第二十五話 絶対に働きたくないA級冒険者がカネの力で無双するまで
この前突然、この作品を一言で説明するキャッチフレーズを閃きました!
ずばり、「ワ〇ップ系俺TUEEEE小説」です!!
全く意味が分からないながらなんとなくフィーリングは通じる感じがとても気に入ってるんですが、問題はどこで使っても怒られそうなので使いどころがないという
ギィィ、とドアが音を立てて開くと、喧騒がワッと押し寄せる。
躊躇わずに建物の内部に足を踏み入れると、同時にいくつもの不躾な視線が俺たちに突き刺さるのを感じ取れた。
(いつもよりも人が多い。昼に来たのは正解だったな)
冒険者は全員ろくでなしの根無し草、夜は酒を浴びるほど飲んで、昼にようやく起き出して仕事をする……かは知らないが、正午には依頼の追加が行われる。
だから昼には冒険者が集まるんだ、なんてどっかのギルドのオヤジの台詞を覚えていたのが活きたようだ。
(……案外、注目されているな)
別に、特別な何かをしている訳じゃない。
それでも俺たちが前に進むと、自然と人の波が割れ、俺たちの前に道を作っていた。
ただ、注目の種類としては好意的なものよりも、どちらかというと悪意を含んだものの方が多いようにも思う。
ざわめきの中から、「A級の」「無能」「悪魔を」なんて言葉が断片的に聞き取れた。
(これがカクテルパーティ効果って奴か。ちょっと違うか?)
だが、それでいい。
どんな反応だろうと、今は目を引くのが重要だ。
(そんなつもりじゃなかったが、レシリアを連れてきたのもよかったか)
分かりやすい黒尽くめの格好をしたA級冒険者と、最近ギルドの訓練場で話題になっている美少女が並んで歩いているんだ。
この反応も当然と言えば当然かもしれない。
レシリアは、と少し後ろを見ると、彼女は臆した様子もなく俺のあとについてきている。
ハートの強い奴だ。
レシリアと二人、まるで視線を身に纏うようにしてギルドを進む。
何人かが並んでいるカウンターを避けて、暇そうな受付嬢が一人で受け持っている列に、躊躇せずに歩み出す。
「え……?」
ぼうっと宙を見ていた受付嬢が、突然目の前にやってきた俺を見て、目を丸くした。
ちなみにこの受付嬢のことは、ゲームで知っている。
確か、エリナとかいう一応のネームドキャラで、個別イベントもあるサブキャラクターだ。
動揺はしていたようだが、そこは流石の職業意識か。
彼女はわずか数秒で困惑から立ち直ると、ちょっと困ったような顔をして口を開いた。
「ええと、A級冒険者のレクス様、ですよね。申し訳ありませんが、並ぶ列をお間違えです。こちらは一般向けの……」
「知っている」
こういう時は、先手必勝と相場が決まっている。
俺は彼女に最後まで言わせず、伸ばした左手からカウンターに大量の金貨をぶちまけた。
「……は?」
目をまん丸にしたまま固まる受付嬢の目の前で、カウンターにぶつかった金貨たちはこちらが引くほどの音を出し、堅い机の上に山を作る。
その音に、俺たちの様子を見ていた者たちだけでなく、その場にいた誰もが驚いて俺の方に視線を送った。
「――依頼報酬三億と、手数料だ」
急速に静まり返ったギルドの内部に、俺の声だけが朗々と響く。
「依頼内容は『有用装備の収集』。依頼書はこれだ」
「……え、あの」
まだ状況を理解出来ていない受付嬢に、俺はとびきりの笑顔をプレゼントする。
「聞こえなかったのか? 俺が依頼を出す、と言っている。……ここまでの大金を出すんだ。フリーレアの冒険者たちの、奮闘を期待する」
数瞬後、まるで魔法が解けたように元のような喧騒が、いや、それ以上の騒ぎが背後で巻き起こる。
ここにきてようやく目の前に積まれた大金の意味を知った受付嬢は、「ギ、ギルドマスター!」と言って奥に走り去っていったのだった。
※ ※ ※
最終的にはギルドマスターがやってきて、俺は不用意な行動を咎められたり、受付嬢には「冒険者が、自分の装備を他人に集めさせるなんて……」と涙目でにらまれたりもしたが、依頼は無事に受理された。
(まあ、目の前にいきなり三億円バーンと出されたらそりゃビビるよな)
ファンタジー世界ゆえに物価はかなり適当ではあるが、インパクトとしてはそれくらいだろう。
あの受付嬢には少し悪いことをしてしまったかもしれない。
あとで機会があればフォローをしようと考えつつ、俺たちはいまだ騒然としているギルドを悠々と後にする。
そして、帰り道。
当然のように隣を歩くレシリアから、尋ねられる。
「意図は分かっているつもりですが、本当にあそこまでする必要があったんですか?」
「んー。どうだろうなぁ」
俺だって、あんな風に金でぶん殴るようなスタイルはあんまり好きじゃない。
ただ、あれは完全にパフォーマンス。
注目を集めて、俺が依頼を出したことを認知させられたらそれでよかった。
……ラッドたちが訓練をしていた一週間の間、俺はただ遊んでいた訳じゃない。
ゲーム的な要素の検証をしながら、コツコツとオリハルコンや汽水を換金してお金を貯め、装備や資金の充実を図っていた。
育成には、優れた装備品の存在が不可欠。
ただ、それに必要なものをピックアップしていくと、想像していたよりも大量のアイテムが必要だということに気付いた。
ダメ元で街にある防具屋や雑貨屋などにも行ってみたが、そこはゲームの設定を遵守しているらしく、初期状態と同じ品ぞろえでろくなものが置いていなかった。
仕方ないからダンジョンを巡るか、でも「鉄下駄」とか「ばね仕掛けの鎧」なんてランダムドロップ以外に入手手段ないし、「黒猫の祝福コイン」なんて入手確率0.01%って言われてんのにこんなん探してたら髪の毛なくなっちまうよ、と一人悶々と悩んでいた時、レシリアがやってきた。
そして、アイテムリストを見て一言、「ゴミアイテムばかりですね」と言った時に、閃いたのだ。
――「自分で集めるのが面倒なら、冒険者に頼めばいいじゃん!」と!
もし俺が探しているのが、誰もが取り合うような人気アイテムなら、それは難しかっただろう。
ただ、レシリアの言を信じるなら、これらはこの世界の一般冒険者にはあまり有用性が証明されていないものがほとんどらしい。
偶然に手に入れた場合、特に躊躇わずに手放してくれることは十分に期待出来た。
「だったら、依頼料はもう少し安くてもよかったのでは?」
「いや、それじゃ禍根が残る」
俺たちが使っているのを見て、自分が渡したアイテムが有用だったと気付いたとしよう。
小銭で売り払ってしまったとしたら、そいつらは「俺に騙された」と思うだろう。
だが、大金で買い取ってもらったとしたら、「あのアイテムは本当はああいう使い方があったのか」と感心するだけで終わる……はずだ。
「まあ、その辺の機微は実際のとこよく分からんけどな。それに、とにかく必要なのは早さだ。そのためにはあの依頼が周知されることが重要だが、それにはインパクトが大事だと思ったんだよ」
あの場で三億をバンと出したのはそのためだ。
三億というのはあくまで報酬の総額であって、実際には依頼は細分化されていて、「リストの中のアイテムを一つでも持ってきたらその価値に応じて決められた額を出す」という形になっている。
「全部揃えないと依頼達成にならない、じゃいつまで経っても終わらないしな」
「『装備を集めるために依頼を出す』なんて言い始めた時は驚きましたが、しっかりと考えているんですね。安心しました」
地味に失礼なことを言いながら、レシリアはうなずいた。
こいつは後で泣かす、と決意しながらも、俺はひとまずはレシリアから視線を外した。
(まあ、発想としてはごくごくまともだと思うんだがなぁ)
ゲームならまだしも、現実に命が懸かっているなら、装備を整えるのに手段を選ばないのは普通だろう。
実際にMMOなどではプレイヤー同士の売買がシステムとして取り込まれているものも多いし、冒険者ギルドがゲームの設定ではなく、実際にごくごく自然に発生したものだとしたら、装備品のトレードはどこかでシステムとして採用されていてもおかしくはないと思う。
(これも、ゲーム世界ゆえの弊害というか、システム的な縛りって奴なのかね)
ただまあ、この世界の常識としては、冒険者が依頼を出すということはほぼなかったし、反感を買った可能性はある。
そうなると、へそを曲げた冒険者がアイテムを渡さない、ってことも考えられるが……。
「ま、大丈夫だろ」
そのための、大金だ。
少なくともあれだけの衆人環視の前で金を出して、ギルドに預けたのだから、俺にどんな問題があったとしても支払いがされることだけは確実。
人は、金の魔力には逆らえない。
全員が全員協力的に、とはいかないだろうが、偶然手に入れたアイテムのほとんどは、結局は俺の手元に転がり込むことだろう。
「……また、悪い顔をして」
と、母親のようなことを言う赤の他人な妹の声を聞き流しながら、俺は自分の計画の成功を確信してにやにやと笑う。
そして、数日後。
その確信が正しかったことは、すぐに証明されることになる。
最初の三日はまるで様子見のように動きがなかったものの、四日目になって一つのアイテムが納品されたのを皮切りに、そこから堰を切ったかのように納品が殺到、瞬く間にリストのアイテムは埋まっていった。
結局、たった二週間ほどでリストのアイテムの九割が納品され、俺は街から一歩も出ないままに、大量の有用アイテムをこの手にしたのだった。
次回……か次々回、久しぶりのダンジョン&戦闘です!
楽しみにしておいて下さい!いいですね!