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十九話 高速挺のち、紫電の焔 3

お待たせいたしました。


それでは十九話をどうぞ。


鍵言葉を紡いだ瞬間、一瞬わたしのまわりの風が舞い上がり、服や髪が吹き上げられる。視線を向けた先の海面が、パキンパキンと音を立てて物凄い勢いで凍結していく。


同時に左手の肉球ミトンの手の甲が輝きだした。

あれ?魔力が減る…はずが、おかしいな?

え?あれ?ちょっと?


やばい、これ、やばいやばい!


凍結が止まらないよ?どこを見ても白いマジックで景色を塗りつぶしていくみたいに凍っていく。なにこれ!?

とにかくミューのほうを見ないようにしないと!


原因は鍵言葉か!?

「目に触れる」っていっちゃったから?


普通は一度のマナ変換の限界値があって、その付近で事象改編は止まるはずなのに…なんで?


あ?


おとうさまと同じ?あれか!!王国の直系子孫だからか!?


※王族直系一族は、遺伝的にマナ変換を無制限に行える一種のバグを抱えている。それに加えて前アリス生でもここまでの規模で魔法行使を行った経験はアリスにはなかった。


ええええええ!これやばい段々凍結範囲がこちらに…

これどうすればいいの?うっわ向かい風がすごくなってきたあ!

冷たっ!肌を刺すとか生ぬるい、息が痛い肺が凍る!暴走を止める前にわたし凍る、凍っちゃうよ!


「姫様ーっ!落ち着いて!鍵言を取り消すのです!」


帆船から高速挺に飛び移ろうとタイミングをはかっていたビショップから助言が飛んできた。


そっか、それなら…

「…アリシティアの名において『エウリヌ』に捧げし我が魔力を返還せよ。息吹の力を持って"氷結”を阻止せん"氷結解除!"」


『ダメよ』


ダメよ?ダメってなにーーっ!?



『エウリヌ?あなた、またイタズラをしていない?アリスがたいへんみたいなんだけど?』


『あら?ミーチェスって過保護なのね?いいじゃない、あの子すごいわよ』


『わたしの因子を一番多く持っている子だもの、すごいに決まってるでしょう?それに上界から力が供給されてるから大変なのよ……ちょっと!?エウリヌ?アリスが魔法行使をやめたがっているじゃないの!』


『やだ』


『エ、エウリヌ?』


『だって面白そうじゃない!?それにこれだけ上質の魔力は何百年ぶりよ。わたしの存在維持のためにも手放せないわ』


『……』



『アリス聞こえるかしら?』


『あ、ミーティアお姉さま助けて!!すごく寒いよ!魔法がとまんない!』


なんでだろう?心に浮かんだお姉さま…眉間を指で揉みほぐしているような…

『アリス、よく聞いてちょうだい。大人の事情で解除は難しいらしいから、新たに″灼熱″の鍵言を紡いで自分の周囲の絶対凍結を打ち消してちょうだい』


え?


『解除が難しい!?打ち消すってどゆこと!?お姉さま?打ち消していいの!?重ねて使ってはダメって習ったんだけど!!』


『それは理が捩れるからなんだけど…神界側でそれは何とかします。アリスは自分の命を優先しなさい』


『…』



なんだか意味がわからないよっ!?

でも、打ち消すしか方法がないのなら実行するのみ!

「…アリシティアの名において『エウリヌ』に我が魔力を捧げる。息吹の力を持って我の盾を成せ"灼熱"!」

※我の盾と宣言すると、自分が身内だと認識している範囲に対して、それを囲み護るように通常はファイアウォール的な効果が及び、実行者は魔法効果の影響を受けない。通常は。


見る間に陽炎が立ち込め、青白い炎の壁が自分の前面から半球状に広がり走り出す。

まるでガソリンを撒いた所に着火したみたいに勢いを増す。


それが波のように、わたしを中心とした半円に何度も拡がっていく。


ミーティアお姉さまと話している間に、ビショップも何とか旋回を続けていた高速艇に飛び移れたみたい。


「ビショップ、ミューを曳航して先に港まで向かって!」


「しかし姫さま、それでは…」


「見て、見渡す限り凍結し続けているし、灼熱の盾も重ねてあるから…もう海は溢れない(と、思う)」


なんか沖のほうを向いたままで話してるから、髪も風にたなびいて絵的にはかっこいいのだけど、本人はわりと必死。凍結も灼熱もわたしが知っている魔法とは明かに規模が違うし…ビショップも視野に入れないようにしないと、なにが起きるかわからないからね。


「灼熱の盾」の効果でわたしのまわりは徐々に元の気温に戻りつつ……


待って、あれは何?

わたしを囲む半円の先のいたるところで竜巻みたいに風がまきあがってるんだけど…

ドーム球場が何十個も入るような広い範囲で冷気と灼熱の盾が干渉して、風が荒れ狂ってる。


えっと、肌がピリピリしてきた。わたしこれ知ってる。知ってるよ…

静電気だね… 雷の前触れかな…


またこれだよと諦観していたところに直接響きわたる声が。


『アリシティア、聞こえますか?私は世界の理法典を司るテミス』


かなり高位の神様が何故?


『…テミスさま…なんだかよくわからないけど聞こえてます』


『あなたが望んだ事象改変は規模が大きすぎて危険です。故に(ことわり)が捻じれることを防ぐために、二つの事象改変を一つの出来事として神界は理法典に登録することにしました』


えー 確かにわたしがやったには違いないんだけども、なんか釈然としないよ!?


『えっと望んではいないけどミーティアお姉さまが、凍結が解除できないからって。だから打ち消しなさいって…そしたら雷まで…』


『…またエウリヌね…わかりました。アリシティア?この事象の新たな鍵言を、()()()()()()()()()理法典に登録して頂戴』


『テミスさま…登録すれば収束するんですよね?』


『雷で力を海から地へ逃がすことで収束させます。アリシティア急いで』



「ビショップ早く港へ。あなたたちが下がらなければわたしも下がれないから」


『お姉ちゃん、無理しないで』


「姫さま…わかりましたご武運を」


ビショップはわたしが理法典の神様と話してる間に、ミューの背びれにロープを結わえて準備を終えていた。

空には身体を持ち上げられないけれど補助で引っ張ってあげれば、海中なら何とか動けそうなぐらいにはミューも解毒ができたみたい。


「お願いねビショップ」


「は!」


ミューを曳いて高速艇はすぐに動き出した。

わたしの前方は、火山の噴火のように水蒸気が空に駆け上り、上空では小さな稲光が瞬き始めている。


壁のように迫っていた海生の魔獣たちは、見える範囲では凍りつき動きはない。

徐々に灼熱の盾で溶かされつつあるけれど。


ずっと向こうの空に点々と見える水滴のような影は、たぶんウラヌスの群れだ。

そっか、魔獣はウラヌスにも怯えていたんだね。

でも今は来てはだめ。雷にやられちゃう。

ダメ元でも声を飛ばしてみなきゃ。


『ウラヌスの長老様、聞こえる?』


『…ミーティアの愛し子かの?ミューから声が届いておる。助けてくれてありがとう』


お、届いたね。


『長老様、わたしの事はアリスと。今はこの湾に近づかないで。今から大量の雷が海面を叩くから』


『アリスよ、我らの恩人よ。承知した。ミューが無事ならば、我らはしばしここに留まるとしよう』


『ありがとう長老さま、後でミューをお願い』


『承知した。迎えに行こう』


わたしはその約束の直後に鍵言を唱えた。

「アリシティアの名において、理の神テレスに魔力を捧ぐ。紫電の焔よ、混沌を焦がせ!穿て!サンダーレイン!」

目を瞑っても眩しいほどの光の奔流に晒され、わたしの意識は途中で暗転した。



「目が覚めたみたいね?」


「…おかあさま?ここは?」


どのくらい気を失っていたのだろう…


「お屋敷よ。良かったわ目覚めて」


「心配をかけてごめんなさい…」

この部屋ぽかぽか暖かいね。


「本当にこの子は…アリスはわたしの子供のころによく似ているのね」


「かわいいところ?」


「…そうね」

あれ?


「そこだけが似てくれていたら良かったのだけど。アリス、無事に帰ってきてくれておかあさまは嬉しいわ。だけどもう無茶はしないでね」


「はい…おかあさま。わたし、どのくらい寝ていましたか?」


「まる一日よ」

そんなに!?あ、どうりで体調がすっきりしてるわけね。

「おとうさまは?」


「魔獣災害の後片づけよ。中央村の人たちと総出で回収に追われてるわ。セレスもね」


「ミューは?ウラヌス達は?」


「まだ湾内にいるわ。彼らも後片付けを手伝ってくれているみたいね」


長老たちも?ありがたいね。やらかした当人は寝込んでたけど。


「そう…海が溢れなくて、ミューが助かって本当によかった」


「…アリスはもっと自分を大切にしないとね?落雷が雨のように降るただ中にいたと、おかあさまはビショップから聞きました…」


そう言葉を紡ぎながら、おかあさまはわたしを寝台から抱え上げて、ぎゅうっとハグしてくれた。


「…あなたが一人で背負うにはまだ早い。まだしばらくは私達の腕の中にいてちょうだい。アリス」


とくん、とくんとおかあさまの心音が聴こえる。自分でもどうしてかわからないけど、ふいに涙が流れだして止まらなくなった。



一方、そのころ…


「恵ちゃん、いらっしゃい」


「こんにちは。おばさん、今日はこの機材をラボから借りてきたの」


病室に入ると、恵子はバイクのヘルメットのような機材をノートパソコンと共に、キャスター付きで大きめの旅行鞄のようなケースから取り出した。


ヘルメットのような機材は、鮫肌のような丈夫な被覆で守られた太めなコードでケースに繋がっている。


「恵ちゃん、いつもありがとう…それは何かしら?」


「没入型ダイバーグラスのテスト機。テスト機と言っても製品化直前のβテスト用だから安心して?ほら、これうちのラボとここの院長のサインのある使用許諾書」


「ダイバーグラス…ニュースに出でたあれかしら…恵ちゃんは製薬会社につとめてなかったかしら?」


「製薬会社だよ?それの研究部門って…あ、おばさんに愛子言ってなかったんだ」


「私が口煩く言うから黙ってたのかしらね…それでそのダイバーグラスをどうしてここに?」


「えっと何から説明したらいいかな…とりあえず解りやすく言うと、この機材は愛子が見ている物を外部でも見られるようにする機械なの。フルダイブ技術を医療の分野で利用出来るように、フィードバック部分をカスタムした、とっても賢い機械よ」


愛子の母親は、一瞬彼女を見た。


「…愛子、あなた恵ちゃんが親友で良かったわね。身体には害はないってニュースでも見たわ」


「おばさん、私、愛子が目覚めないなら、せめてどんな夢を見ているのか知りたいし、今は安全のために読み取り専用だけど、もう少し研究が進めば意思疎通も可能になるかも知れないから…」


恵子は泣きだしそうな潤んだ瞳を天井に向けた。


「じゃおばさん、愛子に使っても良かったら、ここにサインをお願い」



屋敷の寝台でうとうとしていたわたしは、愛子の部分が強くなっていたらしく、珍しく讃岐うどんの夢を見ていた。


「…ああ久しぶりにおうどんを食べたな…夢だけど」


ん?何かな?

右手にグニャリとした感触が…


こ、これは!?


右手に握られていたのは、讃岐うどんのパッケージ…え?何?

創造魔法を無意識に使った?

いやいやいや、知らないパッケージだし…


大混乱に陥ったわたしが、事の真相を知るのは、かなり先のこと。


手の中にうどん? 解せぬ。


いつも応援をありがとうございます!


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※追記

題名を近々変更するかも知れません。

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