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二話 輝石板のち、英才教育?

翌朝メイドさん、とはいっても、かわいい女の子ではなく、働き口のないおばあちゃんだけど…まだ彼女が私たちの身支度の手伝いにも来てもいない一の刻が始まったばかりの時間帯のこと。


二階の西の一角にあるセレスとわたしの部屋の小窓に、コツン、コツンと何かの当たる音が響いた。


ちなみに、この世界の時間周期は地球とほぼ同じで約24時間で1日が経過するし、四季もある。

こちらの時間単位は「刻」である。


一の刻は午前六時~八時の間を指していて、例えば二の刻は八~十時を指す。


鐘で刻の回数を鳴らして知らせてるけど、鐘が鳴るのは七の刻までで、夜は鳴らないのだ。


「野の神様」達を祀っている教会が鐘を鳴らしている。


地球で言うところの洗礼式である「始生祭」で近々わたしもお世話になる場所だ。


話しがそれちゃったな。


小窓に当たるのは、何かの木の実か小石みたいで、音は軽い。


セレスも気がついて、寝台を滑り下りて、小窓に近づいた。


セレスは小窓の高さにはまだ背が足りないので、とてとて歩いて、予め窓下に置いてある木箱に「うんしょ、うんしょ」とよじ登って、小窓から庭を眺めた。


「あ、わるがきのジークがきてる!…いけない、アリスをたすけてくれたから、わるがきって言っちゃダメっておかあさまに言われてたんだった」


セレス?わかってる?わるがきってセリフは、自分たちにも跳ね返ってくるからね。


どうやら庭に生えてるドングリに似たパセの木が落とした実をせっせと拾って、地上から小窓に投げ付けていたようだ。


ジークはわたしの命の恩人だそうである。


落雷?により気を失っていた私を、彼の妹ルミネに看させて、海岸の断崖 - 屋敷までの近道 - を駆けあがって、薔薇科のトゲのある植物の群生地のただ中を、傷だらけになりながら突っ切って、私が事故にあったことを屋敷に知らせてくれたそうだ。


まあジークは恩人であるのと同時に、わたしとセレスと共に野山を駆け回るやんちゃ仲間なのだけれど。


え?貴族の息女なのに、いいの?と思うかも知れないけど、こんな辺境で淑女をやってても、お腹は満たされない。


「やんちゃ」に出かける時は、護衛と言う名の子守りとして、隻眼の騎士ビショップも傍らにはいる。


今回は、こっそり一人で抜け出したから、知らせを受けて、わたしを救出に来たビショップはさぞ驚いたことだろう。


やんちゃとは言ったけど、雑木林に入って木の実を採ってきたり、蔦のような植物「クメ」になる、地球のアケビに似た果肉の多い果物だったり、採取しようとすると、胞子を吐きながらロケットみたいに飛び立つキノコを取り押さえたりしないと、我が家の食卓の品数は増えないから。


もちろん収穫は、わたしとセレスが地上担当で、ジークは地上と樹上担当、ビショップは運搬担当である。


仕事量は違うけれど、適材適所である。収穫物は山分けしてるのだから、これでいいのだ。

うむ。


わたしも寝台を滑り下りて、とてとてと小窓に向かう。


セレスに少しよってもらって、わたしも「うんしょ、うんしょ」と木箱によじのぼった。


海からの北風に、窓が煽られないための閂を外して、セレスと二人で小窓を押し上げた。

軽く吹き込む風に、潮の香りが一気に強くなる。


「嬢っ!よかったあ…大丈夫そうだな…本当によかったぁ。セレスねえも昨日ぶり」


小窓にひしめき合っている、わたしたち姉妹の顔を見て、ジークはうれしそうに破顔した。


ジークはわたしたちの一つ年上なのだけど、何故かセレスを「ねえさん」呼びする。わたしにいたっては「お嬢」呼びだった。その呼びかたは止めてって言ったら「嬢」にかわった。


解せぬ。


名は体を表すと言うけれど、どんだけ勝ち気な姉妹なんだろうか、わたしたちは。


「昨日ぶり!ジークはこんな早くに、どうしたの?」


「ああ…おやじ、じゃなかった、あみもとから『ブレイド・フィッシュを一の刻半にみずあげするから、領主様に必要な量をきいてきてくれ』って言われた。あとは…嬢の様子が気になって…」


「わかった!おとうさま…じゃなかった、ご領主さまに伝えてくるね」


と、言うやいなやセレスは、木箱からぴょんと飛び降りて、だーっとおとうさまのところに走っていった。


残されたわたしはジークにむきなおる。


生成りのベージュっぽいズボンに、上もベージュっぽい服を着ている。昨日の棘の道を突破した時に出来たであろう解れがいくつも見える。


「ジーク、昨日はありがとう」


「遠くから見てて、カミナリにやられたと思ったけど、そんだけ元気そうなら、やっぱりちがってたのかな?…嬢はなんであそこにいたの?」


「それが…何かあったはずなんだけど、思いだせなくて」


「そっかわかった…じゃあもし次、あの海岸に行く時は、オレにも声かけといてくれよな」


「うん…しばらく一人で出歩いたらダメだって怒られたから、ぜったいジークも誘うよ」


「わかった」


「あ…そう言えばジーク?『海のクメの実』は水揚げされてる?」


海のクメの実は、海ブドウに似た実のつきかたをする青い海藻の実だ。


本物の地上のクメの実よりも二まわりは小さく、しかし海ブドウよりはかなり大きい。


「まだ見てないけど、きょうもあると思う。え?嬢が食べるの?にがいよあれ?」


「食べないよ。ちょっと試したいことがあって」


「そっか、どのくらいいるんだ?」


「うーん…ちょっと試すだけだから3つかな?」


「3つだな?わかった!ブレイド・フィッシュといっしょに届けるよ」


「ありがとうジーク」


すぐにパタパタパタと足音が響いてきて、セレスが、


「おとうさまにきいてきた!」


セレス結局おとうさま呼びに戻ってるよ?


「にはい(水揚げ篭に)だって、しょくばい用にうろこもあったらほしいって」


と、木箱には上がらずに、隣の木箱の置いてない小窓に向かってぴょんぴょん飛びながら伝令を果たした。


でもセレス、そっちは窓を上げてないよ?

ま、伝わったみたいだからいっか。



「おかあさまが、紙は高いから、これにかきなさい、だって」


まだ、部屋からも出てはいけないわたしは、セレスに紙とインクとペンを、おかあさまからもらってきてとお願いしたのだけど…


「セレス?これは…輝石板(タブレット)?」


「?」


タブレットと言っても、現代日本の電子器機のことではないのだよ?


A4サイズ、厚さ1センチほどのそれは、クリスタルを変成させて作られた魔道具で「輝石板(タブレット)」と呼ばれている。


そしてかなり高い。


小さな魔石が隅についていて、書いたものを5ページ分ぐらいは留めておける。魔石から魔力を抜くと、初期化されてまた書ける。


これは魔法学院で使うノートがわりの文具だ。


「アリスはまだ、文字は書けないでしょう?お絵かきや、文字の練習ならこれを使ってね?」


言いながらおかあさまが、開けたままのドアから入ってきた。


「え?わたし文字は書けるよ…」


おかあさまは小首を傾げた。わたしも小首を傾げる…


あ。


反射的に言ってしまったことの矛盾に気がついてしまった。


わたしは、まだこのころは自分の名前ぐらいしか書けない時期だった…


なんて言おう…


「あら?おとうさまに教わったの?おかあさまにも見せてね?」


下手に書けないって言ったら、今後の行動に制限がかかるし、おとうさまだとすぐバレる…


「び、ビショップに習ったの」


そこでセレスが、


「え?ビショップって、おしえたりできたの?」


いらんことを言わないで、わが姉よ…

心に冷や汗が一筋。


「そうね…ビショップなら元々優秀な皇都の騎士様だったのだから、教えたりは出来るでしょう…」


そう言いながら、おかあさまはジトッとした目でわたしを見た。


おかあさまはビショップに習ったのを疑っているのではなく、本当に書けるかを疑っていることがわかる。


ま、習ったのは嘘だけど、書けるのは本当だし。


本当に文字が書けるなら、おかあさまは意味のある事にはきっとお金は惜しまない。

クッ仕方ない…


「ほら見てて!」


わたしは、指先に魔力を集めて輝石板(タブレット)に書き込んだ。


一生懸命書いてたら、それを見ておかあさまが、目を丸くしていたのに気がつくのが遅れた…


「アリス?…あなた…輝石板(タブレット)の使い方は誰に習ったの?教えてあげるつもりで来たのだけど…」


あああ、やらかした!


指先に魔力を集めて書くのは輝石板(タブレット)がなければ練習出来るはずがない…魔法学院の一年で最初に習う技術だ。


輝石板(タブレット)から顔をあげられずに冷や汗だらだらしていると…


「アリスは天才ね。さすがエルの血をひいてるわね」


ん?と思って輝石板(タブレット)から顔を上げると、おかあさまがすごくニコニコして、わたしの頭に手をおいて撫でてくれた。


親ばかフィルター全開のおかあさまに、セレスがむくれる。


頬を膨らませて、ご機嫌斜めをアピール。

なんだこの可愛い生き物は。


「セレスだってできるもん!アリスかしてっ!」


こら、セレス!わたしのタブレットをかっさらうんじゃない!


「アリス!どうやったの!?」


あ、そこはわたしに聞くんだ。ならば教えてしんぜよう。極意をとくと聞くがよい。


「えーとね、身体の奥にぽかぽか感じる暖かいものを、しゅーっと細く引っ張って、ぴゅって指先からだす感じ?」


アリスの中身は愛子でもあるので、これで御年、愛子28歳+アリス5歳(現在)の堂々の三十路である。


「アリスは教えるのは得意ではなさそうね…」


おかあさま?聞こえてますよ?


セレスは「むうー」っと、しばらく唸っていたけど、何かつかめたのか「わかったあ!」と言って…

「ぽかぽかを、しゅーっとやって、ぴゅって」


え?セレスできたの?というか、わたしの説明でやっちゃうセレスこそ天才だと思うよ。


セレスの指先が光を纏って輝き、おかあさまはそれはもう嬉しそうに、私たちを撫でてくれた。



事故にあったのが嘘のように体調は良い。


でも今日は、気を失っている間に訪れていたらしい医師の勧めで、念のために部屋にいることになっている。


今は朝食後のまったりした時間帯である。


二の刻が過ぎ、おかあさまとセレスが階下に向かった後は、部屋の片隅に置いてある椅子にかけて、本を鼻歌を響かせながら読んでいた。


先ほどの輝石板(タブレット)のことを振りかえるに、おとうさまの魔法資質はしっかりとセレスにも遺伝していたみたいで。


あの後、結局お絵描きと文字の練習をさんざんタブレットでやった。


主にセレスが。


わたしはその間、文字が書けるなら、おうちの蔵書を読めるだろう…という、おかあさまのはからいで、今、手にしている「古代魔法王国の神秘」という前回のアリス生では、あまり読むことの無かった本を読んでいた。


本来のアリスなら難読レベルの内容だ。おかあさまの笑顔の裏に、地味に英才教育の始まりを感じた…


ただ、以前の人生の記憶があるが故の「奇行」を「天才」が故、と受けとめてもらえるなら、行動は幾分しやすくなったのだから良いことではある。


とりあえず英才教育はおいといて、確認出来たこともある。


一つは、前のアリス生では、学院入学の半年前にしか手にすることの無かった輝石板(タブレット)


それが今回は早々に出てきた事でもわかったけれど、わたしの言動の影響で、前回たどった通りの「歴史」には、おそらくはならないこと。


もう一つはセレスの潜在能力が、かなり高いことだ。


目の前にいくつも横たわる難題を、一つ一つ丁寧にひっくり返していかなければ、わたしの人生の目標は叶えられない。


さらに疫病の特効薬を創らなきゃ、家族全員が終わってしまう。


もしもセレスがこれから潜在能力を顕在化させて、開花させていくなら、その姉の力を借りられるのなら、一つ一つ難題を克服せねばならない中で、これほど心強いことはない。


それにしても…


少し落ち着いたら、無性に音楽が聴きたくなってきたな。それも叶わぬなら、せめて演奏がしたい…


確か、うちには木製の横笛もあったはずなのだけど、この左手では演奏も難しい。


木琴のような打楽器なら工夫次第で、わたしにも演奏できるかな?


ただ…この世界で木琴は見たことがないので、存在してるかもわからないし…


さらに言えば木琴はおろか、ピアノもおそらくは存在しない。


ふふふ、ふふふ…


ないならば「やってみた、作ってみた」の精神の出番ではないか。

これでも馬渕創造工房の工房長に物作りの腕前を誉められたこともある。


ふふふ、うふふふ…


部屋から出られたら、楽器を作る!これ決定!

どんな風に楽器を作って奏でるか考えただけで、気持ちがはずむ。


そんなわけで、もうこれでは部屋の中では出来ることも限られるので、今日のところは諦めて大人しくしていたのだ。


ふふふ、あくまでも今日のところは…


本を手に思考していると、コンコンとドア横の腰壁がノックされた。


ドアは開いたままなので、階下のダイニングから、おかあさまとセレスの声も小さく聞こえている。


「どうぞ」


ビショップが顔を覗かせて、入り口に立った。


「アリシティア姫さま、ご無事で何よりでございました」


ビショップはそのまま部屋の中に入り、流れるように片膝をつき、騎士としての臣下の礼をとった。


なおそれでもビショップの視線のほうがわたしの上にある。


何故かビショップは、わたしたちを姫様呼びする。男爵の息女ぐらいで姫さま呼びは大袈裟だと言ったのだけどね。


「ビショップ、昨日はありがとう。わたしを運んでくれたと聞きました」


「いいえ姫様、私に礼は必要ありません。むしろ災いから遠ざけられなくて、心底猛省しております」


眉をへの字にして、本当に申し訳なさそうな顔をして頭をたれていた。


「ビショップ?大丈夫ですよ?わたし、自分から出歩いたのですし、あなたの名前を借りましたもの、おあいこです。だから顔を上げてください」


「それは…姫さまが、私が文字を教えたと、ウィンディア奥様におっしゃった件ですか?」


隻眼の鳶色の瞳と目が合った。


「そ、そうです」


自分から切り出したとしても、やっぱりどきっとはする。


「奥様に訳もわからず誉められ、驚きはしましたが…何か理由があってのことかと」


「今は言えませんけれど、時がきたらビショップにも知っておいてほしいこと。そこに理由があります」


わたしの言動が、未来に影響を及ぼすなら、ちょっと慎重に話そうと思ってのことだ。


「かしこまりました。私は姫さまの剣であり盾にございます。それで姫さまが安らかに過ごされるのであれば喜んで」


あ、もう一つお願いしとかないと。


「ありがとうビショップ。それであなたにもう一つお願いがあります」


「なんなりと」


「ビショップは算術も教えられますか?」


「は、算術は問題なく。それでは姫さまに手解きを?」


「いえ、セレスティア姉さまに、これからわたしが伝えることも含めて教えてほしいのです」


「かしこまりました…そのアリシティア姫様?」


「なんでしょう?」


「申し上げにくいのですが、姫様はあの海岸での出来事からのち、雰囲気が随分と変わられたように存じます」


やっぱりそう思うだろうな…もっと幼い年相応の知性だったし。でもビショップは裏切らない。前回でそれだけはよくわかっている。


「そうですね…それは、わたしが一番戸惑っています。しばらくは馴れないかもしれませんが、改めてこれからもよろしくお願いしますね」


「は、かしこまりました」


その後「算術」ではなく「数学」を披露したら、ビショップは目を白黒していたけれど、わたしの代わりにセレスに教えることも快諾してくれた。



ビショップと話すうちに、九歳から通う初等学院の話しになり、十一歳から通う魔法学院や貴族院のカリキュラムの話しに移り、さらに「始生祭」も近いこともあって、天地創造の神々の話になった。


ここまで話し込むころになると、ビショップは既にわたしを、普通の幼子としては見なさなくなってきていたように思う。


アリシティア姫様の変化には、何か神の意志が働いたのだろう、と神々の話しに繋がったのだ。


どの世界にも似た神話が存在するのは、とても興味深い。天地開闢を記した「開闢記」によれば…


この世界は七日間で創られたという。


はじめに創造主たる光の女神が、一人では寂しいと思い、暗闇の世界に光を放ち、ロンダースの杖をもって混沌をかき混ぜた。


一日目に天と、影である地が産み出された。


まだ、大地しかない世界を見ても寂しさが紛れず、光の女神は涙を溢した。それが海となり、振り払った涙は、天に散らばって、星々と月を形作った。


こうして二日目には、透き通った海と、月と星空が創られた。


平らで起伏のない大地ではつまらないと、女神は杖で大地を軽くなぞり、息を吹き掛けた。


なぞった箇所は大河となり、その大地が払い出された場所に山々が出来、息を吹き掛けた場所には緑が生まれた。


三日目には緑に覆われた大地となり、植物が息吹いた。


変化の無い透き通ったままの海にも、女神は生命よ息吹けと、杖で軽く触れた。そこからたちまちに渦が荒巻き、やがて細波となり収まったところには多くの魚たちがいた。


こうして四日目には海に生命が溢れた。


風以外では動くことの無い大地にも、さらに変化を求めて、女神は平野となった場所をひと撫でした。そこに鹿や兎や鳥や蝶や人などの動く生命が現れた。


こうして五日目には、大地も躍動する生命に溢れた。


緑一色の大地ではつまらなく思い、何が足らないのだろうと女神は小首をかしげた。

すると大地への光の当たりかたが変わり、四季が生まれた。


しかしこの時に、世界に淀みが生まれ、凍てつく大地も生まれ、凍てつく心を持つ人も生まれた。


六日目には、神の似姿である人々は争うようになり、度々大地を血で染めるようになった。


これに心を痛めた女神は、七日目に我が身を粉と砕き、人々の心に宿り、魂の内側から人々を照らし温めることにした。

「開闢記」一章一節より


こうした神話から、創造主は魂の内側にある神様「内神様」と呼ばれている。我が身を砕きもする愛情深い、そしてなんと苛烈な神であろうか。


この「開闢記」の話しが始生祭で祭司から語られ、ロンダースの杖の欠片と呼ばれる宝具に触れて、目覚めた内神様に「加護」を受けることで儀式は完了するのだ。


この加護の下に「神の贈り(ギフト)」が発現する者が稀にいる…


と言う話しをビショップは熱心にしていた。


ビショップが屋敷の門近くにある番小屋に戻ってから、一人の時にわたしも試してみた。


実はわたしは前回のアリス生で既に「収納」のギフトを賜っている。スーツケース二つ分ほどの空間に、生き物以外なら何でも入れておくことが出来る。


前回手に入れていたギフトは、どうやら有効なままだったらしい。


試しにと、やってみたら本は入ったし、僥倖だったのは前回のアリス生で入れてあった文具や道具類がそのまま存在していたこと。


これには随分驚いたけれど。


この状態で、始生祭で宝具にもう一度触れるとどうなるのだろうか…


少々気になるところではあるけれど、少なくともギフトが無くなることは無いだろう、と楽観的に結論づけて、せっかくなのでさらに続きを読んでいた。


「古代魔法王国の神秘」という本によると、二千年ほど前、大陸での政争から逃れて、この地に一人の賢者が海を渡ってきたとされている。


今は学門と英知の神と奉られている、ミーチェス様がその人らしい。


男爵領には、ウィック島と呼ばれる小さな島があり、干潮の時には、わたしが助け出された海岸の先、内海に向かってつきだした半島の先から砂浜と浅瀬の岩礁で橋のように繋がり、渡ることができるようになる。


島には祠があり、そのミーチェス様が奉られている。


ミーチェス様はこの地方のいい伝えでも実在していたと伝承されており、政変を逃れるために、中央から海路で地方に移動する旅の途中に嵐にあい、7日間この島に滞在したことが島の名前の由来だと言う。


そして、ミーチェス様はこの地に、今はなき高度な魔法文明を持つ王国を興したとされている。


「魔力炉」と言われる、ほぼ無尽蔵にエネルギーを取り出すことの出来る仕組みや、今でも時折地中から発掘される魔力送達線の張り巡らされた豊かな暮らしがそこにあったそうだ。


ミーチェス様が没した後、その功績を惜しむ人々の想いによって、かの人は野の神様として奉られるようになった。


英知の神、その前進である賢者様が創造したとされる魔法技術を知ると…ひょっとしたら、わたしと同じような転生者ではなかったかと漠然と考えたりもする。


この世界では、人から神に至る道があるとされ、そうした神々を創造主の「内神様」とは別に「野の神様」と呼んでいて、学門と英知の神の他にも三十を越える神々が存在しているとされる。


そのほとんどが、魔法王国時代に実在した賢者や探求者だったであろう、とこの本は結論づけていた。


そこまで読んだところで、セレスがとてとてとやってきて、


「ほら!アリス見てみて!」


と、拙くもびっしりと文字を書き込んだ輝石板をつきだして、誇らしげに威張った。


難しいことを考えていたからかな。


ああ…なんか和んだ。




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