第一話 主人公を探して
一話をちょっと短めにして軽く書けて軽く読めるものを目指してます
作風も割とまったり?なのでまったり楽しんでください
「え、いやいや、なんだそりゃ」
刃に映る見慣れぬ男と対峙しながら、誰に言うとでもなく、つぶやく。
俺は死んで、そして見覚えのない場所にゲームのキャラクター「レクス」として存在している。
ということは、あれか?
俺は死ぬ直前にゲームのことを考えたせいで、ゲームの世界に転生、したってことなのか?
いやいやいや、そんなバカな話ってあるのか?
それに……。
百歩譲ってそんなアニメかラノベみたいな異世界転生とかいうのが俺の身に起こったとして、だ。
(何で、よりにもよってレクスなんだよ!!)
心の中で絶叫する。
――レクス・トーレン。
序盤イベントでの存在感のある行動から、主に女性プレイヤーにファンが多いという人気キャラ。
同じように女性人気の高い光の王子アインとセットで語られることが多く、「光のイケメン」である彼に対して、「影のイケメン」などと呼ばれているらしい。
言わんとするところは分からんでもない。
ぶっきらぼうな態度に険しい表情。
細身の身体に漆黒の髪。
光か闇と言われれば間違いなく闇。
陽か陰かと言われれば間違いなく陰だろう。
そんな風に取り上げられることの多いレクスだが、ゲーム的に言えばさほど重要な役割を持っているキャラではない。
特定のスタートを選ばなければ、まず仲間になることすらないというサブキャラだ。
性能面の話をすると、その初期レベルは破格の五十。
これは序盤に仲間になるキャラクターの中ではダントツで高い。
六十程度のレベルがあればラスボスを倒すことも不可能ではないので、これは後半か終盤のレベル帯と言えるだろう。
ステータスはバランス型で、剣だけでなく魔法、それに盗賊技能や初級の錬金術まで修めている万能選手。
序盤はその高いレベルと万能な能力で八面六臂の活躍をしてくれる……のだが。
その分、将来性は皆無!
一般的なレベル五十のキャラに比べると圧倒的に弱く、本人の潜在力も低い。
言うなれば、ゲームによくいる「序盤の救済キャラ」。
最初のうちは強力なぎんのやりを持って無双してくれるが、仲間が成長するにつれてだんだんと使われなくなっていく老齢のパラディンのような存在なのだ。
こんな非常事態にゲーム脳こじらせてんじゃねえよ、と自分でも思うが、せめて、転生するにしても伸びしろのある主人公か、死ぬ直前に見たイラストに一緒に映っていた〈光の王子アイン〉の方にしてくれていれば、と思ってしまう。
(い、いや、そんなこと言ってる場合じゃねえだろ!)
事態の究明より先に、まずは身の安全。
ゴブリンについては「レクス」の力で何とかなったが、こちとら平和な日本に生まれた小市民なんだ。
こんな魔物がうろつくような場所に長々と居座っていたくはない。
(ストーリーとモンスターから考えて、ここは都市スタートの最初のダンジョンの〈試しの洞窟〉だよな)
冷静になれば、そしてここがブレブレの世界だと認識すれば、見覚えのある場所だとはっきりと分かる。
ある程度道も覚えているし、外に出ることは出来るはずだ。
まずはとにかく近くの街に逃げ込んで、それから今後のことを……近くの、街?
「あ……」
思わず、声が漏れた。
自分の顔が青くなっていくのが自分でも分かる。
この試しの洞窟のすぐ近くには「レクス」の故郷でもある大都市〈アース〉がある。
ある、のだが、そこに逃げるのはとてもまずいかもしれない。
だって、俺だけが知っている。
この世界がゲームだとしたら、もうすぐ、あの街は……。
「――魔物の襲撃で、滅ぼされちまうじゃねえか!」
※ ※ ※
【スタートセレクト】
出自①
《冒険者に憧れる都会の少年》
難易度 : 簡単
初期クラス : ヤングレオ
初期の仲間 : 選択肢により変化
所属勢力 : 冒険者ギルド
制限 : 特になし
ブレブレは複数用意された出自の中から一つを選び、違った場所、違ったシチュエーションでゲームを始めることが出来る。
最序盤の間は選んだ出自に沿ったオープニングが開始され、チュートリアルを兼ねたそのクエストが終わってから、自由に冒険を進めることが出来るという仕組みだ。
その中でレクスがメインで登場する《冒険者に憧れる都会の少年》は、全部で七種類+α存在する『ブレイブ&ブレイド』の出自の中で、《帝国の騎士見習い》と並んでもっとも難易度の低いものの一つだ。
序盤のストーリーに組み込まれたチュートリアルが分かりやすく、ストーリーラインも王道でとっつきやすいため、初心者にもオススメのスタンダードな出自だと言える。
ただし、難易度が低いとは言っても《裏切られたスラム街の孤児》や《捧げられた闇の御子》、《魔物にさらわれた貴族の息子》のような鬼畜スタートと比べたら楽、というだけであって、シナリオ自体の流れはなかなかにハードだ。
《冒険者に憧れる都会の少年》の物語は、主人公が同い年の少年少女三人と共に即席のパーティを作ったところからスタートする。
彼らは新人冒険者の登竜門である〈試しの洞窟〉へ行き、そこで鍵開け、ギミック解除、戦闘など、一通りの操作説明を学びながら、最深部へと到達する。
その最深部にある不気味な模様に触れれば無事に最初の冒険が終わり、彼らは冒険者としてのスタートラインに立つ、はずだった。
しかし、〈資格持つ者〉である「主人公」が模様に触れたことで封印が解かれ、最深部に封じられた悪魔が復活。
偶然調査に来ていたベテラン冒険者、〈レクス・トーレン〉の助力で何とか死地を脱するものの、封印の悪魔は最後に不吉な預言を残す。
「我を倒そうとも、もう遅い。我らが神の復活の狼煙はあがった。貴様たちの街に戻ってみるがいい」
慌てて洞窟を出た主人公たちの前には、煙と悲鳴があがり、血しぶきと魔法が飛び交うかつての故郷があった……。
※ ※ ※
「――って、冗談じゃねえぞ!」
どうして「レクス」がダンジョンにいたか分かった。
今はゲーム開始直後、〈封印の悪魔〉と戦う「主人公」たちを「レクス」が救う直前の場面なんだろう。
(もし、何も考えずに街に逃げてたら……)
ゲームでは、この街を襲うのはレベル四十のモンスター〈ガーゴイル〉や、レベル五十五の〈フライングデビル〉が主力だ。
さらに、襲撃イベント後にはアースの街は魔物に占領された〈魔都アース〉へと変わり、そこにはレベル六十、つまりはストーリー終盤クラスの敵すらも存在していた。
レクスの初期レベルが五十あるからと言って、とても敵う相手じゃない。
(だったら、ほかの街に逃げる……か?)
そうすれば、俺はもしかすると生き残れるかもしれない。
だが、その場合は当然アースの街は魔物に滅ぼされ、レクスの助力を受けられなかった「主人公」たちは封印の悪魔に殺されるだろう。
「ダメだ! 完全に詰む!」
道義的な問題を抜きにしても、ブレブレ世界における重要人物である「主人公」がこんなところで死んでしまえば、今度は世界が滅びかねない。
だとしたら、手段は一つ……。
――「イベントが始まる前に『主人公』を止める」しかない!
試しの洞窟には何度かやってきたことがあるし、朧気ではあるがルートも覚えている。
今から全速力で進めば、「主人公」たちが洞窟の最深部〈封印の間〉に辿り着く前に追いつけるはずだ。
その場合、ストーリーはめちゃくちゃになってしまうかもしれないが、知ったこっちゃない。
申し訳ないが、俺はただの会社員。
荒事はもちろん、世界の救済なんてのも専門外なのだ。
そうだ。
封印を解くのを止めるついでに、「主人公」様にゲーム知識を教え込んで、世界を救ってもらうというのはいいかもしれない。
そんな風に考えていると、悲観に沈んでいた気持ちが上向いていくのを感じる。
(とにかくまずは、「主人公」を見つけないと……)
目印はある。
このダンジョンで目覚めてからずっと視界に入っていた、中身が開けられた宝箱。
これが、大きなヒントだ。
(幸い、このダンジョンにある宝箱は一ヶ所だけだ。だとしたら、現在位置は入り口入ってすぐの三差路の奥ってことになる。となるとあそこに見えるのが〈翼竜の散歩道〉へのショートカットだから、ゴールに一番近いルートは……こっちか!)
そうと決まったら、もう一刻も無駄には出来ない。
俺は頭の中のかすかな記憶を頼りに、洞窟の深部に向かって駆け出した。
※ ※ ※
「……まずいな」
道中、特に仕掛けに迷うこともなく、懸念していた魔物の襲撃も全くなかった。
ブレブレでは、基本的に一度倒した魔物は日付が変わるまで再び出現しない。
つまり、俺は主人公パーティが倒した道を辿っていることは間違いない、のだが。
(向こうの進行速度が想定よりも速い、のか?)
運動不足のリーマンから、曲がりなりにもベテランの冒険者であるレクスにクラスチェンジしたためか、俺の身体能力は大幅に上がっている。
ゲーム時と比べても遜色がないどころか上回るほどの速度でダンジョンを踏破しているのに、一向に主人公パーティが見つからない。
このダンジョンは実質ゲームのチュートリアルを兼ねているため、死亡リスクこそほとんどないが、隠し扉や謎解きなど、時間のかかる仕掛けがそれなりにある。
全てのネタが分かっている俺なら、すぐに追いつける、と踏んでいたのだが……。
(次の部屋にいなかったら、あと残ってるのは最深部……。封印の間だけだぞ)
俺が内心の焦りを押し隠し飛び込んだ部屋は、やはりもぬけの殻だった。
「くそっ!」
俺は思わず悪態をつくが、部屋には戦闘の跡が残っている。
ついさっきまで、誰かがここで戦っていたのは間違いない。
(本当に速すぎる! もしかして、「イベント」の結果は人の意志じゃ変えれないのか!?)
浮かび上がった可能性を振り切るように、俺は全力で床を蹴る。
日本にいた頃では考えられないほどの速度で曲がりくねった通路を踏破して、広けた場所に出る。
(いた……!)
目に飛び込んできたのは、壁一面におどろおどろしい壁画が描かれた大きな部屋と、その奥に佇む少年少女たち。
そしてその一番奥で、二人の少年が、今まさに封印に手を伸ばしていて……。
「――やめろぉおおおおおおおお!!」
声の限りに、叫ぶ。
だが、俺の警告は、間に合わなかった。
少年たちは俺の叫びに驚きこそしたものの、その手はしっかりと封印に触れていて。
古き悪魔が封印された扉。
その、資格持つ者に触れられた封印は……。
封印、は……。
「…………あれ?」
……特に、何も変化がなかった。
「な、なんで……?」
俺の疑問に、答える声はなく。
ただ気まずい沈黙だけがその場を支配して、少年たちの完全に痛い奴を見るような鋭い視線が、俺を貫いたのだった。
予約ミスってなければ次は一時間後です