冒険者通信出張拡大版「特派員は見た! マニュアルアーツに隠された真実!!」
みなさんお久しぶりです!
祝!! 連載放置期間、100日突破!!
ということ(?)で、
『主人公じゃない!』が本になります!
上のマナの笑顔が眩しい挿絵ほか、イラストは天野英さんです!
猫耳猫と同じところからの出版で、12月5日に発売予定!
すでにamazonやカドカワストアでは予約が始まってるそうです!
また、コミカライズも出ます!
漫画はメイジさんで、12月26日発売コンプエース2月号にて連載開始!
だそうです!
・ストーリーを忘れた人のための「主人公じゃない!」今回予告!
昔やり込んだゲーム『ブレイブ&ブレイド』そっくりの世界に「序盤の救済キャラ」として転生してしまったレクスは、死亡確定のオープニングイベントを何とか乗り切り、フリーレアの街に身を寄せた。
「主人公じゃない」自分が生き残るためには、まともな手段など取ってはいられない。
そう覚悟した彼は、この世界にいる「主人公」を探しながら周りの人々を鍛え、将来性皆無な自分の能力を「振り直し」することを決意する。
そうして二ヶ月後。ゲーム知識を活かして見事にラッドたち新人パーティを鍛えあげ、剣聖ニルヴァとの対決にも勝って念願の〈剣聖〉へのクラスチェンジも果たしたレクスは、フリーレアでは知らぬ者がいないほどの有名人になっていた。
一見順風満帆な、誰もが羨むような冒険者生活。
しかし一方で、それをこころよく思わない者もいて……。
冒険者業界は今、揺れている。
それは、フリーレアの冒険者ギルド支部が次々に発表した「能力値の数値化」「素質鑑定」「クラス補正値の公開」「各職業の転職条件の解明」などの情報によるものだ。
その中でもとりわけ、世界一決定戦で日の目を見た、手動で剣技を放つ技術「マニュアルアーツ」は世界各地の冒険者たちに少なからぬ衝撃を与えたという。
なぜ、フリーレアの冒険者支部はこれほどの情報を立て続けに公開出来たのか。
驚くべきことに、それにはたった一人の冒険者の寄与するところが大きいと、街の人々の間でまことしやかに語られているという。
だが、本当にたった一人の冒険者が世界にこれほどの激震を与えるなどということが起こり得るのだろうか。
噂というものは往々にして、人の口を伝う間に大きくなってしまうもの。
あるいはこれは、「英雄」を求める人々の無意識が生み出した、単なる虚像に過ぎないのではないだろうか。
――真実を確かめるため、特派員はフリーレアの冒険者ギルドへと飛んだ。
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マニュアルアーツの第一人者たち
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――本日はお忙しいところお集りいただきありがとうございます。まずはご紹介から。今日の対談のお一人目は、まさに噂の中心人物。フリーレアのギルド支部長のヴェルテラン氏に来ていただきました。
ヴェルテラン氏(以下、ヴェルテラン):はぁ。ほんとに忙しいんだがな。お前の頼みじゃなきゃ突っぱねてたとこだ。
――ははは、これは手厳しい。ですがフリーレアの冒険者ギルドは今や世間の注目の的です。真実を広く知らしめるために、ほんの少し時間をいただければと。
ヴェルテラン:真実、ねぇ。くれぐれも偏向報道だけは勘弁してくれよ。
――それはもちろん! そのための音声記録水晶ですし、議論に加わらない純粋な立ち合い人として、そちらのギルド職員のエリナさんにも同席して頂いています。この万全の布陣で、公平な立場からマニュアルアーツの『真実』に迫りたいと考えています。
ヴェルテラン:……その話し方がすでに、もう胡散くせえんだけどな。
――そして今日はもう一方、噂の人物にお越しいただいています。世界一決定戦にて、初出場にして準優勝に輝いたシンデレラボーイ、ラッド氏です!
ラッド氏(以下、ラッド):シ、シンデレ……? あ、え、いや、はい。その、ラ、ラッドです! 冒険者をしています!
――ラッドさんと言えば、世界一決定戦の前にも、冒険者になってたったの一ヶ月で中級ダンジョンを攻略した期待の新人として注目されていますね。
ラッド:はい! でも、それは全部師匠のおかげで、あ、師匠っていうのはもちろん……。
――ああすみません! そのお話も大変興味深いのですが、今回の本題とは関係がありませんので、またの機会にお願いします!
ラッド:え、でも……。
――さて! 豪華なお二人にお越しいただいたことで、ここにマニュアルアーツの第一人者と呼ぶにふさわしい人が全て集まったと言っても過言ではないでしょう。ここからはお二方と共に、マニュアルアーツの影響が実際はどの程度のものなのか。そして、マニュアルアーツを世に広めた本当の立役者が誰なのか、深く探っていきたいと思います!
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マニュアルアーツは「次元の違う」技
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――早速ですが、噂のマニュアルアーツ。冒険者の歴史を変える、などといういささか大げさな話も聞かれていますが、本当のところはどうなんでしょうか? ギルドマスターの立場から、客観的かつ冷静なご意見をお願いします。
ヴェルテラン:ん? ああ。そりゃまあ、歴史くらいは変わるだろ。
――か、簡単におっしゃいますね(笑) ですが、このマニュアルアーツというのは今まで自動で使っていたアーツを自分で使えるようになるだけですよね? 本当に、そこまでの有用性があるんでしょうか?
ヴェルテラン:オレも最初はそう思ってたんだがな。自分でちいとばかり試してみたが、このマニュアルアーツってのは、既存のアーツ、まあここでは『オートアーツ』と呼ぼうか、オートアーツとはもはや別もんだ。
――別物、というのはどういうことか、具体的にお聞きしてもよいでしょうか?
ヴェルテラン:昔も、強力なアーツを覚えることに躍起になる奴らもいたけどな。俺は正直、そいつらのことをバカにしてた。何しろオートアーツってのは、使ってる間はそれ以外の動作が出来ねえし、大半のアーツは使ってる間に足が止まる。一番簡単な〈Vスラッシュ〉だって、何の考えもなく使ってりゃあ技が終わる前に一発くらいは殴られるのが普通だ。
――メリットもあるけれど、リスクも大きいということですね。
ヴェルテラン:大きすぎなんだよ。で、初級のアーツだってそんななのに、アーツってのは上位のもんになるほど技にかかる時間も多くなる。五連撃のアーツを覚えて喜んでる奴なんてのもいたが、いくら威力が高くったってそんなん、ぶっちゃけ自殺と変わらねえだろ。
――なるほど、そう伺えば納得です。ですが、〈疾風剣〉のように移動を伴うアーツもありますよね? それについては……。
ヴェルテラン:あの辺は確かに自分で走る以上の速度で動けるから便利ではあるが、制御出来ない、って意味じゃ大差ねえよ。〈疾風剣〉をオートで使った時、ほとんどの奴が一度は経験する失敗ってのがあるんだ。何か分かるか?
――い、いえ? その辺り、私はあまり詳しくないので……。
ヴェルテラン:止まれなくて、敵に頭突きするんだよ。
――え、えぇ……。それはまあ、ひどいですね。
ヴェルテラン:だろ。けど、そこへ行くと、マニュアルアーツはちげえ。剣を振っている間も自由に動けるから、間合いを取るのも詰めるのも自由自在だ。〈Vスラッシュ〉にしたって、足を止めて二連撃、なんてアホなことをする必要はねえ。初撃をあえて手前で撃ってから距離を詰め、二発目だけを当てて離脱してもいいし、雑魚相手なら一発目で手前の敵を斬って、前に進んで二発目で奥の敵を片付けることも出来る。
――アーツ中の行動の幅が広い、ということですね。
ヴェルテラン:そういうことだな。ついでに言えばマニュアルならアーツを途中で中断することも出来るから、初撃だけ当ててやばそうなら撤退、なんてことも可能だ。これもでかい。
――う、ぐ。な、なるほど。それは確かに、多少は有用かもしれませんね。
ヴェルテラン:気取った言い方をするなら、オートアーツってのは基本、敵の前で平面にお絵描きをする二次元の技だった。だが、マニュアルアーツがそこに、今までのアーツになかった奥行きって概念を追加したんだよ。だから言ってみりゃマニュアルアーツはまさに、オートアーツとは本当の意味で「次元の違う」技ってことだな。
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マニュアルアーツはテクニカル! 分かる? 単純作業じゃないわけ!
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――どうやらヴェルテラン氏にはマニュアルアーツに並々ならぬ想いがあるようですね。やはりギルドマスターという立場からすると、こういう新しい風を呼び込む要素は魅力的に映るのでしょうか。では今度は現役の冒険者の代表として、ラッドさんにもお話を伺ってみたいと思います。
ラッド:は、はい!
――そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。では、ラッドさんは現役の冒険者として実際にマニュアルアーツを運用していると思いますが、マニュアルアーツがオートアーツと比べて優れていると感じるところ、また、劣っている、難しい、不便だ、などと感じるところを率直に話していただけますか?
ラッド:その、マニュアルアーツで一番不便なのは、やっぱり思い通りに発動させるのが難しい、ことだと思います。
――なるほどなるほど!! いいですね!! ぜひ、詳しくお願いします!!
ラッド:は、はあ……。あの、今さらオレが言うようなことじゃないと思いますけど、オートアーツは発動条件さえ満たしていれば勝手に使ってくれる……くれます、が、マニュアルアーツは違います。技の動きを覚えて、きちんとそれを再現しないと「失敗」するんです。
――うわあ、それは大変ですね!! じゃあ、その「失敗」が戦闘中に起こってしまったら……。
ラッド:え、ええと、もちろんピンチになると思います。あ、でも失敗しても普通の攻撃になるだけなので、棒立ちになったりはしないですけど。
――棒立ちという訳ではなくても、戦闘で不利になるのは間違いないですね!!
ラッド:まあそれは……そういうこともあるかなって。あ、でももちろん、完全に習得すればそういうこともほぼなくなると思います。
――なるほど。ですが、マニュアルアーツを完璧に習得するのは難しいと伺いしましたが?
ラッド:は、はい。難しいです。オレもまだいくつかの技を使えるようになっただけですし、それに、ええと、マニュアルアーツは応用してさらに自分の好きなように軌道を変えたりできるんですけど、そういうテクニックは全然で……。
――軌道を変えるテクニックというのは、ギルドの冊子に記載されている〈崩し〉や〈払い〉のことでしょうか。
ラッド:そ、そう! それです! それから、アーツを重ねる技とか、アーツの合間に方向転換する技とか……。
――〈ダブルアーツ〉に〈スイッチターン〉でしょうか。
※編者注
〈崩し〉は「剣の振り方を工夫することで、アーツを成立させながらその軌道の長短を調整する」技術。
〈払い〉は「わずかな間であればアーツの軌道から逸脱してもアーツの補正が続くことを利用して、アーツの最後の一振りを本来より長い軌道にする」技術。
〈ダブルアーツ〉は「〈オーバーアーツ〉のスキルを利用して、アーツの効果を二重に発動させる」技術。
〈スイッチターン〉は「〈オーバーアーツ〉入力時のわずかな合間を利用してコンボ中に方向転換や剣の位置の微調整をする」技術。
それぞれの技術について詳しく知りたい場合はギルド資料室の冊子『ゴブリンでもわかるマニュアルアーツ』(レクス・トーレン著 禁帯出)を参照のこと。
ラッド:そういうの、ずっと練習してるんですけど、まだできるようにならなくて……。
――マニュアルアーツの難易度は相当に高いようですね! でしたら、現時点でマニュアルアーツ未修得の人たちは……。
ラッド:はい! 今すぐ、一分一秒でも早く、マニュアルアーツの訓練を始めた方がいいと思います!
――は?
ラッド:え?
――あ、いえ、失礼しました。いえ、てっきり習得難易度が高いので、マニュアルアーツを覚えるのはやめた方がいいという話になるのかと。
ラッド:あははは、まさか! むしろ一度マニュアルアーツを使ったら、もう二度とオートアーツには戻れないと思います!
――そう、ですか。
ラッド:はい! だから、まだ注目度が低いうちに全力で覚えるべきだと思います。資料室の冊子とかも今でももう奪い合いですけど、これからますますひどくなっていきそうですし!
――えー。あー。えー……。まあ、冒険者というのは訓練好きの人も多いと聞きますしね。現役冒険者の中にはそういう感覚の方もいる、ということですね。参考になりましたありがとうございます。
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マニュアルアーツは古い冒険者を駆逐する?
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――ここまで、マニュアルアーツの利点についてお二方には熱く語っていただきました。なのでここからは視点を変えて、マニュアルアーツの欠点や問題点について詳しく話を伺っていきたいと思います。
ラッド:問題点……。うーん、でも、基本的にはマニュアルアーツはオートアーツの上位互換だし……。
――何かありませんか? 些細なことでも構いませんので。
ラッド:え、ええと、そう言われても……。
ヴェルテラン:ま、習得が難しいってのがでっけえ欠点として、ギルドマスターの俺からすると、もっと頭の痛い問題ってのはあるな。
――流石ですね! ぜひ、解説お願いします!
ヴェルテラン:俺が今一番頭を抱えてるマニュアルアーツの問題点。それは、「マニュアルアーツがあまりにも便利すぎる」ってことさ。
――は? ……あ、いえ、たびたびすみません。それはどういう意味でしょうか?
ヴェルテラン:そのままだよ。マニュアルアーツはあんまりにも強すぎるんだよ。だから、簡単に今までの常識やバランスをぶっ壊しちまう。
――具体的にはどういうことでしょうか?
ヴェルテラン:例えば、前線に立つアタッカーは昔は俺みたいな攻撃と防御を兼ね揃えた人間が重宝されていた。何しろ、アーツを放つ時は足を止めて殴り合いをしなきゃいけなかったからな。
――それが、移動しながら攻撃可能なマニュアルアーツの影響で変わるかもしれない、と。
ヴェルテラン:かもしれねえ、じゃなくて、絶対に変わるさ。今まで不遇だった軽戦士がこれから日の目を浴びるのは確実だろうな。それに、盗賊や僧侶みたいな中衛職の戦闘能力もおそらくは大幅に上がる。何よりやべえのは、影響を受けるのは直接マニュアルアーツを使う奴だけじゃねえってことだ。
――それはどういう意味でしょうか?
ヴェルテラン:パーティってのは、全体のバランスと戦略が重要だ。マニュアルアーツが浸透すれば、確実に戦士職の攻撃力は何ランクか上がる。それだけならいいが、その煽りを受ける奴もいるんじゃねえかって話だ。ま、一番割を食いそうなのは物理遠距離職かな。
――弓や投擲武器を使うクラスですね?
ヴェルテラン:遠距離武器ってのはアーツではなくスキルで戦う。戦士と弓使いじゃ昔は火力にそんなに差はなかったが、マニュアルアーツがその差を広げるだろうからな。もちろん完全になくなりはしないだろうが、弓使いがリストラされたり、戦士や盗賊に転職したり、ってのはこれからたくさん出てきそうだぜ。
――なるほど、職ごとの重要度が変わってしまうと。
ヴェルテラン:しかも、そいつがどこまで変わるかが全く分からん。例えば魔法使いの需要はまた近接物理の需要とは別だが、戦士職がレベルや職の制限を無視して自由に属性アーツや範囲攻撃アーツを覚えていったら全く無関係じゃいられないだろうしな。
――……思ったよりも大きな影響があるんですね。
ヴェルテラン:だから、「歴史が変わる」って言っただろ。……へっ。右往左往してるベテラン冒険者を見てると、引退してよかったかもしれねえって少しだけ思っちまうぜ。冒険者にとっちゃ、ここから新時代だ。新しいものに適応出来なきゃ、静かに消えてくしかねえからなぁ。
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見出された「真実」
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――分かりました。マニュアルアーツが、冒険者にとって大きな意味を持っているのは確かなようです。まあ実際便利ですし、そこは認めざるを得ないでしょう。ですが、その立役者については大いに議論の余地があるのではないでしょうか。
ヴェルテラン:ん? 何が言いたいんだ、お前は。
――今、巷では「マニュアルアーツの提唱者はレクス・トーレンである」という認識が広まっているようです。だが、果たしてそれは真実でしょうか?
ヴェルテラン:おいおい。お前がそれを言うのか?
ラッド:一体、何を言って……。
――無敗の剣聖。闘技大会の最終戦で剣聖ニルヴァが見せたマニュアルアーツが、世間のマニュアルアーツへの関心を呼びました。かの剣聖こそが、本当の意味でマニュアルアーツを広めた立役者である、と言えるのではないでしょうか?
ラッド:いや、それは……。
――何でも「剣聖ニルヴァこそが本当のマニュアルアーツの開発者なのではないか」という噂もあるとか……。
ヴェルテラン:おいおい。お前がどういう風に話題を誘導したいのかってのは分かったがよぉ。流石にそれは無理筋ってもんだぜ。
――ゆ、誘導なんて……。
ヴェルテラン:いいか。まず「剣聖がマニュアルアーツを作った」なんて噂、俺は一度も聞いたことがない。それに、剣聖ははっきりと「その技はレクスに教わった」って言ってたじゃねえか。この時点で考慮にも値しねえよ。
――そ、それは……。
ラッド:オレも、「剣聖がマニュアルアーツを作った」っていうのはありえないと思う。
――ラ、ラッド!
ラッド:剣聖が両手でアーツを使ったのは見事だった。たぶん、ほとんど自己流だったのに、純粋にすごいと思う。……だけど、それだけだ。
――それだけ?
ラッド:あのアーツには確かに驚かされたし、本人の基礎能力のおかげで強力でもあった。でも、純粋にマニュアルアーツの技量だけを見たら、その完成度は師匠の足元にも及ばない。だから、あの人がマニュアルアーツの創始者だなんてことは、ありえないんだ。
――う、く……。
ラッド:なぁ、もういいだろ、おっさん。どう言い繕ったって、マニュアルアーツを広めたのは……。
――か、仮に練度が低かったとしても! マニュアルアーツを周知した功績という点では、剣聖が一番……。
レシリア氏(以下レシリア):もういい加減、諦めたらどうですか?
――なっ! きゅ、急に、何を……。
レシリア:こうなった以上、もう剣聖にマニュアルアーツの第一人者の功績を押し付けるのは無理ですよ、兄さん。……いえ。こう言った方がいいですか?
冒険者通信特別派遣員の、「レクス・トーレン」さん?
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冒険者通信拡大版、特別派遣員レクス
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――レ、レシリア! インタビューの時は静かにしてるって約束で……。
レシリア:そのつもりでしたが、兄さんがいつまで経っても往生際の悪いことをしているので。
――お、往生際が悪いって……。
レシリア:まったく。ただでさえ忙しい兄さんが、嬉々として「インタビュー記事の記者をやる」なんて言い出した時は正気でも失ったかと思いましたけど、こういうことだったんですね。
――そ、それは……。
レシリア:兄さんが自分の名声を煩わしく思っていることも、そのせいで仕事が増えて、自分の時間も、私との一対一の訓練の時間も取れない今の状況をこころよく思っていないことは知っています。だから、この前の闘技場での仕返しを兼ねて、「この名声を剣聖に押し付け返したい」と考えたのも、まあ理解は出来ます。
――べ、別にそんな……。
レシリア:ですが! 分かったはずです。冒険者ギルドにおける兄さんの功績は、もう誰にも揺るがせないところまで来ています。たとえそれが、兄さん自身であっても。
――…………はぁ。分かった。分かったよ。
ヴェルテラン:へっ、やっと観念したか。
――そういう訳じゃない。ただ、こんなもん、結局身内同士で褒め合ってるだけだからな。記事としちゃ使えないと気付いただけだ。
ヴェルテラン:はははは! ま、理由は何でもいいさ。お前が自分の立場を受け入れたなら、それでな。
――ちっ。俺はもう帰るぞ。
ヴェルテラン:おっと、それはそうと、音声記録水晶は置いてってくれよ。高いんだぞ、それ。
――分かってるよ。……ほら。
ヴェルテラン:確かに。
――それじゃあ俺は行く。……今日は、悪かったな。
ヴェルテラン:ま、いいってことさ。実はマニュアルアーツの宣伝になりそうな題材には心当たりがあってな。ま、適当にエリナにでもまとめさせて代わりの記事をでっちあげるさ。
――用意周到だな。ま、俺が言えたことじゃないが、あんまり変な記事は……。
ヴェルテラン:大丈夫、こっちにはそんな意志も技量もない。取材で出てきたもんをそのまま書くさ。
――その言葉、信じていいんだな。
ヴェルテラン:心配するな。ありのままを、そのまま書く。それだけで面白いもんになるネタを、ちゃんと仕入れておいたからよ!
※編者注
この記事は、冒険者通信の特別派遣員を快く引き受けてくださったA級冒険者レクス・トーレン氏の行ったインタビュー記録をもとに、冒険者ギルドの広報担当職員であるエリナが文字に起こして編集したものです。
我ながら、三ヶ月ぶりの更新、しかも書籍化発表の大事な時に突っ込むネタじゃない、と思いつつ、これを書くためだけにネットの怪しげなインタビュー記事をひたすら漁ってました!
独特の胡散臭さみたいなのを感じ取っていただけたら幸いです!
あ、次回更新は明日
今度こそ第四部導入になります





