第七十四話 成長
少し遅れましたがまだ百日経ってないのでセーフ!
そして話題逸らし用の書籍版キャラデザです!
この中でもレクスのキャラデザは色々バリエーション考えてもらったりしたんですが、レクスのイメージなんて人それぞれ違うだろうし絶対解釈違い起きるなーと考えた結果、「一番キャラ立ってるのにしよう!」となってこんな感じになりました
あとヴェルテランは「え? このヴェルテランちょっとかっこよすぎないですか?」と編集さんから異例の待ったが入り、生え際が少し後退しました
むごい……
今回は久しぶりの全員集合会(ヴェルテラン除く)なので見比べながら読んでみてください!
「――ファイアエンチャント! メルト!」
戦いの始まりを告げたのは、若き魔法使い、ニュークのそんな言葉だった。
静まり返った廊下はたちまち戦闘の舞台へと変わり、目まぐるしく状況は動き出す。
「――おおおおおおおお!」
初めに切り込んだのは、ラッド。
雄叫びと共に廊下を駆け抜け、手にした愛剣〈ブレイブソード〉を振り上げる。
「――〈紅蓮覇撃〉!」
炎をまとった一撃が、全身包帯まみれの怪物〈グレーターマミー〉を捉えた。
それを横目に見ていた俺は、思わず「へえ」と口元を緩めた。
(あいつ、やっぱりうまくなってきてるな)
マニュアルアーツに関しては多少うるさい俺から見ても、申し分のない精度の剣閃。
ラッドのアーツは最初の頃はどこかぎこちなさが残っていたが、トレジャーハンターの試練を境に突然完成度を高め、今では俺を唸らせるほどの一撃を安定して放てるようになっている。
「まだだっ!」
そして、今のラッドはそれだけでは終わらない。
アーツを当てることで怯ませたマミーの横を駆け抜け、そして、その口が叫ぶのは、
「――〈オーバーアーツ・火焔斬〉!!」
さらなる猛攻の合図。
完全にマミーの死角に入り込んだラッドは、〈ダブルアーツ〉によって攻撃力の跳ね上がった追加の一撃を、その包帯の怪物に叩き込んだ。
完全無欠のクリーンヒット。
弱点である炎属性による痛烈な一閃は、怪物の包帯を燃やし、感情も痛覚もない魔物の身体をよろめかせる。
……だが。
「ラッド!」
ニュークの鋭い警告。
よろめきながらも、振り上げた怪物の手。
そこに巻き付いていた燃え盛る包帯が、ラッドに向かって伸びる。
「う、うわぁ!」
さっきまでの玄人然とした動きとは全く違う慌てっぷりで、ラッドはかろうじて伸びてきた包帯を回避した。
しかし、それで完全に形勢は逆転した。
ラッドによって痛烈な攻撃を受けたはずのマミーはしかし、ダメージなど感じられない動きでラッドに向き直る。
……しかし、それもそのはず。
俺たちが相対している魔物、〈グレーターマミー〉はレベル四十二のアンデッドモンスター。
いまだにレベル三十前半のラッドたちにとっては、圧倒的格上。
うまいこと連撃が入った程度で、簡単に倒れるような相手ではないのだ。
「――ラッドはあいかわらず、考えなし」
しかし、そんな窮地にあって、あいかわらずの冷めた声が場の空気を変える。
エルフの射手、プラナ。
彼女は弓に矢をつがえると、小さくつぶやいた。
「――〈ミラージュ〉」
その瞬間、彼女の姿が三つにブレる。
そして、
「……ふっ!」
気合一閃。
構えられた弓から、疾風の速さで矢が放たれた。
その数は、三。
全く同じ軌跡を描くそれらは今にもラッドを襲わんとする包帯を射抜き、怪物の身体を地面に縫い留める。
「た、助かったぜ! プラナ!」
「次は、まとめて撃つから」
感謝を叫ぶラッドに辛辣な言葉を返したプラナは、ちらりと視線を横に向ける。
「あとは、任せた」
「はい!」
進み出たのは修道服をまとった小柄な少女。
しかし、その身体はあふれ出る魔力で白く輝いていた。
いまだに拘束から抜け出せない怪物に向かって、マナは杖を向ける。
「――決めます! 〈ホーリーピラー〉!!」
瞬間、目を覆いたくなるほどの光量が狭い空間に押し寄せる。
魔物の身体を中心に光の柱が立ち上り、魔物の身体と、俺たちの目を焼いていく。
「くっ!」
そして、ようやく光が収まった時、そこに包帯の怪物の姿はどこにもなくなっていた。
……戦闘終了だ。
「よっしゃ! また一体撃破!」
能天気にはしゃぐラッドを呆れたように見ながら、ニュークはホッと息をついて杖を下ろしていた。
「結局、僕の出番はありませんでしたね」
安堵半分、物足りなさ半分といった様子でニュークが肩を落とすが、そんなことはない。
「いや。これだけ戦闘がスムーズにいったのは、ニュークが最初に魔法をかけたおかげだろう。自信を持っていい」
「そ、そう、でしょうか」
俺にストレートに褒められたことが意外だったのか、ニュークは少し照れたように顔を赤くして咳ばらいをした。
そんなニュークを、俺は〈看破〉する。
ニュークがつけている能力値アップ装備の補正を抜くと、そのステータスは……。
―――――――
ニューク
LV 34
HP 512
MP 445
筋力 104(D+)
生命 207(C+)
魔力 396(A-)
精神 214(C+)
敏捷 223(C+)
集中 257(B-)
―――――――
(またレベルが上がってやがる。これでもう筋力以外、完全に俺を超えちまったな)
リリーとのドタバタ劇から十日ほどの時間が経った。
数々の騒動を巻き起こした波乱の年が明け、この世界は新年を迎えた。
俺がギルドの仕事で四苦八苦している間も、ラッドたちブレイブ・ブレイドの面々は努力をやめず、彼らは確実に強くなっていた。
そんな中で、一番多く新しいことに挑戦したのが、ニュークだろう。
促成栽培の魔法使いだった彼は、ここで一度地に足をつけて地力を上げることを選択した。
その結果が、妨害魔法や補助魔法の使い手である〈ソーサラー〉への転職だった。
攻撃魔法一辺倒だった自分を顧みて、あえて脇道とも言える補助魔法を習得したのだ。
前のめりになりがちなこのパーティの中で、本当に良識のあるいい奴だと思う。
そうして、
「確かに。一人で突っ走って自爆した奴よりはずっといい」
俺がニュークと話していると、にゅっと姿を現したプラナに、苦笑する。
―――――――
プラナ
LV 34
HP 430
MP 197
筋力 280(B)
生命 166(C)
魔力 148(C)
精神 136(C-)
敏捷 284(B)
集中 440(A-)
―――――――
彼女もまた、自分を強くするために、あえて脇道に足を踏み入れた者の一人だ。
彼女が今ついている職〈トリックスター〉は〈トレジャーハンター〉と同じ、条件達成によって入手可能なユニーククラスであり、そのクラス系統は弓ではなく、近接攻撃と遊撃を得意とする盗賊クラス。
先ほどの戦闘でプラナが使った〈ミラージュ〉というスキルは、その〈トリックスター〉の奥義とも言える技になる。
このスキルは、大量のMPを代償に、自分の分身を二つ作り出す。
コストこそ重いものの、分身はスキル使用者とほぼ同じ能力値を持ち、スキル使用者と全く同じ動きをして敵を幻惑するというもの。
能力値が自分と同じになるなら手数三倍になってめっちゃ強いじゃん、と期待される性能をしているが、残念ながらこのスキルはあくまで目くらまし用で、攻撃には向いていない。
分身はHPが一しかない上に、何かにぶつかるとダメージを受けて一瞬で消えてしまうという悲しい特性を持っているのだ。
そのせいで、たとえ自分から攻撃をしたとしても分身の武器が敵にぶつかった瞬間に分身は消滅。
当たったはずの攻撃も無効になるというしょっぱすぎる結果になる。
だが、それも敵と直接触れ合うことのない遠距離職なら関係ない。
この技は本来の使用者として想定された近接職ではなく、弓や投擲などの遠距離武器を操る人間が使うことにより、攻撃の手数を三倍に増やせるのだ。
(と言っても、スキル効果が乗らないから普通は採用しないんだが……)
分身が模倣してくれるのはあくまで動作だけで、魔法や攻撃スキルの効果まではコピーしてくれない。
いや、例によってマニュアルアーツだけは贔屓されて普通に効果が乗るのだが、例えば弓で攻撃スキルを撃っても分身の分は効果が発動せず、単なる通常攻撃になってしまうのだ。
だから、自己バフをかけつつ特殊効果のある矢を大量に用意して通常攻撃で押すような特別な戦闘スタイルでもない限り、あまり採用されることはないのだが……。
「……何?」
そこで視線を感じたのか、プラナがこちらを振り返った。
「いや。援護のタイミング、流石だったなと思ってな」
「……別に。いつもやってれば、分かる」
話を逸らすのが半分、本気半分でそう声をかけたが、プラナは素っ気なく返すだけだった。
大事そうに回収していた、俺が魔力を込めた属性矢をギュッと抱いたままそっぽを向いて、もうこちらを振り返る気配もない。
嫌われているということもないと思うのだが、やはりどうにも噛み合わないようだ。
俺が途方に暮れていると、
「プラナちゃんは、レクスさんに褒められて嬉しいんだと思います」
そこで、とりなすようにそう言って歩み寄ってきたのは、プラナの親友でヒーラーのマナだった。
この〈ブレイブ・ブレイド〉の中で、良くも悪くも「普通」に見える少女。
だが、彼女がそれだけの人間ではないと、俺は知っている。
―――――――
マナ
LV 34
HP 464
MP 391
筋力 108(C-)
生命 183(C+)
魔力 342(B+)
精神 464(A)
敏捷 169(C)
集中 255(B-)
―――――――
(あいかわらず、とんでもないな)
ニュークやプラナが自分の選択肢を広げた一方で、自らの長所に向かって一直線に進んだのがマナだ。
〈祈りの小聖女〉なんてあだ名までつけられるだけあって、彼女の祈りへの適性は異常なレベル。
特化した精神の値はパーティの中で唯一評価値Aを記録していて、そこから繰り出される光魔法の威力は絶大の一言。
精神値が高いのはもちろんなのだが、おそらく彼女は光魔法への適性も非常に高いのだろう。
対アンデッド戦に限っては、マナこそがパーティのメイン火力だと言える。
そしてもちろん、
「おっさん、またレベル上がったぜ! やっぱ格上と戦うと成長が速いな!」
能天気に駆け寄ってきた少年、ラッドも忘れてはいけない。
―――――――
ラッド
LV 34
HP 772
MP 166
筋力 326(B)
生命 337(B+)
魔力 117(C-)
精神 255(B-)
敏捷 242(B-)
集中 211(C+)
―――――――
特化具合ではほかのメンバーに劣るものの、その総合力の高さと安定性はパーティ随一。
何よりトレジャーハンターの試練で、マニュアルアーツの使い方だけではない、立ち回りの「コツ」のようなものを掴んだ節がある。
(……ほんと、末恐ろしい奴らだよ)
自分で鍛えておいて何だが、そんなことを思わずにはいられない。
そして……。
「兄さん。次はどうしますか?」
この場で一番の化け物が、俺の背後から声をかけてくる。
―――――――
レシリア
LV 34
HP 694
MP 203
筋力 418(A-)
生命 298(B)
魔力 154(C)
精神 278(B)
敏捷 585(A+)
集中 233(B-)
―――――――
眩暈がするほどの殺意の高さ。
ニンジャになってからさらに上昇した敏捷値は、特化したマナの精神をさらに一回り上回ってきている。
(どいつもこいつも……)
と、今までの俺なら、腐っていたかもしれない。
……しかし。
成長したのは、ラッドたちだけじゃない。
廊下にかけられた鏡に、自分の姿が映った。
――〈孤高の冒険者〉レクス・トーレン。
恵まれた初期レベルの代わりに成長性を忘れてきた、とまで言われたキャラクター。
その能力値オール二百という中途半端な強者っぷりで、ネットの玩具にされることも多かった非業の男。
だが、この訳の分からない世界に飛ばされて、三ヶ月。
様々な経験をする中で、俺自身もはっきりと成長していた。
能力値アップの指輪を外し、俺は鏡の自分に向き直る。
そうして、こちらを見つめる不愛想な黒ずくめに向かって、スキルを発動させた。
「――〈看破〉」
見えるか、レクス。
これが、命懸けの三ヶ月の集大成。
これが、今の俺の力だ!!
―――――――
レクス
LV 50
HP 530
MP 265
筋力 201(C+)
生命 200(C+)
魔力 200(C+)
精神 200(C+)
敏捷 200(C+)
集中 200(C+)
―――――――
一目で分かる確かな成長!!
次回更新は明日!