第八十六話 捜索
明日か明後日の呪いには勝てなかったよ……
しかしそのおかげで本の発売日までの日数調整は完璧! ……と言いたいところですがむしろサボりすぎてこっからは毎日更新しないと絶対色々まずいので頑張っていきます!
止まるんじゃねえぞ……!
「ふ、ふへへへへ」
指の先で赤い光を放つ指輪〈レベルストッパー〉を眺めて、笑い声を漏らす。
この指輪はその名の通り「装備している間はレベルが上がらなくなる」という効果を持っているのだが、正確に言うと「レベルアップまでの経験値が残り一になったところで、経験値がもらえなくなる」装備。
そして、経験値がギリギリまで貯まると、それを証明するかのように赤く光るように出来ている。
つまり、俺はどうやら、レベル五十一になれるということらしい。
後半ボスであり、ヴァンパイアロードであるヴェルターのレベルは五十。
オープニングイベントで倒した格上のドゥームデーモンに加えて、同格ながらボスキャラでもあるヴェルターを倒したことで、ついにレベルアップ分の経験値が稼げたということだろう。
(ここまで、長かったなぁ……)
〈レベルストッパー〉が赤い状態だと、経験値が装備者に分配されなくなり、その分がパーティのほかの仲間に入る。
なのでしばらくはレベルアップするつもりはないのだが、やはりレベルが上げられると分かるだけでもやはり違うものだ。
(……と、あんまり浮かれてもいられないな)
今回のロゼの一件で、状況は確実に進展した。
時代区分がⅠからⅡへと進み、やれることは確実に増えた。
それに、「キャライベント以外のイベントにも干渉が可能」ということと、「イベントの内容は変えることが出来る」ことも証明出来た。
……そして、同時に不安要素も増えた。
それは、イベントフラグが立ってすぐに吸血鬼イベントが起こったこと。
イベントフラグが立ったというのはつまり、「主人公」が訪れた時にイベントが起こるようになった、という状態だ。
なので俺の理論が正しいとするなら、「主人公」ではない俺がロゼに会いに行ってもまだイベントは起こらず、イベントの時間切れ時期になってやっとロゼの下にヴェルターが訪れる、となるはずだった。
しかし、実際にはイベントフラグが立ったその日の夜にヴェルターはやってきて、俺はそこに居合わせることになった。
メインイベントは「主人公」以外が訪ねてもイベント進行はしない、という仮説が間違っていたのか、あるいは……。
(この世界ではイベントフラグが立った瞬間から、イベントが自動発生する可能性がある、のか?)
はっきりとしたことは分からない。
ただ、イベントの発生時期については出来る限り予断を持たず、常に先手先手で動いていった方がいいだろう。
(そのために……)
俺が今日の目的地、とある料理店の前に着くと、こちらに駆け寄ってくる影が見えた。
「――レクスさん!」
「――リリー」
笑顔で手を振る彼女は、〈リリー・ハーモニクス〉。
この世界の補正によって女装男子から本物の女に変えられた、吟遊詩人である。
※ ※ ※
彼女と会う時は、なんとなくいつも料理屋の個室を使うようにしていた。
あまり目立つ場所で会って変な噂でも立ててしまうと彼女に悪いし、なんとなく、本当になんとなくの予感なのだが、彼女はあまりレシリアと会わせない方がいいような気がするのだ。
いや、おそらくは杞憂だろうとは思うのだが、今のところは二人を無理に引き合わせる理由もないだろう。
俺は何だかはしゃいだ様子のリリーとの食事を楽しみながら、しばらく料理に舌鼓を打った。
「――人探しの件ですが、まだ成果はあがっていません」
しばらく雑談を挟んだ後、彼女が本題を切り出した。
戦闘能力には秀でているとは言えないリリーだが、情報収集能力と顔の広さについては間違いなく俺より上だ。
だから俺は、彼女に「人探し」を依頼した。
探してもらったのは、三人。
一人目は、〈光の王子アイン〉の追放された弟であり、天真爛漫な子犬系ショタである王国の第二王子。
二人目は、のちの〈闇の王子〉であり、大きな火傷を仮面で隠している……と噂されているが、実は仮面の下は普通に美少年だった旧アース王家の第二王子。
どちらもゲームでは敵対してからしか遭遇出来なかったが、今の時点で接触出来れば味方に引き入れることも不可能ではないかもしれない。
そう思って捜索を頼んではいるものの、残念ながらこの二人については情報に乏しく、ゲームで分かるのは顔くらいしかない。
だから俺が期待をかけていたのは三人目。
――このゲームの「主人公」、だ。
時代区分が進んで状況が変わっても、「主人公」の発見こそが最優先事項なのは変わらない。
結局のところ、「主人公」がいないと安定してイベントを進めることは出来ないし、対〈魔王〉戦も勝てる気がしない。
やはり「主人公」は、この世界における最重要人物なのだ。
ただし、「主人公」を捜索するのは簡単なことじゃない。
「主人公」についていくつか確定していることはあるが、それが特定になかなかつながらないのだ。
どの出自でも変わらない「主人公」の特徴を列挙してみると……。
1.性別が男
まず、基本にして絶対の条件。
ブレブレはジャンルの割に女性人気もあったので、女性主人公もありにしたら売れたんじゃないかなと思わなくもないが、「主人公」として選べるのは男性キャラだけだ。
まあ、男女両方選べるとイベント分岐や台詞差分が煩雑になるから仕方ない。
もしかすると製作会社にもっとお金と人が潤沢にあればそういう未来もあったかもしれないが、直後に倒産した会社にそれを求めるのは酷だろう。
2.素質値の合計が二十五
これが、「主人公」を見つけるにあたって最大のヒントとなる項目だ。
レクスの素質値が九、一般冒険者の素質値が十八程度と考えると、これはぶっ壊れ級の強さと言える。
ダイスが上振れしたランダムキャラや、ストーリー上重要なユニークキャラは素質値が二十を超えることもあるが、それでも高くて二十二がせいぜい。
二十五に至るようなキャラはほとんどいない。
ただ、これは〈看破〉で能力値が数値で見られる俺以外には分からない部分であり、人任せの捜索にはあまり役に立たないところが難点だ。
とはいえ高確率で優秀な冒険者になることは間違いないので、その方面から探っていければ、と思ってはいる。
3.光系のユニークスキルを持つ
〈救世の女神〉に選ばれた「光の勇者」である「主人公」は、〈光輝の剣〉をはじめとする様々な光系のユニークスキルを覚える。
特徴的で、かつ威力があるので、見る人が見ればすぐわかる……はずだが、しかし残念ながらこれも捜索に役に立つかといえば微妙なところだ。
彼が〈光輝の剣〉を覚えるのは〈魔王〉と遭遇したあとであり、今「主人公」が〈魔王〉と出会ったかどうかも分からないからだ。
4.どんな容姿になるかは分からない
「主人公」の顔はプレイヤーのキャラクリエイトによって決まり、デフォルトの顔というものもない。
基本的には美形になるはずだが、クリエイトで使える顔パーツの種類は多く、バリエーション豊かだ。
「主人公」の年齢は設定上十代になることが多いが、「え? あなた四十は行ってますよね……」みたいな顔も、どう見ても怪物だったり歌舞伎役者のようなとんでも顔も、なんだって作れる。
顔から「主人公」を特定するのはまず不可能だろう。
と、まあそんな感じで、「主人公」を〈看破〉以外の手段で見つけるのは困難だ。
……ただ、一つだけ。
俺には「主人公」を見つけられるかもしれない「当て」があった。
そもそも普通に考えれば、三ヶ月も経ってワールドイベントが発生しないような状況は考えにくく、さらに「〈魔王〉との遭遇」イベントを起こすことなしに時代区分がⅡになるのもまた考えにくい。
だが、一つだけあるのだ。
そんな状況が発生しうる特別な「主人公の出自」が。
それは、《捧げられた闇の御子》スタート。
この《捧げられた闇の御子》という出自は、ゲームを一度クリアしたあとに解放されるいわゆるハードモードだ。
いきなり〈常闇の教団〉に囚われた状態から始まり、一週間後に始まる怪しげな儀式から逃げることから物語がスタートするというハードっぷり。
しかも、何とか首尾よく逃げ出しても教団の人間に常に追われ続けることになる。
そのため街の冒険者ギルドや店を利用することもままならず、サバイバルに近い形でゲームを進めていくことになるのだが、この出自が厳しいのはそれだけじゃない。
このスタートの一番の特徴、それは「ゲームスタート時期がほかの主人公より一年遅い」のだ。
本来二年で達成するべき目標を半分の期間でやらなければならないのだから、それはもうはっきり言って無理ゲーだ。
俺も試しにプレイしてみたことはあるが、教団から逃げて少しだけ冒険を続けたところでどうしようもなくなり、あっさり投げた。
そして、この出自を選んだ場合、初期時代区分がⅢになるのだ。
ちなみに、時代区分Ⅱまでのワールドイベントは強制失敗の判定になるので、ロゼイベントなどはかなり詰んでいる状況から始まったりする。
まあそれは置いておいて、「主人公」が《捧げられた闇の御子》だった場合のみ、「主人公」が全く活動していなくても時代区分が進む、という可能性が考えられる訳だ。
そして、もし「主人公」が《捧げられた闇の御子》なら、特定は簡単だ。
ストーリーでの会話から、「主人公」は元貴族で、「リンダ」という名前の妹がいることが明らかになっている。
だから、リンダという少女のいる貴族家を探してもらったのだが……。
(外れ、か? いや、まだ時間が経っていないから、そうとも言い切れないか)
この世界では、とにかく人の移動に時間がかかる。
電話もインターネットもないこの世界では、情報も人に乗って流れてくるので、遠くの情報が入ってくるには普通に一ヶ月かかったりもするのだ。
「すみません。せっかく、期待してもらったのに……」
リリーはそう言って頭を下げるが、俺は首を振った。
「いや、元々雲をつかむような話だったんだ。リリーはよくやってくれているよ」
「レクスさん……」
それに、俺はあまり落胆してはいなかった。
時代区分Ⅰでは何も打つ手はなかったが、時代が進んだ以上、打てる手はいくらでもある。
「……探せないのなら、あぶり出せばいいだけだ」
俺がそうつぶやくと、リリーは少し考えたあと、探るように話し始めた。
「この街で情報を集めていると、意図しないでもレクスさんの情報が入ってきます。街の外れ、孤児院の傍にある廃屋を買い取ったとか、ギルドと協力して、街の至るところに魔物撃退用の匂い袋を備え付けているとか、弟子たちに命じてフィールドの蜂モンスターばかりを討伐させているとか……」
リリーの言葉に、俺は少しだけ目を見開いた。
まさか、そこまで把握されているとは。
やはり、彼女に協力を頼んだのは、間違いじゃなかったようだ。
「レクスさん。あなたは一体、何をするつもりなんですか?」
問いかけるリリーに、俺は肩をすくめて答えた。
「――別に、大したことじゃない。ちょっとした、害虫退治だよ」
次回更新は明日!
今まで散々12月5日発売!って連呼していた書籍第一巻ですが、さっき見たら公式の発売日がしれっと4日になってたんですよね!
まあよくよく思い出すと「土日とかぶった場合は金曜発売になる」という話を昔編集さんから聞いたのでおそらくそういうことだと思います
ということで12月4日発売の『主人公じゃない!』一巻と、連載第四部後半をよろしくお願いします!