第二十六話 DLC
DLCのこと書き始めたらそこだけ内容が想定の3倍くらいに……
装備によってラッドたちの育成は一つ進展したが、もう一つ、育成を考える上で絶対に外せない要素として新しい発見があった。
それは、街の外れを歩いていた時に発見した、一軒の真新しい家だ。
(これは……DLC第四弾の目玉! 〈スペシャルセーフハウス〉じゃねえか!)
ブレブレは買い切りゲームであり、当然ながら一度お金を払えばそれで全てのコンテンツを遊び尽くせる。
ただし、追加コンテンツは別だ。
ゲームにはDLC、ダウンロードコンテンツと呼ばれる追加要素が発売されることもあり、ブレブレの開発会社にはお金がなかった。
そうするとどんなことが起こるか。
簡単だ。
とにかくすぐに現金収入が入るように、ぶっ壊れ性能のDLCが乱発された。
DLC第一弾は装備パックだった。
どれも装備制限やゲーム内での入手難度の割に性能は高め。
その中でも特にやばいものについては、あんまりにもやばすぎていまだに記憶に焼き付いている。
どう考えても防御力はなさそうなのに、謎の力で数値上はとんでもない防御力を誇るセット防具〈メイド服〉。
どう考えても……な上に、なぜか異様に凝った待機モーションが設定された頭&胴体装備〈猫耳&猫尻尾〉。
動くたびに「ブッピガン!」と謎の効果音がする、どこかで見たことのあるパワーアーマー〈機動スーツ〉。
明らかに叩いても痛くなさそうなデザインと材質なのに、なぜか圧倒的な威力を誇るハンマー〈ピコットハンマー〉。
振るとブォンブォンと音がする、色んな意味で攻めすぎな魔力の刃を持った剣〈ムーンライトセイバー〉。
何から何まで間違っているが、とにかくすさまじい威力と攻撃範囲を誇るオーパーツ系鈍器〈電柱〉。
様々な意味でぶっ飛んだこれらの最強クラスの装備は、一つ税込み六百円。
フルセットで買うことも出来るが、一つ五百八十円までしか値下がりしていないというクソセット価格でのご提供だった。
ただ、この辺りはまだいい。
DLC装備でも最強クラスのものについては博物館に展示されていたり廃都アースの奥深くに眠っていたりと、ゲーム後半にならないと取れないように一応の配慮はされていた。
ただ第二弾、第三弾と進むうちに自重はなくなっていき、第四弾〈スペシャルセーフハウス〉に至ってはすさまじいバランスブレイカーとなっていた。
この〈スペシャルセーフハウス〉は要するに拠点に出来る家なのだが、その機能がやばかった。
HPMPを一瞬で全快に出来る回復装置、仲間に出来るキャラを呼び出したり送り返したり出来る転送装置、世界数ヶ所の特定スポットへのワープ装置、なくしたり入手不能になったユニークアイテムをお金を払って再入手出来る装置、装備についたエンチャントを一度だけ別の装備に移し替える装置、と、それこそ公認のチートツールのような、ぶっ壊れ機能が並んでいたのだ。
全てが便利だが、特にルート分岐などで泣く泣くあきらめた貴重アイテムを手に入れられる「ユニークアイテム再入手」と、クソ装備についた「筋力アップ+34」などの神エンチャントをほかの装備に移せる機能は、喉から手が出るほど欲しかった。
だが、DLCページで詳細を見た俺は絶望することになる。
――このDLC、なんと四千二百五十円もしやがったのだ!
単なる家一個の追加でこの価格である。
しかも特に安く見せるでもない二百五十円の端数からゲーム会社のガチさを感じる。
まあその後、予告された第五弾の「主人公の出自」や「新たな流派」のDLCは果たされることなく、会社自体が潰れてしまったので残当ではあるのだが。
(しかし、この家が手に入れられればずいぶんと楽になるぞ!)
俺は喜び勇んでその家に駆け寄った。
それに、ゲームの通りならこの家はDLCを購入した瞬間に全ての理屈を超越して「主人公」の持ち家となる。
それまで空き地だった場所が急に家になってなぜかその所有権を持ってるとか謎でしかないが、まあ開発もそれだけ切羽詰まっていたということだろう。
とにかく、この家の持ち主は「主人公」の可能性がある。
だとしたらもしかすると、ここから「主人公」の存在に行き当たることも……。
「……ん?」
だがそこで、俺はゲームでは見た覚えのない立て札に気付いた。
そこに差し込まれた立て札には、「Sell 100億ウェン」と書かれていた。
※ ※ ※
(まあ、そりゃそうだよなぁ)
ゲームでならともかく、現実で急に家を所有出来るはずもない。
百億ウェンという価格も、性能を考えればあながちおかしくもないだろう。
これからすぐに百億を集めろなんていうのは無理だ。
ただこの発見は、単に新しい目標が出来た、という以上に意味がある。
「あの家が存在してるってことは……」
この世界には、第一弾DLCと同時に発表された、無料DLCの内容も実装されている可能性が高い。
そしてそれは、今後のキャラビルドにおいて大きな意味を持ってくる。
――無料DLCの内容は、「隠しダンジョンの追加」と「カンストキャラのさらなる成長」。
特に後者については重要で、DLC以前のゲームでは、レベルが九十九になるとそれ以上の「成長」は見込めず、使えないキャラは頭打ちになってしまった。
しかし、このDLCを入れるとレベル九十九の次はレベル「99+」になり、レベルの数値や新しい技の習得こそないものの、必要な経験値を貯めることで一レベル分の「成長」を何度でもすることが出来るのだ。
……まあ、一度イベントを全捨てしてレベル上げだけして検証してみたところ、必要経験値への補正がえげつない値になり、レベル98→99の必要経験値の十倍以上の経験値を要求されて思わずコントローラーを投げたりもしたのだが、まあそれはともかく。
――レクスにも、希望が出てきたな。
「成長」に限界がないのなら、レクスにだって追いつける目はあるかもしれない。
だとしたら、まずは一層力を入れてラッドたちの育成を成功させないと。
俺は決意を新たにして、その家をあとにしたのだった。
※ ※ ※
DLC効果で、という訳でもないだろうが、それからのラッドたちの訓練は、さらにその厳しさを増した。
ニュークやマナは見るからにバランスのとりにくい鉄下駄を履いて訓練場を走り、ラッドは全身をバネで覆われた鎧に、腕には重りの入ったリストバンドまでつけて剣を振り、プラナは美貌を台無しにする超絶ダサイぐるぐるメガネをかけて瞑想をする。
その過酷さは筆舌に尽くしがたく、様子を見にいった俺が思わず吹き出してしまい、プラナに弓を連射されるくらいにはむごいものだった。
周りの目はさらに厳しいものになり、俺たちへの風当たりも一層強まったように感じる。
ただ、それでもラッドたちは決して手を抜こうともしなかったし、むしろ彼らは、自分たちの成長に手ごたえを感じているようでもあった。
そして……その感覚は、正しい。
鉄下駄や重りの入ったリストバンド、それにぐるぐるメガネは、「能力の現在値を下げる代わりに、素質値を上昇させる」という隠し効果を持つ防具だ。
その効果もあってか、彼らは俺の予想を超える速度で成長しつつあった。
(欲を言えば、もっと装備をたくさん積めればよかったんだが)
ゲームでは出来なかったことも、この世界でなら出来ることもある。
ゲームでは最大三つまでしかつけられない指輪を、全部の指にはめることだって……と思ったが、そううまくはいかなかった。
これは作中のフレーバーテキストにもあったが、「同一部位に二重に装備をすると、魔力が反発して両方の効果がなくなってしまう」ということらしく、装備については原作ゲームと同じだけしか効果を発揮しないようだ。
ゲーム中で装備が可能なアイテムは九個。
具体的な内訳は、
武器 : 右手・左手
防具 : 頭・胴体・腕・足
アクセ : 三種類まで
となっている。
一部のユニーク品を除けば、素質値が変動するのは基本的に「防具」カテゴリの装備だけ。
全身に素質値上昇の装備をつければ、最大で四まで素質値が上乗せ出来ることになる。
(これで、訓練については何の問題もない。……が)
このままだと、素質値は高いものの、現在値が低い冒険者が出来てしまい、それはそれで冒険が行き詰まる。
能力やレベル上昇に必要な経験値はキャラクター自身の能力値を参照するため、装備でキャラの能力値を下げることにメリットはない。
素質値アップ装備は、俺の育成計画の片翼。
これだけでは完成はしない。
もう片方の柱として、素質値アップ装備の弱さを補えるような「強い装備」がどうしても必要なのだ。
そして、そっちの装備に関して言えば、俺自身が取ってくる以外に方法はない。
幸い、俺の考える「強い装備」入手の一番のハードルは、もう越えている。
あとは、その効率を上げるアイテムがそろえばいつでも取りにいけるのだが……。
※ ※ ※
そうしている間にもジリジリと時は過ぎ、俺がもうあきらめて、アイテムによる補正なしで装備集めをするべきかと検討し始めた時、待望の知らせがやってきた。
「兄さん。今、ギルドの女の人から〈黒猫の祝福コイン〉が納品されたと連絡が……」
「よしっ!」
訓練場にやってきたレシリアの報告に、人前だというのに思わずロールプレイを崩してガッツポーズをする。
――〈黒猫の祝福コイン〉。
使用すると一定時間、入手アイテムの質が上がる、というこのアイテム。
これだけは絶対にほかで代用出来ないため、報酬金額の三分の一、実に一億ウェンをこのコイン一個に懸けていたが、ほとんど全てのアイテムが出そろっても納品されなかった。
まあ、無理もない。
〈黒猫の祝福コイン〉はどんな敵やどんな宝箱からでも入手出来る確率がある代わりに、その入手率は驚きの0.01%。
普通にゲームをしていたら、ゲームクリアまでに一個お目にかかれるかどうかという超激レアアイテムだ。
この短期間で集まるかは運だったが、やはり人が増えれば確率も増える。
ギリギリではあったが、俺は賭けに勝ったと言っていいだろう。
もう時間もあまりない。
善は急げだ。
俺はすぐに決断すると、修行をしていたラッドに声をかける。
「悪いな、ラッド。少し出てくる」
「なっ! で、出てくるって、いきなり……」
「近場のダンジョンで軽く装備を調達してくるだけだ。すぐ戻る」
だが、俺の返答はラッドにはお気に召さなかったらしい。
すぐに噛みついてくる。
「すぐ、って。そんなお宝が手に入るようなダンジョン、この近くには……」
「〈真闇の古代迷宮〉」
それを聞いた瞬間、ラッドが絶句したのが分かった。
だが、まあ、そうだろう。
なぜなら、〈真闇の古代迷宮〉はこのゲームのメイン目標の一つである〈闇深き十二の遺跡〉の中で、もっとも街に近く、同時にもっとも強力な魔物が守護する遺跡。
――ゲーム時代の俺ですらクリア出来なかった、超難関ダンジョンなのだから。
やっぱりダンジョンは次回でした!
今作は意識的に伏線を少し抑えめにしてるんですが、その分目立つので先が読めちゃう人も結構出てくると思うんですよね
まああんまり先を語られちゃうとやりにくいので、感想欄では控えめにしてもらえると助かります!
逆にもうめっちゃ考察が捗る系作品だと活動報告に専用の記事作ってそこにネタバレありの考察コメントを、とかもあるみたいですけど、残念ながらそんな作品じゃないですしね!