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主人公じゃない!  作者: ウスバー
第一部 死の運命
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第五話 決闘準備完了!

2020年1月1日0時0分に連載開始とかめっちゃかっこいいじゃん!と思ってたんですが、小説情報見たら開始日は予約投稿した「2019年 12月31日 22時33分」に

そういやそんな仕様でしたね……


 地響きと共に、ドゥームデーモンの巨体が俺たちの前に着地する。



 ドゥームデーモンは二メートルを超える巨体に、見るからに堅牢そうな真っ黒な皮膚を張りつけた悪魔だ。


(……大丈夫、大丈夫だ)


 可能性としては、考えていたこと。


 リクシアの町に行けばガーゴイルが、ウミナの村に行けばドゥームデーモンが襲ってくる。

 じゃあ、ほかの街に辿り着いた場合は?


 その答えが、目の前のドゥームデーモンなんだろう。


(結局、どの街に行ってもイベントからは逃げられないってことか)


 実際のところ、どうなのかは分からない。

 ただもう、どうでもいいことだ。


「こいつを頼む」


 俺は抱えていたレシリアをラッドに預けると、インベントリからアイテムを取り出す。

 採取で手に入れた〈還癒の幻粉〉を身体にふりかけ、〈秘境の汽水〉を飲み干した。


 身体が熱くなり、力が湧きあがってくるのが分かる。

 これで多少は戦えるようになる……と信じたいところだ。


「行け。街に行って、助けを呼んで来い」


 幸い、ドゥームデーモンが降り立ったのは街とは反対側だ。

 誰かがデーモンの相手をしていれば、ほかの人間が街に逃げ込むことは出来る。


「お、おっさん!」

「こいつは、俺が抑える」


 ゲームの台詞を思い出しながら、ゆっくりとこっちに歩み寄るデーモンをにらみつける。


「私が、行く! 必ず、援軍を呼んでくるから!」


 新人たちが行動に迷う中、素早く動いたのはアーチャーのプラナだ。

 その機敏さが、今はありがたい。

 とはいえ……。


(ゲームの通りに物事が進むとすると、どれだけ急いでも意味ないんだろうけどな)


 このイベントははっきりと覚えている。


 健闘虚しく、禍々しい光をまとったドゥームデーモンにレクスの胸が貫かれ、倒れると同時に街からの援軍がやってくる。

 これは単なるイベントの都合で、レクスとデーモンの戦いがどれだけ長かろうが、短かろうが、関係ない。

 必ずイベントの通りになるとは言い切れないが、援軍の期待は出来ないってことだ。


「お、おっさん! オ、オレも戦う!」

「わ、わたしも! 回復くらいは!」


 後ろから声をあげるラッドとマナに、俺は前を見たまま叫び返す。


「やめておけ! お前らに敵う相手じゃない」

「だ、だけどよ!」

「五分だ! 五分だけ、そこで見てろ!」


 言い捨てて、剣を構える。

 もうデーモンはほんの数メートルの距離まで近づいてきている。

 構っている余裕はなかった。


「っ!」


 デーモンの真っ赤な瞳が光り、その巨体が動く。

 右手にした巨大な槍を独特の動きで大きく引き、左手を前に突き出す、親の顔より見たモーション!


(槍の汎用アーツ、〈スティンガー〉!!)


 即座に攻撃を見切った俺は、全力で身体を右に傾ける。

 直後に耳元を駆け抜ける、ゴウ、という風切り音。


(は、やい!)


 来ると分かっていなければ絶対に避けられなかった。

 恐怖に竦む身体に鞭を打ち、歯を食いしばって右足を踏みしめ、伸び切った相手の腕に向かって剣を振るう。


「こんの!」


 渾身の一撃はしかし、硬質な手応えと共に弾かれた。


(ちきしょう! ステ差がありすぎる!)


 向こうはレベル60でこっちは50。

 しかも、レクスはレベル詐欺で実際の能力値は30レベルのキャラと同程度。

 装備もレベル50とは思えないほど貧弱で、普通に考えれば勝てる要素はない。


 無為に終わった腕への一撃で千載一遇のチャンスは終わり。

 突きのモーションを終えたデーモンが、槍を切り返して薙ぎ払う。


 対する俺は、腕への攻撃が不発に終わったことで、体勢が崩れている、だが……。


(だからって、諦めてもいらんねえんだよ!)


 アーツではなく、腰も入っていない雑な横払い。

 それを咎めるように、俺は左手の盾に魔力を込めて迎撃する。


 本来では勝負にならないはずの威力差。

 だが、システムはその差を簡単に埋める。


(パリィ!)


 利き手ではない手に持った武器に魔力を込めれば、アーツではなくパリィになる。

 タイミングこそシビアだが、パリィを決めればどんな能力差があろうが攻撃は弾ける!


「ガ、ァア?」


 攻撃を弾かれ、デーモンが動揺したような声を漏らす。


 だが、ここで追撃する余裕はない。

 後ろへ下がり、一旦体勢を立て直して……。


(ま、ず――!)


 距離を取るべく後ろに跳んだ俺の前で、デーモンがかつてない動きを見せる。


 下段。

 槍を大きく構えて、これは……。


(槍の専用アーツ、〈ウェイブスラスト〉!)


 広範囲かつ高威力。

 そして、パリィ不能!


(着地を狩られたら避けられない。なら、一か八か!)


 判断は、一瞬。

 俺はバックステップの途中で身体を傾け、無我夢中で剣を動かす。


 本来なら、敵の足元を狙う軌道を描く〈ウェイブスラスト〉に対抗出来るアーツはない。

 だが……。


「こな、くそぉ!」


 アーツをオート発動させれば、正面に向かって自動で技を使ってくれる。

 その斬線はそのアーツの理想形ではあるが、絶対条件じゃない。


 アーツのマニュアル発動の場合、発動に必要なのは武器の動きと角度だけで、画面に対しての向きや始点は考慮されない。

 だから、プレイヤーや武器に角度がついた状態でアーツを始動すれば、アーツの軌跡もまた、「傾く」。


 つまり、



「変則……〈居合抜き〉!」



 本来の位置とは外れ、ぴったり足元から発生した斬線が、ウェイブスラストを迎撃する!

 威力で負け、武器こそ弾かれダメージを負ったものの、凌ぎ切る。


 ――これが、アーツの手動発動の強み!


 始点を選ばないマニュアル発動なら、武器の位置を変えたり、あえて武器を傾けてアーツを始動させることで、その軌道をある程度自由に操作出来る。


 上から下から横から。

 角度をつけてえぐりこむように撃ったり、左を見ながら右を斬ったり、なんだって出来る。


「まだ、だ!」


 自分の一撃が防がれ驚いたのか、反射的に繰り出された気の入ってない一撃を、パリィで返す。


 晒される大きな隙。

 しかし、これでただ殴っても、ダメージが通らないことはもう分かっている。

 ならば……。


(――〈疾風剣〉)


 デーモンの脇腹を撫でるように剣を振るい、その身体を抜けたところであえてアーツを「外す」。

 残った勢いのまま身体を回転、腕を引きながら特殊な軌跡を宙に描き出す。


 狙うは、一つ。

 無防備に晒されたデーモンの背中。



「――〈冥加一心突き〉!!」



 解き放たれた一撃は、いまだに状況を把握し切れていないデーモンの羽の付け根に、綺麗に吸い込まれた。


「ガ、アアアアアアア!!」


 怒りとも痛みともつかぬ叫びに振り回される腕。

 俺はそれをバックステップで躱すと、息を整える。


(ああ、くそ……!)


 ドクドクドクと心臓が狂ったように脈を打ち、手の震えは止まらない。

 だが、俺は知らず知らずのうちに、笑みを浮かべていた。


 だって、そうだろ?

 さしものドゥームデーモンも、背面から攻撃力の高いアーツをぶち込めば多少のダメージは通る。

 そして、ダメージが通るってことは、倒せるってことだ。


「す、げえ……」


 デーモンの肩越しに、呆然とこちらを見つめるラッドたちの姿が見えた。

 自然と、笑みが深くなる。


 借り物の力で無双するのも楽しかったが、所詮ゲームとはいえ、自分が積み重ねてきた努力が形になるのは最高に気分がいい。

 死と隣り合わせの高揚感に、心が沸き立つ。


 だけど、まだだ。

 この程度じゃ、終わらない!


 デーモンは怒りに震える瞳で俺をはっきりと見据え、その苛立ちの大きさを示すように、槍を深く構えて地を這うように引かせる。

 どうやらただの攻撃はパリィされると学び、出し惜しみせずにアーツを放とうとしているようだが、無駄だ。

 その技も、もう知っている。


(槍系中距離アーツ〈地走り〉)


 心の中でデーモンが撃ってくるアーツ名を唱えながら、俺はゆらりと身体を右に傾け、同時に魔力を込めた剣を左から右に振る。


(――〈トライ、エッジ〉)


 デーモンの槍が地面を穿ち、土を巻き上げる。

 しかし、その先に相手がいなくては意味がない。


 一方で、早めに振った俺の剣もまた、当たらない。

 だが、それでいい。


(オーバーアーツ!!)


 傾いた身体を戻しながら剣にさらなる魔力を込め、右から左、袈裟懸けの一撃を放つ。

 しかし、それも届かない。

 届かない、が、地走りを放ち終わったデーモンが、槍を引き戻すより速く。


(――〈Vスラッシュ〉!)


 最後、本命の三撃目が、デーモンの腕を捉えた!


「グ、ァアアア!」


 先程は弾かれた腕への攻撃が、見事にデーモンに苦悶の叫びをあげさせる。


 以前の無機質な表情でもなく、仇敵を睨む表情でもなく、心底理解出来ないものを見るように俺を視界に収めるデーモンに、俺は深く深く笑みを浮かべた。


(そうだよな。分かんねえだろ、お前には。分かんねえもんは、怖いよなぁ?)


 これが、レクスになくて俺にだけある力。

 ゲームとしてこの世界を捉えたものだけが使える、システムとしてのテクニック。


 そうだ、これが……。



「――これが、税込み二万三千七百六十円を生贄にした力だ!」




続きは夕方くらいに

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ちょっとした記入ミスで、登場人物も、世界観も、ゲームシステムも、それどころかジャンルすら分からないゲームのキャラに転生してしまったら……?
ミリしら転生ゲーマー」始まります!!




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― 新着の感想 ―
[気になる点] ………………………………課金??
[良い点] あるってわかってても笑う、この決め台詞。 マップやシナリオはうろ覚えでも、細かい額まできっちり覚えていて、瞬時に口に出るところが更に笑える。 この展開とこの台詞、作風を象徴していると言っ…
[一言] 主人公さんは同郷の人かな?
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