11.空気は読める方です
それからディアナさんと色々話をした。
聞いてみると彼女は人形好きで、お家にいっぱい持っているとの事。
ふむふむ。
だからあんなに安定した持ち方が出来るんですねー。
納得です。
どうやらその人形はいわゆるアンティーク・ドールのようで、子供の姿しかないらしい。だから私を見て、大人の、しかも頭身の違う人形サイズの姿に衝撃を受けたみたい。
今もキラキラした瞳で見つめられています。
ちょっとその視線には戸惑いますが、害はないし、純粋な好意を感じるので嫌ではない。
それに昨日で思い知った。
ここでの私は、本当に何も出来ないと。
誰かに助けてもらわなければ、生活すらままならない。
大人としてどうよ? とも思ったが、どうしようもない。物理的に無理なものは無理だ。
だったら開き直って、みんなに甘えまくってやるっ!!
そんな域まで達してしまった私は、遠慮もなくディアナさんに抱っこを強請る。
ディアナさんは嬉しそうに抱っこしてくれる。
うん、win-winだから問題ないね。
ちなみになぜ抱っこか。
それは単に話す時、見上げるのに首が疲れるから。
ずっとしゃがんでもらうのも悪いし、横に座ってもらっても同じだったから。
重くないかと聞いたら、「うちの子達と変わらない」と言われた。
なら、大丈夫でしょ。
◇
しばらくすると、水色神官さんとルーシャス様がやって来た。
「おはようございます、聖女様。おや? その服は?」
「おはようございます。はい、ディアナさんが作ってくれたんです」
「さすがディアナ嬢。私の目に狂いはなかったな。ルーシャス・ランドールだ。よろしく」
「はじめまして、ディアナ・ストレイスです。ランドール侯爵には聖女様のお世話役に推薦していただき、大変感謝しております。有難うございます」
「いや、それは良いんだが……ズルくないか?」
うん? 何でしょう?
ルーシャス様が恨めしそうにディアナさんを見ていますね。
ちらりとディアナさんを見上げると、めちゃくちゃドヤ顔してますよ?
何の攻防でしょうか?
「まあいい……今日はこれを持ってきたのだが、どうだろうか?」
そう言ってルーシャス様が取り出されたのは、シルバーの光沢のある生地に紫で豪華に刺繍を施されたフード付きのローブだった。
着てみると、かなりゆったりとした作りになっていて、下に何を着ててもバレなさそうだった。
試しにルームウェアを着て、上からローブを羽織ってみた。
ローブが豪華なので、とってもイイカンジ。
これなら下から見られてもへーき。
「有難うございます、ルーシャス様。これでディアナさんの新作が出来るまで、恥ずかしくないです」
「新作?」
そう言ってルーシャス様とディアナさんは、洋服について話し合いをしだした。
専門的な話になってきたので、その間に水色神官さんに時間の事を相談することにした。
「あの……神官様、少しいいですか?」
「何でしょう? そうそう聖女様、私の事はカールとお呼びください」
「はい、カール様」
「様も結構です。私は聖女様にお仕えするものですので」
「ではカールさんで。私の事はカエデ、と……うっ」
いきなり空気が重くなったっ!?
慌てて重くなった方向を見ると、ルーシャス様が凹んでいらっしゃいました。
えぇ、分かりやすく凹んでます。
えーと……これは、アレですね。
空気の読める私には分かりましたよ!
「えーっとえーっと……どうか、私の事はアリスと」
「はい、アリス様。有難うございます」
にこやかに微笑まれているカール様にも、分かったようです。
「ディアナさんも」
「よろしいのですか?」
「勿論です」
「嬉しいです、アリス様」
ちらりと横のルーシャス様を見れば、にこりと笑顔で空気も元に戻りました。
ふぅ。
「えっと……それで、昨日気付いたのですが……」
私にとってこの世界の一日は、私の世界の三日分に当たる事。
夜の間に考えたスケジュールで就寝するのはどうかと説明した。
「それは……お困りでしたでしょう? 気付かずに申し訳ありませんでした」
「いえ、私も夜になって気付いたので……」
「そうですね……しばらくはアリス様の案で、過ごされてみては如何でしょう?」
カールさんがちらりとディアナさんを見ると、軽く頷いています。
「それに合わせてこちらもスケジュールを組みますから、大丈夫ですよ? ただ……午後からの就寝時間は多少ずらしてもらう場合もあるかと思います」
「はい、それは大丈夫だと思います。まあ、やってみないと分かりませんが」
「そうですね、また何かあれば随時変更していきましょうか」
「そうします。あの……私は何をすればいいのですか?」
「あぁ、その説明をまだしていませんでしたね」
そう言ってカールさんは私の予定を教えてくれた。
三ヶ月後に国内向けのお披露目、半年後には全世界向けのお披露目があるそうだ。
それに向けて、こちらの世界の歴史やマナーなどを勉強していくとのこと。
基本的に午前中は勉強で、午後は自由時間。たまにお茶会などがあるらしい。
就寝がずれそうなのはお茶会の時間によるから。
なるほど。
「ちなみに……お披露目って?」
「国内のは夜会ですね。全世界向けは神殿にて、各国の王族などが集まっての式典になります」
おぅ………そうですか。
……頑張ります……。
あ、そうそう。アレも言っておかなくては。
「そ、それでですね……あの……私の世界の人間の寿命は約八十年なんです。だから私はこちらでは後二十年も生きられないと思います」
そう言うと三人は固まった。
「折角喚んでもらったのに、申し訳なく……」
「いえ、アリス様が気に病まれる事はございません。我々はアリス様に健やかにお過ごしいただければ、それで良いのですから」
すると俯いていたルーシャス様が「な、何てことだ……」と呟いた。
かと思ったら、あっという間に側に来て私の手を取った。
「だとすれば、一分一秒たりとも無駄にできません。どうか今すぐ私と結婚してください!」
うーん……。
思った反応と違った。
寿命が短いから、結婚しても無駄だろうと分かり、諦めてくれると思っていたのに……。
「えっと……今すぐはちょっと……」
「では、いつなら良いのですか!?」
「あ〜……う〜……」
「ランドール侯爵。アリス様が困っていらっしゃいますよ? それに無理強いはされないとお約束したではないですか」
「はっ! そ、そうでしたね……私としたことが、申し訳ありません」
そう言って離れてくれた。
寿命が短くても良いんだ……。
とゆーか、ルーシャス様は私が何をしても良いんだろうなぁと改めて思った。
そしてその想いは、とてもよく理解出来た。
かつての私が抱いた想いと同じだったから。
ルーシャス様が躊躇いながらも聞いてきた。
「出来るだけカエデ様の側に居たいのです。会いに来てもよろしいですか?」
自分も同じように思っていた事を思い出す。
くすりと笑いながら了承すると、ほっとしたような笑顔で喜ばれた。
何か要望はないかと聞かれ、ちょっと考える。
色々あるが、とりあえず勉強するために文具かな?
万年筆だともう少し小さくないと握れない。
何か書けるものが欲しかったので、出来ればで良いのでお願いしてみた。
「分かりました」と綺麗な笑みを見せて、ルーシャス様は帰っていかれた。
……あの様子だと、毎日来そう。
そんな事を思いながら、去っていくルーシャス様を見送った。




