第百七十五話 消えた少年
バ〇オRe4、猫耳アクセ取るのが実質のゴールだと思うんですが、その準備に最低三回はゲームクリアしなきゃいけないっぽくて迷ってます
時間泥棒すぎる……
リリーの言葉を思いのほか多くの人間が聞いていたこと、それから、仮面の男がスラム街に現れたのを目撃した人間が一定数いたことから、暗殺者ギルドが「誰か」をさらったという噂は瞬く間に王都を駆け巡った。
当然、それを王都の治安を司る騎士団が看過出来るはずもなく、俺たちは騎士団と連携して暗殺者ギルドの捜索、討伐作戦を開始したのだが、
「……また空振り、かぁ」
これが思ったよりも難航した。
(まさか、キーアイテムなしで暗殺者ギルドのアジトを見つけるのがこんなに大変だなんて、な)
暗殺者ギルドには、街に複数ある特定の場所で専用の鍵アイテムを使用することで転移出来る。
逆に言えば転移以外の手段で入ることも出ることも出来ないのが、これまで暗殺者ギルドが生き残っていた理由の最たるものだ。
ゲームの流れだと、アイン王子を襲撃した暗殺者から転移鍵を手に入れ、それを使ってギルドに潜入するが、当然今の段階ではそんなものは入手出来ていない。
(そこは俺のゲーム知識でなんとでもなる、と思ってたんだが……)
転移可能位置のいくつかはゲーム知識で割れている。
そこを張って、転移しようとした、あるいは転移してきた構成員を捕縛して転移鍵を手に入れる、というのが俺の計画だった。
念の入ったことに、一つの転移鍵でワープ出来るのは一人だけだが、〈パーティリード〉を使えば登録した三人も一緒に転移出来るため、結果的に四人が転移出来ることになるし、登録者を変えて往復すれば、理論上は人数に制限なく輸送することが可能だ。
ギルドを制圧してしまえば、という計画だったのだが、奴らは全く尻尾を見せなかった。
(こっちが張ってることを警戒して、転移場所を変えたんだろうな)
俺が知っているのは、ゲーム中で出てきた転移位置だけ。
ゲームでは出てこなかった転移場所もあるだろうし、単純に張り込みを見破られたという可能性もある。
楽観交じりで始めた捜査が行き詰まって、一ヶ月。
ラッドたちやアインたちが合流しても、暗殺者ギルドの調査は遅々として進展することがなかったのだった。
※ ※ ※
手帳を前にうんうんとうなっていると、ドアが控えめにノックされた。
「――お茶を持ってきました。レクスさん。今、大丈夫ですか?」
外から聞こえたのは、聞き慣れた仲間の声。
「マナか。入ってくれ」
「失礼します」
そう言って部屋にやってきたマナは、俺を見るとちょっと眉をひそめた。
「大丈夫ですか、レクスさん。あんまり顔色が……」
「あー。最近忙しくてちょっと眠れてなくてな。まあ、問題ないさ」
肩を竦める俺に、マナは不安そうにうつむいた。
「でも、やっぱり心配です。レシリアさんも暗殺者ギルドの捜索に出ちゃってるんですよね。なのに今、レクスさんに何かあったら……」
「心配しなくても、俺が狙われる可能性なんてほぼないさ。……それでも、レシリアの説得にはだいぶ骨が折れたけど、な」
とにかく今は、レリックの安全を確保することが何より大事だ。
前に我がままを許したことも持ち出して、何とか別行動を了承させることが出来た。
(代わりに、レシリアと一緒じゃない時は絶対に捜索に出ないように、なんて言い含められたけど)
これではどちらがどちらを説得したのか分からない。
おかげでこうして暇を持て余して、机に向かうハメになっている訳だったりする。
「あの、ところで、レクスさんは何を書いているんですか?」
「あぁ、ゲームでレリックが書いてた日記の情報をまとめてたんだよ。どこかに、暗殺者ギルドの手がかりがないかと思ってさ」
結果は今のところ出ていないが、状況は整理出来た。
「今やってるのは、日付の確認かな」
「日付、ですか」
マナの問いに、俺はうなずいた。
「残念ながら細かい日付は覚えてないんだが、逆算して分かることもある」
問題のXデー。
アイン王子の暗殺イベントは、十月十日に行われる。
「十月十日というと……」
「ああ。俺がこの世界にやってきた日。〈救世の女神〉の神託があった日だ」
光の王子の誕生日に、光の女神が目覚める、というのもなんとなく運命的なものを感じなくもない。
それを抜きにしても、二年目の始まりの日にアイン王子が殺される、というのはなかなかにドラマチックだと思う。
「ゲームでレリックがさらわれた日の日付までは覚えてないんだが、確かXデーの直前に、二ヶ月の訓練を活かして、みたいな記述があったのは覚えてるんだよ」
「十月十日の二ヶ月前なら、レリックさんがさらわれたのは、八月十日前後……」
一方、現実で俺たちが水の都でレリック発見の報告を聞いたのがちょうど八月の一日。
「実際に仮面の男が現れて、レリックさんがさらわれたのはその翌日でしたっけ。なら、八月の二日ですね」
二ヶ月前と言えなくもない範囲だし、十日もかけて船で帰る訳にはいかない、とした俺の判断は、そう間違ってもなかったのではないかと思う。
「なら本当に、ギリギリだったんですね。もう少しだけ早くレリックさんが見つかっていたら……」
マナが沈痛な面持ちを浮かべ始めたので、俺は慌てて話をそらした。
「しかしあらためて考えると、やっぱりレリックは戦士としての素質はやばいんだよな」
暗殺者ギルドは、レリックを言葉巧みに騙し、暗殺の鉄砲玉とした。
そして即席の訓練を行ってアイン王子にぶつけた訳だが、
「考えてみろよ。あのアインに、たった二ヶ月の訓練で食らいついてたんだぞ」
「そ、それは……。確かにすごいですね」
兄弟だからか、アイン王子と同等、いや、あるいは凌駕するほどの才能を、レリックは持っているのだ。
「……まあ、暗殺者ギルドの訓練がえげつなかったってのも、もちろんあるけど、な」
日記の内容を思い出すと、俺も顔をしかめてしまう。
「何をした、んですか?」
「自分たちが殺した死体を使ってモンスターを作って、それを訓練相手にしたんだよ」
単なる戦闘訓練では、戦闘技術は磨けても経験値は手に入らない。
しかし、さらわれた王子を外に出す訳にはいかない。
だからこそ、ギルド内で死体を素材にした魔物を作り出し、足りない経験値を稼がせたらしいのだ。
「ひどい……」
しかも、暗殺者ギルドがレリックにしたのはそれだけじゃない。
普通では勝てない格上の魔物で経験値稼ぎをさせるために、危険な薬を使ったドーピングを行ったのだ。
「寿命を縮める危険な薬らしいが、どうせ奴らには関係ないだろうしな」
俺が肩を竦めて言うと、マナはギュッと唇を嚙み締めた。
「つまり、レリックさんは今もそんな目に遭っている可能性が高いんですよね」
「それは……」
失言だったと口をつぐむ俺を、マナは強い意志のこもった目で見つめた。
「絶対、絶対に、暗殺者ギルドを見つけて、レリックさんを助けましょう!」
「……そう、だな」
マナには言わなかったが、日記の記述が正しければ、レリック以外にも暗殺者ギルドには同じように無理矢理にさらわれてきた「暗殺者候補」がいる。
一刻も早く、暗殺者ギルドは潰さなくちゃいけない。
(ただ、もし暗殺者ギルドを見つける手段が、ほかになかったとしたら……)
十月十日。
問題の暗殺イベントに、全てを懸けるしかないかもしれない。
その時は……。
(――何も知らずにいいようにやられたゲームとは違う。ゲーム知識の力って奴を、見せてやるよ!)
迫る決戦!
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こっちの毎日更新は予想より大変なので、テキトーに応援してくれると嬉しいです!