四話 凪ぎの型のち、お魚のマリネ
かーん!かーん!
甲高く木剣の打ち合う音が屋敷の庭に響く。
「踏み込みが甘い!まだまだ走り込んで、下半身を固めねばなりませんよ、ジーク」
「はあ…はあ…あ、ありがとうございましたビショップさん」
大陸を吹き抜けた北風がさらに海峡を渡り、高くなった波頭からその飛沫をすくいとって、日ごとに潮の匂いを強くしていく。
少しづつ肌に触れる風が冷たくなってきている。
今は五の刻。
あれから一週間がたっていた。
このビショップを師範とする武技の訓練も、おかあさまの基礎魔法の座学も、ほぼ毎日の日課になりつつあった。
「数学」はビショップがまだのみ込んでいないので、少し先になる。
わたしはそんな暮らしの中でアイリッシュダンスさながらに、木靴の足でリズムを刻んだり、
「それはなに?いこくのことばなの?」とセレスに聞かれるのもおかまいなしに、日本で慣れ親しんだ歌を口ずさむことで、何とか音楽への「餓え」をしのいでいた。
木製の訓練用の長剣を、置きながらビショップはいう。
「剣の筋は悪くない…目配りも効いている。後は剣技に身体が負けぬよう鍛練を怠らんことが大切だよ」
「はい!」
元気に返事をしたジークの家は、ブレイド・フッシュという鰹に良く似た魔魚の一本釣船団を主力に抱える網元だ。
ブレイド・フィッシュは形こそ鰹に似ているけれど、大きく成長したものは、薄紅色の赤身にサシが入っていて、味はマグロに近くなる。
冬に入る前、始生祭の日に、この魚を村民総出で塩茹でにして、北風にさらす。
水分を飛ばした後に燻製小屋で燻すと、この地の冬の名物保存食「アララトジャーキー」の出来上がりだ。
その魚を釣り上げる網元の三男のジークは、普通であれば、成人したら廃船寸前の中古船をもらって、こじんまり独立するか、支度金をもらって陸で網元に連なる、加工品の商人として働くかの二択になる。
ジークはそのどちらでもない「探索者」になりたいと、以前からうちにきて腕を磨いていたけれど、わたしが事故にあってから、その頻度が上がった。
「強くなければ、窮地に陥った時に、嬢たちを護れないからだ」と、訓練のお願いをビショップにする時に、言っていたらしい。
うーん…カミナリには鍛練では勝てないけどね。
それでも…
わたしが初等院に入学する前の年に、海峡を越えて二度目の侵攻を仕掛けてくる、大陸の軍事国家、エラキド帝国への備えとして考えるなら意味はある。
まあ…なにより、ジークの気持ちが嬉しいんだけどね…
この武術?教室も、前回のアリス生では始生祭から後の開始だったから、訓練時間が少しでも長くとれるのはいいことだ。
「さあ姫さまがたも、短剣を使った護身のための技を訓練いたしましょう」
セレスも以前から剣は好んでいて、ちょいちょい練習はしていた。
「ビショップ?にほんつかっていい?なんかできるきがするの」
セレスは今世は双剣つかいをご希望か…
普通なら「止めておきなさい」というところなんだろうけど、なにせ超感覚人間のセレスのこと。何かを感じとったなら、それはたぶんできるんだよ…
「セレス姫さま、身体に無理のかからない範囲で最初はやってみましょう。短剣による双剣は攻守を淀みなく切り替え、長剣では入ることのできない死角を突くことに強みがございます」
ビショップは少しやって見せましょう、と、木製の短剣を手にふわりと舞った。
ベルセル○に出てくるような、背中の大きな重戦士然としたビショップが、重さを感じさせない足さばきで、円をかくように動く。
水面に波紋を描くが如く繰り出される脚の動きに、落ち葉がつま先の軌道にそって舞い上がる。
短剣は、腕の関節を軸とした複雑な円を描く縦の動きと、体幹の動きに逆らわない流れるような横の動きが合わさって変幻自在に踊る。
「時折、このように組打つことで間合いを調節する…複数の敵を屠るには有効な技術です」
屠るって、
いやこれ…護身術の
域を超えているような?
「ビショップ?護身術にしては内容が濃くないですか?」と問うたら、主が自ら剣を持って戦う時は、護衛が無力化されている窮地に陥った状況しかないのだから、単身一撃必殺で突破出来ねばならないでしょう?
と、にっこりとイイ笑顔でビショップに言われた。
おぉう
まさかのガチの戦闘術だったよ…
前回のアリス生では、よもや帝国が侵略してくるとは思わず、護身術は適当にながしていたからなぁ…
確かにアララト防衛戦の時に、護身術を完全に身につけていれば、あんな苦い思いをすることはなかったのだし。
それにしても、改めてビショップの戦闘センスの高さに驚く。
これで戦に出る時の本来の武器が、自分の身の丈ほどのバスターソードだと言うのだから、その凄さがわかるというもの…
「どうですか?イメージできましたか?」
とビショップ。
しばらく彼の動きを凝視していたセレスが…
「むぅ…わかったあ!」
と声をあげた。
「え?」
いやいやいや、さすがにセレスでも、そんな簡単には出来ないでしょう…
セレスが「こうだよね?」といった顔で軽く動きをトレースしてみせる。
「こう…つーっとうごいて、ふぃってひねって…さーっとまわって、えいっ!」
おおー!
さまになってる!
セレスすごい!
「なるほど…セレス姫さまは、ずいぶんと目がいい。まずは今日のところは足さばきに集中いたしましょう。アリス姫さまもご一緒にやってみましょうか?」
「わかりました。ただ…わたしはセレスの後でやってみます」
「ではそうしましょう。ジークは今日はもうあがるのかい?」
「…いえ、オレ…まちがえた、僕も足さばきを練習したいです!」
「よろしいでしょう。この足の運び方は、徒手空拳の近接戦闘にも通じています。
あとは…そうですね…短剣を使う場合は、左の肩当てと、籠手が重要になりますが、これは親方様に私からお願いしておきましょう。
セレス姫さま、ジークも私の後ろに10歩ほど下がって、間隔をとって良く見て真似るように。まずは『凪ぎの型』から」
「わかったあ!」とセレスはててて、と後ろにまわる。ジークもそれに続く。
背筋を伸ばしたまま、肩幅ほどに足を開き、ビショップは腰を落としていく。野球選手が盗塁を狙う時の姿勢が近い。
「よろしいですか?ここから上半身がぶれないように、横に一歩、地面を擦るように歩を進めます。踏み出した分だけ、反対の足を素早く引き付け、視線をぶらさず重心を常に身体の真下にもつ意識で…こう動きます」
ざっ、と動いたところで…
「いてっ!」
と、ジークが何かに躓いて転ぶ。
「ジーク、大丈夫ですか?」
「あ…うん、大丈夫!落ち葉で滑っただけ!」
すぐに起き上がった。
ビショップが肩越しに、
「戦場の足場が常に良いとは限りません。むしろ戦いが続くほど戦場は荒れます。この基本歩法を極めれば、地形や死体などの障害物は、全てこちらの味方になると心得て下さい」
と言った。
うん…ビショップ、さらっと死体が障害物と言ったね…
本当に何気ない言葉ではあるのだけれど…それは日本の日常にはゴロッと存在などしなかったもの。
この世界は絵物語の世界ではないことは、当たり前にわたしも理解していたつもりだった。
わかってはいたはずなのだけど、この世界の「常識」に混ざりこんだ、取り除きようもない…まるで刺のような事実に気づいて、改めて現実の生き難さを感じ、わたしはそのあとも心がざわついていた。
☆
前回のアリス生では、男爵領アララト砂丘に、帝国の二度目の侵攻で兵が上陸した。
そのさい、この地は激しい戦闘に巻き込まれ、たくさんの人たちが亡くなった。
ビショップも…わたしを護り最後まで「姫さま、私がおりますから大丈夫です…」と死に至る深手を負いながらも、おとうさまと合流できるまで、本当に最後の瞬間まで安心させるように、笑いかけながら逃がしてくれた。
わたしは…その苦い未来の記憶と、ビショップの忠義を忘れてはいない。
そして今世では絶対に全員で生き抜いてみせる。
そして印象深く、忘れていないことがあるのと同じように、忘れていたことで、思い出したこともある。
虫食いと言わないまでも、ところどころ記憶のぼんやりした部分もあることに最近気がついたのだ。
『世が世なら…姫さま方は本当に姫さまだったはずなのです』いつものビショップの口癖をはじめて聞いたのはいつだったか…
『わたしは、そんな大層な者ではありませんよ』
『いえ、姫さま。系図こそ戦乱の中で失われはしましたが、姫さまがたは古代魔法王国の…オケアノス王国のれっきとした正統後継者なのですよ?』
ビショップは代々、その主家に仕える、護衛の一族の末裔だという。
おとうさまも
『今でこそ、後継者の血筋だと言っても与太話と変わらない話だと、皆笑ってくれるがな…
オケアノスが地図から消えた時に、隠れ里に隠もらずに、もしそれを口にしていれば、わたしたちの祖先もオケアノスと共に根絶やしにされていただろう。
もっとも、もう時代が変わったのだよビショップ。私なんて見ろ?ただの下級貴族だぞ?」
と酒の席で否定はせずに笑っていたことがあった。
日本の感覚に置き換えれば、令和の社会に順応した豊臣家の末裔の人たちの立場に、わたしたちは似ているのかもしれない。
…ま……めさ…ひめ…
「…アリス姫さま?」
おっといけない、集中しようと目を瞑ったところで、考えこんでしまったようだ。ビショップが心配そうに覗きこんでいた。
わたしの番だったよね。
「ちょっと考え事を…では、やってみます」
うーん、うまく出来るかな…幼児の身体ではビショップのスピードに少しも近づけない気がする…
ウォーミングアップのつもりで魔力循環を開始。うっすらと身体強化に入る。
ほんの少しだけ強化したし「俊敏」の魔法は使ってないから大丈夫…だよね?
「アリス姫さま?今、身体強化を使われましたね?」
うっ、ビショップは勘が鋭すぎるのではないだろうか?
白状したほうが、より良い教えを受けられる、かな?
「…さすがビショップ、気づかれてしまいました」
「え?嬢?身体強化って?ご領主さまののアレを?」
今日の成果を確認するように、型を練習していたジークが、目を丸くしてこちらを見ていた。
セレスは先におかあさまに呼ばれて、この場にはいない。
「そう、前からこっそりと、ちょっとづつ練習してて、出来るようになったの」
オークも裸足で逃げ出すであろう、真っ赤なウソである。
「…うう、嬢はやっぱりすげえな…」
実際は前のアリス生で、身につけていた技術だし。
身体強化は魔力制御で、体内と皮膚の表面に循環させる魔力の量や密度を、意図的にズラすことで出来る。
鍵言を必要としない純粋な身体操作技術の一つで、魔法とは区別されている…
ただ、失敗すると腱を断裂したりもありえるので、危険という点では魔法と変わらないけれど。
「本当に最近のアリス姫さまには驚かされる。もう少し込められますか?(魔力を)」
「まだ大丈夫…」
少しずつ魔力濃度を上げていく。帯電に似た現象が起こり足下から落ち葉や、小石がゆらゆらと浮かび上がる。
「わかりました。そこまでにしておきましょう。姫さま、今の状態で安定出来ますか?」
むむむ…安定と。
「…ん、できた…」
「では、その半分まで落としてから始めましょうか?」
きちんとコントロール出来てるかの確認かな?
循環をしぼってと…
こんな感じでどうだろ?
「ビショップ、これでいい?」
「はい、姫さま大変結構です。身体強化をかけられるのであれば、型に入る前に、どこまで出来るかを知っておいたほうが良いでしょう。
そのまま上に軽く跳んでみましょうか?力を入れずに最初はふわっと」
ふむ…ふわっとね。
OK!OK!ちょろいちょろい!
一生ぶりにいっちょやってみますか。いっせーの、せいっ!
「うあぁぁぁぁ……」
ドンッと足下の土が弾け、乙女らしいとは言いがたい悲鳴と共に、その音源は「ぶわっ」と真上に打ち上がる。
「姫っ!」
「嬢っ!」
ビショップとジークが、瞬間的に首がもげそうなぐらい上を見上げた。
しまったあ、強化をマスターした時の十二歳の体重に合わせた力加減だったあ!
気がつけば、屋敷の屋根近くまで跳んでいて、二階で窓を拭いていたミランダと目がこんにちは。
うっわ、ミランダもびっくりしてる。
わたしも、びっくりしたミランダの顔にびっくりだよ。
ああ、屋根ごしのアララト湾が綺麗だなあ…
あ、屋根痛んでるね。なおさなきゃ…
いやまとう?冷静な場合ではなく、慌てるべきところ!落ち着けわたし…あれ?冷静だからいいのか?
上がれば、当然落ちるわけで…
「ビショップ!」
「はっ!姫さま、力を抜いて!」
落下してきたところに「すぽっ」と音が聞こえそうなぐらい見事な体勢で、わたしは捕獲された。
「奥さまーっ!大変です!アリスお嬢様があ…」
うわあミランダ、わかるけど呼ばないでぇぇ!
ちょこんとビショップに抱き上げられた形のままに「すっごい高い高いをしてもらったの!って言ったらごまかせないかな?」と冷や汗だらだらで問うたら…
眉をへの字にして
「姫さま、何事も諦めが肝心です」と遠い目をされた。
むむむ…
ジークは尻餅をついて口をパクパクしていた。なんかごめんよ。
☆
あの後、ミランダに手を引かれる勢いでおかあさまが駆けつけた。
けれど、ビショップは「私の指導の過程でアリスお嬢様に跳んでいただいただけですのでご安心下さい」としれっとわたしを弁護してくれた。
すると…
「まあエル(夫)に比べれば可愛いものだわ。ビショップがいるなら大丈夫でしょう」と、おかあさまはすんなり納得。
ビショップ、マジ有能!
おかあさまのお叱りの傾向も、人に迷惑をかけたり、誰かを傷つけたりする可能性のあることに集まっていて、本人の成長になる事柄にはかなり寛容みたいだ。
と、言うか…
あ…なんかこれ…わが家の常識を疑ったほうが良いかもと、逆に認識を改めさせられた瞬間でもあった。
と、いうことで…
今わたしはハーブ類を植えた屋敷裏の菜園にセレスときていて、晩御飯に使う仕上げの隠し味のハーブや薬味野菜を収穫中だった。
雑木林から、見つけたものを植え変えて、数日ほどしか経っていないのに、驚くほど密生して勢いがある。
今日はわたしが一品作るから、とミランダにブレイド・フィッシュの片身をとりおいてもらっていたのだ。
ミランダにお魚ステーキな感じで、軽く炙ってレアにしておいてほしいとお願いして、焼き上がりはすでに食べやすい大きさにわたしがカット、レモ(赤いレモンだった)とワインビネガーとオリーラ(みかんに似た果実)の種から搾ったオイルや、いくつかのハーブとお塩、お砂糖の代わりに、メープルシロップを煮詰めたもので混合した、わたし手製のマリネ液に浸かっている。
ミランダが
「アリスお嬢様?それではステーキになりませんよ?」と漬け込む前に散々言われたけど、いいのだ。
躊躇いは無用と、ドボンと漬けた。
「あぁ、もったいない…」
と、ミランダが悲鳴に似た呟きを飲み込んだ。
サシの入った赤身を軽く炙ってレアにした身を厚切りにして、軽く塩をふっただけで食べるのも、すごく美味しいのだ…
そんな魚が正体不明の調味液にドボン…確かにマリネの美味しさを知らなかったら、もったいないと思うかも…
ただ、調味液はちゃんと試飲して味付けは美味しく出来てるのを確かめてるから大丈夫!
もう半分残った魚の片身とアラはスープの具とお出汁として、ミランダによって、お鍋に収まってグツグツいってるころだ。
このスープの隠し味に生姜もどきのザシャの根をミランダにばれないように、すりつぶして入れるのだ。
「ねえアリス?ザシャのねっこをほんとにつかうの?」
ザシャは地上部は地球のニラに良く似ていて、この世界では主に地上部を、せき止めの薬草として使用していた。
その根の部分をショウガの代用品として使うつもりだ。
「つかうよ。あとオニルとピパリス、ゲルーザも」
黄色の花を咲かせるオニルは、この辺りでは小麦畑を侵食する雑草として認識されていたけれど、前回のアリス生で、その根の球根のような部分は、玉ねぎ風味で食べられることを突きとめていた。
「ぜったいにがいとおもう!」
まあ、セレスがそう思うのも無理はない。
元々が薬草だったり雑草だったものだもんね。
「セレス大丈夫だよ、もし食べられない物が出来上がったらカトラリーが反応するし」
「あれは毒のあり無しをみわけるだけだよ?」
呆れた顔でセレスに半眼を向けられた。
まあ特にピパリスの実は胡椒の代用なんだけど、魔獣避けの材料として使われていたぐらいだし。
すでにオニルはお昼にカットして水にさらしてあるし、ゲルーザも薄皮を剥いてスライスしてある。ゲルーザはニンニクの代わりだ。
あとはザシャの根をスープに入れ、バジルに似たハーブとニンニクがわりのゲルーザをほんの少しマリネに刻み入れ、グリーンボールの千切りとあえれば完成だ。
☆
「このサラダはアリスが作ったのかい?」
なんか久しぶりにおとうさまの顔を見た気がする。隣村の開拓で最近は屋敷にいないほうが多かったから。
「はい、おとうさま。それは『マリネ』と言うサラダの食べかたになります」
「なかなかに美味しいな。アリスには料理の才能もあるようだ」
おとうさまがごきげんである。セレスは中に何が入っているか知っているので、おとうさまが口にしたのを確かめてからおそるおそる食べはじめた…
えっ?あれをぶっこんでこの味になるの?なんで?と目がめっちゃ泳いでる。
セレス…考えてることがまるわかりだよ?
おとうさまの料理の才能発言の瞬間、何故かおかあさまがつぃーっと目をそらした。
「エルに似たのかしらね?」
そう言えば、おかあさまはパンを焼くところと、ステーキを焼くぐらいしか料理を作るところを見たことない。
ほとんどがミランダが料理していたっけ…
あれ?そゆこと?
「少しピリッとするのも悪くない…いや、むしろ好ましいな」
セレスが「それは魔物よ…」と騒いだ瞬間、被せるようにすかさず
「おとうさま、開拓は進んでいますか?」とわたしは問う。
「ああ、畑自体は開墾が進んで広がったが、小麦は思うようにはまだ育たないな。アリスは領地のことに興味があるのかい?」
「はい、美味しいものがたくさん領地から採れることに興味があります」
「アリスはくいしん坊だよね」
セレスがいろいろ指摘は諦めて、スープの具を頬張りながら言う。
「美味しいものは大好きだよ」
わたしはスープの仕上がりにも頷きながら答えた。
おかあさまが
「それにしてもアリス?こんなレシピ、どうやって知ったの?」と聞いてきた。
「ジークのところから魚を届けてくれるおかみさんに聞いたの」
一応答えは用意しておいたのだ。
おかみさんには「おかあさまから習ったの」と、先にレシピを教えておいた。完璧な情報操作である。
後に、そのレシピが騒動の元になるとは、わたしはこの時には思いもしなかったのだが。
つつがなく夕食は進み、おとうさまにオニルとゲルーザを作付けする提案をしておき、少し変化した、それでいてよくある一日は暮れていった。
アリスのレシピに登場するアレコレ
ピパリスの実
膝ほどの高さの、一年草から採れる胡椒に良く似た実。
地球の胡椒よりも辛味が強く、ピパリスの実、アガラシの実とオリーラの実から搾る油を、おが屑と泥で練り固めたものは、魔獣よけとして使用される。
この世界の人間にとっては、ピパリスの実を食用とする認識は薄く辛味はもっぱら山椒味の「ヤガート」か、唐辛子味の「アガラシ」に頼っていた。
オリーラの果実
見た目は地球のミカンのような実ではあるが表面は赤く、中身はライトグリーンで少し酸っぱい。
種子が内部のほとんどをしめており、油はこの種子から搾る。
アガラシの実
紫色のプチトマトサイズの実。味は地球の唐辛子と同じ。また、種の入り方も唐辛子に酷似している。
ザシャの根
地上部は地球のニラに良く似ていて、この世界では主に地上部を、せき止めの薬草として使用していた。その根をアリスがショウガの代用品として使用。
オニルの球根部分。
黄色の花を咲かせるオニルは、小麦畑を侵食する雑草として認識されていたが、アリス特性の肥料を与えて育てることで、玉ねぎのようなふくよかな球根部分を実らせるようになった。味はまさに玉葱。
グリーンボール
地球のグリーンボールとは違い、キャベツのことを指す。
ゲルーザの球根部分
薄紫の綺麗な花を咲かせる草だが、風邪などで発熱した時に地上部の細く尖った葉を煎じて飲むと解熱の効果があり、この世界では庶民の薬草として知られていた。
こちらも、アリス特性肥料を与えて育てることで、ニンニクに良く似た球根部分を実らせるようになる。味はまさにニンニク
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