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ワン・モア・ソング  作者: 杉本敬
24/41

SUMMER LIVE ~ライブスタート !~

 健太の右横にヒロシ、左にジョンがいて、それぞれチューニングをしていた。その後には、圭子と純子が鍵盤にむかっていた。そして中央最後方に淳之介が陣取り、スティックを左右に振っていた。


 結局、淳之介は沙也夏の姿を見つけられなかった。健太も客席を見渡したが、沙也夏の顔は見えない。すこしがっかりしたが、すぐに気持ちを切り替えた。

〝彼女が来てようが来てまいが、力一杯歌おう。そうだ!今日は彼女を想いながら歌ってみよう〟

そう思うとすこし気が楽になった。


 ヒロシが健太に声をかけた。

「みんな準備いいみたいだ」

健太はヒロシを見て頷いた。

「ケンタ。ナントカナルサ」

ジョンが今度は日本語で言う。

「テイク・イット・イージーだな」

健太は笑顔でジョンに答え、淳之介のカウントを待った。


 ヒロシが手を真上にあげた。いよいよスタートだ。健太が目を閉じる。

ヒロシとジョンもボーカル・マイクに近づいた。オープニングは三人のハモリで始まる。

淳之介のカウントが響いた。

「ワン・ツー・スリー」


 オープニングは〝ウィンディ〟という曲だ。

健太は風を感じるようにして歌い始める。ヒロシとジョンのハーモニーがきれいに流れた。ピアノが控えめに伴奏をつける。健太は心でニヤリとした。いい感じだと思ったのだ。

ワンコーラス終わり、ドラムがリズムを刻み始めて、それにつられるように他の楽器も入ってくる。短いイントロをギターがリードする。健太はエイト・ビートにノリながら歌う。出だしは好調のようだ。


 ノンストップで2曲目の〝カラーズ〟に突入する。

これは雨上りの大きな虹のことを歌った曲だ。その虹に恋愛をからませている。

〝なつかしい彼女を見た / 髪型があの頃と / 変わっていない / 僕は知らないふりして / 通り過ぎようと思った / でも、できなかった / 空を見上げると / 虹がかかっていたからだ / それが僕には希望を / 暗示しているように見えた / もし、まだ愛のかけらでも / 残っているのなら・・ / そう思い、僕は / 彼女を追いかけた〟


 健太はまるで虹がかかっているように、上を見上げながら歌う。ヒロシの得意のチョッパー・ベースがビートを効かせる。間奏ではギターがカッティングで雰囲気を盛り上げ、続いてシンセがソロをとる。どちらかというとシンセの音色はハーモニカに近い。間奏が終わると、健太のボーカルとヒロシ、ジョンのハーモニーがサビを歌ってエンディングを迎える。


 2曲終わり、健太は額にうっすらと汗を感じた。緊張もだいぶほぐれてきた。メンバーにも、ホッとした様子がうかがえる。健太はここでトークをいれることにした。ライブを始めた頃、このトークが苦手だった。大勢の人の前でなにを喋っていいのかわからないし、ジョークなんかタイミングよく、とても言えなかった。だが、ライブをこなすうちにそれも慣れてきた。べつにジョークなんか言わなくてもいいのだ。その時、その時に自分で感じたことを言えばいい。だからライブ前は喋ることに関しては、アウトライン的なことしか考えていない。


 健太はドラムの横においてあるミネラル・ウォーターを飲み、一息つき、マイクを自分のほうに寄せた。

「みなさん、こんにちは!」

大きな声で客席に向って声を投げかける。客席からは一部の人からしか応えがない。まだライブは始まったばかりなので無理からぬことだった。


「ようこそセブンカラーズのライブへ!いまセブンカラーズと聞いて、一部の人はあれって思われたかもしれません。去年までは、毎年のようにバンド名が変わっていたのですが、今やった曲カラーズというんですが、これからヒントを得てつけました。まあこの曲は虹をモチーフにしたもので、バンド名も虹にちなんだ名前にしようということになったんです。メンバー間で相談して、レインボーという説もでたんですが、これはかの有名なハードロック・バンドがあったのでやめました。それで、虹は七色ということで、この名前でいくことにしました。セブンカラーズというのは虹のほかにも意味があって、ひとつの音楽ジャンルの色に染まることなく、いろんな色を試したいという願いがはいっています」


 健太はまたひと息ついた。自分で話が長引きそうだなと思った。

これは早く次の曲にいったほうがいいと思い、後を振り向いた。そろそろいくぞという合図だ。

「まあ、今日は夏のライブということで、大勢のみなさんに見にきてもらって感謝しています。こんなに大がかりにやるのは、夏とクリスマスぐらいなんですが、今までやったなかでは一番の人数なのでメンバーも緊張しています。まあみなさん暖かい目でみてやってください。これ以上話すと長引きそうですから、曲のほうにいきたいと思います。今日のナンバーは夏に関する曲ばかりですので、いい汗かいて楽しんでいってください。それでは次の曲、サマー・デイズ!」


 淳之介が元気よくカウントをとる。

イントロはハードなギターで始まる。バンドとしては、ここから数曲はノリのいい曲でやるつもりだ。

健太はハードなギターとは反対に、せつない感じをだして歌い始めた。この曲の詞は健太が故郷の吹上浜で見かけた風景を歌ったものだ。


 秋の海というのはとても淋しい。夏の賑やかさはどこかにいってしまい、ただ波の音だけが響いている。

健太が訪れた時もそんな頃だ。そして健太の目に止まったのが朽ち果てたサーフ・ボードだった。波打ち際にサーフ・ボードが打ちあげられ、夏が過ぎ去ったことを暗示していた。

そんな朽ち果てたサーフ・ボードをせつない夏の恋にイメージしてみようと思った。


〝ひとりであの頃の海に来た / あの頃、僕らはここによく / 波乗りに来たものだった / ふたりは波を通じて / 恋におちた / 恋は永遠につづくものと / 思っていた / だが、やはり僕らにも / 別れはきた / 僕が現実的に / なりはじめたのが原因だった / 僕は波乗りを次第に / しなくなった / きみは僕になぜ / 波乗りしないのかと言う / 結局、きみは夢をまだ / 見続けたかったのだろう / 波乗りというふたりの季節を / 最後に僕がきみに言った / 言葉を決して忘れない / 夢は遠くに残しておくものと〟


 つまりサーフ・ボードが夢なのだ。ふたりの季節がサーフ・ボードそのものなのだ。

全体的にギター中心だが、ソロはサックスの音色でシンセがとる。

ソロの後健太は叫ぶように歌う。

〝ビルの人波にもまれて / やっとわかった。ほんとうに / 必要だったものが〟

健太の目にはせつなさと沙也夏の姿がダブっていた。


 続いての曲は〝いつでもきみを待ってる〟というタイトルだ。

〝サマー・デイズ〟が過ぎ去った夏であれば、これは夏真っ盛りといった感じだ。

〝海を離れていった友よ / 元気にしているかい。もし都会の現実に / いやになっているのなら / もう一度ここに / 帰ってくればいい / 着飾ったスーツなど / 脱ぎ捨てて / あの頃に戻ってみないか / もう一度俺たちの夏を / やってみないか / 果てしなく続く海と / 潮風がきみを待っている〟

イントロはギターの軽やかなメロディーで始まる。健太は潮風に吹かれて砂浜をかけるイメージで歌う。ソロは切れ味の鋭いギター・サウンドが響く。ジョンのギターも調子がでてきたようだ。

エンディングでリピートするハーモニーも絶妙になってきた。


 調子がでてきたところで、〝サーフィン・ロード〟で一気にレッド・ゾーンへもっていく。

ピアノが心の昂ぶりをあおるように、感動的なイントロをつける。そして、ベースとドラムがはいり、ビートをきかせ観客の心に熱く訴えかける。さすがにこれだけノリのいい曲をやると、観客も次第に熱くなってくる。健太の心も熱くなって、体もリズミカルになる。


 この詞は映画のワンシーンから作ったものだ。あのサーフィン映画の名作〝ビッグウェンズデイ〟だ。

〝何十年かに一度 / その波はやってくる / それも水曜日に / 今はばらばらになった / 大人たちが / この海岸に / 車を走らせる / ビッグウェンズデイに / 乗るために / 僕も古傷だらけのサーフボードを / ひっぱりだし / ほほ笑みかける / だんだんと海岸が近づくにつれ / 心がうきうきしてくる / もう気分は / ティーン・エイジャーだ〟


 ギターがまるで風を巻き込むようなスピード感あるソロを展開させる。淳之介のドラムも負けじと疾走する。後方席では手を振り上げてのってる観客もすくなくない。

健太もスピード感にのって、歌いあげる。

額からは汗が飛び散り、顔には嬉しさがにじみでている。一方、淳之介の顔からは完全に緊張感のかけらもなくなっていた。エンディングは健太とヒロシのハーモニーがリピートして、ギター・ソロで終わらせる。

ノリにのったところで、またトークをいれて一休みだ。


健太はまたドラム・セットの横に置いてあるミネラル・ウォーターをひとくち飲んだ。淳之介の表情をチラッと見ると、いい顔になっていた。健太は一安心した。ここのトークはヒロシにまかせ、ドラムの横で休憩することにする。


「みなさーん。いい汗かいてますかぁ」

ヒロシがおどけた口調で観客に呼びかける。今度は観客からダイレクトに反応がかえってくる。黄色い歓声もだんだんと混じってきている。

「ありがとうございます。えぇー、アップテンポなナンバーを3曲続けて聞いてもらいました。まぁ、俺たちのバンドというのは変わってまして、以前はバラード主体でやっていたんです。でも、静かなナンバーばかりだと、いまいち全部のお客さんと一緒に楽しめない感じがして、去年のクリスマス・ライブあたりからオープニングからノリのいいやつをやるようになりました。でも、最初から見にきてくれているお客さんからはバラードもやってほしいというリクエストがあるので、それも混ぜてやってます。ということで、そろそろバラード・タイムにはいりたいと思いますが、いかがなものでしょうか?」


 今度は前列席から拍手がおこる。特に女性客からの拍手が多いようだ。

「ありがとうございます。えっと、曲にいく前にもうすこし喋らせてください。次の曲は〝青空を見あげて〟というんですが、これはバラードというよりミディアム調のゆったりとした感じといったほうがいいと思います。曲は俺なんですが、編曲をギターのジョンがやりました。特にギター・ソロは鳥肌もんですんで、聞き逃さないように。これはどういう感じで作ったかといいますと、情景はハワイです。ハワイというとサーフィン・ロックって感じがするでしょうけど、これは70年代終わりのウェストコースト・サウンドを意識してみました。詞のほうはもちろんボーカルの健太ですが、俺から言わせると男にとっては涙もんです。自分でも言うのもなんですが、曲といい詞といい感動的だと思ってます。みなさんも自分なりのストーリーを思い浮かべて聞いてください」


〝ヒロシのやつ、キザなことをスラスラ言うなぁ。それが自然なんだからかなわない〟

健太は後でそんなことを思いながら、腰を上げた。そしてボーカル・マイクのほうへ向った。ヒロシが合図したからだ。

「それでは聞いてください。青空を見あげて」


 ヒロシが言うと、メンバーはスタンバイした。ちょっとのあいだ間があった。カウントがはいる。

イントロはドラムから入り、次に同時に他の楽器がアンサンブルを奏でる。特にここのイントロはピアノがいい雰囲気をかもしだしている。ピアノがセンチメンタルな感じをだしているのだ。


 健太は心をゆったりとした感じで歌いだす。

〝スコールが去ったあとの空は澄んでいた / 僕は青空を見あげる / きみと別れたときもこんな空だった / 僕は今でもきみが部屋を / 出ていった時のことを憶えている / 旅行カバンにありったけの服を / 詰め込んでいた / 涙ひとつ見せずに / 僕はそれを黙って見ていた / 結局、僕がきみに憶えさせたのは / 強がりだっただけなのかもしれない / 僕らは笑顔で別れた / 空を見あげると / まぶしいくらいの青空だった / 僕は涙をこらえるために / ずっと空を見上げていた〟


 ギター・ソロがせつなさを歌っていた。あの頃に戻りたくても戻れない、と。

健太はまるでそこに空があるように、上を見あげて歌っていた。その主人公になりきったように。

それもそのはずだ。健太がこのライブのために作ったなかでも一番気に入ってるナンバーだ。

この歌は男と女の別れをただ詞にしたものだ。健太はなんでもない場面をサラリとした感じで詞にしたかった。それでできたのが、〝青空を見あげて〟だ。


 バラード・タイムは2曲目からまたグッとテンポを落とす。

〝最後の夏〟、〝ロング・キス〟と続く。

この2曲も、映画のワン・シーンにインスパイアされたもの。

〝最後の夏〟は恋人同志が海辺で夏を惜しむように、別れを告げる歌。〝ロング・キス〟はキスをする様子を長い詞にしてみた。健太は何の映画かもう忘れてしまったが、キス・シーンの長い映画を見たことがあった。ふつうならうらやましいとしか思わないのだが、その映画はキス・シーンが美しかった。ただ、ただ見惚れるだけだった。


 だから、この歌にはいろんな表現を使ってみた。バンドのメンバーからは、実体験じゃないのかと冷やかされたが、もちろん違う。こんなロマンティックなキスができる女性がいたのなら、もうすこし女性の気持がわかりそうなものである。


 このふたつの曲はピアノとキーボードが主役だ。キーボードはピアノの音を殺さないように、ストリングス・サウンドでやさしさをだしていた。圭子と純子はこのコンビネーションを何百回と練習していた。


 さらにストリングスが光るのが、次の2曲だ。

〝ラブ・アゲイン〟、〝ドリーム〟。このふたつの曲は組曲みたいになっている。だが詞の内容は別物だ。〝ラブ・アゲイン〟が昔、友達のためにあきらめた恋人との再会の歌。〝ドリーム〟は夢破れた人のための励ましのような歌だ。この2曲に関しては、詞よりもサウンドが勝っている。


曲はヒロシが書き、アレンジは圭子と純子だ。ストリングスが全編にわたって流れ、気持ちよく仕上がっている。健太はヒロシがこの曲をもってきた時、きれいな曲だなと思った。こんな曲も書けるんだと感じた。


 だが、圭子と純子のアレンジにはさらに驚いた。とにかくストリングスが分厚く、オーケストラのような感じだ。この分厚いサウンドができたのは、楽器のよさもある。純子のキーボードでは、とてもこんなサウンドはつくれない。ここのライブ・ハウスの好意で、外国製のキーボードを貸してくれたからだ。一台二百万以上する代物だ。


 純子はそのキーボードで、ストリングス・サウンドを曲調に合うように作りあげた。いくら楽器がよくても、それだけではサウンドは作れない。やはり、純子のキーボードに精通しているのと、圭子のアレンジ力のたまものだ。


 健太はストリングスに身をまかせて、言葉をかみしめるように歌いあげる。健太の目には観客は映っていない。歌の情景のなかで自分が主人公になる。こうなると健太の歌はますます冴えてくる。

情景のなかに沙也夏の姿があった。

じっくり歌って、バラード・タイムを5曲で終わらせた。



 








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