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02.召喚されました


 ゆっくりと光が収まり、視界が戻ってきた。

 見えてきたものは、神殿のような建物だった。

 足元を見ると巨大な円形の台の上で、そこに六芒星が刻まれていている。そしてその真ん中に私が立っていた。

 周りを見ると丁度星の先の所にフードを深々と被り、真っ白いローブみたいなものを着た人たちが………跪いていた。

 

 そして目の前の星の先に、白髪に白いお髭をたっぷりと揺らしているお爺様が、豪華な刺繍の施された司祭みたいな服を着て立ってらっしゃいます。



 ……こちらを見て、目を見開いて固まってますね……。



 分かります。私も多分そう見えるハズ。

 

 だって……。



 目の前に見える人が……お家くらいデカいんだもん。




 これは、アレだ。


 某巨人漫画風に言えば…………5m級だ。




 先に正気を取り戻したのは、彼方だった。

 コホンと小さく咳払いをして話しかけてきた。



「よ……ようこそ、聖女様。私は今期の召喚を担当させていただきましたラマノフ・ヴァイセンと申します。この度はこちらに来ていただき、有難うございます。どうぞこちらへ」



 その時ようやく気付いたけど、お髭さんの後ろに豪華なキラキラしい人たちも居た。彼らも同じく固まっているように見えた。


 とりあえず言われた通りにお髭さんの元へ、手に持ったキャリーバッグをひきながら恐る恐る近づく。 

 台の端の方まで行くと、お髭さんがよけたので後ろの方々がはっきり見えた。


 金髪で豪華なマントを羽織ったイケオジと、金髪の王子様っぽいのと真紅の髪のヤンチャそうな子と、水色の髪をした神官っぽい人だった。

 彼らも固まっていたが、すぐに全員がにこやかな笑顔を浮かべて軽く腰を落とした。



「ようこそ、我がエクトリアへ。私はウォーレン・エクトリア。我々は貴方様を歓迎いたします」


 イケオジがバリトンボイスで仰った。予想通り王様らしい。オーラが違います。


「私は第一王子のレナルド・エクトリアです。ようこそ、聖女様」


 王子様は見たまんまだった。綺羅綺羅しい笑顔ですね。眩しいです。


「私は第二王子、クロード・エクトリアです」


 ヤンチャそうな子も笑顔だったけど、ちょっと不機嫌そうに感じた。


「私は今期の聖女担当の神官、カール・ノートクリストです。どうぞよろしくお願いいたします」


 見た事のない水色の髪をした人はどうやら私の担当らしい。


 それぞれが大きくて呆気に取られていたけど、挨拶されてハッとした。

 バッグを置いて、背筋を伸ばしてお辞儀をする。



「はじめまして、有栖川楓ありすがわかえでと申します。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」




 するとお髭さんが聞いてきた。



「あの……大変失礼ですが、聖女様は小人族でいらっしゃいますか?」

「いえ、私の世界では小人も巨人もいませんでした。みんなこのサイズでしたし、中でも私は大きい方でした」

「そうですか……では、そういう種族ということですね」

「あの……こちらでは皆さん、そのサイズなのですか?」

「そうです。我々の世界にも小人はおりませんので、聖女様の大きさを見たのは初めてですね」

「そうなんですね……」



 デカイ。

 デカイんです。

 彼らは好意的だからそれほど恐怖を感じないけど、進撃の方々はよくこんな巨人に戦いを挑んだね! 私には無理だ!!



 その会話を聞いていた王様が


「我々にも想定外のことゆえ、聖女様にはしばらくご不便をおかけするやも知れぬ。早急に対処したいと思う。レナルド、一先ず聖女様をお部屋にご案内して差し上げなさい」

「はい、父上」


 そう言って王様は出ていかれた。


「では、聖女様、こちらへ」


 おお!部屋が用意されるのね〜。良かった。

 では、と思いキャリーを持って端に近付く。


 



 ……待って。


 ちょー高いんですけど。



 お髭さんの膝にも満たない台だけど、私にとってはとんでもなく高く見える。

 

 社会人になってから、会社と家との往復しかしてない私が。ろくに運動すらして来なかったこの私が。

 

 ここを飛び降りられる?




 いやいやいやいや!


 絶対、無理っ!!


 よくて足首、捻挫する!




 どうしようかと、躊躇っていたら王子様が近付いてきた。



「失礼ですが、お身体に触れても宜しいですか?」



 そう言いながら跪き、こちらを窺っている。

 助けてもらえるなら、この際恥は捨てる!



「はい、すみません」



 了承すると、すっと両手を差し出された。



 ん?


 これは……もしかして……



 両脇に手を入れられて、持ち上げられるカンジですかっ!?




 流石にそれは恥ずかしいと思ったが、現状、それが最良の選択のように思えた。

 私は俯きながら、両腕を少し広げた。耳まで赤くなっていると思うが、それは許して欲しい。


 王子様はサッと持ち上げて、ストンと床に下ろしてくれた。



「有難うございます……」


 

 改めて台を見ると、私の首くらいまであった。

 こんな高さ……無理でしょ?


 子供の頃ならいざ知らず、大人になってこの高さから降りたことなんてないよ……。


 あ。

 荷物が取れない。



「お荷物は私がお持ちしますね」



 そう水色神官さんが言ってくれて、私のキャリーバッグとショルダーバッグを持ってくれた。

 あぁ……手のひらサイズなんですね。




 それから部屋を出て廊下に出た。

 扉の脇には騎士が五人居た。王子様が軽く説明してくれたが、王子にそれぞれ二名、聖女の護衛が一人だそうだ。彼らは身体が大きく、王子様よりも背が高い。……6mくらいありそう……。


 そして廊下を改めて見てみたが、恐ろしく広くて長い。

 どうやら召喚する部屋は一番奥まった所にあったらしく、神殿の出口までが遠過ぎた。行けども行けども続く廊下。はぁ。


 さらに当然だけど、私の一歩と彼らの一歩はかなり違う。

 私がちょこちょこ歩くのを文句も言わずに、付き添ってくれた。


 それそれが高貴な方々だからか身のこなしが優雅だった。

 彼らのようなサイズの物体が歩いていると、それなりの振動を感じそうなものなのに。


 効果音で言えば、どしーんどしーん。


 だけどそういったものは一切感じなかった。王族すごい。



 心の中でひぃひぃ言いながら歩いて、なんとか神殿の外に出た。


 そこで私の心は折れた。


 

 目の前に広がる雄大な階段が、私に立ち塞がったのだ。


 神殿は高い位置にあるので道までは階段を下りれば良い。

 だがその階段、一段一段が膝より高い。

 それがずら〜っと続いている。


 そして遥か彼方に見えるお城。

 あそこに行くの?


 ムリ〜。


 もうムリ〜。



 私が戸惑っているのを感じたのか、王子様が言ってくれた。



「よろしければお連れしますが?」



 完徹な上に歩き疲れた私は、恥も外聞も捨てた。



「申し訳ありませんが、よろしくお願いします!」



 そう言うと、王子様はしゃがんでひょいと私を抱き上げてくれた。

 まさしくお子様抱っこ。

 いや、お子様よりも私の方が小さいかもしれない。



 そして見える世界は……2階? いや3階の窓から見えるような高さだった。

 

 高所恐怖症ではないけど、こんな高さで不安定な場所にいるなんて事、今までの人生でなかったですぅ。

 涙目の私の体は震えが止まらなくなった。


 ぶるぶる震えている私を見かねたのか、王子様が「失礼しますね」と言って、そっと右手を背中に添えて抱き寄せてくれた。

 私は王子様の服をぎゅっと握りしめ、すがりつき恐怖と戦った。


 王子様は「大丈夫ですよ。絶対に落としたりいたしません」と優しく囁いて、背中をぽんぽんしてくれた。

 温かい大きな手を感じて少し安心して、体の力を抜いたら「では、行きますね」と言って歩き出した。


 階段を降りる振動はそれほど感じなかったけど、歩くスピードが全然違う。私の全速力でも敵わないくらいの速さに感じた。


 そのまま馬車に乗せられたが、今の状況は王子様の太ももの上だ。


 王族の馬車らしく豪華で、中にはクッションもあった。最初はそこに座らせてもらったけど、動き出した馬車は私にとって震度5以上だった。

 立つことも座ることすらままならず、四つん這いになってあぅあぅしていたら、こうなった。


 お腹に手を当てられ固定されているため、震度は3くらいになった。

 

 お尻にあたる王子様の太ももは温かくて硬いのに、乗ってても痛くないという不思議な感触。


 羞恥心はもう仕事を放棄したようだ。

 だってそんなことをいちいち言っていたら、死にそうなんだもん(心理的にも物理的にも)。

 私はこの短時間でそれを悟った。

 

 足を伸ばしていても、王子様の膝までには届かない。

 長い脚ですね〜。


 側から見たら、お人形を抱っこしている王子様だろう。


 少し余裕が出来たので、向かいに座る人を見てみると不機嫌な真紅の王子と、心配そうに私を見る水色神官が居た。

 流石王族の馬車。男性が三人乗っても余裕のある作りになっている。

 つまり私にとっては、もはや馬車ではなく、部屋だった。


 真紅王子の不機嫌オーラに耐えきれず、振り返りながら金髪王子様に尋ねてみた。



「すみません。重くないですか?」

「いいえ、全然。羽根のように軽いですよ」



 振り返った所でお顔が遠過ぎて見えないのだが、声を聞く限り機嫌は良さそうでほっとした。



「全く……兄上がそんなことしなくても良いのでは?」

「どうしてだい? 聖女様が困っていらっしゃるのを助けるのは当たり前だろう?」

「だからって……」

「なんだ、クロード。代わって欲しいのか?」

「そっ! そんな訳ないだろっ!! ……膝の上なんて、不敬過ぎるだろ……」



 ぶつぶつ文句を言う真紅王子は、どうやら金髪王子様に対して私が失礼すぎるのを怒っているみたい。

 そうは言われても、私にはどうすることも出来ないし。



「聖女様に快適に過ごしていただく。それは我々の使命だろう?」



 そう金髪王子様が言えば、真紅王子は黙り込んでふいっと外を向いてしまった。



「申し訳ございません、聖女様。馬車の改良も早急にさせていただきますので」

「いえっ! そんな! 態々いいです。私の方こそ、こんなで……申し訳ありません……」

「聖女様が気に病まれることはございません。喚んだのは我々なのですから」



 だからと言って、喚んだ聖女がこんなサイズだとは誰も思ってもみなかったと思う。



「何かございましたら、わたくしカールに申し付けくださいね」

「はい、有難うございます」



 水色神官さんは私担当なので、困ったことがあったらすぐに相談するように言ってくれた。



◇◇◇



 しばらくしたら王宮に到着した。

 馬車から降ろされたが(もちろん抱っこで)近過ぎて全体が見えないくらい大きな白亜のお城だった。


 聖女の部屋までも当然抱っこで運ばれた。そこは私が歩いたらどれくらいの時間がかかるか分からないくらいの距離だった。


 そして通されたお部屋は当然広い。広すぎる。

 ……もはや体育館レベル。


 彼らから見ると12畳くらいかな?


 ローテーブルにソファ。奥には立派な机があり、壁にはぎっしり詰まった本棚が並んでいた。

 ここは応接室で、隣には寝室があり、クローゼットやトイレ、お風呂も備え付けてあると水色神官さんが説明してくれた。


 お部屋には侍女さんが三人控えていた。

 詳しくは彼女達に聞いて欲しいと。


 そこでそろそろ限界だった私は、水色神官さんに聞いてみた。


「あの……来たばかりで申し訳ないのですが、実は昨日寝ていなくて。少し仮眠をとりたいのですが、良いですか?」

「あぁ、そうなのですね。もちろん良いですよ。ごゆっくりお寛ぎください」


 

 そう言ってにこやかに微笑んで男性陣は去っていった。


 

 ふぅ。

 とりあえず、疲れちゃった。

 顔を洗って少し寝たい。



 だけど、私の試練はまだまだ終わっていなかった。


 

 


有栖川 楓(26歳)こちらの世界では57cm(地球では171cm)


枢機卿 ラマノフ・ヴァイセン(63歳) 長い髭、白髪、茶色の瞳 175cm(525cm)


陛下 ウォーレン・エクトリア(45歳) 金髪、深い緑の瞳 187cm(561cm)

第一王子 レナルド・エクトリア(23歳) 金髪、深い紫みの青い瞳 190cm(570cm)

第二王子 クロード・エクトリア(17歳) 真紅の髪、金色の瞳 184cm(552cm)


聖女担当文官&神官 カール・ノートクリスト(25歳) 水色、青い瞳 180cm(540cm)

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