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主人公じゃない!  作者: ウスバー
第一部 死の運命
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第三話 選択


 真っ赤に燃え上がる街を前に、俺は呆然と立ち尽くしていた。


(……そう、か! バカだ、俺は!)


 脳がやっと目の前で何が起こっているのかを把握した時、一番初めに胸に去来したのは、後悔の念だった。


 この世界の「主人公」が〈冒険者に憧れる都会の少年〉ではなかったことで、アースの街の襲撃イベントもなくなったとばかり勘違いしてしまっていた。

 だが、たとえほかの出自を選んだ場合でも、アースの街は魔物に襲撃されて滅んでいた。

 つまり、「主人公」が試しの洞窟の封印を解かなくても、アースの街への襲撃は行われていたことになる。


 おそらくは試しの洞窟の封印解放は単なるきっかけか、あるいは偶然魔物の襲撃と時期が重なっただけで、大した関連性はなかったのだ。


(ほんの少しでも頭が回っていれば、こうなるってのは予測出来たはずなのに!)


 自分の迂闊さに、ギリ、と歯を食いしばる。

 その時、一陣の風が吹いて街に上がった煙を一瞬だけ吹き飛ばし、続いて肌を焼くような熱と、何かが焦げる胸の悪くなる匂いを運んでくる。


「ひどい……」


 後ろで誰かのつぶやきが聞こえたが、全く同意見だった。

 高い街壁で囲われた堅牢なはずのその街は、上空からの襲撃に見舞われていた。

 無数のガーゴイルとフライングデビルが黒い点となって街の上空を覆いつくし、さらにそのガーゴイルたちに抱えられて通常の魔物が投下されていく。


「空挺降下かよ……!」


 あのガーゴイル一匹一匹が、ゲーム中盤のモンスター並みの強さを、つまりは中堅の冒険者クラスの能力を持つのだ。

 こんなもの、耐えられる訳がないと、理屈だけではなく、感覚で理解する。


 胸が悪くなるような光景。

 しかし、俺の眼に飛び込んできたのは、それだけじゃなかった。


「あ、あそこ! 人が……!」

「なっ!」


 慌てて視線を少し下げると、そこにはガーゴイルに襲われている人影があった。

 ガーゴイルの一撃がその人影の胸に吸い込まれたのを見て、血が沸騰する。


「ちっ!!」

「レクスさん!?」


 誰かの驚いた声を置き去りに、俺は飛び出していた。


(何でだ!? こんな場所にこんなイベントは……ああクソ、考えるのはあとだ!)


 混乱する思考を無理に脇に追いやって、剣に魔力を通す。


「……〈疾風剣〉!」


 ∞のような軌跡を剣でなぞり、発動中、移動速度が上昇するアーツを発動。

 瞬間、怖いほどの加速。

 途端に風を切る勢いが跳ね上がり、足がもつれそうなほどの速度でぐんぐんと目的地に迫る。


(ああもう、まったく!)


 人助けで死んだばっかりなのに我ながら学ばない。

 だけど……。


「ガーゴイル、程度ならなぁ!」


 攻撃するばかりに気がいって無防備になっている背中。

 そこに、渾身の一撃を叩き込む。


(〈冥加一心突き〉!)


 ネジを抜くような動きから、一気呵成の突き。


「ギャアアアアアアアアア!!」


 本来、ガーゴイルは初期レクスが一発で倒せるような相手じゃない。

 だが、耳障りな悲鳴を残し、ガーゴイルは消滅した。


(速度補正と背面弱点は健在か。いや、今はそんなことより!)


 俺は消えていくガーゴイルから視線を外し、襲われていた人に駆け寄る。


「大丈夫か!?」


 ガーゴイルに襲われていたのは、鮮やかな碧色の髪をした少女だった。

 その傷だらけの少女は、俺を一目見ると、なぜだか安心したように微笑んだ。


「よかっ……た。レクス、にい、さ……」

「え……?」


 思いもかけない言葉を言われて、俺は一瞬だけフリーズした。


「まちに、まもの、が……。にげ、て……」


 それだけを言い残すと、彼女は力尽きたように目を閉じてしまった。


(そうか、これは……)


 ゲームでも封印の悪魔を倒したあと洞窟の外に出ると、街は魔物の襲撃に遭っていた。


 その街の前で倒れていたのが、この少女。

 会話を読んだ限りではアースの街に住むレクスの妹で、確か名前は……レシリア、だったはずだ。


 レクスを追ってきたというレシリアは、街の崩壊をレクスに知らせ、彼に逃げるように言うと、そのまま息を引き取る。

 オープニングの緊迫感と絶望感を煽るイベント、だったはずだが。


(そんなん知ったことか!)


 左手に意識を集中して、ゲームでは誰もが持っていたアイテム保存機能〈インベントリ〉にアクセス。

 インベントリから回復薬を取り出して、少女の傷口にかける。


「……ぅ!」


 気を失った少女は小さくうめいたものの、痛々しかった傷口は見る間に塞がっていく。

 手持ちの回復薬を全て使い切る頃には傷は完全になくなり、心なしか彼女の顔色もよくなっていた。


(これなら、大丈夫、か?)


 ゲームでは主人公たちが洞窟の外に出た時、レシリアの傍に魔物の姿はなく、彼女はすでに瀕死で倒れていた。

 おそらく、封印の悪魔と戦わなかった分、彼女との遭遇がゲームの時よりも少し早くなったのだ。


 それは、俺の行動によってほんの少しだけイベントを変えられたということだろうか。


「おいおっさん! やべーぞ!」


 しかし、考える時間など、与えられはしなかった。

 追いついてきたラッドの言葉に顔をあげると、城壁にとりついていたガーゴイルの一団がこっちに気付き、騒ぎ立てている。


「……逃げるぞ」


 俺は気を失った少女を抱え直すと、すぐに街から背を向ける。


「だ、だけど街が……!」

「無理だ」


 門は内側から固く閉められているし、中にいるのはレクスですら勝てない魔物たちの大群だ。

 ここで助けに行くなんて選択肢は……。


「だけど、あそこはマナの故郷なんだぞ! 家族だって、友達だって、きっと……」


 しかし、そんなドライな計算を、ラッドの叫びが吹き飛ばした。

 ハッとして、マナの方を振り返る。


 彼女は一瞬だけ顔を伏せ、しかし、すぐにはっきりと言い切った。


「……逃げましょう」

「悪い」


 後ろめたい想いはあるが、ここで助けに行っても無駄死にするだけ。

 一刻も早く、ここから離れないと……。


「でも! どっちに逃げる、んですか?」

「あ……っ」


 だが、次に発せられたマナの一言が、俺に過酷な現実を思い出させる。


 そう、だ。

 覚えている。

 今はっきりと、思い出した。


《冒険者に憧れる都会の少年》スタートの場合、初期の仲間キャラは「選択肢によって変わる」。

 その選択肢が、ここだ。


 ここから行ける町は、二つ。

 次の分かれ道を北上した先にある小さな漁村、「ウミナ」。

 分かれ道を曲がらずに〈試しの洞窟〉に続く道を戻り、そこからさらに東に向かった先にある町「リクシア」。





 ――この目的地の選定が、俺たちの運命を決める。





 東のリクシアに向かった場合。

 町につく直前でガーゴイルたちの待ち伏せに遭う。

 俺……レクスは必死に応戦するものの、数で勝るガーゴイルからパーティ全員を守ることは出来ず、主人公を除く新米冒険者たちが全滅する。


 そして、北のウミナに向かった場合。

 追手としてドゥームデーモンというLV60の魔物が現れ、レクスが足止めを引き受ける。

 主人公を含む新米冒険者たちは何とかウミナに辿り着くが、レクスは奮闘虚しく殺されてしまう。


 東か北か、究極の選択。

 東を選べば未来ある少年少女三人が死に、北を選べば俺が死ぬ。

 どちらを選んでも犠牲が生まれ、見捨てられた仲間とは、もう二度と会うことは出来ない。


「ふざ、けんな。冗談じゃ、ないぞ」


 ドッと、汗が噴き出る。


 なんだ、これは。

 待てよ。

 待って、くれよ……。


 俺はただのサラリーマンで。

 現代日本で文明の利器に囲まれてのうのうと暮らしてた、普通の一般人だぞ?


 生きるだの死ぬだの、そんな選択を突然投げかけられても……。


「おっさん! あいつらが……」


 見ると、街壁にいるガーゴイルたちは俺たちに向かって今にも飛び立とうとしている。

 もう、時間はない。


 俺はギリ、と歯を食いしばる。


 このシチュエーションを考えたゲームライターに、内心で悪態をつく。


(どうする? どうすればいい?)


 だが、この場に留まっても犬死するだけ。

 視線が、集まる。


 俺は、俺が選んだのは――


言うほどストックある訳じゃないんですが正月だから祭りっぽいことしたいんですよね

とりあえず次は夕方くらいに!

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ちょっとした記入ミスで、登場人物も、世界観も、ゲームシステムも、それどころかジャンルすら分からないゲームのキャラに転生してしまったら……?
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