八話 アリス無双のち、魔蚕の繭 2
セレス「やったあ☆が、ほしがふえたあ」
アリス「あ、ブクマもー!」
姉妹はおおはしゃぎしています。
はい、いつもありがとうございます!
なんと、表題サギをやらかしてしまいました。
アリスだけではなくて、セレスまで無双とか…
「ちょ、ちょっと調子が出なかっただけだ。もういっかい!」
全員ズッこけた。
悪がきんちょは、顔は汗だくなのに肩をぐるぐるまわして「ほら、もういっかい!」とのたまわる。
「「「「「「「「「え"え"ぇ"ぇ"!?」」」」」」」」」
子供組は二つに割れてたはずなんだけど、この時ばかりは心を一つにして叫んだ。
魂の叫びである。
わたくしは身体強化をしたのだけれど…かれはメンタルを強化したらしい。
だったら、と
納得がいくまで相手になるつもりで…
「うりゃ!」
「こ、このぐらいで…まだまだあ!」
「うりゃ!」
「まだ、ほんき出してなかった!もういっかい!」
「うりゃ!」
「ふん!くちほどにもない!」
「やかましいわっ!」
☆
その後も何回も何回も対戦したけど、ことごとく、わたしに捩じ伏せられた。
「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ」
何回目だろう。全員が肩で息をするぐらいたたみかけて、彼はやっと陥落した。
というか、そのまま椅子にペタリと座ってうつむき「うぅ…」と、唸るように泣き出した。
なんか泣かしたみたい…
って泣かしたんだけど…
ユリーナはわたしの後ろで、ペタリと耳を伏せておろおろしてる。
ユリーナの横に、お兄ちゃんのリクスがやってきていて拾い上げた頭巾の埃をはらって、優しく妹の手にふわりとのせていた。
この兄弟は獣人と、ヒューマンのハーフ。お兄ちゃんはヒューマンよりで、ケモ耳は存在しない。
「ユリーナちゃん大丈夫だった?」
わたしに呼ばれた瞬間、ピクリと耳が動き、その愛らしい狐ミミをぴょこりとさせて「うん」と、彼女は小さな頷きでかえしてくれた…
けど、まだちょっとかたいかな。
まあ無理もないか…
わたしは、泣いている悪がきんちょに向きなおって、話すことにした。
「あなたにはきいてほしいの。わたしはユリーナも他の獣人のみなも好き。だからユリーナに手を出したあなたを見て、腹もたった…
…だけどそれだけがあなたと腕相撲で勝ち負けをあらそった理由じゃないの」
「じゃあなんだよ…」
「あなたには、わかってほしかった。ほんの少し、他人と違うというだけで、まわりから力で押さえつけられた人の気持ちを…
…いまのあなたが抱えた気持ちは、ちょうどさっきまでのユリーナや獣人の人たちの気持ちと同じかもしれないわね」
※「…ほんの少し、他人と違う?」と皆が心の中で突っ込んだが、なんとか耐えた。
悪がきんちょは、
「押さえつけられた人の気持ち…」
と、わたしの言葉を反芻している。
「わたしだって、このやり方が正しいかどうかはわかんない。でも、お互いが感じてる気持ちがわからなきゃ、なんにもはじまらないでしょ?」
「おまえ…ちがう、お、お嬢様はむずかしいことばを、大人みたいにつかう…
…から、わかんない言葉は多い…」
そこで、彼はぐっと拳を握り、言葉を区切った。
「けど……気持ちはわかった。すごいくやしい…」
まわりの大人の言葉を、すんなり受け入れていたぐらいだから、彼は元々素直なんだと思う。
あ…
すごく神妙な場面のはずなんだけど、さっき腕を天に突き上げた時にポンチョがめくれあがってたままなことに気がついた。
しまらないこと、この上ない。
「…」
まだ悪がきんちょは泣いてはいるけど、顔からはけんがとれてる。
…煽りまくって、こっちの土俵に引きずり込んだ手前、ちょっと悪がきんちょには可哀想にも思うけれど、こういうのを見過ごして、対処も中途半端にしたら、ユリーナたちの生活が危うくされてしまう。
あんなの見せられたら黙ってなんかいられないし。
そんな思いで見ていると、別の男の子から、声がかかった。
ボサボサ頭で、顔は炭を塗ったように所々薄汚れている。
「へっ!腕相撲?本当に戦いになったら、最後まで生き残るのは剣の腕前だって父様はいったしな」
うなだれてる悪がきんちょの肩に手を置きぽんぽんと宥めながら、わたしの前に進みでてきた。14歳ぐらいかな。
ねえ?ちみちみ?わたしの話し聞いてた?
「俺はアルデビルド、こいつは弟のニクラウス。あんたが領主の息女ってのは弟も俺も知ってる。で、跡取りはどっちだ?」
セレスがわたしの後ろからスッと前に出た。
「まだきまってない。でもわたしがおねえちゃんだから。それで、けんでしょうぶするつもり?」
「待ってセレス…」
わたしが始めたんだから、セレスを矢面にたたすのは違う…って代わろうとしたら、片手をスッと出して、手のひらで止められた。
「ふーん…双子ってか。まあいいや。俺はな、ぶっちゃけこいつみたいに、獣人だからとか、そういうのはどうだっていいと思ってる」
「それでなに?」
セレスが鼻息も荒くフンすと腕を組んだ。うまく組めてないけど。
「ああ…俺ら兄弟、北島のパルテームの町の人間だった。南島からの元植民だ」
「パルテームの町はかいめつしたときいた」
これはジークだ。セレスの横にスッと並ぶ。
「だから元だ。男爵さまの領地じゃどうかは知らないが、あのパルテームじゃ、力がなければ生き残れなかった。それに頭が馬鹿なやつだと、積み上げたもん、まるっと全部無くなっちまう」
「それで?」
「大人たちの頭は、英雄さまだろ? じゃ俺たち子供組をまとめるのは、あんたたち姉妹じゃないのか?俺たちをまとめられるだけのもんを持っているか、見せてもらいたい。
で、チビッ子、お前は?」
「チビッ子じゃない!ジークだ。剣でしょうぶするなら、まずオレからだ」
「「ジーク!」」
セレスとまたハモった。
「確か…中央村の網元んとこに変わった奴がいるっていってたな。そいつも確かジー…」
「ああ、オレがそのジークだよ」
「…まあいい。別にチビッ子と勝負してもいいが、それはまただな。俺は領主の子らと話しがしたいんだよ。こいつでな」
と、鞘に納まったままの長剣の腹を掴んで、横一文字に差し出した。
えーと、わたしもセレスも十分なチビッ子ですよ?
「さすがに刃のついた真剣で勝負はしない。つかうのは、あれだ」
と、アルデビルド君はそれをゴトリと廃材色のテーブルに置き、アゴをしゃくるようにして、貯蔵倉庫の壁に立て掛けてある訓練用の木剣を指した。
「やる」
セレスの「やる」が殺るにきこえるんだけど!?
「セレス待って、それはあぶない!(主にアルデビルドくんの命が)」
「セレスねえがあいてにすることない!」
ほぼ同時に、わたしとジークから制止の声がかかる。
「しなないように(アルデビルドくんを)するからだいじょうぶ。わたしはこれをちゅかう」
帯剣する感覚を身体に馴染ませるために、最近持たされている、薄紅色の木の短剣を腰の鞘からスッと二本抜いた。
えーと、なんだ木製じゃん!セレスかみかみだし可愛らしい…
って思った?のんのん…
おとうさまが赤樫の木から削りだして、おかあさまが自重なく、強化の刻印を刻んでる業物だから、魔力の通しかたによっては、なまくらな真剣よりスパッといくよ?
えーと、おかあさま?なんで刻印しましたか?
ちなみに我が剣は、木剣ながら刃にあたる部分に、わたしの髪の毛の一本を、ぐるりと膠で貼り付ける改造がしてある。
「魔力伝導」の通り道には自分の髪の毛が最適だから。
木剣を手にしたアルデビルドくんと、すでに臨戦体勢の我が姉君は、倉庫横のひらけた場所に移動。
「いつでもかかってきて」とセレス。
アルデビルド君は木の長剣を正眼に構えて振りかぶり…
「…はっ、なまいきな、いくぞっ……」
どんっ!しゅん、ばしっ!
「げふっ?……な…んだ…と?…」
っと、アルデビルドんは、そのままバサリと前のめりに倒れた。
すごくいたたまれない。
セレスは「どんっ!」と地面を蹴って姿を「しゅん」とブラしたかと思うと、「ばしん!」という音とともに、気がついた時には十歩は向こうに走り抜けていた。
ほんとにしななくて良かった。
アルデビルドくんが。
☆
その気絶したアルデビルドは夢を見ていた。
「狼人族が攻めてきた。アルデビルド、ニコラウスはこれを」
ここはパルテームの工房か…
すべてを失ったあの日だ。
手紙と路銀、携帯食…それに父様が母様に贈った、今はもう形見の剣。
「「父様」父様も一緒に行きましょう!」ニコラウスも父を呼ぶ。
「私は大丈夫だから、先に行ってグルーヴ領からの船に乗りなさい。あそこにはダンロックがいる。頼りになる叔父さんだ。片付いたら必ず後を追うから」
そういって、父様は戦斧をかかえて工房の入り口に立った。
「これから私は西門に向かう。おまえたちは東に向かいなさい。二つ向こうのエイースの港に二日後には船がついているはずだ。では行ってくる」
「「…父様」」
それが、父様を見た最後になった。
場面がかわる。
避難しているのは女、子供に年老いた者たち。次は荷車の長い列の中に俺たちはいた。
寒風に身を寄せ会うようにして、俺たちは進む。
「手紙鳥が届いたよ」
横を歩いている老人が、隣を歩いていた老婦人に話しかけていた。
「守備隊は全滅だそうだ」
「そんな…あの子たちも…」
「命をかけて逃がしてくれたんだよ。婆さんや、わしたちが足を止めては…あの子らが報われん」
「アッシュネル…スーザン…ううぅ」
ドッ!
老婦人が涙する間もなく、俄に後方が騒がしくなる。
「魔獣だ!魔獣が出たぞ!」
逃げろ!という怒鳴り声、キャーという悲鳴。荷車が引き倒される音。子供たちの泣き声。
俺たちは無我夢中で走った。
どこをどう走ったかなんて覚えていない。
気がついたら避難する人で、ぎゅうぎゅうの迎えの船に、ニコラウスと二人で乗っていた。
☆
わたしは濡らした手拭いを、アルデビルドの額にのせた。何故だか、あんまり悪い人には見えないんだよね。
うう…とうなされるアルデビルドを見ながら、前回のアリス生の記憶を思い出す。
北島は、東西に長い日本の本州ほどの面積の島で、もともと獣人が多く住んでいた島だ。
東部側は比較的、気性の穏やかな獣人の人たちが住んでいて、南島から渡ったヒューマン種の人たちとも古くから共存してきた。
北島の総督府の重要なポストに「南部貴族」が就くようになって、南島でも、獣人の人たちに差別的な人が多い南部からの植民が増え、それまでの島の環境は一変した。
皇国に恭順しないまでも、均衡を保っていた西部の獣人の族長の娘を、あろうことか手にかけた南島の貴族がいたために、西部の狼人を主体とする獣人たち、それ以外でも散々虐げられ続けた非融和派の彼らは、報復として彼らとの境界線に近い町を襲った。
襲われた町は、その後増え続けた。それからはずっと戦いが続いている。
目の前では、アルデビルドが「うぅ…」と唸っている。
「きゅうしょははずしたから」
セレスも木の枝で、アルデビルドをつつきながら言う。
「兄さんは、俺が連れて帰る」
ニコラウスは憑き物が落ちたみたいに目に光りが戻ってた。
「わかったわ。お願いね?」
子供たちで、ちょうど輪になっていたから、少し話しておこうかな。
輪には、ケモ耳の少年が二人と、同じく少女がユリーナを入れて三人。他はヒューマンか、ヒューマンよりの子たちがいる。
「わたしはアリシティア、隣は姉のセレシティア、その隣は網元の子で、わたしたちの側近になる予定のジーク」と顔の向きをそれぞれに向けながら話しはじめた。
ジークが「え?」という顔でこっちを見る。まだ、決定はしてないけど、おとうさまがジークの頑張りを見て「セレスにアリスが良ければ」と言っていたので、今後を考えてセレスとも相談して、まきこむことにしたのだ。
「みんなに聞きたいのだけれど、もし、今晩ご飯が食べられなかったら皆は悲しい?」
みんな頷いたり「悲しいです」「腹が減るのは嫌だ」とか、それぞれに返してきた。
「みんなが食べられないのに、もし、わたしだけ食べれてたら。それがずっと続いたら、みんなはどう思う?」
「ずるい」「嫌だ」とネガティブな言葉がこぼれる。
「大人たちの争いは、そんな気持ちが原因なの」
ほんとは、もっと複雑だけどね。
「だから、わたしはみんなにご飯をお腹いっぱい食べられるような暮らしをしてもらえるように、おねさまのセレシティアと、ジークとも一緒に頑張ることに決めたの」
みんなの視線が集まる。
右手を、手のひらを上に握りしめた。
「わたしは誰も、誰一人こぼすつもりはないから。必ずみんな幸せにして見せる。だから、わたしたちに力をかして?」
沈黙がおりた。
ポツリとニコラウスが、
「俺はもう子分だしな、好きにつかってくれたらいい」
「おにいちゃんと、おじさんもおなかいっぱいになる?」とユリーナ。
「うん必ずお腹いっぱいにするからね」
「妹も一緒なら、僕も」とリクス。
「アリスはかんがえるやくめ、わたたしはからだをうごかすやくめ」とセレス。
「おれは、このふたりをささえるやくめだな?」とジーク。
リクスが言うならとか、ニコラウスがやるならとか、アルデビルドがやられちまったから、とか理由づけはそれぞれだけど、他の子供たちからも声が上がった。
とりあえずアルデビルドは泣いていいと思う。
「じゃあ、これから週に一回は来るから。みんなでがんばっていこう!」
「「「「「「「「「おぉー!」」」」」」」」」
と、みんなで拳を突き上げた。
なおアルデビルドがむっくり起き上がり、
「親分」
と、私を見てポツリと呟いたために、わたしの開拓村でのあだ名は「親分」に決定した。
解せぬ。
☆
「旦那?お子たちは本当に五歳ですかい?なんやかんやで、まとめちまいましたよ?」
ダンロックはふさふさのアゴ髭をさすりながら、そう言った。
アリスたちは「気づかれていない」と思っていたようだが、大人たちはとっくに気づき、戸板の隙間から、はらはらしながら子供たちを見守っていた。
「それに、尋常じゃないくらい強い」
ディザンダードは、壁の「見張り穴」から見ていて、姿勢は覗きそのものなので、しまらない。
「セレスもアリスもお転婆でなあ、誰に似たんだか…」
なお、その場にいる全員が「旦那だよ!」と、心の中で突っ込んだのは当然である。
「あらあら…もう身体強化を使いこなすのね…」
と母ウィンディアはのんびりかまえている。
「セレスとアリスには、ビショップが身体強化を教えたのかい?」
エルフォードが、まったりとハーブ茶をすすりながら、問いかける。
「いいえ、わたしが教えなくとも、姫さま方は自力で発動していました。特にアリシティアさまは、かなり高度な操作も会得しているようです」と答えた。
「ああ、腕相撲でテーブルも割らず、相手も傷つけず…ひょっとしたら椅子も何かしていたな」
そういいながらイアハートは、こめかみをぽりぽりと人差し指でかいた。
「黙って静かにしてたら、まるで人形さんみたいに愛らしいのに…」
弓士の一人がぼそりと呟き、ギョロっとウィンディアに刺す視線を当てられて、その続きの言葉を思わず飲み込んだ。
懸命である。
「とにかくだ、あの様子なら子供らは縛らずに、好きにさせて見守るってことでいいですかい?旦那?」
「ああ、はらはらはするが…見守るのも大人の役目だな、ウィンディア?」
「ええ。無茶はしないように一言釘をさしておけば、大丈夫だと私も思うわ」
「それは誰が言うんだい?」
「もちろんエルに決まってるでしょ?」
と、ウィンディアはニッコリ微笑んだ。二歳年上の姉さん女房に、エルフォードは勝てない。
☆
お昼ご飯に、村長の家に移動する中、わたしはおとうさまに手を繋いでひかれながら、たっぷりと叱られた。
「アリシティア?いいね?もめ事が起こったら、出来る限り大人を呼びなさい。ビショップに聞いたが身体強化も出来るのだろう?
私はアリスを大切に思っているよ。誰かに傷付けられたら耐えられないぐらいには…」
「…おとうさま…」
「…それと同じぐらい、アリスが誰かを傷付けてしまうことも、私は見たくない。
傷つければ、必ず自分も傷つく。身体は強化できる。しかし、心は……そうはいかないからね」
こんなにも愛されているなんて…
わたしは目尻に粒の涙がぽろぽろとこぼれて止まらなくなった。
「おとうさま…」
「力を使うことが駄目だと言っているんじゃないよ?力を持つと言うことは責任も持つと言うことだ」
「はい…おとうさま」
「アリスにもセレスにも、のびのび育ってもらいたいんだ。私は」
そういいながら、おとうさまはアウォーエナル山脈に浮かぶ、二つの月を見ていた。
そして、尺に収まらずさらに後編に続くと…
いつもありがとうございます!☆やブクマで応援いただけるとアリスとセレスが喜びます。
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