第五十五話 ニルヴァ
ロケランとか使いまくってバイオRe3の実績コンプしたので更新再開します!
インフェルノニコライ絶対に許さねえからなぁ!(一敗)
ブレブレの攻略掲示板において、あまりに優遇されすぎた性能から、いつのまにか〈チート四天王〉なんて呼ばれ方をされるようになったキャラたちがいる。
一人目は、ブレブレの顔とも言える超人気キャラクター〈光の王子アイン〉。
あまりの優遇具合から「チート・オブ・チート」の名をほしいままにしている彼は、ブレブレの登場キャラの中で断トツでトップの素質値、どう考えても強すぎる専用職業、潤沢に用意されたイベント、さらには大国の第一王子でイケメンと、まさに完全無欠のチート野郎だ。
その能力は器用貧乏ではなく正しく万能で、ある意味ではレクスの完全上位互換と言える。
二人目は、ゲーム後半におけるプレイヤーの最大の敵である〈常闇の教団〉の首魁〈闇の王子〉。
〈常闇の教団〉は「プレイヤーがゲームをうまく進めているほど強くなる」という意地の悪い性質を持っているため〈闇の王子〉自身の強さにもバラつきはあるが、強い時のこいつは本当に頭おかしいくらいにやばい。
出会いがしらの全体攻撃で俺のパーティを半壊させ、俺に三周目での完全攻略を断念させた元凶の一つでもある。
三人目は、ノームの国の指導者である女傑〈白の女王ハアト〉。
彼女は高レベル高ステータスではあるものの、ほかの二人に比べると初期の能力にインパクトはない。
ただし、〈水の神〉の巫女である彼女は、神の覚醒イベントをこなすことによって全能力値が激増、突然最強の一角に躍り出る。
特に精神値の伸びはすさまじく、ブレブレ世界のナンバーワンヒーラー候補と言ったら彼女になるだろう。
この三人は、いずれも「仲間にならないからこそのぶっ壊れ性能」の持ち主であり、それぞれの分野においてほかの追随を許さないほどの強さを持つ。
しかし、一対一で戦う場合の戦闘力は、おそらくもう一人に一歩譲る。
その「タイマン最強のもう一人」こそが、四天王の四人目。
闘技場の不動のチャンピオン、〈無敗の剣聖〉であるニルヴァである。
※ ※ ※
(それが、何でこんなとこにいるんだよ!)
底なし沼に足を踏み入れたような絶望と共に、剣聖のステータスを眺める。
――――――
ニルヴァ
LV 70
HP 2120
MP 385
筋力 975(SS)
生命 975(SS)
魔力 300(B)
精神 450(A-)
敏捷 825(S+)
集中 525(A+)
――――――
何回見ても変わらない。
ゲームの中で何度も何度も目にしてきた、暴力的とも言えるすさまじい能力値。
対して俺のステータスと言えば……。
―――――――
レクス
LV 50
HP 530
MP 265
筋力 200(C+)
生命 200(C+)
魔力 200(C+)
精神 200(C+)
敏捷 200(C+)
集中 200(C+)
――――――
もはや比べることすらおこがましい。
装備のエンチャで多少は盛ることは出来るものの、そんなものが焼け石に水にしからならないほどの差。
何がどうひっくり返ったって勝てるはずがない。
(くそ! あいかわらずチートじみたステータスしやがって!)
ニルヴァのステータスを見ると、まずレベル七十という常識外れの高レベルが目につくが、それがニルヴァの強さの根幹ではない。
例えばニルヴァと似たステータス傾向を持つラッドがこのままレベル七十まで成長しても、とてもその域には辿り着けないだろう。
今のラッドは、通常の冒険者と比べればかなり強い。
それは一レベル当たりの能力値上昇量が大きいからだ。
例えば一般的な三次職の冒険者を考えてみると、まず素質値の平均が十八、職補正は三次職としたら十二。
大体が一レベルにつき三十ずつ能力が上がっていく。
対してラッドは、通常よりも大幅に多い素質値二十二を持っているのに加え、訓練で使いこなせるようになったブレイブソードによる転職で、早々に職補正十五を確保。
そこに装備による補正が三加わって、一レベルにつきなんと四十も能力が上げられる。
この三十と四十の間に横たわる十の差が、ラッドの努力の結晶であり、最大の強み。
レベルアップの度に、ラッドは一般的冒険者を十ずつ突き放していくことになる。
――だが、ニルヴァはこれを軽々と超えていく。
素質値はラッドの二十二を悠々と上回り、主人公の二十五すら越える圧巻の二十六。
さらには近接系最強職である〈剣聖〉の補正は二十四もあり、固定の専用装備にはダメ押しのように補正が四もついていて、その合計値は驚愕の五十四。
ラッドはレベルが一上がるごとに、ニルヴァに十四ずつ突き放されていく。
そして本当にチートなのは、ニルヴァが文字通りの意味で「生まれながらの剣聖」だということだ。
通常、クラスは強いものほど転職条件が厳しいため、成長するに従って上位のクラスに転職していくのがセオリーだ。
例えば〈冒険者に憧れる都会の少年〉主人公であれば能力補正が二しかない〈ヤングレオ〉、ラッドであれば近接系一次職の〈ファイター〉のような初期職業から始まり、〈ソードマン〉や〈インペリアルソード〉のような上位職に少しずつ成長していく、というのがRPGの常だ。
特に能力値補正の多い〈ニンジャ〉や〈剣聖〉のようなユニーククラスは最高の転職難易度を誇り、最低でも四次職相当の能力値を持った上で、さらに特殊な条件を満たすことが必要になってくる。
だが、ニルヴァやアインといった、一部のユニークキャラは違う。
彼らは職業が固定であり、転職条件とは関係なく、初期職業としてユニーククラスについているのだ。
ラッドが〈ブレイブレオ〉になる前、補正が六しかない〈ファイター〉をやっていたレベル一の頃から、ニルヴァは補正二十四の〈剣聖〉として生まれ、ずっと五十四の成長をしていたことになる。
過去、現在、未来。
その全てにおいて最強。
――それが、〈剣聖ニルヴァ〉という存在なのだ。
※ ※ ※
「……レクス?」
俺を見るプラナとマナの視線に誘導されるように、ゆっくりとニルヴァが振り向き、俺を視界に捉えた。
その視線の圧力に、何もされていないのに一歩後退しそうになる。
(……落ち着け。落ち着け)
早鐘を打つ心臓をなだめながら、俺は精神力を振り絞ってニルヴァを視界に捉え続ける。
(ここは街中だ。いくらあいつが強くても無茶は出来ない)
ブレブレの世界では個人の力が非常に強く、例えば高レベル冒険者がその気になれば一般人は絶対に抵抗出来ない。
それでも社会が回っているのは、罪を犯した者に対してだけ圧倒的な能力を振るえるNPC限定職業〈ジャッジメント〉がいるからだ。
犯罪キャラクターはジャッジメントにダメージを与えることは出来ず、逆にジャッジメントのスキルはあらゆる防御を貫通し、犯罪者に対して罪の重さに応じたダメージや永続デバフを入れられる。
強いからと言って無法を働くことは、少なくともジャッジメントが多数巡回するフリーレアのような街においては自殺行為なのだ。
(だから、大丈夫。そのはずなんだ)
それでも、その気になれば自分を一太刀で殺してしまえる相手と対峙しているという威圧感は消えない。
どうしても及び腰になる俺を見てニルヴァはフンと鼻を鳴らすと、興味を失ったようにふたたびプラナたちを見た。
「ち、近付かないで!」
そして、プラナの警告を無視して彼女に歩み寄っていく。
マナは俺に助けを求めるような視線を向けてくる。
流石にそれを無視するのは良心が咎めた。
やけっぱちな気持ちで、ニルヴァとプラナの間に割って入る。
「待て。どうするつもりだ」
声が震えていないか、自信がなかった。
それでも、ニルヴァの注意は引けた。
「どけ。我が用のあるのはそこの女にだけだ」
ニルヴァの発する圧力に、思わず怯みそうになる。
俺は怖い物知らずのA級冒険者レクスだ。
そう自分に言い聞かせ、ニルヴァの目を正面から睨み返す。
「悪いが。その二人は俺の弟子なんでね」
精一杯の虚勢を込めたその台詞は、
「くだらん」
吐き捨てるような言葉で、一言で斬って捨てられた。
「く、下らなくなんてない! レクスは立派な……」
その言葉に反応したのは、俺ではなくプラナたちだった。
だが、何かを言いたげな二人を、俺は手だけで制する。
正直、イラッとくる気持ちはある。
強さに未練を残す身として、俺にだって一度はこいつに勝ちたい、という思いはある。
ただ、実際問題として、現状ニルヴァが圧倒的に格上であることは事実であり、はっきり言って今は勝ち目がない。
この場はとにかく、やりすごして……。
「第一、弟子とは笑わせる。肝心の貴様がその弱さではな」
「なっ!?」
追い打ちの言葉と共に、剣聖の視線が俺を射抜く。
「貴様も剣士の端くれなら分かるだろう。我と貴様の間に横たわる実力の差が」
「それ、は……」
悔しいが、言い返せなかった。
ニルヴァと俺の実力差を一番理解しているのは、俺だ。
ステータスを可視化させることが出来、ゲームでニルヴァのスペックを知っている俺は、誰よりもその差を理解している。
だけど……。
「人には才があり、それによって格が決まる。そして、今の貴様からは剣の実力はもとより、いかなる才気も感じない。断言しよう」
剣聖は俺を見下すように眺め、そしてこう言い放った。
「――貴様が我に並ぶことは、未来永劫、二度とない」
頭を殴られたような、衝撃があった。
何もされていないのに俺はよろめき、目の前が黒に染まる。
ニルヴァはそんな俺を道端の石ころを見るような目で見ると、さらに一歩足を進める。
だが……。
「……待て」
その眼前に、俺はふたたび、立ち塞がった。
「何のつもりだ? 言ったはずだ。我は弱者に用はない」
「確かに今の俺は弱い。だけどな。未来の俺はそうじゃない。絶対に、お前を越えてみせる」
しかし、その言葉は剣聖には響かない。
「口では何とでも言える。そのような……」
「なら、証明すればいいんだろ」
だから、ニルヴァの言葉をさえぎるように、俺は決定的な言葉を吐く。
やめろ、と叫ぶ自分と、進め、と叫ぶ自分がぶつかり合い、結局は後者が勝った。
俺はインベントリから手袋を取り出してニルヴァに投げつけると、
「『魂の決闘』だ。……まさか、逃げたりしないよな、剣聖様」
後戻りの出来ない宣戦の言葉を叩きつけたのだった。