第百六十八話 トレジャーハント
書き溜めは死んだって予告に書きましたが、実は書き溜めなんて1月1日の時点で2行くらいしか残ってなかったので実質ノーダメです!
更新継続、ヨシ!
「ヨシ! これでこの店のフラグは大丈夫だ。次は西区画に移動して……」
フラグを思い通りに操作するのは、本当に楽しい。
今までずっと、「主人公」属性がなくて悔しい思いをしていたとなれば、なおさらだ。
俺がウキウキでマナに指示を出して街を回っていると……。
「ちょ、ちょっと待てっておっさん!」
「ん?」
不意に焦った様子のラッドに呼び止められ、仕方なく足を止める。
「どうしたんだ、ラッド」
「い、いや、どうしたんだ、じゃねえって! こんなペースじゃ、マナがもたねえよ!」
妙に切迫した様子で変なことを言うラッドに、俺は首を傾げた。
確かに今日は朝からマナを連れまわしてはいるが、いつもの過酷な探索や戦闘と違い、今日は比較的簡単に出来る街中でのフラグ立てだけしかやっていない。
特に今回は実績系……要するに、「街の特定施設を百回利用した」のような、「主人公」が一定の条件を満たすことがイベント発生の前提となるタイプのイベントのために、街中での単純作業をメインでこなしてもらっているだけだ。
いくらなんでも、まだ高校生だった女の子にそこまで過酷な労働をさせようとするほど、俺も鬼じゃないのだ。
そりゃ、中には多少体力を使うようなものもあったが、一番疲れそうなものでも、墓を掘ってまた埋め戻す作業を三十回繰り返すとか、精々その程度のもの。
あとは公衆浴場に料金を払って入って脱衣所に一歩だけ足を踏み入れてから外に出てもう一度料金を払って脱衣所に足を踏み入れるループを百回とか、鍛冶屋で武器を修理してもらって目の前で壊してからまた修理を依頼してというループを百回に、アクセサリーショップで試着してから買わずに商品を戻してもう一度試着を頼むというループを二百回など、効率が良くお金や手間があまりかからない、お手軽で負担なく出来るものだけを厳選しているのだ。
元が肉体労働などとは無縁に育った女子高生とはいえ、まさかこの程度で参るはずは、とマナを振り返ると、
「ワタシハ ラジコン……。ワタシハ ラジコン……。ワ、ワタ、シハ……」
そこには死んだ目で虚空を見つめながら、何やらぶつぶつとつぶやく転生者の少女の姿があった。
「……う、うん。ま、まあ? ちょっとは気分転換も必要かもしれないな」
朝の照れくさそうにⅤサインをしていた少女と同一人物とは思えないマナの変わりように、流石の俺も考えを変えた。
どうやら、単純作業の繰り返しというのは、肉体よりも思ったよりも精神にクるらしい。
新たな見識を得た俺は、あっさりと前言を翻して、ラッドに同意する。
しかし、赤髪の少年に向けたはずのその言葉に、もっとも反応したのは当事者のマナの方だった。
「ほ、ほんとですか!? も、もういいんですか? もう街の大門を跨いでずっと反復横跳びをしたり、店員さんに用もないのに無限に話しかけ続けなくても、いいんですか!?」
先程までのうつろな目が一点、マナはまるで輝くばかりの光をその両目に宿し、俺に詰め寄ってきていた。
「え? あ、ああ」
その勢いに負け、ついうなずいてしまう。
「や、やった……。お母さん、お父さん。わたし、やりきったよ……!」
涙ながらにそう口にするマナの迫力に、「いや、終わったんじゃなくて中断しただけなんだけど」と口を挟むことは流石に憚られた。
マナのことは少し理解出来てきたつもりだったが、やはり年頃の女の子というのは難しいものだ。
とはいえ、流石に今日このままフラグ立て作業をするのは厳しいだろうというのは分かった。
(本当は、もうちょっとフラグを拾ってから、と思ってたんだが)
まあ、ついつい楽しくなって色々やらせてしまったが、今日のメインはむしろこっちだ。
「で、宝探し、だっけ? 翠柱都市の宝を捜すって言ってもどうするんだよ。おっさんは知らないかもしれないけどよ。家の中に勝手に入ってものを持ってくのって、犯罪なんだぜ?」
「他人の家に勝手に入る訳ないだろ。お前は俺を何だと思ってるんだ……」
あまりにも非常識なラッドの発言に、「はぁ」とため息をつく。
「もともとこの翠柱都市ってのは、かつての遺跡を再利用して作られたんだよ」
もちろん建物の全てが元遺跡だった訳じゃないが、街の主要施設のいくつかは、古代の建造物をそのまま利用している。
そしてそういう建物には、(おそらく主にゲーム的都合によって)いまだに手つかずの宝が発見される時を待っているのだ。
「遺跡の捜索については、もうこの街の最高責任者であるハアトに許可を得ている。誰も住んでない建物で見つけたものは、俺たちが自由にしていい、ってさ」
やはり、持つべきものは権力者の幼女だ。
権力最高! 権力最高!
とテンションを上げる俺に対して、それでもラッドは懐疑的だった。
「で、でもよ。もしその遺跡ってのにお宝がまだ眠ってるとしたら、めちゃくちゃ見つかりにくい場所に入口があるんじゃねえか? オレは嫌だぜ。家に一軒一軒入って、地下室を捜すみたいなのは……」
本当に疑り深いが、やはりそれだけ都市の中に宝がある、なんて事実が受け入れがたいのだろう。
ただ、それについても今回に限っては杞憂だ。
「それも問題ない。手つかずの遺跡には分かりやすい特徴があるからな」
言いながら俺は、空を見上げる。
そこには抜けるように青空が広がっていて、燦々と照りつける太陽の下で、ミズツバメという名のこの世界にしかいない鳥がいかにも気持ちがよさそうに飛び回っている。
「え、まさか……」
「あいかわらず、察しがいいな」
ひきつった顔のラッドに、俺は笑みを返す。
「――俺たちが捜すのは、地下じゃなくて頭上。古代の遺跡ってのは、背の高い建物に隠されてるんだよ」
※ ※ ※
なぜ、人々が今も生活する都市に、それなりにいい装備を揃えた俺たちがわざわざ捜すほどのお宝が隠されているのか。
そして、なぜそのお宝への入口が、どう考えても利便性の悪い、背の高い建物にだけ存在しているのか。
――これについては純粋に、ゲーム側の事情だ。
確かにこの〈翠柱都市ヴァルツォダ〉は、序盤から探索可能なスポットだから、正直そんなに高性能なアイテムなんて入手出来ない。
だが、〈水中都市ヴァルツォダ〉は違う。
この都市が水没した場合、ゲーム後半になってボートを使って探索を行う機会が訪れるが、その時にはほとんどの建物が水没した状態で、一部の建物だけが水面に顔を出している状態になる。
要するに、この都市は地表部分と高層部分がもはや別マップ。
水没前に行ける地表部分については序盤マップで手に入る程度のものしか落ちていないが、水没後にしか行けない背の高い建物に関しては、ゲーム後半に手に入るような価値の高いアイテムが配置されているのだ。
(移動可能な場所が厳格に規定されているブレブレのゲームでは、高低差ってのは絶対に超えられない壁だった。だが、現実になったこの世界では、そんなマップの縛りに唯々諾々と従ってやる義理もない)
俺は早速目の前にそびえたつ塔のような建物を見つけると、唇を歪ませた。
「ほら、よく見てみろよ。あれなんて露骨だぜ」
その塔が奇妙なのは、地上階のどこにも入口が見当たらないこと。
地表部分をぐるっと回ってみても、そこには無機質な壁が広がっているだけで、どこにも扉の類は見えない。
「え、ええ? 何でこれ、入口がないんだ?」
「いいや、よく見ろって言ったろ。入口ならある」
そう言って、俺は銃の照準をつけるように人差し指を立てて片目をつぶり、塔の上へと指の先を滑らせる。
そして、バン、と言いながら指を立て、にやっと笑った。
「え? ……あ、ほんとだ!」
それでようやく、ラッドも気が付いた。
視線を上に移せば、周りの家々の屋根よりも高い場所に足場が組んであり、そこに唯一の塔の入口が訪問者を待ち構えていたのだ。
ラッドはしばらくポカンとした様子で頭上の入口を眺めていたが、すぐに我に返ったように騒ぎ出し――
「いや、でもよ! あんな場所にどうやって登るんだよ! いくらオレたちの身体能力が高いからって、こんな足がかりもない壁を……へ?」
――その言葉が、不意に途切れた。
まあでも、それも無理はない。
最近何かと生意気な弟子の度肝を抜いてやった優越感に口の端を持ち上げながら、俺は頭上を見上げて驚愕の表情を浮かべるラッドの顔を「正面から」眺め、
「――だから、問題ないって言っただろうが」
周りの家々より高い塔の入口から、真下に向かって大きく手を振ったのだった。
これがレクス式登攀術!
昨夜唐突に思い立って、(もうそろそろサービス終了する)アツ〇ールに昔投稿した『DokiDoki告白ゲーム』のアプデをしました!
1プレイ5分程度で終わるので、気が向いたらぜひ軽率にやってみてください!
可愛い女の子たちとドキドキの体験が出来るハートフルなゲームですよ(にっこり
うらる https://game.nicovideo.jp/atsumaru/games/gm10510?