第四十一話 それぞれの道
過去の自分に「ステ上昇量を計算で決めるのはやめよう」って言ってやりたい
やっぱ気分と目分量で好き勝手出来るなろう式こそが最強よぉ!!
〈七色の溶岩洞〉の攻略から、一週間が過ぎた。
ステータス鑑定の関連で忙しかったが、慌ただしかった状況もようやく落ち着いてきて一段落、といったところだ。
そのせいもあってラッドたちはあれから一度もダンジョン攻略はしていないのだが、あの洞窟の攻略でマナはレベル十、それ以外のメンバーは十一にまで一気にレベルを上げていた。
予想では「レベル十の壁は越えられないだろう」と思っていたのだが、やはりボスの経験値が大きかったということなのかもしれない。
ともあれ、ひとまず十分な能力値を得たということで、次はスキル訓練。
スキルは大まかに「固有技能」と「クラス技能」の二種類があり、前者については訓練の必要がない。
固有技能とはレベルアップやイベントによって習得するもので、「主人公」の各種光技、〈光の王子アイン〉の〈光の魔法剣〉のように、そのキャラの特徴を色濃く現した強力なものが多い。
……実は〈孤高の冒険者レクス〉も〈我流剣技〉と呼ばれるカテゴリのスキルを持っていて、一応俺も使えたりする。
レベル五十時点で使えるのは、〈罪業の十字架〉というめっちゃくちゃかっこいい名前のスキル。
実際エフェクトも凝っていて、敵一体に対して十字に剣を振るい、闇の炎で作られた十字架を作って攻撃するスタイリッシュな技だが、これがもう震えるほど使えない。
威力は低いし発動遅いしアーツじゃないからマニュアル発動出来ないし、そんなデメリット山盛りなくせにMP消費が重くてあまつさえモーションの最後でかっこよく後ろを向く、という「戦い舐めてんのか!」と言いたくなるような技だ。
そして何より属性が「闇」!
闇属性は「火・水・風、土」の四属性に対して満遍なく効きにくい、という特徴があるため後半に極稀に出てくる天使系のような光属性のモンスター以外に効果が薄く、さらには序盤に出てきがちなアンデッドモンスターに対して使うと「逆にHPを回復させる」という最悪な特性を持つ。
もはや完全な魅せ技で、かっこいいから一度は見るけどガチな場面で使うとマイナスにしかならない、というゴミ技の王道を行くゴミ技だ。
光の「主人公」たちに対する影、ダークヒーロー的なキャラ付けなんだろうが、レクスは本当に不遇というか、全ての巡り合わせで損をさせられているとしか言いようがない。
ま、まあ、レクスについてはともかく、ほかにも純血種や先祖返りによって種族の特性を強く受け継いでいる者は〈種族ボーナス〉を受けられることもあり、そういったキャラはレベルが上がることで種族技能が使えるようになる。
またランダムキャラがランダムに固有技能を持っていることもあるが、かなり稀だ。
一方で、特定のクラスになることで誰でも覚えられるのが「クラス技能」だ。
ただこれには条件があって、例えばマジシャンからメイジになったからと言って、メイジのスキルがすぐに使える訳じゃない。
そのクラスになってからたくさんの戦闘をこなすことで、だんだんと技術が馴染み、新しい技や魔法が使えるようになっていくのだ!
……というのが、公式の解説で、この世界の常識でもある。
ただ、実際には戦闘をする必要はなく、そのクラスになった瞬間に使える「基本技能」を繰り返し使用すればクラス熟練度が上がり、そのクラスに設定された上位の技や魔法を覚えることが出来る。
クラス熟練度自体は戦闘によっても上がるので公式解説も間違いではないのだが、習得の速度を考えるとあまり効率はよくないと言えるだろう。
ということで、ラッドたちに提案したのが、「スキルの素振り」だ。
訓練場の案山子だのに対してひたすらスキルを使い続けるという地味で面白味のない訓練だが、意外にもラッドたちは二つ返事でこの訓練に臨んだ。
ラッドたちも最初のダンジョン攻略で色々と思うことがあったらしい。
提案した俺が驚くほど素直に、かつ真剣に、スキル訓練に励んでいた。
ギルドの訓練場を覗くと、まず見えたのがラッドの姿。
火力をマニュアルアーツに頼っているラッドは、例外的にクラス熟練度をあまり上げる必要がない。
マニュアルアーツで使える技を増やすため、今まで通りの訓練を、しかし今まで以上の熱意を持ってこなしていた。
感覚でマニュアルアーツを使うのは困難と見たラッドは、型として身体に覚えさせる道を選んだ。
それだけに覚えは速くはないが、着実に使える技の種類を増やしている。
何よりも……。
―――――――
ラッド
LV 11
HP 294 MP 69
筋力 132 生命 126
魔力 48 精神 94
敏捷 85 集中 69
―――――――
〈看破〉した瞬間に、「つっよ」とこぼしたくなるほどのステータスが、ラッドにはある。
それもそのはず。
生来の高めの素質値に、〈ブレイブレオ〉という上級職、さらに四つある防具スロットのうち、三つに成長力アップの防具を身に着けている。
〈ブレイブブレイド〉の四人の中では、レベルアップ時の成長幅はラッドがナンバーワンだ。
あまり奇をてらったことをしなくても、このまま育てば十分にパーティの中核として機能するだろう。
次にニュークだが、彼はメイジとしての修行……は一旦置いて、〈アイテム士〉という特別なクラスの訓練を行っている。
メイジの魔法を極めたとしても、〈レッドフレアロッド〉で使用可能な〈フレア・カノン〉の方がはるかに強力だ。
なので、〈アイテム士〉で覚えられる「アイテムの破壊確率を下げる」技能〈メンテナンス〉を習得して、〈フレア・カノン〉を使ってもロッドが壊れないようにするのが当座の目標となる。
五千万ウェンが壊れるかもしれない、というストレスは相当だったようで、今も鬼気迫る表情でひたすら訓練を続けている。
ついでに、さらにアイテム士に習熟すると「周囲の敵に武器の固定攻撃力に応じた超特大ダメージを与えるが、代償として武器が必ず壊れてしまう」という最強技〈ファイナルブレイク〉を覚えられるのだが、その話をしたらニュークは顔を青くして逃げ出してしまった。
固定攻撃力が高い〈レッドフレアロッド〉や〈ゴブリンスローター〉には最適な技で、スキルに自分自身の能力値が反映されないため、序盤でもかなりの威力が期待出来るのだが、まあ胃の弱いニュークにこれを使わせるのは酷だろう。
ちなみにそんなニュークを〈看破〉してみると、こんな感じのステータスになる。
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ニューク
LV 11
HP 196 MP 168
筋力 39 生命 72
魔力 142 精神 75
敏捷 85 集中 92
―――――――
これを前〈看破〉したメイジーのステータスと比較すると……。
―――――――
メイジー
LV 11
HP 160 MP 93
筋力 61 生命 54
魔力 67 精神 70
敏捷 58 集中 74
―――――――
各項目で、割とエグい差が出ていることが分かる。
声高に吹聴するつもりはないが、自分の育成計画の正しさを実感出来る値ではある。
そして、その隣で一心不乱に的を射ているのが、プラナだ。
属性矢以外に彼女には特別な指示はしていないため、単純に火力を上げるために弓使い系のスキルを習得している。
そして、そのステータスは、というと……。
―――――――
プラナ
LV 11
HP 168 MP 77
筋力 99 生命 58
魔力 51 精神 51
敏捷 99 集中 163
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見事なくらいに「集中」に特化している。
これは彼女の「集中」の素質値が最高値だったというのに加えて、パーティのほか三人が三つまでしか着けられていない成長装備を、四つの防具スロット全てにつけていることも関係しているだろう。
この「集中」は他ゲーで言うDEX的な要素を色濃く持ち、弓の攻撃力に大きく影響する。
メインアタッカーとして順調に成長していると言えるだろう。
そして、四人の中で一番異質なのがマナだ。
一ヶ月の訓練期間中、全員が訓練としてこなしていた「祈り」を一人だけ別次元で行って、恐ろしいまでの効率を叩き出したのは記憶に新しい。
気になって尋ねてみたところ、彼女は「クラス」がプリーストなだけでなく、生き方として神職についていたらしい。
「ぜ、全然すごいことなんてないです。わたし、生まれてからずっと、こればかりやっていたので」
と、さらっと言ってしまう辺り、闇が見えるような見えないような。
彼女ばかりはスキル訓練を早々に切り上げ、この期間中も祈り続けていた。
「わたしがここにこうしていられるのも、あなたと出会えたのも、全て神様の思し召しですから」
などと言い切られてしまっては、無宗教の俺としては何も言えない。
神のいる世界での信仰については興味が尽きないところだが、少なくとも実際の現象として、彼女の精神の値は俺から見てもやばいくらいに伸びている。
―――――――
マナ
LV 10
HP 182 MP 139
筋力 41 生命 66
魔力 114 精神 160
敏捷 60 集中 92
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もちろん祈りだって訓練には違いないのでここから効率は落ちていくだろうが、彼女にはぜひこのまま突っ走っていってもらいたい。
四人全員を確認すると、俺はギルドの建物に戻って、受付に向かう。
「あ、よかった。レクスさん、ギルドマスターが奥の部屋でお待ちです」
受付に行くと、最近親しくなったギルドの受付嬢にそんなことを言われ、カウンターの内側へと通される。
「では、部屋までご案内しますね」
笑顔でそう口にする受付嬢を見ながら、俺は柄にもなく感慨を覚えていた。
(改めて考えると、俺の扱いもずいぶんと変わったもんだ)
A級冒険者でありながら、どことなく遠巻きにされ、受付嬢にすら胡乱気な目で見られていた俺はもういない。
今は周りからの視線には敬意が感じられるし、ギルドに行けばこうやって特別に奥にまで通されるようにまでなった。
……ただ、一番変わったのはたぶん、俺じゃない。
〈七色の溶岩洞〉攻略のニュースが駆け巡ったあと、このフリーレアのギルドにおいてはそれに勝るとも劣らないほどの事件が巻き起こった。
フリーレアでトップを走っていた冒険者であるヴェルテランたち三人が、現役を退いたのだ。
ヴェルテランは冒険者を出来る限り集めると、今まで自分が話していたことに間違いがあったことを丁寧に説明し、彼らの目の前で大きく頭を下げ、謝罪。
同時に、自分は冒険者から引退すると宣言した。
驚く人もいたし、怒る人もいた。
ただ、その場の大半が引き留めようとする中で、「責任を取るためにはこれしかない」「これは俺にしか出来ないことだ」と言って頑として譲らなかったという。
ヴェルテランの能力値は、確かにゲーム基準で言えばあまり高くなかった。
レベルを考慮すれば、伸びしろはあまりないと言ってもいい。
(だけど、俺と出会わなければ、ヴェルテランはきっと、まだ冒険者を続けてたんだろうな)
正直、人ひとりの、いや、三人の人生を変えてしまったのだから、プレッシャーはある。
「どうかされましたか?」
前を行く受付嬢に尋ねられて、思ったよりも深く考え込んでしまっていたことに気付いた。
「……いや、大したことじゃない」
と首を振って、バカな考えを追い出す。
そうだ。
だからといって、今さら止まるつもりもない。
全てはまだこれからで、何もかもが始まったばかりだ。
振り返っている暇なんて、俺にはありはしない。
「ギルドマスター、レクス様をお連れしました」
受付嬢の声に促され、俺は部屋の中に足を踏み入れた。
「お……」
すると、ちょうど顔を上げたギルドマスターと目が合った。
そのヒゲ面の大男は俺を見て挨拶するように拳を上げ、俺もまた、返礼のように口を開いて、
「――遅かったじゃないか、レクス」
「――待たせたな、ヴェルテラン」
俺たちは、ニヤリと笑みを交わし合ったのだった。