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28.言わなきゃ伝わらない


 今日はルーシャス様とカールさんから相談があるとの事で、一緒にお茶を飲みながらお話を聞いている。

 勿論私はルーシャス様のお膝の上だ。ただ話をする前提だったのでルーシャス様が脚を開き、片膝の上でルーシャス様の方を向いて座っている。背に手を添えられているので安心、安全、安定している。


「それで、お話とは?」

「ああ、半年後の式典と同時に我々の結婚式も行いたいと思うのだが、どうだろうか?」

「結婚式……」


 まさか自分が結婚するとは思ってなかったな。

 学生時代に彼氏は居たけど結局別れたし、それ以降忙しいのを理由に誰とも付き合っていなかった。好きな人も居なかったし。


 でも……ルーシャス様と結婚……うん、嬉しいな。


 そう思うとじわじわと頰が熱くなってきた。


「先代の聖女様は王族に嫁がれたため、結婚式にはやはり各国の王族が集まりました。時期的には式典の一年後だったそうです。でもアリス様はもうルーシャス様と婚約もなさっていますので、時期を早めても問題ないかと。式典には各国の王族が集まっていますので、再度お呼びする手間も省けて陛下は喜ぶかもしれませんね」


 なるほど。確かに王族の移動なんて大変そう。

 手配にも警備にも、手間もお金もかかるだろうし、一度で済むならそれで良いんじゃないかな。


「そうですか。ではそれで。何度も人前に出るのも緊張しますから」

「ではそのように手配しますね」

「はい、お願いします」

「それとだな……」


 ルーシャス様が珍しく口籠もりながら言ってきた。


「結婚したら当然我が家に来てもらうのだが、その……侍女達がカエデの世話をしたいから一緒に来たいと言っているのだが、どうする?」

「は? え? えっと……ルーシャス様のお家にも侍女さんはいますよね?」

「ああ、もちろん居る。だが他の者には任せられないと言い張るんだ……」


 そう言ってルーシャス様は壁近くに控えているディアナさんをチラリと見た。

 釣られて見てみると、にっこりと良い笑顔を見せてもらえた。


 ……うん、何を言ってもついて来ますね。これは。


「えっと、もしかして他の侍女さん達もですか?」

「ああ。我も我もと言っていたぞ」

「……そんなに沢山いても困りますよね? それに新たに侍女さん達を雇っても良いんですか?」

「まあ、多少はな」

「……具体的には?」

「そうだな……にさ!」


 ひぇ! 壁際から殺気を感じますよー!!


「……5、6人なら」


 あ、おさまりました。この辺なら妥協出来るんですね。


「どうやって選考するんですか?」

「それをカエデに決めてもらおうかと思ってるんだが」


 えーーっ!!


 ま、まあ、私のお世話を頼むんだから、私が決めるのが一番良いのか。

 うーん、でもなぁ。


 侍女さん達と色々お話しして、私は知っている。

 みんな王宮にはお仕事と共に、結婚相手を探しにきている事を。


 ルーシャス様のお屋敷に移動すれば、必然的に出会いはなくなるだろうし、彼女達も困るんじゃないかな?

 

 うーん、うーん。

 あ! そうだっ!


「じゃあ、条件をつけましょう!」

「条件?」

「はい。式典までに結婚してる人を優先しましょう! そして結婚後も私の所に来ても良いと言ってくれる旦那様をお持ちの方のみ、お願いしたらどうでしょうか?」

「それは……中々厳しい条件ですね。一体どうしてそのようにお考えになったのです?」

「皆さんと話していて分かったんですが、みんな王宮には結婚相手を探しに来ている一面もあると言っていました。ルーシャス様のお屋敷に行ってしまうと出会いもなくなるだろうし……それに……」

「どうした?」


 ルーシャス様が口籠る私を窺うように覗き見るけど、今は止めていただきたい。

 頰が熱くなっているのを感じて、目を逸らせる。


 でも恥ずかしいけど、はっきり言わなきゃ。

 思っているだけじゃ伝わらないもんね。


「その……未婚の可愛い人がルーシャス様の周りに居るのは……嫌かなぁって……」


 勇気を出して言ってみたけど、そのまましばらく無言が続いて、不安になった。そろっとルーシャス様を見上げると、ルーシャス様の頰も赤くなり目が潤んでいた。

 

 はぅ!

 色気が半端ないですぅ!!


「あぁ! カエデ! 嬉しいよっ!!」


 そう言ってぎゅうと抱きしめられ、すりすりされる。


「カエデ以外に興味なんて更々無いが、カエデがそうやって嫉妬してくれるのが嬉しいよっ! 私は幸せ者だね!!」


 顔の位置まで持ち上げられて、尚もすりすりされます。

 本当に嬉しそうで、私も愛されているのが染み渡ります。



 コホンっ!


「申し訳ありませんが、わたくしが居る事もお忘れなく」


 カールさんがそう言ってくれて、改めて恥ずかしくなったけどルーシャス様は止めてくれません。


「分かっているよ。分かっているけど……嬉しいんだ」


 ルーシャス様が私にくっ付いて、すぅーと吸い込み、ようやく離してもらえました。


 めちゃくちゃ恥ずかしいんで、止めていただきたい。

 ……私もよくネロを嗅いでたけどさ〜。


「まあ、その条件ならばかなりの人数に絞られるでしょうから、それで宜しいのではないでしょうか?」

「そうだな。それでも多かったら、またその時考えるか」

「そういたしましょう」


 あ、でも、ディアナさんはお願いしたいかな。

 やっぱり一番私の事を分かってくれているような気がするから。


 そう言おうと思って、ディアナさんを見ると俯いて微かに震えていた。


「あの……ディアナさん?」


 するとバッと顔を上げて、こちらを見て良い笑顔で言い切られた。


「分かりました! 私、結婚しますっ!!」

「えっ!? で、でも……その……無理矢理じゃ意味ないですよ? ちゃんと好きな方と結婚しないと。私はみんなに幸せになってもらいたいんですから」

「分かっておりますとも。大丈夫です。ご安心ください!!」


 ……全然安心出来ませんけど?


「本当に?」

「私がアリス様に嘘などつく事はございません」

「そ、そうですか。でも無理しないでくださいね」

「畏まりました」



 まあ……その気になってるみたいだし、ちょっと様子見ようかな?

 止めても無駄っぽいよね……。






「緊急招集よっ!!」


「「どうされましたか?ディアナ様」」


「アリス様がランドール侯爵の屋敷についていく者の条件を出されたわ!」


「「! それは一体?」」


「『アリス様の式典までに結婚していて、更にその旦那様がアリス様の元に行く許可を出してくれる者』です」


「「!! それは……」」


「良いですか! 皆様! アリス様は我々にも幸せになってほしいと願っておられます。好きな方と結婚して欲しいと」


「「……」」


「これはアリス様がくださった好機です! 今、想いを寄せている人がいるならば積極的にいけば良いのです! そしてもし結婚出来れば、アリス様についていく事も出来るかもしれません。皆様! この機会に頑張ってみましょうっ!!」


「「分かりました!」」



それから王宮に勤める文官達や騎士達を、肉食獣のように狙う侍女達が増えたとか増えていないとか……。


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