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十七話 高速挺のち、紫電の焔 1

長らくお待たせしました。連載を再開いたします。


お待ちいただいた皆様、ありがとうございます。


母親の退院が決まり、一段落できる状態になりました。お待たせして本当にごめんなさい。


ただ、今後は更新ペースは隔週として、もう少し練り上げてからアップしたいと思っています。


それではどうぞ。


「…に魔力を捧ぐ。紫電の焔よ、混沌を焦がせ!穿て!サンダーレイン!」


アリスが鍵言を叫んだ瞬間、アララト湾の沖合いが一瞬フラッシュしたかと思うと、鼓膜を破らんばかりの音とともに、無数の雷が、海生の魔獣にまみれた水面を激しく叩く。


「アリスっ!」


「アリスちゃん!」


「姫っ!」


2波、3波と雷の絨毯爆撃は続き、その紫電渦巻くただ中にアリス一人を残したまま、7波目でやっとこの世の地獄は終息した。


南島(サウス・アイランド)の北部を襲おうとしていた未曾有のスタンピートは、僅か半日という異例の早さで、こうして幕を閉じたのだった。



時は少し遡る。


とある館の中、パピヨンの仮面をつけた妙齢の女性と、それにかしずく男が一人。


「ご報告が」


「"ワイズマン"か?あの獣人(セリアンスロープ)狂いの男爵閣下と"お仲間"の伯爵様の件はどうなっておる?」


「はい"クイーン"様。間もなく手の者が仕掛けるかと」


「ふん、救国の英雄様とその一派もこれで終わりよの」


「続けてご報告が」


「聞こう」


「アールブの統治部族であるエルフの王女が、密かに、かの伯爵に匿われております」


「ふん… 今更の話だな。なおのこと良かったではないか」


「はい…ただ、気がかりなのは王女が路銀に換金するためにか、領都の市中に見たことの無い純度のガラスが出回っていることでございます。領都に入った王女の一行がイザベラ商会を通じて売り払ったところまでは調べがついております」


「うん?それが?」


「宝飾ギルドから買い取ったものがこちらで… この純度で、これほど真球の物は"遺跡"から数えるほどしか発掘されておりません。ですが、それが今回は大量に換金されております」


「…ただの蛮族の王女ではないということか?」


「はい…未知の魔法王国の遺跡を確保しているか、あるいは今も密かに遺失技術を確保している、王女に加担する勢力がある…ということかと」


「…遺失技術が未だに残されているとは、にわかには信じがたいが…その勢力が伯爵だと?」


「はい…いささか疑わしい話ではありますが可能性はあるかと。それに辺境伯領都にも、皇都でもこのような玩具が持て囃されているようで。これもイザベラ商会から出回っております」


「これは?」


「ちまたではリバーシ、そしてこちらはショーギと呼ばれております」


「ふむ…確か魔法王国で遊ばれていた兵法の…」


「はい…確かそれは"シオギ"にございます。"クイーン"さま」


「"シオギ"に"ショーギ"か……わかった。一筋縄ではいかぬ?ということよな?ならば後詰めの兵は出さずに留めておくとしよう」


「…それでは暴走を起こしにいった者は見捨てると?」


「もともと捨て駒であろうに?エラキドの息のかかった者共など、妾は最初から信用などしておらんわ。"ワイズマン"よ、暴走がうまくいけばそれでよし。それがかなわなかった時のために伯爵に取り入る手立ても考えておけ」


「御意にございます」



時は冒頭の早朝に戻る。

この辺りでは珍しくない小型の帆船が、アララト湾のはるか沖合を航行していた。


「おい、大丈夫なんだろうな?ウラヌスの子供を拐かすとか」


「大丈夫なわけないだろうが。一刻の猶予もねぇ!早く皇国の奴らに擦り付けないと」


水夫が後甲板から吊るされ、ほとんどが海中に没している"積荷"を前に、怯えたように話していたところに、おそろしく体格の良い男が船倉から上がってきた。


「お前たち、こいつを傷つけた後に魔術具の拘束を解く。すぐ支度をしろ」


「だ、だんな!こいつを傷つけるなんて話は聞いてないぞ!」


「なら、お前たちが魔獣寄せの餌になるのか?カカカカ」


男は頬に傷を持ち、ライガ※の毛皮のマントを羽織っていた。僅に鞘から抜かれた蛮刀が鈍い光を放つ。控え目に言っても悪党にしか見えない。

※虎に似た魔獣。


「冗談じゃねぇ!金は弾んでもらうからな!


「ああ、わかった、わかった。これで軽く刺せ。軽くだ。殺すなよ」


男は赤黒い銛のような金属の棒を差し出してきた。


「か、かせ!さっさと済ませて俺たちは逃げる」


三メートルほどの体長のウラヌスの幼体は、魔術的な拘束と毒による昏睡で動けない。


『……た…けて…』


そこに赤黒い銛が容赦なく突き立てられた。



場面は変わって、その一刻ほど後の中央村。


その朝も、まるでいつもの日常と変わらず、ゆるーく明けていく。


愛子の世界の暦に当てはめると、三月も中半。これから少しづつ寒さが緩み始めるころ。


アルやウィストンの涙ぐましい努力によって、二人乗りのポンプ推進式のジェット船が三隻も完成していた。


「どう?すごいでしょ?」


地球世界にあるマリンスポーツにも強いヤ○ハが生産しているジェットボートをモデルにしたのだから形は流線型で、カッコ悪いわけがない。


もちろん、この世界初の動力船で、いきなり30ノット超えの高速挺。


これに、わたしとユリーナちゃん、セレスとビショップ、アルとジークの組で分乗して、折り返し開拓村を目指していた。


「うっわ、なんだこれ!?はやすぎるうぅぅう%£§□◎○♀」


「あははははは、すっごく速い!すごい!すごい!」


「あばばばばばば」


それにしても、この凄まじく寒い時期に航行テストをするとか、われながらにクレイジーだと思う。うん。


「もうすぐ開拓村につくよ!」


「え、まだしはんとき(四半刻)もたってないよー!?」


そして地球世界のアレと違うところは、魔術刻印によって水しぶきや、走行風が搭乗者に影響を及ぼさないこと。これ大事。


一言で言うと快適なのよね。

話している間も、鋭い楔型の航跡波を置き去りにする勢いでかっ飛んでいく。


「速いでしょ?」


「はやすぎるよぉアリスちゃんはこわくないの?」


「うん、全然こわくないよ。…あ、そろそろ黒魔石(マジック・カーボン)を取り替えないと」


「これ、ほんとにすごい…わたしたちが、ぼーとをこぐ(漕ぐ)かわりに、このくろいの(黒魔石)がはたらいてくれてるんだよね?」


「そうだよ。わたしたちの代わりに魔力を出してくれてる。それもイアハートの叔父さんが坑道を守ってくれるから、黒魔石(マジック・カーボン)が安心して採掘できるんだよ」


ユリーナちゃんと会話しながら、二個ある魔石スロットのうち、灰色になりかけている黒魔石(マジック・カーボン)の入ったスロットを引き出して取り替える。


これでよし、と。


このボディーも工夫のかたまりなんだよ。


魔蚕のみどりちゃんズに頑張ってもらって、ボディ木型の上をすっぽり被うように糸を幾重にも重ねてもらって、そこにヤムラの樹液を浸して硬化の魔術刻印で固定。後に木型を抜き取って、地球世界のFRPみたいに作ったから、ボディーだけなら子供でも持てる軽さ。


一度作ってさえしまえば量産は簡単になるんだけど、この木型の製作が本当に大変だったのよね。


曲線を削り出すにも、機械があるわけじゃないから、手作業で左右のバランスもとらないといけなくて、何度もやり直したの。


あとは地味に大変だったのは、速度計。もちろんメーターみたいなものはあるわけなくて、魔力式動力(マギア・モーター)へどれだけ魔力が流れているかを、小さなランプの光りかたで示して代用にしたり。


これで、開拓村にも領都にも短時間で行けるようになったし。

開拓村までなら15分もかからない。


陸路だと三日はかかる領都にも、潮の流れが良い時なら、二時間と少しで行けるし、陸路で一月はかかる皇都にも八時間もあればつく。喫水もすごく浅いから、ニブカル河の支流でも問題なく遡上できるし。


前回のアリス生にはなかった、この世界の圧倒的イレギュラーな存在が、この高速挺なの!

これでやっと、男爵領の特産品の強みを活かせるようになるし、エラキドの侵略にも対抗できるね。


何回か順番こで試乗してて、今はわたしの後ろにはユリーナちゃんが。


「アリスちゃん、このとび出てるこれは?」


「これは"スタビライザー"を動かす持ち手(レバー)だよ」


「すたぁびらぃざー?」


「スタビライザーね。使うとこ見せるからしっかりつかまっててね?」


「うん!」


実はこのジェットボートには、通常の黒魔石(マジックカーボン)からの魔力供給のラインとは別に、搭乗者自身の魔力を供給するラインもつけてあって、ダブルで魔力を供給することで、短時間なら40ノット(時速76キロ)まで増速できるようにしてある。


ゆっくりと持ち手に魔力を流しながら引いていくと、後部から吐き出す水の音がジャバジャバから、ドバババーみたいになってくる。


ただし、ブースト使用は5分間までなんだけど。


え?なんでわかるんだって?

そりゃ、臨界テストで綺麗に一基どーんと爆散させたからね。


あれ、ほんとにびっくりした。


普段はロープで操舵と連動させてるスタビライザー… この持ち手(レバー)をさらに手前に引くと…


「アリスちゃん?さっきより速くない?あれ?ちょっと浮き上がってきてる?」


「いっくよー!」


船体下部に魚の胸ヒレみたいにつき出しているスタビライザーが、水面を切るように、船体の前部を持ち上げて駆け出した。


平たく言えば水中翼船なのね。

水面を切り裂くように、どんどん加速して右手に見える陸の景色が、すごい勢いで流れていく。


軽く舵をきってみると、スタビライザーが連動して船体を傾けて、ほとんど速度は落ちない。


『……たす…て…』


ん?今何か…


「ユリーナちゃん、いま何か言ったかな?」


「なんにもいってないよー」


なんだろ?


周りを見回しても、わたしたち以外にはいないし。

なんだろ?


「アリスちゃん?なにかあったの?」


「まだわかんない…」


『…たすけて…』


「今度は聞こえたっ!」


速度を落として、魔力式動力からの雑音を無くさないと聞き取りにくい。


どんどん速度を落として停止。

セレスたち二隻も追いついてきた。


頭に響くこの感じ、覚えがある。

ウラヌスの声だ。でもすごくか細くて幼い感じ?


この声…

聞いたことがある。


何か大変な出来事を…わたし、また忘れてる?


『誰?』


『…たすけて…いたいよ…おねえちゃん』


『どこにいるの?あなたは…』


『くらいよ…おねえちゃん…くらい。わかんない。ミューだよ…おねえちゃん』


ミュー……ミュー……


ミュー!


何故、

何故、肝心なことをわたしはいつも忘れてるんだろ。


思いだした。

思いだしたよミュー。


もっと幼いころに、大人たちに驚かれながらも、仲良しでよく一緒に遊んでいたウラヌスの幼体がいた。


わたしを乗せて空を飛んだりもしたし、水で幼女の姿をつくったミューとお話しだってした。


何故忘れていたんだろう…

あの始生祭の時に、わたしに近寄ってきてた子供のくじら…あれは…


『ミュー!』


もし、これが()()()なら、急がないとミューが死んでしまう!


「アリスちゃん?アリスちゃん!?どうしたの!?かおがまっさおだよ」


「…死んじゃう…」


「アリスちゃん?」


「このままだとミューが死んじゃう!」


すぐ近くまで寄ってきた二隻に声をはりあげた。


「ビショーーップ!ユリーナちゃんをお願い!」


「姫さま?どうされましたっ!?」


「早く助けないと、ミューが死んじゃう!それに海が溢れる!」


「ミューとは…?海が溢れる!?まさかスタンピートのことで?」


「アリス、ミューってあの()?水の化身の?」


「そう、そのミュー…今も、毒にやられて人間に傷をつけられたって言ってる!」


「姫さま落ち着いて!もう少しで開拓村です、スタンピートに対応するなら親方(エル)も今日は村に居る」


「ビショップ…理由は言えないけど、信じてほしいの… もう時間がないから。ミューを助けないと、すぐに大量のサハギンや海竜が押し寄せてくる。陸もちっとも安全じゃない。皆はシェルターに避難して!ビショップはすぐに警鐘を鳴らしに向かって!お願い!!わたしなら何とか出来るから」


「アリス!わたしのギフトなら間に合う?」


「セレス…間に合う…けど、連れていけないよ…」


「…わかった。あまりもたないかもだけど、ふねに"クイック(加速)"のカゴ(加護)をかけておくよ」


わたしたち姉妹は、見つめあえば直感的に気持ちが伝わる。


「ありがとうセレス。どっちにしてもミューを助けないと、海が溢れてしまうから。間に合わないと思ったら、必ず引き返すから」


「わかった。わたしたちがアリスのじゃまになる。みんな、かいたくむら(開拓村)にいこう」


「しかし、姫さま一人で…」


「ビショップ?いこう!アリスならミューをつれて、ぜったい帰ってくるから」


「セ、セレスさま…。わ…かりました。ならば、わたしは皆を下ろしたらすぐに駆けつけます。それが一人で先行を許すぎりぎりの条件です」


「……わかりました」


「ユリーナちゃん、また後でね」


「うん、アリスちゃん気をつけて」


ユリーナちゃんは、アルたちの船へ手を引かれて渡った。


親分(ボス)こいつはまだ試運転もいいところだ。無茶は無しで」


「嬢!気をつけて!」


「じゃ、いってくる!」



間に合って!お願い!


記憶にあるのは、スタンピートによって壊される村と、無惨に殺されていく人々。


わたしはビショップと、おとうさまに護られて無事だったけど、終わった後に岸に流れついたミューの亡骸を見て、その場にすわりこんでずっと泣いてた。


もうすぐ四の刻の鐘がなる。


これが未来の記憶の通りなら、ミューを救出する猶予はいくらもない。


だから、臨界運転をだましだまし使いながら、水面を飛んでいく。


『ミュー今いくよ』



「ビショップ!スタンピートの予兆があると言うのは!?」


「エル!予兆の報告はアリシティア姫からです!私はすぐにアリシティア姫のもとへ向かいます」


「見て!」


「セレスどうした?…あれは?なんだ?」


彼方の水平線と空の間に、インクを流したように、不穏な黒い線が現れはじめていた。


アリシティアの前の人生では、村を失意に突き落とすことになる運命の日は、こうしてまた始まってしまった。




ミューとの接点が、始生祭だけだと唐突に過ぎるので、第一話と、第十話に断片として、数行ほどミューにふれて、場面を加筆しています。


いつもありがとうございます!


ブックマークや、皆様からの☆での評価は何よりの励みになります。


次回は後編です。


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