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主人公じゃない!  作者: ウスバー
第二部 集う力
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第十八話 RE:ゼロから始める育成生活


「……ふむ」


 俺は歩きながら目を細め、街ですれ違う人々に片っ端から〈看破〉をかけていく。


―――――――

チョーミン


LV 1

HP 44 MP 22

筋力 6 生命 6

魔力 6 精神 6

敏捷 6 集中 6

―――――――


―――――――

ムーラビット


LV 2

HP 48 MP 24

筋力 14 生命 7

魔力 7 精神 7

敏捷 7 集中 7

―――――――


―――――――

シンズウィン


LV 4

HP 146 MP 46

筋力 45 生命 54

魔力 27 精神 45

敏捷 36 集中 45

―――――――


 次々に映し出されるステータスウィンドウを堪能しながら、俺は一人うなずいていた。


(やっぱり、〈看破〉はいいな)


 スカウトの初期クラスで習得出来るから覚えるのも簡単。

 MP消費はなく、一般技能だから沈黙や狂乱状態でも余裕で使える。


 そして何より……。




(俺より弱い奴を見てると癒やされるぅ……!!)




 街の何でもない人間たちを見てみることで、レシリアの高ステータスによってもたらされた心の傷が治っていくのを感じる。


 当たり前だが、レクスだって伊達にA級冒険者をやっていない。

 レベル比で比べるとまあ……となってしまうこともあるが、少なくとも能力の現在値だけを見れば、レクスは十二分に強い。

 いや、もはや最強と言っても過言ではない。


「機嫌がよいみたいですが、何をしているんですか?」

「う、ぐ」


 横を歩く少女、レシリアからの声に、俺は思わず硬直した。

 まさか、お前が強すぎてへこんでたから弱い奴を見て精神の安定を図ってるんだ、とは言えない。


「い、いや、俺の〈看破〉は特別みたいだから、試してるんだ」


 苦し紛れに口に出した言い訳だったが、レシリアはなるほど、と納得したようにうなずいた。


 ……そう。

 レシリアに聞いたところ、普通の〈看破〉は相手のステータスを見るようなものではなく、自分と比べて相手がどのくらい強いかを測る技能として知られているという。


 これはまさしく俺の主人公補正!

 ……とでも言いたいが、おそらくはどちらもやっていることの根幹は同じ。

 ゲームでの〈看破〉の説明文にある通り、「対峙した相手の強さを見破る」ことなのだと思う。


 ただ、物心ついてから日常的にコンピューターゲームに触れ、さらにこの世界の元となったブレブレでステータス画面を見ている俺は、その「相手の強さ」を数値として受け取り、一方で、ゲームどころかデジタルなものに縁のないこの世界の人間は、感覚として「相手の強さ」を認識している、とすれば説明はつく。


 そして、ストレス発散のためにやっていた〈看破〉連打だが、思いのほか収穫があった。


「それで、いくつか気付いたことがある。例えば、あそこに立ってる魔法使い装備の男」


 俺は相手に気取られないように、道の向かいに立つ魔導士風の男を示す。


「あいつの能力値は、こんな感じだった」



―――――――

マドゥーシャ


LV 25

HP 324 MP 128

筋力 90 生命 122

魔力 88 精神 148

敏捷 150 集中 122

―――――――



「これは……」


 俺が書きつけたステータス表を見て、レシリアは眉をわずかに歪めた。


「分かるだろ。明らかに職業と適性が合ってないんだよ」


 魔法使いは魔力と集中が一番必要な能力なのに、彼の能力傾向はほぼ逆だ。

 成長値は基本的に「本人の素質+職業補正」で決まる。

 彼が魔法系ジョブに就いていてこれだとしたら、素の魔法力はさらに低いことになる。


(ここはまあ、原作通りではあるか)


 この世界での一般冒険者の素質は、ランダムで決定される。

 そのせいか、完全に「ステ振り事故」を起こしているキャラも多いということだ。


 ほかにも戦士っぽい見た目なのに生命が異様に低い奴、一見して完璧なシスターに見えるのに魔力ばかりがやたら高くて精神が低い女性、なんかもいた。


 なるほど、とうなずくレシリアに、俺はここぞとばかりにしたり顔で語った。


「この世界では、体格や見た目が素質には直結しない。だから例えば……」


 言いながら、今俺の横を足早に追い抜いて行った、いかにもなヒゲ面の大男にも看破をかけ……。



―――――――

ヴェルテラン


LV 34

HP 476 MP 141

筋力 171 生命 189

魔力 92 精神 104

敏捷 181 集中 166

―――――――



 ……あ、うん。

 こいつ、いや、この人はまあまあそれっぽい成長をしているようだ。


 というか、レクスよりレベル十六も低いのに何かつよ……い、いや!

 き、きっと、この人は街でも有名なA級冒険者か何かなんだろう。

 名前もなんか強そうだしな、うん、絶対そうだ。


「……あの?」


 黙っている俺に違和感を覚えたのか、レシリアが不思議そうな顔をする。

 俺は「とにかく!」と大声を張り上げて誤魔化した。


「これで、分かったことがある」


 確かにこの世界の人間たちは優れた資質を持っているかもしれない。

 ただ、データを片手に計画を立てて育成をしていた俺からしてみると、キャラビルドが甘い(・・)


「俺が助言をすれば、きっともっと強くさせられるはずなんだ」


 それと、もう一つ。

 現実逃避をしながらも、それでもどうしても、気付いてしまったことがある。



 ――やっぱり(レクス)は、圧倒的に「弱い」ということ。



 確かにレシリアの初期値ははっきり言って「異常」で、成長値も奇跡的なまでに高い。

 彼女に負けるのなら仕方がない面はある。

 ただ、一般の冒険者と比べてもレクスの能力は低すぎるのだ。


 キャラの成長値は基本的に、「素質値とクラスの補正」の合計で決まる。

 つまり、成長値からクラスの補正を抜けば、逆算してその人物の素質が分かるということ。


 ゲームでは通称「素質おばさん」と呼ばれる占い師が、その人の潜在能力を「全然ダメ、ダメ、ふつう、スゴイ、超スゴイ、天才」の六段階で評価してくれる。

 例えばその評価に従うと、〈インペリアルソード〉による補正を抜いて計算したレシリアの素質はこうだ。



筋力 超スゴイ

生命 スゴイ

魔力 ダメ

精神 スゴイ

敏捷 天才

集中 ふつう



 一目見て分かる優秀さ。

 一般的な冒険者だと、スゴイとダメが二個ずつで、残りが普通、というくらいなので、明らかに優秀だと分かる。

 対して、〈孤高の冒険者〉にして剣一本で世界を渡ったとされる剣士レクスの素質値は、こうなる。



筋力 全然ダメ

生命 全然ダメ

魔力 スゴイ

精神 全然ダメ

敏捷 全然ダメ

集中 全然ダメ



 一目見て分かる意味の分からなさ。

 全ての能力が軒並み低く、全てを足し合わせても常人の半分程度の値。

 何より、剣士のはずのレクスの一番高い能力値が、剣士に一番不要な魔力というのがまず理解出来ない。


 ただ、ここでレクスの初期クラスである〈ブレイブレオ〉の補正値を見てみれば謎は解ける。



筋力 3

生命 3

魔力 0

精神 3

敏捷 3

集中 3



 つまりはアレだ。

 まず〈ブレイブレオ〉の職業補正が決まっていて、それに素質値を加えた時に全部の能力が均一になるように、あとからレクスの素質値を決めていったのではないか、というのが俺の仮説。


 設定を優先したために、異常なまでの強さを得たレシリアとは、まるで真逆。

 レクスは開発の杜撰なつじつま合わせによって、最弱の才能を持たされてしまった不遇の中の不遇、最低最悪の被害者なのだ。


 この素質値でA級冒険者にまで上りつめた本物のレクスは、神なんじゃないかとすら思う。


(……しかしこれで、方針は決まったな)


 仲間を作って鍛える案と、レクス(自分自身)を中心に鍛えていく案、両方の間で少し悩んではいた。

 ただ、こうもはっきりとデータがそろってしまえば、もう結論は決まっている。


 やはり、このありさまじゃこれ以上レクスを鍛えてもどうしようもない。

 ここはもう、すっぱりとあきらめて……。





(――レクスの育成を、ゼロからやり直そう(・・・・・)!!)





 ……まあ、なんというか。


 普通はここで、戦うことをあきらめるのが賢いやり方だと分かっている。

 別に、俺が強くある必要はない。


 そりゃ、自分の身を守る必要はあるから最低限の強さはいるだろうが、それなら今だって十分に強い。

 最前線で魔物と切った張ったをするなんて性に合わないのも変わらない。


(だけど、さぁ)


 ここまでお膳立てされたように不遇を並べられると、逆を張りたくなるのが人間の性。

 社会に出て、ずっと前に封印したはずのゲーマーの俺が心の中で騒ぐのだ。



 ――このどうっしようもないキャラクター(じぶん)を鍛えて無双したら、最っ高に気持ちいいんじゃないか、と。



 確かに俺は、この世界をアクションRPGじゃなくて、シミュレーションゲームとして見ると決めた。

 だけど俺は、シミュレーションゲームでもお気に入りのキャラをゴリッゴリに育ててニヤニヤするのが好きなタイプなのだ!


 ……もちろん、心意気だけじゃ、何も変わらない。

 ただ実際、やりようによってはもう少し何とかなっていたとは思うのだ。


 例えば、職業補正込みで平均値が四なら、バランス型でさえなければどうとでもなる。

 実際に数値で考えてみると分かるのだが、例えばステータスに偏りをつけて、


筋力 8

生命 4

魔力 3

精神 3

敏捷 3

集中 3


 となったらどうだろう。

 ほかのステータスが若干怪しいものの、パーティの攻撃役として十分にやっていける。

 レクスが絶望的なのは、ただでさえステが低いのに、それを均等に上げてしまっているところにある。


 だったら、どうするか。

 それはもう、レクスを一度ぶっ壊して、もう一度最初から作り直すしかない。


 本来、上がったレベルは戻らないし、一度定まったステータスは変化しない。

 ただ俺には一つだけ、それが出来るイベントに心当たりがある。


 ただし、それには様々な準備がいる。

 イベント自体もそうだが、このままレベルを上げ直したとしても、結局同じステータスのレクスが出来上がるだけだ。

 その運命を変えるには、最低でも「レベルアップ時に上昇するステータスに補正がつくレア装備」を集める必要がある。


 ほかにも必要なものは無限に思いつくし、それはゲーム通りにやっていたのでは絶対に出来ないことだ。

 だから……。




「――だから、最強の軍団を作ろう」




 世界を破滅から救うため。

 原作の悲しい未来を少しでも減らすため。

 そして何より、俺の、俺による、俺育成ゲームのために!!


「……よく分からないですけど、楽しそうですね」


 レシリアが、どこか呆れたように、でも少しだけ嬉しそうにつぶやく。


(今度こそ、俄然やる気が出てきたな)


 ズレのあった歯車が、ぴったりはまりこんだ心地がした。


 やっぱり俺は平凡で、褒められると調子に乗るし、他人を羨んでガチ凹みするしょうもない俗物で、主人公には程遠い。

 だからこそ、そんな自分が単なるゲーム知識だけでどこまでやれるか、楽しみでもあった。


 そして……。

 そのための最初の協力者いけにえには、実はもう目星はつけてある。



「――おーい、おっさーん!!」

「――あ、レクスさん!!」



 ギルド前に視線を向けると、そこにはいたのはラッドたち新人パーティ四人組。

 大きく手を振る彼らに俺は歩み寄ると、単刀直入に切り出した。



「――お前たち、俺の指導を受けるつもりはないか?」



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ちょっとした記入ミスで、登場人物も、世界観も、ゲームシステムも、それどころかジャンルすら分からないゲームのキャラに転生してしまったら……?
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― 新着の感想 ―
[一言] 敏腕プロデューサーに、オレはなる!!
[良い点] >「――お前たち、俺の指導を受けるつもりはないか?」 ここだけ読んだら、弟子を取る強キャラ感が出てるのにw
[良い点] 急に面白くなりだしたw
2022/02/10 05:49 退会済み
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