて受けている。
ルーシャス様とカールさんが説明してくれたことによると、今回の騒動の犯人はアグノス殿下だった。
ご飯をくれたお猿さんはケルドという魔獣らしく、私はその子の尻尾に包まれて拐われたそうだ。
アグノス殿下は私を人間とは認識しておらず、テイムしようとしたらしい。だが出来なかったため、世話をして仲良くなろうとしたため飼われていたんだって。
はぁ……。
ちゃんと喋って会話もしたのに、人間に見られていなかったとは……。
まあ、そうは言っても五歳の子供だもんね。日本なら幼稚園児?
……仕方ないか。
◇◇◇
元気になってから、王様に呼ばれた。
カールさんによると、今回の件の謝罪ではないかとの事。
まあ、子供のした事の責任は親にあるよね。
一人で行くのもなんだったので、ルーシャス様とカールさんに一緒に行ってもらう事にした。
王様に会うからてっきり以前の謁見室かと思っていたら、今回はプライベート用の一室だった。それでも体育館クラスの広さだけど。
謁見室のような段差はなく、お高めの応接室のようでテーブルを挟んで豪華な椅子やソファーが並んでいた。
そこには王様とエリザベス様と金髪王子様が居た。エリザベス様の顔色は悪く、少しやつれてしまったようだった。
私はルーシャス様に抱っこされて、カールさんと共に部屋の中に入った。
扉が閉められ、護衛達も外に配される。
すると座っていた王様達が立ち上がり、私に向かって深々と頭を下げた。
「この度は愚息が迷惑をかけてしまい、すまなかった。聖女様に関する教育が足りなかった事、全て私の責任である。申し訳なかった」
おりょりょ。
王様が頭下げてる。
ラノベの知識では、王族は軽々しく頭を下げちゃダメなんじゃなかった?
ちらりとルーシャス様を見上げると、少し驚いたような顔をしていた。
やっぱり……。
まあ、親として真摯に謝ってくれたのは、悪い気はしない。
「分かりました。謝罪は受け入れます。どうか頭を上げてください」
そう言うと、一拍おいてから王様は頭を上げ、さらに遅れてエリザベス様と金髪王子様が頭を上げた。
「謝罪を受け入れてくれた事、感謝する。このような事で許されるとは思わぬが、此度の詫びに何でも希望を叶えよう。何かないだろうか?」
「え?」
「爵位でも領地でも、何でも構わぬ。出来る限り希望に沿おう」
……そうは言われても、別に爵位も領地もいらないし。あった所で私にどうこう出来るとも思えないし。
欲しいものなどないけどなぁ。
まあ、くれるってもんは貰っておこう。
後からルーシャス様に相談すれば良いかな。
「今はすぐに思いつかないので、後からルーシャス様に相談してみます」
「そうか……」
「あ、それとお願いならあります」
「何だろうか?」
「今回の件に関する護衛達の減刑を求めます」
「……それは、別に構わぬが……良いのか?」
「はい、彼らにそれほど責任があるとは思えませんし」
あれから何時も居た護衛さんが居なくて、知らない人がついている事があった。聞いてみると、彼らは私が拐われた責任を問われているらしい。
護衛であるからには責任はゼロじゃないだろうけど、あんなことに対応しろだなんて無理だと思う。だからと言って無罪という訳にもいかないだろうから、減刑を求めてみた。
「それと、アグノス殿下にテイマーのしっかりとした先生をつけてあげてください」
テイマー自体がこの国では珍しく、アグノス殿下は誰にも教わらず、手探りでテイムしているのが現状だと聞いたのだ。
いやー、それはダメでしょ。
仮にも王子なんだからさー。
王様権限で誰か引っ張ってきて、教えてあげて欲しい。私の今後のためにも。
「そんな事でいいのか?」
「大事な事ですよ? よろしくお願いしますね」
「分かった」
◇
自室に戻り、ルーシャス様とカールさんとお茶をする。
「カエデは怒っていないのかい?」
するりと頬を撫でながらルーシャス様が聞いてきた。
「まあ、子供のした事ですし。それに……傷も残っていませんから」
確かに暇で辛かったし、痛い思いも怖い思いもした。
でも喉元を過ぎれば何とやらで、今は痛くもないし怖くもない。
流石に傷跡でも残れば、鬱々とした気になるだろうが、それもない。
「それなら、良いが……」
「もちろんしばらくは、お会いしたくないですけどね」
「勿論だ! もう二度と会わせるもんかっ!!」
今回の件に関しては、私よりも周りが怒っている。
特にルーシャス様とディアナさんは、私が死ぬかもしれなかったのを見ていたため、怒りが半端ない。
「さて、陛下から何をいただきましょうかね?」
そう言って悪そうに笑うカールさんも、怒っているみたい。
拐われて辛かったけど、こうして私を思ってくれている人達がいてくれて、私は幸せだなぁとつくづく思った。




