01.死にそうです
「あ〜……朝日が目に染みるわ〜」
コロコロとキャリーバッグをひきながら、手を掲げ指の隙間からお日様を眺めて目を細める。
「一週間ぶりの家か……確か、ゴミは捨ててあったよね……?」
私の会社は納期がギリギリになると帰れない。毎日泊まり込みでやらないと間に合わないことが多いから。そんなギリの発注を受けてこないでよ! とは思うが、売上が……と言われれば黙るしかない。
残業手当は出てるので、ブラックではないはずだ。
泊まり込みも毎回となるとみんな慣れたもので、各自着替えや化粧品など持ち込んでいる。それを見た社長が仮眠室を作った。助かったけど、それはそれでどうなのだろう?
みんなの努力で今朝までの納期になんとか間に合った。社長が後はしておくからと休みをくれたので、家に帰っている途中である。
「今回のはキツかったなぁ〜……」
しんどいけど、働かないと生きていけない。
「誰か養ってくれないかなぁ……」
猫になって、誰かに飼われたら楽そう。
日がな一日、ごろごろしてても怒られない。ご飯ももらえるし、可愛がられて、良いこと尽くしじゃなかろうか。
現実逃避をしながらお日様も久しぶりに見たなぁと、完徹でぼーっとする頭で横断歩道を歩いていたのが悪かったのだろう。
パァーーーッ!!
気付けば、けたたましい音を鳴らしながら目の前までトラックが迫っていた。
あ、コレ、死んだな。
ふらふらな私が素早く避けれる筈もなく、眼前に迫ってくる車体の恐怖にギュッと目を瞑る。
……瞑ってみたが、一向に衝撃がこない。
??
恐る恐る、そ〜っと目を開けてみると目の前にトラックの車体がある!! が、まるで時間が停止したように動いていない。
キョロキョロと目線を動かして、周りを見てみると驚愕の表情で固まった人々や、すれ違いざまの車の運転手もこちらを目を見開いて固まっている。
時間が止まってる?
なら逃げられるかも? と思ったが、そうは問屋が卸さなかった。
私の体も一切、動かなかったのだ。なんとか目だけは動かせるくらい。
その時になってようやく気付いたが、どうやら足元が光っているようだ。
『…………ま、……せ…………ま』
何か聞こえた気がした。
と言うか、それ以外の音は全くしていない。
集中して耳を済ませると。
『聖……さ……聞こえ……か』
段々はっきりと聞こえるようになった。
『聖女様、聞こえますか?』
聞こえたっ!
「聞こえますっ!!」
『おぉ! 繋がったぞ!! 聖女様、どうか我らが世界においでくださいませんか?』
「誰っ!? ってか、どういう事?」
『我々はゼフィーナ神の治める世界のエクトリア国のものです。ゼフィーナ神は定期的に異世界からの聖女様を受け入れて、世界の調合を図っておいでです。貴方様には今期の聖女様として、我らの世界においでいただきたいのです。もちろんこちらでの生活は保証いたします。出来る限り希望にそえるようさせていただきます。如何でしょうか?』
待って待って! 情報量が多いんですけど!
えーっと……要するに召喚されるって事かな?
あれか。異世界転移。ラノベで読んだ事がある。
召喚されて魔王を倒したり、世界を救ったりさせられるヤツ。
「私には何の力もないけど。それでも良いの?」
『来ていただけるだけで、かまいません。そうですね……式典等には出席していただきたいです』
それなら良いかも。
「ちなみに……お断りしたらどうなりますか?」
『……残念ですが、時期を改めまして他の世界の聖女様にお願いすることになると思います』
って事は、お断りすればこの状態が解かれ
──私は、死ぬ。
選択肢は、あって無いようなものじゃん。
まあ、どうせ死ぬなら異世界に行ってみるのも良いかもね。
私も助かる。向こうも喜ぶ。ついでにトラックの運転手さんも、人身じゃなくて物損で済む。
Win-Winだね。
よしっ!
「私で良ければ、よろしくお願いいたします」
『有難うございます!! ではこのまま儀式を続けさせていただきます』
その途端、足元の光が輝きを増し、視界が真っ白になった。
有栖川 楓(26歳)
黒髪で一つに結んでいる。
髪を切りに行く時間がなく、前髪も長い。仕事中はピンで止めているが、それ以外は下ろしたまんま。
いつもグレーのパンツスーツを着て出勤している。