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35.あれ?


 この世界は、地球と同じく12ヶ月で1年周期。1ヶ月は30日。そして日本と同じように季節もある。ただ、王都はそれほど気温の差がなく、一年中過ごしやすい。夏で25度、冬で15度くらい。雪は山間部や、北部で降るらしい。

 

 私がこの世界に来たのは4月。それから半年経って今は10月。それほど寒くないとはいえ、ガーデンパーティーをするなら早い方が良いと言う事で、さくっと開かれました。一週間で二回も。


 そんな急に決まったと言うのに、若奥様やら、娘さんやらとほぼ全員の女性が参加したらしい。

 公爵家と侯爵家では50人くらい。伯爵家では70人くらいかな。可愛い子や綺麗な人がいっぱい居て、眼福でした。

 それぞれの席に行き挨拶すれば、みんなキラキラした瞳で見つめてくれた。


 生きたお人形は珍しいからね〜。


 挨拶してくれたけど、当然覚えきれる訳もなく……心の中で謝っておいた。

 始終にこにこしてお菓子を食べていれば良いだけの、幸せな時間だったけれども。

 

 


 子爵家は100人越えだったので、夜会を開こうかと話していたけど、結局昼間に開いて女性限定のスイーツパーティにする事になった。

 それでドレスを新しく作るかと話していた時に、ピンと思いついて、お披露目会の時のドレスでも良いか聞いてみた。


「それは……構いませんが、何かございましたか?」

「はい、実はちょっとお二人に見せたいものがありまして」

「まあ! 一体何でしょう?」

「それは、当日のお楽しみという事で!」

「まぁ! サプライズですか!? 楽しみです!!」


 というやり取りがあったと噂が流れると、ガーデンパーティーの参加者もスイーツパーティーに参加したいと言い出してしまった。

 

 エリザベス様はそんな令嬢たちの願いを聞き届けてくれて、結局大規模なスイーツパーティが開催される事となってしまった。


 あわわ……そんな大した事じゃないし確認も取ってないのに……どうしよう。


 頭を抱えたが、お二人とも「楽しみにしています!」と嬉しそうにしていて、今更やっぱやめますとは言えなくなってしまった。


「あの……そんな大した事じゃないですから。あまり期待しないでくださいね」

「「分かりました!」」


 ……ホントに分かってる? 

 



◇◇◇




 さて、そんなこんなでサプライズ(仮)の用意するため、ルーシャス様にミレーさんの工房に連れてきてもらった。少し前にミレーさんから以前、頼んだものが出来たと連絡が来たのだ。


 今回はもうお披露目会も済んでいるので、箱に入らずに堂々とお出かけしている。そのためディアナさんや護衛さんも一緒。


「こんにちは、ミレーさん」

「あら〜いらっしゃい、アリスちゃん。わざわざ取りに来たの? 言ってくれれば持って行ったのに〜」

「いえ、ミレーさんもお忙しいかと思いまして」

「そうねぇ、あのガーデンパーティーの後から、また注文が殺到してねぇ。嬉しい悲鳴をあげている所だわ」

「そ、それは……申し訳ありません」


 お披露目会限定の人形を追加で200体作る事にしてもらったが、それも予約であっという間に売り切れてしまったらしい。今はその分と、通常の人形を作るので、めちゃくちゃ忙しいそうだ。

 ガーデンパーティーではプレゼンはしなかったのだが、私を見て欲しくなった子が居たのか、注文が増えたらしい。

 まあ、一体持てば一先ず落ち着くだろう、と頑張っている所なんだって。


「そんな忙しいのに、私の我儘を聞いてくれて有難うございます」

「良いのよ〜。アリスちゃんは特別だもん。当たり前でしょう? さ、見て見て。こっちよ」


 そう言って奥の工房に案内してくれた。


「カエデ、一体ミレーに何を作ってもらったんだい?」

「えへへ〜。良いものです。あ! でもルーシャス様の許可がなければ、やめますので嫌だったら言ってくださいね」

「? ああ、構わないが」


 ミレーさんが小さな箱を机の上に置いてくれた。私もルーシャス様に机の上に下ろしてもらう。


「はい、コレ。結構良い出来だと思うわ」

「開けて見ても良いですか?」

「もちろんよ〜。感想を聞かせてちょうだい」


 その箱は私にしてみれば60cmくらいで、ミレーさんには20cmくらいかな。

 パカっと開けて中身を確認。


 その中には小さなルーシャス様がいた。


「わあぁぁ〜! 凄い!! 完璧です!」


 お披露目会の時の衣装を来て、同じような髪型に結ってある。この小ささなら大変だったろうに、細かい所まで完璧に模写してある。そのお顔もお人形なのに神秘的で、うっとりしてしまう。


 そっと箱から抱き上げ、くるくると回して全身を眺める。

 自然にほぅと溜息が漏れる。惚れ惚れするほど素敵。嬉しくなってぎゅうと抱きしめると「カ、カエデ……それは?」と躊躇いがちにルーシャス様が尋ねてきた。くるりと向き直って答える。


「はい、以前にこちらに来た時にミレーさんに頼んでおいたんです。ルーシャス様の人形を作って欲しいって。ルーシャス様に抱っこされるのは好きですが、私もルーシャス様を抱っこしてみたかったんです。どうですか?」


 ルーシャス様人形の後ろから脇に腕を回して、胸の前で抱きしめて見せてみると、真っ赤な顔をしたルーシャス様が言葉に詰まっていた。


「この衣装を着たルーシャス様に私が抱っこされて、さらに私がルーシャス様人形を抱っこしたら面白いかな〜って思いまして」


 あはは〜と笑って告げると、それに食い付いたのはディアナさんだった。


「見たいです! 是非、見てみたいです!! 素晴らしいアイディアです! あぁ……今すぐ帰りましょう! ささ、ランドール侯爵も戻って衣装を着てきてくださいませ!」

「あ、いえ、今すぐって訳じゃ……」


 なぜかギラギラした目を輝かせているディアナさんを何とか落ち着かせて、改めてルーシャス様に聞いてみた。


「ダメでしたか? 勝手にルーシャス様の人形を作ってもらって、ごめんなさい。嫌だったら誰にも見せませんので……」


 ダメって言われても手放さないけどね!

 これはもう私の〜。


「い、いや……ダメじゃないよ。……そんな風に思ってくれて嬉しいんだが……その、何て言うか…………恥ずかしいものだね」


 ルーシャス様は片手で口を覆われて、ふいと横を向かれてしまったが、耳まで真っ赤だった。


「それで……良かったら、今度のスイーツパーティーでこの子を連れて行きたいのですが、大丈夫ですか?」

「え!? ……う、うん。まあ、良いよ」

「良かったぁ」


 これでエリザベス様たちのサプライズが出来そう。そう思ってちょっと安心してたら、ディアナさんが眉を下げながら訴えてきた。


「えーーーーっ!! 一緒に出席しないのですか!?」

「え? だって、女性限定でしょ?」

「そ、そんなぁ〜」


 何やら打ちひしがれているディアナさんの横からミレーさんが聞いてきた。


「気に入ってもらえたようで嬉しいわ。それで? これも商品化するのかしら?」


 するとディアナさんがパッと顔を上げて、期待して目で見てきた。けど、ごめん。


「いいえ? 誰にも売りませんよ。だってルーシャス様は私だけのものですもん」


 そうにっこり笑って告げると、ディアナさんはガーンとショックを受けたようで、ルーシャス様はスタスタと離れた机まで歩いて行って、机に両手をついて項垂れてしまった。

 どうしたのかと様子を窺っているとミレーさんが説明してくれた。


「あれは相当照れてるわ。やるわね、アリスちゃん」

「そうですか? でも好きな人の人形を他の誰かが持ってるなんて、嫌です。絶対渡しません」

「アリスちゃんのは良いの?」

「私のは別に良いです」


 あれは、私じゃない。うん、綺麗過ぎるもん。私ではなく聖女様だ。私じゃない。


 あ、ルーシャス様が蹲み込んでる。


「追撃をくらわすとは……流石ね」

「そんなんじゃありません」


 そんな会話をしていたら、俯いてふるふるしていたディアナさんが復活した。


「ならば! せめて、絵姿だけでも!! お披露目会の記念に! お願いします!!」


 何やら必死の懇願をしてくるディアナさんだけど……わざわざねぇ。そんなことの為にルーシャス様に衣装を着てもらうのも気が引けるんだけど。

 そう説明すると「分かりました」とキリッと告げて引き下がってくれた。







 後日。


 エリザベス様のお願いで二人でお披露目会の衣装を着て、ルーシャス様人形を抱いての絵姿を描かされた。


 あれ? サプライズは?


 ……どうしてこうなった?




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