十一話 領都探検のち、創造魔法 1
遅くなりました。
執筆の自転車操業状態ですOrz
今回は少し短めです。
大陸から渡る湿気を帯びた寒風は、北島の山脈沿い、その頂きを冠雪で被い、降雪の後の空っ風が斜面をかけ降りて内海を吹き抜ける。
ここは領都行きの船の上。
甲板はめっちゃ冷たい。
揺れは思ってたほどではなくて、船は海上を切り裂くように進んでる。
今回の領都行きは、おとうさまは居残りで、おかあさまとセレスにわたし、お付きにジーク、商会との商談対応にアル、護衛にビショップとディザンダードというメンバーに加え、グルーヴ領に漂着した大陸のアールブの民の二人が一緒という、わりと大所帯なのだ。
船の船首に近いところに、子供組で集まっていた。
「アリスはギフトに変わりはなかったんだよね?」
「…そ、そだよ。収納に変化は無かったかな」
すぃーっと目が泳ぐ。
本当は大変だったんだけど。
主に、すでに追加の収納に入ってた向こうの世界での遺失物がヤバくて。
「わたしもギフトをたまわれたんだけど、俊敏のまほうににてる?のかな」
あ、やっぱりそこは前回と変わらないんだ。
「なら、それに俊敏を重ねたら、もっと速くなるね」
「あ?そっか!アリスてんさいっ!」
「セレス?試すの船降りてからね?」
「わかったあ!」
「たぶん速くなりすぎて、船から飛び出しちゃうから」
「そうだね……ねえねえ?ところでアリスはなんでくじらさんと話せたの?」
「それが、何故だかわたしにもわからないけど…頭の中に直接声が聞こえたんだよね」
「ふ~ん、わたしもくじらさんと話したかったなあ」
「くじらさん、笛の音が好きみたいだったから…吹いていたら、たぶんまた会えるんじゃないかな?」
「それなら、ろんだどーるのふきかたをアリスにならわないと」
「なら…これ、セレスにあげる」
「え?いいの」
「いいよ、いっぱい作ったし」
オリジナルのロンダドールを元に、今回は創造魔法もつかって売り物用に6つ作ったし。
「ありがとうアリス。それとね、さっきから気になってるんだけどあたまの上のそれはなに?」
「あ、それな!おいらも気になってた。なあ、ジーク?」
アルが待ってましたと、会話に飛び込んできた。
「ま、いつものことだよアルさん。だって嬢だし」
「えっと、ジークさんや?さりげなくディスってないで、エルフの姫様との通訳もお願いね?」
ジークの家はひい祖母さまがエルフなのだ。アールブの言葉をジークも少し話せる。
エルフは知能の発達が早熟だと聞いたことがあるけど、ジークを見てちょっと納得した。
そのひい祖母さまは現在諸国放浪中なんだそう。
「嬢、わかったよ…それで、あたまの上のは魔蚕だよね?なんかムダにおっきいけど…あ、こいつ頭を持ち上げてゆらゆらしてる?」
「ジーク、それ言葉わかってたりするんじゃないか?それにしても、そいつ普通の魔蚕の5倍はデカイぜ?それに色がおかしい」
「みどりちゃんは賢いんだよ」
「「「みどりちゃん!?」」」
みどりちゃんは、うんうんと頷いてる。
「全体的に緑色っぽいから、みどりちゃん。ジークの妹ちゃんから譲ってもらったの」
「え?ルミネに?あいつ最近こんなんばっかり集めてるな…それにしても、これって…さむいときにこんなに動けたっけ?」
ほんと、雪が降っていないのが不思議なくらい。みんな普段の服の上から魔獣の毛皮で作ったマントを着けてるから、絵面的な意味でヤバい。
日本に当てはめたら今は11月も後半、12月の半ばを過ぎれば2月の半ばまで嵐が続く季節に入る。
エルフの姫さまを早く領都に連れていかないと、エルフの姫さまと網元の負担が大変だからと、ほんの僅な期間…穏やかな天候の時期を狙って、おとうさまは領都行きを決めたんだって。
エルフの姫さまを送迎する船は、中央村からわたしたちも乗せて出発。
船はイザベラ商会から高速帆船クレスセンシア号がお迎えにきた。
この白亜の船は、前回のアリス生でもよくお世話になった記憶がある、ビショップにも関わりのある運送商会の船だ。船尾に佇む彼には、それは良い思い出ではないのだけれど。
護衛はいいのかって?
すぐ隣でディザンダードが鼻をほじほじしてるよ。
他の船に比べて幅の狭い長い胴を三つ繋いで、帆は10面もあるスピード重視の細長い船。
船体にウンディーニ様の加護を賜る刻印がしてあって、20ノット(時速36キロぐらい)は出るって、女海賊みたいな格好の船長が言ってた。
☆
本当にスルスルと船は進み、一の刻に中央村の漁港を出た船は、三の刻が終わるころには、船は領都の海の玄関口、レナート湾に到着した。
そこから、地球のベネチアで見かけるような櫓こぎの鮮やかな彩色のゴンドラ船に乗り換えて、いよいよ領都上陸なんだけど…
わたしと年はあまり違わないように見えるエルフの姫さまは、髪は薄い金髪でストレート。瞳はオレンジっぽくて、このあたりの町娘が着るような服を着ていて口を引き結んで、めちゃめちゃ緊張してるのがわかるよ。
おつきの従者は、三角の帽子に黒いローブ、手には曲がりくねった杖に紫のマント…でも、わたしと同じぐらいにちっさいから、マントの裾は引き摺ってるし、これまた…なんだかアレだ…ぷっ
『オテーリア?ここが目的地かしら?』
『はいでしゅ。ディアナさま。レナード辺境伯爵さまの領都、セ・レナートでしゅ。それにしても、あの男爵の娘っこ、絶対しつれいなこと考えてましゅ!ここは一発、空爆をおみまいするっしゅ!』
『や、止めなさいオテーリア!』
『姫さま、なめられたら駄目でしゅ!』
えっと、何言ってるかよくわかんないけど、エルフの姫さまに首ねっこをおさえられてじたばたしてるし…あん?お付きの従者…目付きわっる。
睨みかえしたろ。
『うがーっ!やっぱりヤるっしゅ!』
スパーんっ!
『やめなさいっ!』
え?樹の皮を束ねたハリセン?どっから出したの!?
しばかれてしまった従者ちゃんは、頭を抱えてうずくまった。
『うぅぅ…姫さまが凶暴でしゅ』
『オテーリア?グルーヴ男爵と、レナード辺境伯さまにかくまってもらえなかったら、私たちは野垂れ死にするところだったんですよ?』
『わかってましゅ。わかってましゅけど…』
『それに世界樹は、もうこの子しか…わたしも形振りはかまっていられません。それに…あのジークと言う男の子はアールブの言葉もわかるようです。命からがら逃げてきて、偶然とはいえ同胞にゆかりのある人物に出会えたこと、その僥倖に感謝しないと』
『うぅぅ…姫さまが逞しすぎて、わたちのキャラがかすみましゅ』
※この場にいた全員が「そんなことあるかいっ!」って心の中で突っ込みを入れてしまった…らしい。
言葉が違うはずなのに、異世界の神秘…?である。
「ジーク?二人とも何だか揉めてるみたいだけど、大丈夫なの?」
「ああ…問題ない…のかな?」
そこへおかあさまがやってきた。
「ジーク?頼まれてほしいのだけど、下船したら、お昼ご飯より先に領主さまにお目通りをするから、ディアナ姫にそう伝えてもらえる?」
「はい、ウィンディア様」
ジークはディアナ姫に向き直って伝えていく。
『ここ、おりる。まちの偉い人にあう。ごはんはあと』
『わかりました。言葉が通じることが、これほど安心を与えてくれるとは…ジークさん、よろしくお願いしますね』
『姫さま?』
「じーく顔あかい…」
セレスがちょっと不機嫌である。
☆
「ディアナ姫、ようこそ、セ・レナートへ。領主のキリル・レナードです。海路を艱難に見舞われながらも、エラキドの手から一族の誇りを守ろうと、懸命に我が国を目指されたことに、皇王に代わって深く敬意を表します…」…「…ジーク君こちらへ、訳しやすいように言い換えよう。今夜には、呼び寄せた通訳が来る予定だ。すまないがそれまでは頼む」
ここは領城の賓客を迎える「迎賓室」なのだ。入室してすぐ、簡易に迎賓のための挨拶中だ。
それにしても前回は後半でお会いしたから、キリル伯爵が若く感じるよ。
そんなことを思ってたら、すぐにケモみみのメイドさんに席に案内された。
椅子を引いてくれるのに合わせて着座していく。
わたしたちは国の臣下として、他国の王女を迎える側なので、ここでは皇国の作法通り楕円形のテーブルの伯爵から見て右手側の席に着く。
ちなみに皇国では右手は権力と支配の象徴とされていて、臣下は支配を受ける側なのでこの配置なのだそう。
左手側にはディアナ姫と、従者のオテーリアが。護衛のビショップとディザン、それにアルはわたしたちの後ろに立って控えている。
ジークはキリル伯爵とディアナ姫の間に控えてる。
『ディアナ姫。こちらキリル・レナート。領主。旅大変だった理解。守った誇り。エラキドから。それは素晴らしい。よく来た。王も歓迎』
『アウォーエナル皇国の変わらぬご厚意に感謝いたします』
「ディアナ姫さまは、この国の厚意に感謝すると言ってます」
「ここを実家だと思ってくつろいでほしい」
『姫くつろぐ。ここは味方の家。実家とかわらない』
『ありがとう存じます』
「ディアナ姫から、感謝をいただきました」
キリル伯爵が頷いた。
話してる間に魔蚕?のみどりちゃんは、わたしの頭から肩へもぞもぞと下りてきていたよ。
そこへ、濃い緑の液体がカップに入れられてやってきた。
これは、あれだ。
日本だとけっこうなお手前でってやるやつだね。
「これは、このあたりの名産でヴェルディ茶です。小皿のお菓子と一緒にお召し上がりください」
ミランダに似た、でも若いメイドさんがお茶をすすめてくれた。
小さな声で
「祖母が、お世話になってます」
と、おかあさまとわたしとセレスの三人に聞こえるように目配せされちゃった。
お孫さん、綺麗だね。
ミランダも若い時は、美人さんだったのだろうね。
伯爵さまが、お茶を口につけるのを待って、おかあさまが、続いてわたしが、恐る恐るセレスが口をつけた。
ああ、お抹茶の味…日本を思い出すわあ。
「んっ!?」
セレスには苦かったらしい。
『ムゥッ!姫っ!どくでしゅ!こんなエゲツない飲み物を姫に…こいつらヤりましゅ!』
スパーんっ!とハリセンが炸裂した。
『待ちなさいっ!オテーリア!これは貴重な部位を集めたお茶です』
『うぅぅ、姫さまが強い。わたちのキャラが…』
何故か全員が、首を揃って横にぶんぶんとふった。
とりあえず、エルフの姫さまたち、変わらず平常運転で良かったよ。
☆
今はどこかといえば、黒いドレスに着替えた女船長に用意してもらった馬車に乗って、領都の東通りの外れにあるイザベラ商会へとランチにお招きされているところ。
エルフの姫さまたちとジークは城に残って、ランチをしながらこれからのことを伯爵と話してるころかな?
うちの護衛の二人とアルは、馬車の後部にあるステップに立ち乗りしてる。
「ビショップ副長も、領都は久しぶりで?」
「ああ…そうだな。…ディザン、その副長というのは…それに舌を噛むぞ」
「あ?わかってますぜ?今はただのしがない護衛ってんでしょ?でも、オレにゃあ、やっぱ副長は副長す…あだっ」
「いわんこっちゃない」
「え?ビショップさんて元副長なんですか?」
外でそんな会話がされているころ…
女船長とおかあさま、それにセレスとわたしは馬車のキャビン内で話していた。
話してわかったけど、やっぱりレオカディア船長はイザベラ商会の会頭のお孫さんだった。
前のアリス生で会った時は、髪を腰まで伸ばしてたし、顔を合わせた時期が、今回は、ずっと早いから「見たことあるかも」とは思っても確信が持てなかったし。
レオカディアがおそるおそる尋ねてくる。
「お嬢様、その胸にかけてある筒がいっぱいのそれは…フェリーファンに似てますが…」
「これ?あ、これはロンダドールという楽器です。少し吹いても?」
レオカディア船長は船長の服の時と、ドレスの時で別人かと思うくらい人当たりの強さ?が変わる。
「え?は、はいお願いします」
ピィピィピッ、ピィヨルピィヨルオウ、ピィピィピィピィヨルピィ…
馬車の中なので、リズムはとらないよ?
「…なるほど、1度に複数のパイプがうっすらと鳴るから、フェリーファンの重奏と同じ効果が…」
レオカディア船長は、ぶつぶつと考察モードに入ったようだ。
「アリスは本当に音楽の才能が凄いのよね…やっぱり貴族院に…」
演奏をぴたりと止めておかあさまに抗議しないと。
「おかあさま?わたくし魔法を習いたいです!それに貴族院にいかなくても音楽家にはなれます」
「…そうね……確かに戦時だし、音楽よりは魔法よね」
「はいはいはい!セレスもまほうがくいんに行きたいです!」
レオカディアがセレスの声で我にかえったらしい。
「ウィンディア様のご息女さまは本当にご聡明ですね」
「まあ!レオカディアさんの見る目、目利きは流石ね」
おかあさまが、わたしたちを褒めらたことで感嘆の声をあげた。
「ありがとう存じます。ところで、何か他にも…」
「おかあさま?出しても?」
「…いいわ、出してちょうだい」
「レオカディアさん?イザベラ商会では、これをどう扱いますか?」
わたしは、一番価値のわかりやすいアレを、革袋からいくつか取り出して彼女の目の前に翳してニッコリ笑ってみた。
後にレオカディアいわく、
「あの時は悪魔かと思いました」と語った。
こんな天使をつかまえて、悪魔とか…え?わたし天使だよね?
ん?なんでみんな目をそらすの?
うぅぅ……解せぬ
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