出会い
街の闇を切り裂く様に爆音と共に暴走族が街の平穏な睡眠の邪魔をする。特に、何かを目的に…また何かを満たす為に走るのではなく、ただただ…満たされない何かを、パズルの足りないワンピースを無理に当てはめるかの様にゴールもなく夜明けまで走り続けた
走り終えた後には、いつものコンビニの前で数人が群れをなしてたむろする。
「なあ、今日もポリ公を上手くかわせてたよなぁ。」
「あぁ。この街でバイク乗らせりゃ俺らより上手い奴なんてそうそういないし、ポリ公も四輪。俺らに追いつける訳ないわ。」
と、大声でタバコの吸い殻をあちこちにばら撒きながら騒いでいると一台のバイクがコンビニに止まった。それを見る暴走族が一斉にバイクに目をやった。
「だっせぇー。バイク」と一斉に、そのバイクを指差して笑った。
「なんなん?あの音。まるで耕運機みたいで、骨組みみたいな…。ほんとだせぇー。」
「ほんま、ほんま。やっぱし、単車はファーストの集合管に限る。」
そのダサいバイクに乗った男がヘルメットを脱いでミラーにヘルメットを引っ掛けた。その姿は黒髪の丸坊主で見るからに暴走族とは全く縁のない風貌をしていた。
「あはは。やっぱり。だせぇー単車には、やっぱりだせぇー奴が乗ってる。」と、その男を指差し馬鹿にした。チラッと暴走族グループに目をやる男。暴走族の野次を微塵も気にする事なくコンビニへ入った。
さらに、そのだせぇー単車について会話が続いた。
「だせぇー単車な上に、なんなん…あの格好。ウェアはド派手なくせに長靴みたいなブーツ。しかも…単気筒。タイヤなんてキャラメル付けた様な…。あんなんで街中走れんのかよ?」
「ほんま。ほんま。あんな単車に一生乗る事なんかあり得へんわ。」と、皆で単車を大声で馬鹿にし大笑いした。するとド派手なウェアの男はチラッと暴走族を見た後、背負ったリュックの中へコンビニで買った2リットルの水とカップ麺を仕舞い込み背負った。
そこへ暴走族の1人が近寄り声を掛ける
「なぁ、お前のその単車って速いの?」と、男に声を掛けると…。
「速いよ。多分…自分らよりかは」と少し馬鹿にした様に答えた。それに気付いた暴走族が
「速い?笑。そんな単車で?!」
「あぁ。速いよ。あんたらの単車って直線はそこそこ速いだろうけどね。夜が明けて車が増えて来たら、多分…俺にはついて来れないよ」
その答えにカチンときた暴走族。
「なら…やろうや。どっちが速いか。」
少し間を開いて男が答えた…「やらない」
拍子抜けした様子を見ていた暴走族の仲間が近寄って来た。
「おいおい。どないしたん?なんか、さっきから聞いてると…俺らより速いとか言うてるよな?お前の…俺らは、この街で一番速いのをうたってる族よ?わかってんの?」
「いや…知らん。」と言いながらバイクにまたがりヘルメットを被る。それを見た1人の暴走族が男の腕に拳で殴りかかった。
「痛ぁー。なんなんこいつ。ウェアの下になんか付けてんぞ。」
男は「やめとけ」と言い、バイクのエンジンをかけコンビニから国道へ…。それを逃すまいと暴走族も一斉に単車にまたがり男を追った。国道は歓楽地へ向かう車の渋滞が始まっていた。その車の間を縫うようにして男は走り去った。後を追う暴走族だが、街で一番を自負していた奴らのプライドをベキベキにへし折るかのように、そのだせぇー単車は車の波に消えていった