33.一歩近付けたかな?
何やら頭が熱いなぁとぼんやり天井を見ていると、誰かが部屋に入ってきた。
「お目覚めですか? アリス様、ご気分は如何ですか?」
「ディアナさん……私……?」
「アリス様は昨夜、熱を出されてうなされておりました。医者が言うには疲労が溜まっての事だと。どこかお辛いところはありますか?」
「……いいえ、頭も痛くないし大丈夫です」
「そうですか、良かったです。ですが未だ熱は下がっておりませんので、ご無理はなさらないでください。出来ればお薬を飲んでいただきたいので、少しお食事をなされませんか?」
言われて初めてお腹が空いている事に気付いた。食欲はなかったが。
聞いてみると今はお昼過ぎらしい。昨夜寝込んでいたということは、お披露目会の後、実質二日は寝込んでいたという事になる。……そりゃお腹も空くでしょうよ。
喉も乾いていたので起き上がり、水分をとってから軽めの食事をした。
体は随時浄化魔法をかけてもらっていたので、ベタベタすることもなくて髪もさらさらだった。
お薬といっても栄養剤のようなもので、体の小さな私用にかなり薄めてあるものらしい。味は特になく、飲みやすかった。
この世界には魔法がある。もちろん回復魔法も、ポーションもある。ただ病に効きにくく、主に怪我などに使われているらしい。
回復魔法で体力も回復出来るが、副作用として後からどっと疲れるらしい。
そのため病人には、よっぽどのことがない限り使われないそうだ。
横になってそんな説明を聞きながら、ぼーっとしていたらディアナさんに謝られた。
「アリス様がお疲れになっている事に気付かず、申し訳ございませんでした……」
「!? いいえ! 挨拶はしなければいけないものでしたし、私自身もこんなに疲れているとは思っていなかったので……。体力がなく、こちらの方こそ申し訳ないと……」
「いいえ! アリス様は悪くありません! むしろアリス様の様子に気付かず、連れ回したランドール侯爵が悪いのです!」
「ふふ、ルーシャス様は悪くないですよ。私がついて行きたいと言ったのです」
「アリス様はランドール侯爵に甘すぎます! もっと反省を促すべきです!!」
「……そういえばルーシャス様は?」
あのルーシャス様なら私の側から離れなさそうなのにな?と思い聞いてみると、やっぱり心配して朝からずっと離れなかったそうだ。
今はカールさんに呼ばれて、渋々連れられて行ったみたい。
「先ほどアリス様が目覚められたと連絡したので、すぐにやってくるでしょう」
何やらふんすふんすと怒っているディアナさんが可愛いなと思っていると、バターンと大きな音を立ててルーシャス様が入ってこられた。
「カエデ! 大丈夫か!?」
息を切らせ、うっすらと額に汗を掻きながらベッドの側まですっ飛んできたルーシャス様は、私の手をとり自身の頬にあて謝ってきた。
「すまない! カエデとの婚約発表が嬉しくて、つい連れまわしてしまった。気付かなくて……ごめん」
ルーシャス様は眉間に皺を寄せ、綺麗な眉を下げ何だか泣きそうに見えた。
そんなに心配かけてしまったのだと、申し訳なくなった。
「謝らないでください。私自身も疲れていた事に気付きませんでしたし。それにルーシャス様と一緒にいられて私も楽しかったのです。プレゼンもたくさん出来て満足でしたよ?」
「……そうか。カエデが楽しんだのなら良かったが……無理はしないで欲しい。疲れたならちゃんと言ってくれ」
「分かりました」
「まあ、今後カエデが夜会に出席するのは一時間が限度とされたため、少しは負担が減るだろう」
「そうなのですか?」
「ああ、カールが陛下に進言して、そう定めてもらったんだ」
「そうですか、有難うございます」
そうね、一時間なら何とでもなるかな。
「さ、もう少しお休み」
そう言いながら頭を撫でてくれるルーシャス様。
その温もりが離れてしまうのが寂しくてお願いしてみた。
「ルー様……抱っこしてください」
「ああ、もちろん良いよ」
ベッドからそっと持ち上げてくれて、胸に抱き背にも手を回しぎゅうとされた。
ルーシャス様の温かさに包まれ、ゆっくりとした心音が眠りへと誘う。
幸せだなぁと思いながら、瞼が重くなり緩やかに眠りに落ちた。
◇◇◇
熱も下がり、元気になって数日経ち、ルーシャス様とカールさんがやってきた。
「カエデ様がプレゼンしてくれたお陰で、注文が殺到してます。それで限定販売の人形があっという間に売り切れ、追加を願う者が後を絶ちません」
「そうなのですか? 通常の人形の方は?」
「それも店頭分は売り切れてしまい、現在急いで作っている最中です」
そこでディアナさんも会話に加わってきた。
「アリス様。私の方にもお披露目会の人形が欲しいと、幾つもの嘆願が届いております」
「そうなのですか? ……では、ルーシャス様、もう少し作れますか?」
「それは……可能ですが、宜しいのでしょうか?」
「そうですね……同じものを作っては限定の意味がないので、追加の分の刻印はなしで作ったらどうでしょう?」
「それは良い考えですね! それならば最初に購入した者達からも、不満は上がらないでしょう。ランドール侯爵! 是非それでお願いします!」
「分かりました。そのように手配いたしましょう」
たくさん売れているみたいで、ちょっと安心した。
限定なんて作って、赤字になったら洒落にならないと思っていたから。
「わたくしからは、アリス様にお茶会の誘いが来ております」
「お茶会ですか?」
「はい、お披露目会でご覧になったご婦人から聞いた、ご令嬢達からのお誘いが多いですね」
お茶会……お菓子がいっぱい食べれるから嫌いではないが、知らない人の所に行くのは気が引けるかも……。お作法もエリザベス様やアンジェリカ様は何も仰らないけど、自信はない。
うーん……と悩んでいると、カールさんから提案があった。
「アリス様が移動するのは少々問題もありますので、一先ず王妃殿下が開くお茶会に参加する形で如何でしょう?」
「それは……エリザベス様にご迷惑では?」
「いいえ、これは王妃殿下から提案された事でもありますし、問題ないかと」
「そうですか、ではそんな感じでお願いします」
「畏まりました」
そのお茶会でもプレゼンしたら、もっと売れるかな?
そんな事をぽつりと言ったら、ルーシャス様に止められた。
もう十分売れていて、製作が間に合わないからしばらくは控えて欲しいってさ。
職人さんに負担をかけるのは本意じゃないので、了承しておいた。
でも売れたのは嬉しいな〜。
これで当たり聖女に一歩近付いたよね!
よしよし。




