SUMMER LIVE ~ライブも後半に突入 !~
拍手がひときわ大きくなる。観客もだいぶのってきたようで、奇声や口笛が混じってきた。健太は拍手が鳴り止むのを待って、ボーカル・マイクを引き寄せた。
「えぇー。バラードを5曲続けて聞いていただきました。そろそろプログラムも後半にはいります。メンバーもだいぶ落ち着いてきたようなので、ここでメンバー紹介をやりたいと思います」
「待ってました」と客席から声がかかる。
「それではまずドラムスから。バンドにはいって二年ぐらいですが、なんか最初からいる感じで、バンドの元気の源です。ドラムス、吉田淳之介!」
淳之介は立ち上がると、高々とスティックを突き上げた。
「えぇー、派手なアクションで決めてくれました。続いては、さきほどから、美しいサウンドを聞かせてくれているふたりです。ふたりは同級生ということですが、俺が見た感じではなんか姉妹のようです。ではその美人姉妹の姉さんのほうから。曲のアレンジをおもに担当しています。ピアノは神田圭子!」
圭子は立ち上がって、客席に向って頭を下げた。
「あれっ、それだけでいいの?この際だから、彼氏募集中と宣伝したら?」
健太は笑いながら言う。客席からも笑いがおこった。圭子は健太をじっと睨む。
「失礼しました。あんまり言うと、あとが恐いからこのへんにしときます。次は妹のほうです。彼女はバンドのサウンド作りに精をだしてくれてます。時々思いもよらない音を作ってきて、驚くことがあります。キーボード、長谷川純子!」
純子は紹介されると、キーボード・スタンドに取り付けてあるマイクを手に取り、言った。
「ハーイ、みんな楽しんでる?後半もがんばって演奏するからついてくるように!」
「ハハ・・・。さすが純子さんです。この会場でそれだけのことが言えれば、緊張という言葉は無関係ですね。ちなみに彼女は俺と同じ会社で、いつも尻をたたかれています。妹と言いましたけど、次に紹介するのは彼女の実の兄です。われらがバンド・リーダーで、ほとんどの曲は彼が作っています。妹が同じ会社なら、兄は取引会社の課長です。俺はどうもこの兄弟には頭があがりません。ベースは長谷川ヒロシ!」
ヒロシはいきなり得意のチョッパー・ベースを弾き、挨拶がわりにした。客席からは黄色い歓声があがる。
「ずるいぞ、ヒロシ。そんな挨拶、打合せになかった」
健太はヒロシに冗談まじりに言った。
「わりい、わりい。喋るの苦手だから」
「よく言うよ。と、まあ内輪もめはこのくらいにしときまして、最後はギターの紹介にいきます。アメリカはロサンゼルスの出身で、さきほどから素晴らしいソロを聞かせてくれてます。ギターはジョン・ファーナー!」
「ニホンハアツイネ。。デモワタシノギターハコノアツサニハマケナイ。マダマダコレカラアツイエンソウスルネ。ヨロシク」
「精一杯の日本語で挨拶してくれました。えぇー、他人の紹介は終わりましたので、自己紹介します。詞を作ることが好きで、いつも詞にでてくるような恋愛に憧れてます。ボーカルの谷川健太です」
拍手に混じって、「そんなに憧れてるなら私が相手するわよ」と勇気ある(?)掛け声がかかる。拍手が爆笑に変わる。
「あ、ありがとうございます。嘘でもうれしいです」
「嘘じゃないわよ」とまた同じ声がかかる。
「えっと、なんて答えればいいのかな・・・もう、あんまり言うと照れるじゃんか」
また、客席は爆笑だ。健太はおおいに照れて、大きく深呼吸した。
「それでは、気を取り直しまして次の曲にいきたいと思います。えっと、前半は新しい曲ばかりやりましたので、後半は前回のライブで好評だったナンバーを取り混ぜながら聞いていただきます。みなさん、もう一汗かきましょう!」
カウントがはいった。
後半1曲目は〝サマー・レター〟で始まった。いかにも70年代ウエスト・コースト・ロックという感じだ。
健太はボーカル・マイクをスタンドから外し、左右に動きながら歌う。
〝僕は一枚の手紙を / 握りしめていた / それは夏からきた / スカイ・ブルーの手紙だ / 封を開けると / 一枚の写真が / 飛び出してきた。謎かけるように / きみと僕が写っている / 夏の写真だ / 手紙にはひとことだけ / 書いてある / あの夏にもう一度 / 戻れないかしら / 心のなかに / きみだけをみつめている / 自分を発見した / 時が解決してくれる / 恋というのもあったんだね〟
このナンバーはめずらしくソロというものがほとんどなく、ボーカルが気持ちよく歌っている。詞も失恋ものじゃなく、ハッピーな内容だ。
続いてのナンバーはなんとブギウギで〝パァーっといこう〟だ。バンドしては初めての試みだ。このナンバーはタイトルをみてもわかるように、詞なんかほとんど意味はない。どうせしがない世の中なら楽しくパァーっと生きようぜというような内容だ。どちらかというとライブを盛り上げるようなナンバーだ。
ライブもここからが最高潮なようで、客席の前列付近も立ちあがっている。ヒロシもジョンもブキウギのリズムを体で刻んでいる。圭子と純子は肩を揺らしながら、鍵盤に向ってる。淳之介はそんなメンバーを見ながら、笑いながら叩いている。健太も相当汗をかいていた。
ライブも最高潮に達したところで、前回一番人気の高かったナンバー〝さよならだね〟にもっていく。このナンバーはタイトルからするとバラードのような感じがするが、実際はノリがいい。客席もそれを知っているらしく、イントロが始まると拍手喝采でほとんどが立ち上がっていた。
ギターの渇ききった音と、ドラムの引き締まった音で始まる。健太は汗をびっしょりかきながら歌う。
〝ビーチには / 歓声と笑い声が / 響いていた / 僕はそれを / 遠くから見ている / 手のなかには / きみと行くはずだった / エアー・チケットがあった / この果てしない / 海のむこうに / きみとの未来があると/ 信じていた / さよならの演技を / 何度もしたね / 離れたり / くっついたりして / でも、もう最後なんだね / わかるさ〟
健太はいつもこの歌を歌う時は、特別に胸が締めつけられる。詞を作った時も、鳥肌がたつ思いだった。
涙か汗かわからないしずくが、健太の目に溢れていた。さびの部分では手をあげて左右に振りながら歌っていた。客席もそれに呼応するように、左右に振っている。
ヒロシはそんな客席と健太を見ながら、思っていた。
〝すごい!ここまで盛り上がるとは・・・俺がライブやったなかで一番だ。やはり健太はなにかをもっている。歌というものを通じて人の心に訴えるなにかを〟
曲はますます盛り上がり、最後のほうでは客席も大合唱だ。やはり今日はなじみの客が多くきていた。
曲が終わると、いつまでも拍手が鳴り止まず、なかなか次の曲にいけなかった。まるでラストナンバーのようだった。ジョンが健太にスポーツタオルを放り投げた。健太は笑って受け取り、汗をふいた。Tシャツも汗で濡れているのがわかった。
〝気持ちいい汗だ。やっぱりライブはこうでなくちゃ。今日の客席はノリがよくて最高だ。この中で沙也夏さんもきっと見ていてくれるはずだ〟
健太は客席を見渡しながら、そう確信した。
客席の拍手が一段落したところで、ヒロシが合図した。次の曲はバラードで、こんな汗をかいた後に歌うのが似合いだ。タイトルは〝ウィズ・ユー〟といって、これも前回のライブでやったナンバーだ。
圭子のエレクトリック・ピアノが静かにイントロを奏でだし、曲の始まりを告げる。健太は気持の昂ぶりを感じながら、歌いだす。
〝久しぶりに / 夜空を見ていた / 空は満天の星だ / 僕はきみといる / 不思議を感じる / そんなきみが / 僕の隣で嬉しそうに叫ぶ / これがほんとうの / きらめきね / 僕は答える / きらめきが今にも / 降ってきそうだね / きみといると僕はいつも / 少年に戻ってしまう / きみと僕は / 生まれる前から / 出逢う運命 / だったのかもしれない / そう思うと / きみのことが / いとおしくなり / 思わず肩を抱き寄せる / きみはそんな僕を / 不思議そうに見る / 僕らはいつまでも / 見つめあう〟
この曲もストリングスが素晴らしい。ストリングスが夜の星を演出するように流れる。クリスマス・ライブに作ったナンバーだが、夏に聞くとまた違う感じがでる。健太は最後まで流れる感じを崩さず歌って、エレクトリック・ピアノとストリングスが美しい余韻を残して終わりを迎えた。
客席からは先程にも増して、惜しみない拍手がどよめいた。
健太はミネラルウォーターを飲んだ。たまらないほど、おいしく感じた。
「ありがとう。今日はほんとうに気持いい汗をかかせてもらいました。これもみなさんのおかげです。ありがとうございました」
健太は深々と頭を下げた。客席からは拍手が鳴り響く。
「こうやってみなさんの顔を見ていると、顔見知りの人や初めて見る人などいろいろですが、もうなんか友達のような感じです。セブンカラーズはこれからもどんどんライブをやるつもりです。ライブを通じて、昨日まで知らなかった同士が友達になってくれたら最高だなって思います。では、そんな願いをこめて最後の曲を聞いてください。〝フレンズ〟」
電話のベルが鳴る。客席はちょっと驚いた様子だ。実はこれ、純子がシンセで作った効果音だ。けっこう苦労したらしい。そして、再び圭子のエレクトリック・ピアノが鳴り響く。
この曲はミディアム調で、徐々に盛り上がっていく感じだ。
健太はめずらしく、客席を見て歌い始めた。
〝ハロー、オールド・フレンド / 元気かい / 何年ぶりだろう / こうやって電話するのは / 電話の向こうの / おまえは眠そうな声だ / その眠そうな声が / 驚きに変わり / あの頃のふたりが / 鮮やかに蘇る / 俺もおまえもバイク好きで / ツーリングによく行ったけ / 何人、女をナンパしたとか / たわいもないことを競いあってた / だけど、互いに目指す / 夢は違ってた / 俺はアメリカに住むことで / おまえは好きな女と / 暮らすことだった / 風のたよりに聞いたけど、 / おまえはあの頃夢中だった女とは / 別れたらしいが / また別の暮らしを / 見つけたんだってな / 幸せでなによりだ / 俺は今だにひとりだけど / 夢は実現したよ / こうして電話をしている / 窓の向こうには星条旗が / はためいている / またいつかあの頃に戻って / ツーリングに行きたいな / でもそれはまだまだ / 先のことになりそうだ / 俺たちの人生は / まだ通過点だから / それまでお互いに / 元気でいようぜ。〝
ラストナンバーのために作った詞なので、長めだった。この曲もソロらしいソロはなく、エレクトリック・ピアノとギターのからみがいい味をだしていた。
ラスト・ナンバーも終わった。健太は客席に向って、頭を深々と下げた。拍手がいつまでも続いた
顔をあげると、客席のほとんどの人が立ち上がっていた。
健太は心のなかに大きな感動が広がっていくのを感じた。
〝楽しかったぁ。こんなに拍手してもらえるなんて・・・ミスはしたけど、俺たちは精一杯やった。やっぱり、演奏は人前でするものだな〟
メンバー全員がステージ最前列に並び、再び頭を下げた。そして客席に向って手を振りながら、楽屋に向った。




