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十二話 領都探検のち、創造魔法 2

えと…

遅くなりました。

はい、またやらかしてます。

尺におさまらなくて、三分割となりましたm(_ _)m


では、本日もよろしくお願いいたします。

さて…

所は変わり、ここは領都の東通りの外れにあるイザベラ商会。

一階は石造りで、その上が木造四階建ての、この辺りではよくある間取りの建物なんだけどね…


なんかね雰囲気ってあるじゃない?

よく掃除は行き届いているけど、人の出入りがほとんどなくて、少し寂れたような感じなのよね。


なにがあったか…

違うわね。なにがあったかはわたしも知ってるけど、そのあとどうなったか?

わたしは気にとどめていなかったんだよ。


レオカディアさんに案内されるまま、建物の二階の奥の間に案内された。


途中に調度品があったけれど、やっぱりというか、見かけは華やかだけど、物自体はコストがかかってなさそうな感じ。


わたしが見回す度に、頭の上に陣取っているみどりちゃんも、頭を持ち上げて、キョロキョロしてる。


最奥の扉を既に開けてある部屋の前で、レオカディアさんは立ち止まった。


「レオです。グルーヴ男爵様のご家族ご一行をお連れいたしました」


奥の人影が立ち上がり、入口まで歩いてきた。


出迎えてくれたのは、会頭のイザベラさんと大番頭さんで、二人ともお歳を召していて、顔には深い皺が刻まれている。


一瞬、後ろのビショップを見て目を見張った後に、目をつむり軽く頭をたれたように見えた。


やはりというか…本来ならいるはずのレオカディアの両親たちの働き盛りの層がいない。


「ようこそいらっしゃいました。私が会頭のイザベラでございます。これは大番頭で手前の連れ立ちの…」


イザベラさんの挨拶にあわせて、大番頭さんも「ブラスでございます」と左手で拳をつくり、それを胸に当てて頭を深く下げて一礼した。


これは、商人式の挨拶で「私の心臓はここにあります、それが転じて嘘偽りがあれば心臓(これ)を差し出すの意に変化したものだと()に聞いたことがある。


上位の者への最大級の敬意を示すものだ。


「…レオカディア…は、もう見知ってはりますな?」


そこでレオカディアさんも一礼した。


わたしも商人式の挨拶で返す。

右の手のひらを開いて、胸に当てて軽く会釈程度に頭を下げる。

これは「あなたの大切なものを受け入れます」という意味らしい。


「良き出会いに、心が高なります。はじめましてアリシティアと申します。今後ともよろしくお願いいたしますわ」


「…ふむ、ご息女様は商家の挨拶をよくご存知でいらっしゃるようで…」


すっとイザベラさんが目を細めた。


セレスは、レオカディアたちの挨拶を真似しようとして…ちらっとこっちを見て、え?どっちなの?

みたいな顔をしてた。


おかあさまも、わたしをちらっと見て右手を胸に当てて挨拶したよ。


ディザンダートは部屋の入口で護衛中。アルとビショップは私たちの後ろに控えていて、軽い会釈ですませたみたい。


イザベラ会頭もあの感じだとビショップと話したいのだろうけど、今はわたしたちが主賓なので、さっきの目礼以外はなにもない。


「どうぞこちらへ」


上客をもてなす部屋には円卓が運び込まれていて、テーブルにはカトラリーがセットされていた。



ランチは、海の幸を使ったブイヤベースのようなスープに、白パンとサラダの簡単だけど、しっかりお腹にたまるメニューをいただいた。


ビショップ、ディザン、アルデビルドの三人も従者用の部屋の隅のテーブルで交代でちゃんと食べたよ?


味は、美味しかった。

この地方の料理としては…

最近は私の独自のレシピに、みんな馴染んでたから、ちょっともの足りなかったみたいだけど。


お茶が出されるタイミングで、わたしは革袋を装った収納から、あらかじめ用意してあったマドレーヌを取り出して円卓の真ん中にもっさりと置いた。


ちらっと後ろを見るとアルと目があった。はらはらしてるのはわかるけど、もう少し信用してほしいかな。


アルから以前注意された後に、大きい革袋を作っておいたのだけど、取り出したら少し潰して、袋の形を変えるように言われてたの…はい少し潰したよ?


「これは?お菓子ですかな?見たことおまへんなあ…」


イザベラ会頭は袋には見向きもせず、マドレーヌをいろいろな角度から見てる。


いや、普通のお菓子だよ?

ちょっと足りない調味料はパッパッとアレでつくったけど…


まあ、ただ

このあたりの焼き菓子と言えば、塩味のお煎餅に似たクッキーか、ちょっとしっとりした焼きの生地に茶色の砂糖をまぶしたシンプルな物しか存在なかったのだから、そりゃ珍しいでしょう。


「男爵領で採れる素材を元につくられた『マドレーヌ』です」


と、わたしが説明したけど、


「まどれーぬ?このお菓子は奥様が?」


と、未知のお菓子を用意した下手人(くろまく)が誰なのかを特定しにきたね…


だってちらっとわたしを見たし。


「いえ、これは次女のアリシティア考案のお菓子ですわイザベラ会頭。遠慮なくお食べになってみて?」


そう言っておかあさまはマドレーヌを一つとり、毒味の意味で自分で少し食べて見せた。


「…ほお…ご息女が」


イザベラ会頭は「ほな…」と言って、おずおずとマドレーヌを手にとり…ぱくっ


「!甘い。それに濃厚な…これはバターかな?」


わたしが答えないとね。


「はい。甘味のほとんどはグルーヴ領で採れる新種の()になりますわ。濃厚な感じは確かにバターですわね」


「蜂蜜?ではないね。爽やかで風味がある。これを、私ら以外の商家には?」


「こちらがはじめてになりますわ」


わたしはニッコリ笑ってみた。

え?なんでレオカディアは自分を抱きしめるみたいな…ちょっと?怯えなくてもいいじゃない?


「召し上がりながらで結構ですから、こちらもご覧になって頂けますこと?」


わたしは、そう言ってガラス珠のたっぷり入った革袋をテーブルに口を開けてじゃらりと置いた。

さて、ここからが勝負だ。


わたしは袋から一つ取り出して、ニッコリ笑ってガラス珠を摘まんで見せた。



時は少し戻り、馬車の中でのこと。


さっきのじゃらりと置いたガラス珠をレオカディアに見せた時のことを思い出してた。


ちょうど、ガラス珠を摘まんだ姿勢はさっきもこんな感じ。


「……そんな、ウチが試されるなんて…」


「レオカディアさん?」


さっきまでの「おう!まかせとき!」って言ってた人と同じ人かな?って思うぐらいに気がよわっちぃよ?


なんだろう、ついさっきチミっ子で、お腹いっぱいになったけど、今日は濃いキャラがわんこそば状態の日なの!?


レオカディアさんは、ごぞごぞして、胸元からモノクル(単眼鏡)を取り出して、プルプル震えながら装着した。


これは船長スタイルの時に掛けてた眼鏡だね。


あ、なんかシャキーンて音が、した気がするよ?


「お、おう!まかせときっ!ちょっと借りるよ?」


そう言いながらハンカチを差し出した。これにのせてってこと、かな?


レオカディアさんのことがちょっぴり理解出来た気がするよ。


きっと気の弱いほうが素で、船長スタイルに「変身」することで、外向きの強い性格を作ってるんだ。


ハンカチに、この世界では貴重とされる澄みきったガラス珠をカチリと数個のせてみた。


レオカディアさんは、じっくりと手にとって検分している。


元々、おとうさまとおかあさまに相談してあるのだけど、この宝飾品になるガラス珠は領都のどこかの商会を間に置いて、出所をぼやかしたまま取引をすることになっていたのだよ。


はじめて見せた時は両親二人とも口をあんぐりあけてたけど。


「濁りが全くない…それにこの真球(まるさ)さ。これは皇都の宝飾商会、あるいはア・ケフジー工房で手に入れはったお品で?」


「お気に召して?それなら個人的に、そちらは差し上げてもよろしくてよ?」


ま、わたしも外向きの話し方だったりするんだけどね。返事のようで返事でないジャブをかましてみた。


「これをウチに?真意はなんでしゃろか?」


方言はわたしの捉え方にもっとも近いものを当てはめているだけなので、レオカディアさんが関西弁を喋っているわけではないよ。


わたしはレオカディアさんをじっと見つめながら、黙ったままじゃらりと音のする革袋を手渡した。


「!!?」

 

革袋の口を開いて、しばらく凝視していたけど…


「これは頂けまへん…アリシティアさまは()()船でお気づきで?」


わたしはこくりと頷いた。

白亜の船体が全体に薄く汚れていて、帆の上げ下ろしや操船に必要な人員が足りていなさそうだったし…


「あのエラキドのアホどものせいで!…いえ、すんません…お見苦しいところを…12隻あった船も今やこのクレスセンシア号しか残っておまへん」


そう言うとレオカディアさんは、ドレスの太股のあたりをきゅっと握りしめ、うつむいた。


「試すような真似をして、ごめんなさいね…でも、これはこれでわたしの弱みですのよ?」


もう一度ニッコリと笑いかけてみた。え?なんで今ぶるってしたし…

セレスも何故二の腕をかりかり掻いてるの?


「わかった上で、ウチにこれを使えと、まるで芋のように宝飾品を気安く差し出すお嬢様は何者かと…」


おかあさまが、キロッてレオカディアさんを見つめたよ?


「…大人の商人にしたって、こんな…見ただけで事情のわかる商人はそうそういてまへん。ただ…」


そこで言葉を飲み込み、レオカディアはじっと私を見つめた。

わたしは、レオカディアさんが続きを切り出しやすいように、こくりと頷いてみせた。



レオカディアさんは馬車での言葉を再び、イザベラ商会の二階で発しようとしていた。


わたしは、商会からのお昼の誘いにのったのも、試すというよりは、すんなりガラス珠(ひと財産)を渡したのも理由がある。


前回のアリシティアの人生で、瀕死のビショップたちと共に、エラキドの二度目の侵攻から、命懸けでわたしたちを逃がしてくれたのが、レオカディアと、あのクレスセンシア号だったから。


「ウチ…」


「レオカディア?」


会頭はモノクルを掛けていないレオカディアが口を開くとは思っていなかったようだ。


「ウチは、このガラス珠(ひと財産)が欲しい。最初は新興の男爵家ぐらい、たいしたことないって思ってた…丸め込めばええって…」


「レオ!!あなたっ」


わたしは会頭の前に手のひらを向けて待ったをかけた。


「イザベラ会頭?大丈夫、お孫さんを信じて続きを聞いてあげましょ?」


「…いや、しかし…」


「大丈夫、わたしは()()を不敬罪に問うようなことはしませんもの」

わたしが発した言葉に、おかあさまもしっかり頷いた。


「アリシティアさま…奥様も…ありがとうございます」


と、レオカディアはすぅ、と息を吸い込み…


「このアリシティアさまは、見ての通りちんちくりんの幼女で…」


えっと?みなコケた。誰がまな板か!


「…子供でっしゃろ?なのにウチの願いを見抜いて、しかもぽんっとこんなもんを黙って使えと渡してきはる。今どき大人の商人かてそんなことはせんやろに… じっとアリシティアさまに見つめられて気づいたんやウチ…子供のころの夢…諦めて無くしてもうてたって」


「レオ…」


「ウチは、あの船で世界中を旅したかったこと、思いだしたんよ。おかんもおとんも戦争に巻き込まれて逝ってもうた…だから、もう無理だって思ってたんよ?……アリシティアさまに心の内側を覗かれるまで。…でも、まだウチがいてる。このイザベラ商会には、まだウチがいてるやんか…」


ポタポタと涙を流しながら、レオカディアさん…違うね、わたしの中ではレオだ。


レオは語る。


「…ウチはアリシティアさまには無償ではもらえんからと。()()してほしいって、お願いしたんよ、婆っちゃ!」


「会頭と呼び」


イザベラ会頭もどう受け止めたものか戸惑っているみたい。


「それで…聞いたら、アリシティアさまは男爵領を立て直すために、こんなちっさいのに、姉のセレシティアさまと一生懸命頑張ってはるって。新興や言うて馬鹿にしてたウチは最低や。ウチは…ウチの夢諦めとうない」


わたしは席を滑り下りて、レオカディアのもとへ。背伸びしてレオの頭をよしよししてみた。


がしっとレオに捕獲(ハグ)された。

え?ちょっと待って、力強いから折れる折れる、なんかでる?でちゃうぅ?


背中をトントン叩いてみる。あれ?デジャブかな?


「…あ、ごめんなさいアリシティアさま」


目がぐるぐるだよ…う…


「…レオカディアさんは、自分の夢を現実にするには、このイザベラ商会を、皇国随一の大商会にしないと叶わないことも、ちゃんと知っていてよ?」


今のはわたし。イザベラ会頭に向けたもの。


「…」


イザベラ会頭は天井を見上げるようにして、目頭をおさえていた。


「わたしは商いの世界に窓口が必要。レオカディアさんの言う通りなら、商会には大きなテコ入れ…投資が必要と。お互いの利害が一致しておりますの。それに、商品(タマ)はこれだけではありませんの」


そこで、わたしは自重なく革袋経由の収納から、玩具の試作品と、ロンダドールに楽譜、海水から作った塩、メープルシロップに品種改良したお野菜、調味料類…最後のを出す前に、アルに目配せ。頷きがかえってきたので…


試作のポンプも出した。どやっ!


あれ?なんでみな固まってるかな?



とりあえず、いろいろ話しあって「アリス工房」を領都のギルドで登録して、イザベラ商会を窓口に商いをすることに。


ついさっき契約書を作ったよ。


三通作って商いの神様であるヘッセニア様の教会に喜捨と一緒に納めると、魔法的にも契約が守られるらしい。


一緒についていったんだけど、書類を祭壇に供えて宣誓すると、青白い光に包まれて契約書がボワッと消えたのには驚いたよ。


イザベラ商会も、まとまったお金は無いので、余分に作ってあったガラス珠を()()宝飾商会に売却して運転資金を作ってもらったし。


生鮮品とポンプ以外は委託販売にして、領都、皇都での取引先を探してもらうことにした。


で、最後はポンプ。

試作品を大量生産の軌道にのせるには、大きな工房と契約しないと厳しいのだ。


「アリスはん…呼びなれんわあ。親分(ボス)でもええかな?」


「レオさん?…まあいいですわ。好きに呼んでちょうだいな」


アル?そこでニヤッとしない。

あなたは今からがお仕事本番だからね?


今はレオに、わたしとアルとビショップの四人で、馬車を下りてポンプの量産をお願いできるだろう大手の工房に歩いて向かっていた。


大番頭さんと、おかあさまにセレス、おかあさまの護衛役のディザンは馬車で錬金工房へポーションの売却に向かい、後で工房前で合流の約束をしてある。


「さあ、親分(ボス)さま、着きました?」


わたしたちが到着したのと、ほぼ同時のタイミングで、男が一人叩き出されてきた。


「うおっら、おめえなんか客じゃねぇ、とっとと出てけおらあっ!」


「ベ、ベルナルド様の注文を受け入れないだとぉ!正気かきさまあっ!」


「うっさい、あんな意味のねえもんを作らせんな!けえれぇっ!あ?水か?水撒かれたいのか?」


「わかった、わかった出直す!出直すから水はやめろぉ、風邪ひいちまう!」


「何度出直されても、作らんものは作らねぇって言っときな!」


叩き出された男は、使いのようでパタパタと衣服についた土をはらい「ったく、腕はいいか知らんが、ろくなもんじゃねえ!」と悪態をつきながら足早に歩きさっていった。


わたしは、アルと顔を見合せて…


「こんにちは」と工房主?に声をかけた。




次回、後編に続きます(*^^*)


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