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39.side エクトリア王国



「アレは見つかったのか?」


 執務室でウォーレンが書類を捌きながら、宰相のエーデルに問いかける。


「いいえ、陛下。まだそのような報告は上がってきておりません」

「そうか……」


 楓が姿を消してから三日経ったが、未だにその手がかりすら掴めていないようだった。



 事態が発覚したのは、ディアナの結婚式の次の日の昼であった。




◇◇◇




 楓はディアナとカールに、折角結婚式をしたのだからと休みを取らせた。その間『アリス様を見守る会』の副会長であるフリージアが責任者として任された。

 

 パーティの後、楓は疲れたようで早々に寝てしまった。朝もゆっくりでいいと言われたので、八時過ぎに起こしにきた。


「おはようございます、アリス様」


 いつもならノックですぐに返事があるのだが、今日は返事がなかった。まだ疲れて寝ているのかもしれないと寝室に入ってベッドを確認するが、そこにも楓の姿はなかった。

 

 だが、フリージアは慌てない。


 なぜなら以前にも、楓が見当たらない事が多々あったからだ。

 我々には夜でも楓にとって夜ではない。楓が暇だからと、色々動き回っている事は周知の事実だった。


 なぜそうなったかは分からないが、クローゼットから出られなくなっていたり、ベッドの端の方で丸まって寝ていて気付かなかったり、ベッドの下に潜り込んで寝ていたり、机の引き出しの中に入っていたりと結構やらかしていた。


 なぜ引き出しに? と聞いてみると「入れるかな〜と思って」と恥ずかしそうに言っていた。それを聞いた会員達は、自分が見つけたかったと密かに悔しがっていた。


 もちろんそれらは全部、会員達に共有されているため、その対応も分かっている。

 フリージアは以前に聞いた事のある場所を、一つ一つ確認していく。

 それでも楓を発見する事は出来なかった。


 次にする事は、声をかけて耳を澄ませることだ。


 万が一閉じ込められていて出られない場合でも、楓は何かしらのアクションを起こして自分の場所を教えてくれていたからだ。


 だが、何も聞こえない。

 何度繰り返しても同じだった。


 そこで初めてフリージアは焦りだした。


 もしかして、と不安が過る。



 慌てて護衛に聞いてみたが、昨夜から扉を通ったものは誰もいないとの事。

 ならば、楓は部屋にいる筈だ。改めてあちこちを探してみるが、どうしても見つからない。


 時間だけが過ぎる。


 その時間が楓にとって長過ぎるという事に気付いたフリージアは、護衛達をそっと部屋に呼んだ。


「どうしました?」

「アリス様が見つかりません!」

「何っ!?」

「私では探し出せないだけかもしれません。どうか目立たない格好でディアナ様とカール様を呼んできていただけませんか?」

「わ、わかった。待機しているものを行かせよう」

「有難うございます。私はもう少し探してみます!」


 フリージアは涙目になりながら、ガタガタと部屋中を探し回った。




◇◇◇




 ディアナとカールは結婚式を昨日行ったが、婚姻自体はかなり前に済ましているため、とっくに一緒に住んでいた。



 カールはディアナにプロポーズした後、すぐさまアポを取りディアナの両親に挨拶に行った。結婚の了承を得て、自身の両親に報告し、神殿で婚姻の書類を提出した。

 ディアナが楓と共にルーシャスの屋敷について行く気満々だったため、一先ず王城の近くに家を借り、ディアナの荷物を運び入れ、二日後には共に生活していた。


 ディアナは毎日楽しそうに、その日の楓の事を話して聞かせた。

 カールはそれをニコニコしながら、聞いていた。


 楓を好きな者同士、思っていたより気が合い、話が弾む。

 お互いを尊重し、静かな愛を育みながら日々を過ごしていた。


「昨日の結婚式でアリス様は、とても喜んでおいででしたね。まさか宣誓がゼフィーナ神に聞き届けられているとは思いませんでした」

「そうですね。これでまたアリス様の素晴らしさを世界中の人々が知る事となるでしょう。ただ……」

「ただ?」

「世界各国の神官達がアリス様への謁見を求めそうで……」

「あー……そうですね。それは厄介ですね」


 自分の祈りが聞き届けられているという確かな証を得られれば、神殿の中での地位も上がると考える愚かな輩が居ないとも限らない。

 それらの対応を考えなければならないと話し合っている時に、誰かが訪ねてきた。


 ここに住んでから訪ねて来る者など居なかったし、実際にここを知っている者達も少ない筈。

 不思議に思いながら扉を開けると、騎士の鎧を脱いだ楓の護衛が立っていた。


「何かありましたか?」


 わざわざここまで来るからには何かあったのだとカールは察し、素早く護衛を家の中に引き入れた。

 もはや蒼白といった顔色の護衛は周りを確認してから、声を潜めて話しだした。


「アリス様が見当たらないとの侍女からの報告です!」

「え!? それは、どういう事です!?」

「自分が探し出せないだけかもしれないから、急ぎディアナ様を呼んできて欲しいと!」

「今日はフリージア嬢が担当でしたよね?」

「はい、その通りです」

「彼女で探し出せないなんて……」


 ディアナの中でフリージアへの信頼は厚い。なのに見つからないなんて何かあったに違いないと判断した。


「分かりました! 今すぐ参ります!」


 流石に王城に行く服ではないため、着替えるために部屋に戻る。

 その姿を目で確認して、カールは護衛に向き直り指示を出す。


「わたくしもすぐに参ります。貴方はこのままランドール侯爵の所に行き、あまり目立たぬように王城に来るよう伝えてください」

「分かりました!」




◇◇◇




 ディアナが楓の部屋に着いた時、フリージアは「アリス様、どちらにおいでですか?」と泣きがなら引き出しを引っ張り出している所だった。


「フリージア!」


 ディアナが声をかけると、バッと振り向きその瞳からボロボロと涙を零しながらディアナの元に駆け寄り、両腕を掴んで訴えた。


「ディアナ様! アリス様が見つかりません!! どこを探してもいらっしゃらないのです!!」

 

 ディアナはフリージアを抱きしめ、落ち着かせてから話を聞き出した。

 そしてカールと頷き合い、それぞれで動き出す。


 ディアナはもう一度楓がいそうな所を探し、カールは部屋を調べた。

 

 その結果、やはり楓は部屋におらず、寝室の窓の鍵が空いている事に気付いた。


「やはり……アリス様は何者かに拐われたと考えるしかないようですね」


 その時、眉間に皺を寄せたルーシャスが部屋に入ってきた。

 部屋を見渡し楓がいない事を確認すると、ディアナを見た。ふるふると顔を横に振られ、眉間の皺がより一層深くなる。


「……何があった?」

「どうやら何者かに拐われた可能性があります」

「何だと!?」

「窓から侵入し、アリス様を連れ去ったと思われます」

「一体誰がっ!?」

「……分かりません」


 



 聖女の誘拐など、国家の一大事だ。この事を他国に知られれば、エクトリア王国の責任問題に発展する。

 誘拐の可能性があると判断し、カールは急ぎ国王に報告にあがった。



 その報告を聞いたウォーレンは「また、面倒な事を……」と心の中でうんざりしながら聞いていた。


「そんなもの魔術師団長に頼んで探して貰えば良かろう」


 誰でもが使える訳ではないが、人探しには探索魔法がある。師団長クラスなら王都全体を調べられるだろうと、ウォーレンは軽く考えていた。


「陛下……アリス様は魔力を一切持っておりません。探索魔法に掛からないのでは?」

「む?」


 そう言われて気付いたが、探索魔法は魔力を感知するものだ。人間は一人一人魔力が違うため、それを手掛かりに探し出している。魔力がないという事は、その感知に引っかからないという事だ。

 魔法が使えないとなると、後は人海戦術に頼るしかない。



 すぐに主要メンバーを集めて会議を行う。

 

 聖女が拐われたなどと王家の恥を晒す訳にもいかず、すぐさま箝口令が敷かれ、王太子であるレナルドを責任者として、内々に聖女の捜索がなされた。


「レナルドよ。可及的速やかに聖女を探し出し、保護せよ。ただし他国に知られぬようにな」

「畏まりました」

 




 内々にと言われたため、王都や国境を封鎖する事は出来なかった。

 せいぜい検査を厳しくする程度だった。


 だが楓は小さく、箱を二重底にして入れられでもしたら、発見する事などまず無理だろう。

 厳しい検査の理由も伝えられないため、ほぼほぼ形だけの検査となった。


 その報告を聞いてレナルドは頭を抱えた。


 大体、楓を誘拐する理由が分からない。

 聖女に何か特別な力がある訳ではない。

 未だに犯人からは何の要求もない。


 となると、聖女自身が目的だったという事になる。


 

 ならば……見つける事など不可能なのでは?


 そんな不安が胸をよぎるが、頭を振って打ち消す。

 レナルドは関係者を集めて、今一度聖女の周りで変わった事がなかったかを調べる事にした。





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