第五十四話 最強
小説は基本テキストファイルに書いたのをなろうにコピペして投稿してるんですが、一緒に作中の年表だのキャラ設定だの裏でやってるゲームのパスワードだのをメモするせいで最近カオスなことに
もし作品の中に唐突に「警察署ロッカー CAP DCM」みたいな謎の文字列が入ってたらたぶん伏線とかではないので、そっと誤字報告をお願いします
見事な戦術で〈エルダーリッチ〉を撃破し、女神が見守る中で華麗にダンジョンを脱出したあと、俺たちはすぐさまほかの〈闇深き十二の遺跡〉を巡り、そのダンジョンからアイテムを回収した。
〈闇深き十二の遺跡〉は「攻略順によって難易度が変わる」というコンセプトのダンジョンだ。
それはダンジョンのボスを倒し、その奥の像を破壊することでゲームが進行し、ほかの遺跡のモンスターが強くなるからだが……。
――逆に言えば、像を破壊してダンジョンを完全攻略しなければ、どれだけ遺跡のアイテムを漁ってもほかの遺跡は初期状態のまま、なのだ。
現在、〈闇深き十二の遺跡〉のモンスターのレベルは初期値である二十五。
今の俺たちならどの遺跡も簡単に進めるし、アイテムの回収も出来る。
さらに、遺跡の宝箱のほとんどは中身が固定だ。
モンスターが強い時期に来ても弱い時期に来ても入手アイテムが変わらないため、取るのは早ければ早い方がいいのだ。
(本当は、ボスのドロップアイテムも回収したかったんだが)
残念ながらボスの強化だけは「ボスを撃破した時」に行われる仕様のため、「最弱状態のボスを倒しまくってアイテムゲット」というのは出来ない。
まるで対策されたかのようなこの仕様は、あるいはテストプレイヤーの中に俺と同じことを考える奴がいたからだろうか。
もしかすると現実化の影響でそこも変わっている可能性はあるが、ぶっつけ本番で試すには少しリスキーすぎるため、泣く泣く断念した。
また、距離の問題もあり、俺たちが回収出来たのは今のところフリーレアと同じエリアに存在する遺跡のアイテムだけ。
ほかのエリアの遺跡も回るという話は出ているが、それはラッドたちからの要望でひとまず先送りとしている。
それでも〈エルダーリッチ〉のドロップアイテムをはじめ、数々の貴重なアイテムが手に入った。
今日はそのお披露目をする、つもりだったのだが。
「二人だけか? プラナとマナは?」
いつものギルドの訓練場にいたのは、一心不乱に剣を振るラッドと、神妙な顔で呪文を唱えるニュークだけで、女性陣二人の姿は見えない。
どうしたのかと首を傾げる俺に、ニュークが苦笑しながら答えた。
「プラナが闘技大会に出場するというので、マナを連れて登録に」
「……なるほど」
これが、ラッドたちが別のエリアへの移動をためらった理由。
十二月には「世界一決定戦」という頭の悪い名前の闘技大会があり、その出場登録が始まるのがまさに今日なのだ。
「だけど、意外だな。ラッドとニュークの方が喜んで参加するかと思ったのに」
そう口にすると、ニュークたちはばつが悪そうに顔を見合わせ、おずおずと告白した。
「その……僕たちは明け方に闘技場に並んで、受付開始と同時に登録を」
「ああ……」
どうやら、気合の入り方が一段階違ったらしい。
むしろその話を聞いたプラナが「私も!」と言い出して、マナを連れて登録に行ったというのが真相だろう。
「お前ら、本当に大会を楽しみにしてるんだな」
俺がしみじみと言うと、顔を少し赤くしたラッドは、それでも意気込み十分に叫んだ。
「あ、当たり前だろ! 自分が冒険者としてどれだけ成長したのか確かめるチャンスなんだ! それに……大会なら成長しないから、このダサイ鎧を着なくてもいいし」
バネだらけの鎧を見て、小声でぼそっとつぶやくラッド。
どうやら装備のダサさについてはそれなりに気にはしていたらしい。
「おっさん! アンタにはオレたちをここまで育ててもらった恩がある! だけど、試合でぶつかったら手加減はなしだ! アンタも全力で……」
何やら気合を入れて叫んでいるが、それは見当違いだ。
「いや、俺は大会には出るつもりはないが」
「……え?」
俺があっさりと返した言葉に、ラッドは硬直したのだった。
※ ※ ※
「ま、待ってくれよ! オレはししょ……おっさんが出ると思って必死に訓練して……。おっさんと戦った時の作戦もたくさん考えてたのに!」
「そう言われてもな」
別に俺は戦うのが好きという訳ではないし、現状闘技大会に参加するメリットがない。
なおもラッドは何か言いたげにしていたが、俺は「それよりも」と強引に話を引き戻した。
「そういうことなら、今回の装備は早速役に立ちそうだな」
大会のルールは毎年同じで、簡単に言えば「HP半分で敗北 装備の持ち込み可 消費アイテム、インベントリの使用不可」というところだ。
キャラ自体の能力だけじゃなく、装備の強さや相性も大きく影響する。
また、大会では経験値は入らないため、素質値アップ装備をつける必要もない。
だから、一番に成長率を考えていた今までとは全く違う、その場の戦力を第一に考えた装備を身に着ける必要があるのだ。
「特に、ニューク」
「僕、ですか?」
俺が名指しで呼ぶと、ニュークは驚いたように目を見開いた。
「この前倒した〈エルダーリッチ〉の装備品。あれは魔法使い用の装備なんだ。癖はあるが、使いこなせばすごい力になるぞ」
そう言いながら、俺はボスドロップである二つのアイテム、〈ルナティックサークレット〉と〈クリムゾンインフェルノロッド〉を取り出した。
「あの、それは一体どんな効果があるんですか?」
なぜか少し及び腰のニュークに、俺は手帳にその説明文を書いて見せてやる。
【ルナティックサークレット】
狂える魔術師が自らの秘術の粋を集めて生み出した頭冠。
その禁忌の力は持ち主に大いなる栄華と無残なる破滅を同時に与えるとされる。
身に着けた者は比類なき魔力を得るが、定命の者がこれに触れるとたちまちのうちに精神を蝕まれ、「狂気」の状態異常に陥る。
「狂気」中は魔力が倍になる代わりに魔法への一切の抵抗力を失い、魔法使用時に二分の一の確率で魔力が暴走、魔法の威力に見合った自傷ダメージを受ける。
この状態異常は装備中永続し、解除することが出来ない。
「って、完全な地雷装備じゃねえか!」
一緒に手帳を覗き込んだラッドが思わずといったように叫んだ。
「癖は強い、って言っただろ」
確かに魔力が上がる分だけ魔法に失敗した時のダメージも上がるため、これを身に着けた魔法使いは魔法を使う度に死の危険にさらされることになる。
ただ、魔力が倍になる効果は破格の性能だ。
うまくハマればすさまじい戦闘力アップにつながる。
「それに、こいつにはもう一つ、隠された効果があってな」
「隠された効果?」
興味を惹かれた様子のラッドに、俺はささやくように告げる。
「――こいつは〈ブレイブソード〉と同じ、特殊クラスへのクラスチェンジ装備なんだよ」
現在のラッドのクラスである〈ブレイブレオ〉は、初期職である〈ヤングレオ〉の状態で〈ブレイブソード〉を装備して装備条件を満たすことで転職出来るが、これもそれと同じだ。
〈ヤングレオ〉の状態でこれを身に着けることで、特殊クラス〈ルナティックレオ〉にクラスチェンジ出来る。
「それも、攻撃関連の補正が〈ブレイブレオ〉より、いや、全ての職業の中でも一番。火力育成を考えるなら真っ先に候補に挙がる、最強クラスの一つだぞ」
「最強!? あ、いや、そりゃ、少しは興味はあるけどさ」
最強という言葉には、流石のラッドも抗えなかったらしい。
男の子をしているラッドをにやにやと見ながら、俺は手帳をめくる。
まず、ブレイブレオの補正値はこうだ。
―――――――
ブレイブレオ
筋力 3
生命 3
魔力 0
精神 3
敏捷 3
集中 3
合計 15
―――――――
魔力以外の全ての能力が三ずつ補正される、バランスのいいクラス。
だが、〈ルナティックレオ〉はそれとは対照的だ。
「……ほら」
俺は〈ルナティックレオ〉のページを見つけると、それをラッドに見せた。
―――――――
ルナティックレオ
筋力 7
生命 0
魔力 7
精神 0
敏捷 0
集中 0
合計 14
―――――――
「いくらなんでも極端すぎるだろ!」
ふたたび叫ぶラッドに、俺はくっくと笑った。
あいかわらず、期待通りの反応をしてくれる。
「ま、ほかが上がらないとか以前に、筋力と魔力を同時に上げるから物理型でも魔法型でも割と使いにくいんだよな」
「おっさん……」
ラッドが呆れたような視線を送ってくる。
見ると、ラッドばかりではなく、隣のニュークや後ろに控えているレシリアまでも、どこか冷え切った目を俺に向けていた。
「ま、待った! こっちの方はシンプルにすごいぞ」
風向きが悪いと見た俺は、慌ててもう一つの装備を前に出す。
陽光に煌くのは、真っ赤な宝石が先端についた〈クリムゾンインフェルノロッド〉とかいう厨二感満載の名前のロッドだ。
「こいつは今ニュークが使っている〈レッドフレアロッド〉の上位版みたいな性能なんだよ」
「そうなんですか!?」
食いついてきたニュークにしめしめとうなずきながら、俺は解説をする。
「こいつは〈レッドフレアロッド〉と同様、『使う』ことで強力な魔法が撃てるほか、魔法攻撃力補正が変動値よりも固定値の方が高いところまで一緒だ。だから本人の魔力が極まった後半よりも、むしろ低レベル帯でこそ威力を発揮する。早く手に入れれば手に入れるほど役に立つ装備と言えるな」
だが、〈レッドフレアロッド〉と圧倒的に違うのはその性能だ。
「こいつの魔法攻撃力の高さは〈レッドフレアロッド〉とは比べ物にならない。固定値部分で言えば、俺が知る限りこいつが全装備の中で一番だ。『使う』ことで撃てる魔法も、溜めと消費がでかい代わりに威力は桁違い。……ちなみにその分、値段の方もすごいぞ」
溶岩洞の攻略用に俺が揃えた〈レッドフレアロッド〉は五千万ウェンで買い取った。
ニュークはそれを、こわごわと使っていたが……。
「ユニークアイテムだからそもそも買うことが出来ないが、もし、これを売るとなると、その値段はなんと……」
「い、いくらなんですか?」
恐る恐る尋ねるニュークに、俺はにやりと笑って告げた。
「――十億ウェンだ」
それを聞いた瞬間、ニュークの喉がひゅっと音を立てた。
強くなってもあいかわらず常識人というか小市民というか、ニュークはニュークでラッドと別の意味でいじりやすい。
「ちなみに解説はこんなところだな」
手帳の新たなページに、〈クリムゾンインフェルノロッド〉の解説をさらさらと書きつける。
【クリムゾンインフェルノロッド】
至高の素材と冒涜的な手法によって作り上げられた、この世に二つとない杖。
先端に付けられた宝玉には魔術師数十人分の魂が込められているとされており、魔力を解放することで竜の息吹にも劣らぬ火炎の魔術を放つことが出来る。
魔法の触媒として最高の性能と扱いやすさを誇り、この杖を手にすればいかに未熟な者でも熟達の魔術師にも引けを取らぬ魔法の使い手へと化けることだろう。
ただし、ゆめゆめ忘れてはならない。
研鑽も努力も忘れ、ただ安易な力に溺れる者に、輝かしい未来など訪れるはずがないということを。
「……なぁ。最後の方に不吉なことが書いてあるんだが」
呆然となっていたニュークは気付かなかったようだが、ラッドが最後の記述を見咎める。
「ま、まあ、その、このロッドにもちょっとした欠点があってな」
「欠点?」
「装備してる間は、『魔力』の素質値が下がるんだよ」
「やっぱり地雷装備じゃねえか!」
ラッドは三度吼えるが、まあ、世の中そんなに都合のいい話は転がっていないものだ。
ちなみにロッドで使える攻撃魔法にも欠点があり、威力が飛びぬけている代わりにMPを一度に二百消費するため、今のニュークですら二発も撃てない燃費最悪の魔法となっている。
「と、とはいえ、だな。大会で使う分には素質は関係ないし、装備した時の攻撃力補正は高いから、大会で採用しても……」
俺はあきらめずにロッドを推したが、
「い、いいえ。僕は遠慮しておきます」
ニュークには完全に引かれてしまった。
「次の大会では自分の実力を試してみたいんです。なので、あまり魔物との実戦で使えないような極端な装備は、その……」
言葉を濁していたが、要するにイロモノは要らない、ということらしい。
そんな様子を見て、ラッドがため息をついた。
「おっさんは、ほんと頭いいんだかバカなんだか分からないよなぁ」
随分と失礼なことを言ってくれる。
そう思い、何か反論をしようとした時だった。
「だけど……」
そこでラッドは、ニカッと笑ってこう言ったのだ。
「――レクスなら、そんな装備もなんだかんだで使いこなしてとんでもねえことをしでかしちまうんだろうけどな!」
「――ッ!」
その眩しい笑顔が直視出来なくなって、俺は思わず顔を逸らした。
「……おっさん?」
きょとんとした顔のラッドと視線を合わせないようにしながら、俺はわざとらしく訓練場の出口を見た。
「そういえば、プラナたち遅いな。少し、様子を見てくるか」
「え、いや、別にまだ……」
何か言いかけるラッドを無視して、
「兄さんが行くのなら、私も……」
とついてこようとするレシリアも振り切って、
「すぐに戻る。それまで訓練していてくれ」
俺はそれだけ言い捨てると、逃げるようにして訓練場を飛び出した。
※ ※ ※
足早に訓練場を抜け、ギルドを横切って、
「いい年して、何やってんだか」
一人になれば、そんな悪態が口をつく。
みっともない真似をしたという自覚はある。
だが、どうしてもあの場にはいられなかったのだ。
「……クソ」
ラッドのあの混じりけのない尊敬の視線を思い出し、俺は思わず毒づいた。
――俺は、いつまであの眼差しを受け止めていられるだろうか。
ラッドたちが考えているより、俺とラッドの実力に差はない。
いや、もう追い抜かれていると言ってもいい。
俺が闘技大会に参加しないのも、単に興味がない、なんて理由じゃない。
実際ゲームではこの大会を制覇することを中盤の目標としていたし、大会で勝つことにメリットがないはずもない。
だが、それでも俺が出場しない理由は実に単純。
――「俺が出たって勝ち目がない」からだ。
レクスは「序盤最強」だが、それはあくまで「序盤に仲間になるキャラで一番強い」というだけのこと。
イベントでだけスポット参戦するキャラや、そもそも全く仲間にならないキャラクターの中には、ゲームスタート時の時点でレクスの能力をはるかに上回るような化け物もいる。
大会はルール上、システムの穴をつくような裏技は使えない。
いくらゲーム知識があったところで、たかが俺程度の能力で勝ち抜けるような大会じゃないのだ。
「……はぁ」
大きくため息をついて、意識を切り替える。
だからと言って、ここで管を巻いていたって仕方がない。
プラナたちを捜すと言ってしまった以上、形だけでも捜索に行かないと変に思われるだろう。
図らずも背負ってしまった「成長性最悪」という十字架に改めて心を塞ぎながらも、俺の足は導かれるように闘技場へと向かっていく。
そして、もうすぐで闘技場が見える、というところで、
「――近寄らないで!」
聞き覚えのあるエルフの少女の声が、俺の耳に飛び込んできた。
(これは、捜す手間が省けそうだな)
角を曲がると、前をキッとにらみつけるプラナと、その背後で怯えたように縮こまるマナの姿が見えた。
声を聴いてそうだとは思っていたが、どうやらトラブルらしい。
(まったく。命知らずもいたもんだな)
二人とも美人ではあるし、ナンパにでも捕まったのだろうか。
絡んできた相手がどんな奴か知らないが、ストレス解消もかねてお灸を据えて……。
そんなことを思いながら二人に近付いた時だった。
プラナの前に立ちふさがるその人物の姿に、呼吸が止まる。
「な……」
口にしかけていた言葉は詰まって、喉から先に出てこない。
進もうとしていた足は自然と止まり、逆にあとずさりすらしそうになる。
「レクスさん!」
マナが俺を見つけて、その名を呼んでも、俺はまだ動けなかった。
そうして、プラナの前に立った鍛え抜かれたその身体が、ゆっくりと俺へと向き直る。
(……ああ、そうだ)
意志に反して震える手を、竦む足を、まるで他人事のように感じながら、俺は思う。
今は闘技大会が始まる時期。
だとしたら、こういう遭遇だって、可能性として考えていなくてはいけなかったのに。
鋭い視線が剣となって俺を射抜いても、俺は身動き一つ出来なかった。
ただ、「そいつ」と向き合って初めて、乾き切った俺の唇がようやく一つの言葉を紡ぐ。
「――〈無敗の剣聖ニルヴァ〉」
そして……。
もはや条件反射となった〈看破〉が、俺に絶望を知らせる。
――――――
ニルヴァ
LV 70
HP 2120
MP 385
筋力 975(SS)
生命 975(SS)
魔力 300(B)
精神 450(A-)
敏捷 825(S+)
集中 525(A+)
――――――
世界最強の戦士が、そこにいた。
やせいの ラスボスが あらわれた!





