29.side エクトリア王国
コンコン。
「どうぞ」
ここは王宮でカールに与えられている一部屋。壁一面には聖女関連の書類や歴史書などが並んでいる。
書類から目線を上げると、そこにはディアナが立っていた。
「おや? 珍しいですね」
ディアナとは楓を通してほぼ毎日顔を合わせているため、お互いに気心が知れている。カールはディアナを長い椅子へとエスコートして、自ら紅茶を入れて出し、向かいの椅子に座る。
「どうかされましたか?」
「はい。実はカール様に、私と結婚してもらおうと思いまして」
「え!?」
冗談かと思い驚いてディアナを見ると、目が本気だった。
それを聞いて、カールは眉を少し顰めて問う。
「先日アリス様が言われた事を覚えていらっしゃいますか?」
「勿論です。私はカール様を尊敬し、お慕い申し上げております」
「……私は元々は神殿に仕える者。それに私自身は爵位など持っていませんよ?」
「私も次女ですし、爵位にはあまり興味はございません。それにカール様には、聖女様の担当という立派な肩書があるではありませんか」
「そうは言っても、お父上がお許しにならないでしょう?」
「父には了承を得ております。我が家は割と自由なのですよ?」
ふぅ……と息を吐き、カールは改めてディアナを見る。
自分を真っ直ぐに見つめる瞳に、確かに敬愛の情は感じるが恋だの愛だのは感じない。しかし、一切引く気はないようだ。
どうしたものやら……と思っていると、ふとディアナが目線を逸らせ俯いてしまう。
「実は以前よりカール様を好ましく感じておりましたが、伝える気はありませんでした。カール様がアリス様を崇拝されているのは分かっておりましたし、私もアリス様をお慕い申し上げておりますから」
ふぃと目線を上げ、カールの瞳を見つめる。
「ですが、先日アリス様は仰られました。言わなければ何も伝わらないと。それに私は、アリス様に機会を与えてもらったと思っております。こんな私を受け入れてくれるのはカール様しかおられません! どうか、私と結婚してください!!」
ディアナの言葉を聞いて、カールはゆっくりと目を瞑り、しばらく考えた後に目を開け、紅茶を一口飲んだ。
「わたくしは聖女様にお仕えするために生きてきた、と言っても過言ではございません。聖女様の担当に選ばれ、更にアリス様にお会いして確信しました。この方にわたくしの一生を捧げると」
ゆっくりとした口調で話をするカールを、ディアナは瞳を揺らしながら見ている。
「わたくしにとって、アリス様が何においても最優先です。たとえディアナ嬢と一緒になったとしても、です。アリス様かディアナ嬢かと問われても、考える間もなくアリス様を選ぶでしょう。……それでもよろしいのですか?」
落としていた目線を上げ、ディアナを見据えるカール。
そのカールを見て、にっこりと微笑むディアナ。
「勿論です。私もアリス様とカール様ならアリス様を選びます。寧ろそうでなくては困ります。私にとってもアリス様が最優先です!」
そう言い切ったディアナをカールは少し目を見開いて見た。
そしてゆっくりと微笑み、二人同時にふふと笑い合った。
「わたし達は気が合いそうですね」
カールは立ち上がり、ディアナの側で跪き、手を取り額に当てる。
「ディアナ・ストレイス伯爵令嬢。どうかわたくしと結婚してください」
頬を染めながらディアナは頷く。
「はい、カール様。どうぞよろしくお願いいたします」
◇
「ではすぐにでもストレイス伯爵にご挨拶に伺わねばなりませんね。そうそう、結婚式はいつぐらいが良いですか?」
「え? 結婚式は別にしなくてもいいです。アリス様の側を離れたくありませんので」
「え?」
「え? 何か?」
「……まあ、貴女が良いのであれば、それで良いのですが……」
「はい、ではそのように。そうそう、すぐに届出を出してアリス様に報告しましょう! そしてランドール侯爵の所に絶対ついて行くのです!!」
カールは元々、結婚する気はなかった。
だが何やらやる気に燃えているディアナを見て、この人となら案外上手くやっていけそうだな、と考えていた。
カールはノートクリスト侯爵家の三男。
嫡男が侯爵家を継ぐのでカール自身に爵位はない。
ディアナにも兄と姉がいるので、後継問題はない。




