十三話 領都探検のち、創造魔法 3
お待たせいたしました。
今回は特に短いです。
後日、前後編に統合すると思います。
それではよろしくお願いいたしますm(_ _)m
炭の焼けるような匂いに、鍛冶場から漂う独特の油の香り、それに砂型かな?が焦げるような臭いが混ざって、そこに金床で鍛えられている何か…カーン、カーンという甲高い音にさらされ、工房の入り口に立った瞬間、わたしの五感は混沌に襲われた。
工房は間口は狭くて、奥に行くほど広がったような少し変わった立地になっていて、入り口の左側には防火水槽?右側には…たぶん金属で金型を作る前に試作する、泥模型…だと思う、得体の知れない崩れかけた何か?がわちゃわちゃと置いてあった。
ここは鍛造と鋳造の両方をやってるのかな?
一部二階立ての工房は、奥の一階部分から、何本かの煙突が立ち並んで、その内の一本からは陽炎がゆらめいている…
確かに騒がしいのだけれど、何か違和感が…
「おうっ、なんだ子供の遊びにくるとこじゃねえぞ?」
まあ、この髭もじゃのおっちゃんからしたらレオもアルもわたしもガキンチョだけど?
「グルーヴ男爵の名代としてアリシティア様は足を運ばれている。主よ?ひとまず用件を聞いてはもらえまいか?」
後ろからビショップが取りなしに入るけど…
「んだ?お貴族さまってか?今日はなんだってんだ…遊びに付き合ってられっか…」
これは貴族アレルギーとかでバイアスがかかっちゃってる人みたいだなあ。
うーん、一回ネコダマシみたいにパシッと思考を停止させないと、交渉になりそうにないかな?
とりあえず、試作ポンプを見せよう♪
「親方?でよろしいかしら?とりあえず先にこれを見てほしいのだけれど?」
「ああん?おめぇ?どこに持ってた?こんな筒っぽなんか……ん?なんだこりゃ?奥は…小さな水車みたいな何かか?よく見えねぇな、んで、なんでここに闇の属性魔石をいくつも嵌め込んでんだ?こっち側は見たことない軸の受け方だな?…これは?いってぇなんだ?」
「これはポンプという、水を吸い込む魔道具ですわ」
「水を?吸い込む?」
「見てもらったほうが早いかしら?」
わたしはそう言って防火水槽?に近より、ポンプの吸い込み側をバスタブサイズの防火水槽に浸して、供給部分にわたしの魔力を…
「あっ!」
ってアルが叫んだけど、遅かったよ……ものすごい勢いで、水槽から水が吸い出され、その正面にいた親方とアルが、滝と見紛うばかりの水柱でぐしょぐしょになった…
「へくしっ!」
えーと、なんかごめん。
☆
「親方?親……じーちゃ!聞いてる?…あー駄目だ、こうなると人の話しが入らないっす。ほんっとすんません、良かったらどうぞ」
工房に入ってすぐ右手の商談のための部屋に通され、ハーブティーをすすめられた。
席を案内してくれたのは見習い着姿のフローラで、親方のお孫さんらしい。ちなみに背は低めで、出るところはぽぽーんと出てる…
う、うらやましくなんかないんだからね?
ん?
あれって、クラリネット?
いくつか飾られてる彫像に混じって、飾られてるあれは!
よく見ると…クラリネットに似てるけど、ちょっと違うのかな…
でも吹いてみたい!
「親方?あの楽器は?親方?……ちょ親方っ!」
話しかけてるんだけど、手で振り払う動作をして、こっちの話しは全く気に留めていないようで…
うぅ、気になるよお。
「じっちゃ…親方は研究が三度のご飯よりも好きで、実際、ご飯も食べずに研究部屋にこもりっきりとか…いい歳なんだから身体も大事にしてほしいっすけど……もうほんとにそれ以外のことには無頓着で工房の経営も祖母のドロシー…じっちゃは奥さんに任せっきりだったっす」
商談テーブルの奥のカウンター部分では、着替えた親方がポンプを持ち上げたり覗きこんだりと忙しい。
アルも作業着を貸してもらった。そのアルは親方に引っ張られてカウンターにいる。
えと、あれは助けを求める仔犬の目だね…
ビショップはわたしの後ろに控えてて、レオカディアは物珍しそうに部屋の中に飾ってある彫像を見てまわってる。みどりちゃんは、またわたしの頭を定位置にしてキョロキョロしてるし…
なに?…この自由な空間?
「では、その大奥さまとお話しをしたほうが良いのかしら?」
「…それが…そのばあちゃ… 一月前にほとんどの職人を連れて出ていったっす…」
おおう…
なるほど、大手の工房と聞いてきたのに、入り口で感じた違和感の正体はこれか。
☆
領都にくる前のこと。
ポンプの試作は、この世界にまだ無い物を開発しているわりには、わりと順調に進んでいた。
「うーさぶ…親分?これなんだけど…」
「寒いね……これだと軸が削れてしまうのかな?」
わたしが開拓村に向かうだけだと、諸々追い付かないのでアルデビルドのほうからも、ちょいちょい中央村に来るようになっていた。
アルに散々「理屈」を説いた結果、最初に考えていた水破弾をぶっぱするだけだと、ものすごーーーーく燃費が悪い事がわかり、筒の中に水車のような機構を入れ、機械的に水流を作って吸い出すように改良していた。
なので重い。特に外郭は鉄の塊だし。
普通の幼児には持てないよ
?まあ、わたしは持つけど。
今は秘密基地と言う名の番小屋の二階で、試作ポンプを手に検証中。
「…回転することで疑似魔石に魔力を流すタイミングを決めてあるのね…」
このポンプの回転の動力源として、違う属性の魔石は反発しあうので、その反発する性質を利用してみたのだ。
今回の改良でたどり着いた、魔力を流すタイミングを、真ん中の軸が回転する角移動で求める考え方は、ほぼ電気モーターと同じ。
わたしが出したヒントで、アル自ら答えにたどり着いた。
これは素直にすごいと思う。
精製したクリスタルに属性を与える刻印だけを施して、そのクリスタルの周りを、ヤムラの木の、魔力を遮断する効果のある樹液でコーティングした魔力伝導線でぐるぐる巻きに。
ちなみに、この線はみどりちゃん提供。マジ優秀だわ。
まだこのころは少しおっきめなだけの魔蚕だったけど。
ここに魔力を流すと、流した間だけ属性魔石としての性質を真ん中の芯になってるクリスタルが持つ。
軸側に点々と埋めてある闇の属性魔石と、筒の軸受け側に取り付けた火の疑似的な属性魔石が、魔力の入力を受けた瞬間だけ反発するから、魔力の入り切りをタイミングよくやれば、軸側は回転を続けると…ここまではたどり着いていたのだけど…
回転速度を上げようと思ったら、瞬間的にビビビビビビビビっと魔力の入力をオンオフしないといけないので、それを一回生身で試してみた。
そしたら…わたし気絶した。
向こう側でおじいちゃんが「こっちこいよっ!?」って手招きしてたし…
もうね、生物としての脳ミソの処理速度の限界を超えてしまうみたいなんだよね。
「どうした?親分遠い目をして」
「なんでもない。いろいろあったなって、ちょっと思い出してた」
「ならサクッと続けようや?で、それなら…削れてしまうなら軸はどうする」
サクッと流された。
「んーそれなんだけど…魔法的に強化して受けを作るのもアリだとは思うけど、これ以上増やすと量産した時に大変だよね?」
「まあ、いまさらだけどな」
「これ、使えない?」
「お?何だこれ?おあ?スゲェ回る何だこりゃ?」
「これはベアリングって部品」
「また?」
「そうだよ。また創造魔法。サイズは何種類か作っといたよ。ん?アル何か言いたげね?」
「いや…もう何も突っ込むまい」
☆
「なるほど…嬢ちゃんのご先祖さまが、あの学問と知恵の神ミーチェス様だったと。まあ…この謎の軸受けやら、魔力式動力は確かにどう考えても遺失技術だあな」
まあ、わたしのご先祖さまは確かにミーチェス様なわけだけど、だからって、わたしや私の実家が遺失技術を持ってるわけじゃないんだけどなあ。
由来は愛子時代にあるわけで。
実家の秘伝?
どっかで聞いた気がする…
親方の勘違い…でも、訂正するよりも乗っかったままのほうが話しが早そうかな?
「では、こちらの工房で数を作っていただけるかしら?」
「あ?数?いったいいくつでぇ?」
わたしはアルに目配せした。
こっからは、任せたよ?
「…了解、親分。親方?まずは手始めに頼むのは5個だな、魔力回路と軸受けは、こちらが用意するとして…」
「言い値でかまわねぇ」
「は?」
「だから、お前さんがたの都合でかまわねぇって言ったんでぃ」
「なに?まだこっちは一個も条件提示してないぜ?」
「じーちゃ!?」
「わかっとるわ!…製作費用はそっちの言い値で構わねぇ…ただし、こいつをアルだっけか?お前んとこで使い物になるように一年仕込んでもらえたら、そっちの言い値でかまわねぇよ、がっはっはっは」
あー、なるほど。
脳筋に見えて、実は強かなおっちゃんだよ。
遺失技術を物に出来れば莫大な利益につながるもんね?
しょうがない、アルの出番は秒でしゅーりょーだよ。
「わたくしが話しますわ」
「おう、嬢ちゃんに務まるのか?」
とりあえずニッコリ笑っておこう。
え?レオカディア?何故あとずさりを?ほら、こわくない、こわくない…
親方も何故二の腕をさすりましたか?わたし、まだ何も言ってないよ。
「ならば親方、タダで作って下さいな」
「ぶふぉ」
アルが口に含んだハーブティーを噴射した。
「確かにいい値とは言ったが、お嬢ちゃんは随分大胆だな?おい」
「ほほほ…作成して、売れたら魔力回路と軸受け、それに遺失技術の使用料として三割をいただきますわ」
「お!?あまつさえ、まだ金をとるってか…ん?三割つったか?三割を売上から払えば、この魔力回路と遺失技術を他の品にも使える?そう言う意味か?」
「遺失技術はまだまだ沢山あってよ?親方?」
「まいったな…嬢ちゃんはほんとに子供か?オレんとこみたいに実はドワーフで、成人してましたってほうがしっくりくらあ」
成人で、これ…だと?
誰がまな板かっ!
「わたくし!幼児ですわっ!」
「どうした?くわっと目を見開いて?」
☆
この後、なんやかんやで契約書を作って、早速ポンプ作りがスタートした。
最初は黒魔石を採掘するために欲しかっただけのポンプだけど、これがあれば灌漑も楽に出来るし…
馬車に利用すれば、それは「車」の動力にもなりうる。
他の工房にまわらずに、契約をすすめたのは、あの魔力式動力は、この世界がガラッと変化するだけの力をもってると気づいたから、なるだけ早く広げたいと思って、気持ち急き気味に量産化しようとしたのもある。
でも、たぶんそっちのが言い訳で、本当はあの工房を何とかしてあげたい気持ちに押されたんだと思う。
こうして、領都で用事を終えた私たちは、翌朝にレオカディアにおくられて帰路についた。
後日、春になってエルフの姫の護衛で皇都まで同行することになるのは、また別の話し。
次回は「スライムのち、魔動義手」です。
領都のセレス側の出来事と、ジーク側の出来事は後日閑話にて。
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