30.はい!コーチっ!!
最近では二日に一度になったルーシャス様とのお茶会で紅茶を飲んでいると、カールさんがやって来た。
私たちの近くに来ると、スッとディアナさんが側に付き添った。
ディアナさんは基本的に侍女として振る舞っているので、来客中は壁際で控えているのに珍しいな、と思った。
「こんにちは、カールさん」
「アリス様にはご機嫌麗しくて何よりです。本日は報告に参りました」
「どうかしたのですか?」
「はい。この度、わたくしはディアナ嬢と結婚いたしました」
「は?」
「え?」
……えっと、『した』って言った?『します』じゃなく?
「……もう一度お願いします」
「では、ディアナ嬢から」
「はい! この度私とカール様は結婚いたしました!」
……やっぱり『した』って聞こえる。
「『する』ではなく、『した』のか?」
あ、ルーシャス様も同じ事を疑問に思ってたんだ。
「はい。先日届出を出しまして、晴れて夫婦となりました」
「……そ、そうですか。それはおめでとうございます。それで結婚式はいつですか?」
「いえ? 結婚式をする予定はございません」
「えーーっ!! 何で!?」
「え? その……ディアナ嬢も必要ないと言われたので……」
バッとディアナさんを見つめると、「何か?」と言わんばかりに頭を傾けて頭上にハテナを飛ばしている。
「どうして結婚式をしないの?」
「? 必要性を感じません。私はアリス様のお側を一時も離れたくありませんので」
「……私はディアナさんのウェディングドレスを見てみたいけど……この国ではそんな風習はないの?結婚式も出たかったんだけどな……」
ディアナさんはハッとして、カールさんに振り向き、目線で問う。
カールさんはしばらく考えを巡らした後に答えた。
「まあ……お披露目が終わった後ならば、出席も可能でしょうか」
それを聞いて、ディアナさんはパアァと嬉しそうな顔をした。
「ならば、やりましょう! アリス様が来てくださるなら!! 是非っ! 来てくださるんですよね!」
「え、ええ、勿論」
勢い良く聞いてきたディアナさんの迫力に驚き、コクコクと頷く私。
チラリとルーシャス様を見上げれば、頷いてくれた。
「私も参加しよう」
「有難うございます! アリス様にこの国の一般的な結婚式をお見せしますので、楽しみにしていてくださいませ」
ん?
何かちょっと目的が違うような……まぁ、いっか。
◇◇◇
それからしばらくして、お披露目会用の衣装が出来上がった。
中々の出来栄えに満足していたら、ディアナさんの指導が始まった。
「はい、ランドール侯爵、もう少し腕の角度を上げて!」
「アリス様の目線はこちらです」
「顔の角度はこう!」
「腕はこちらに」
「そう! 良いですね。ではそのままの姿勢で歩いてみてください」
「もっと背筋を伸ばして!」
「アリス様! ランドール侯爵の服を掴まない!」
「角度! 角度に気をつけて! そうっ!!」
二人で本番の衣装をつけ、似合うかとディアナさんに聞いたのがキッカケだった。
いかに美しく見せるか、というポイントに拘ったディアナさんにビシバシ扱かれている。
「はい! そこでターンッ!! そう、良いですよー」
完璧を目指す鬼コーチによって、お披露目会に向けての特訓が続いたのだった……。




