第十六話 ステータス
キャラのステータスとかクラスとか考えてたらめっちゃ楽しくなってきて、小説そっちのけでずっとエクセルいじってクラス表とか簡易ステ計算機とか作ってたら一日が終わっていた……
でも昨日は日付またいでたから毎日更新は途切れてない! いいね?
「レベルや、ステータスを、知らない……?」
訳の分からない言葉を聞かされて、俺の頭は真っ白になった。
「いえ、すみません。正確に言えば、ステータスという言葉は知りませんが、レベルなら意味は分かります。魔物を倒した時の『成長』の段階のことですよね? ただ、自分のレベルを測る方法は知りません。成長は経験していないので、まだレベルも変わっていないと思いますが……」
レシリアはそう訂正してくれるが、それは俺にとってはむしろ追い打ちだった。
RPGにおいて、ステータスはもっとも重要な要素と言っても過言じゃない。
それが分からないとか、そんなバカな話が……。
(……あれ? でも、そういえば自分のステータスってどうやって見るんだ?)
あまりに初歩的すぎて、全く考えていなかった。
今までアーツを使う時や、インベントリを使う時には、なんとなく身体が覚えているような感覚があって、初めてでもすんなりと使えた。
だが、「ステータスを見よう」と思った時には、その感覚がない。
(もしかして俺が「主人公」じゃないから? ……いや、あれはゲームのキャラクターというより、ゲームのプレイヤーのやっていることだからか?)
それはたぶん、セーブやロード、それからクエストの一覧やヘルプ機能を見たりするのも同じだろう。
あれは「ゲームを操作している人」に向けて開示されている情報であって、ゲームの中の登場人物たちが実際に操作したり目にしている訳ではないはずだ。
とはいえ、それは困る。
ステが分からないと、成長の目安が分からなくなるし、敵に対して計画も立てにくい。
だけどゲームでは、メニューを開く以外に、自分のステータスを知る方法なんて……。
と、そこまで考えたところで、俺は不意に「あること」に思い至って、鏡の前に走った。
(もしかして、これなら……)
確信に近い予感に導かれて、俺は「鏡に映った自分」に向かって叫ぶ。
「――看破!」
すると、
―――――――
レクス
LV 50
HP 530 MP 265
筋力 200 生命 200
魔力 200 精神 200
敏捷 200 集中 200
―――――――
(よし!)
ステータス画面で見ていたのと同じ、自分の能力値が表示された。
ほっと胸をなで下ろす。
(看破は対峙した相手の力量を見抜く技、だったか。本来は敵対した相手以外はターゲット出来ないんだが、やっぱりこの世界でなら使えるみたいだな)
本物の人間ならともかく、鏡に映った自分に対しても発動するか、というのは賭けではあったが、何とかうまくいってよかった。
(しかし、やっぱりレクスは弱いな)
ブレブレ世界の冒険者は一般に、一レベルにつき能力値が平均で四程度上がる。
となれば、レベル五十で能力値が二百というのは平均、と言ってもいいのだが、実際にはレベル一の時点で初期値が二十程度あるので、レクスは通常のキャラよりも全能力が二十ずつ低いということになる。
それに、四、というのはあくまで平均であって、普通は「戦士なので筋力は六だが魔力は二」のようなムラがある。
なので総合値は同じでも、レベル五十の時点で「筋力三百、魔力は百」のように偏っているのが普通だ。
そして当然、筋力三百と筋力二百では大きな差が出てくる訳で、レクスは万能と言えば聞こえはいいが、正直に言って攻撃面では甚だ貧弱、と言わざるを得ないところがある。
さらに言うと、あくまで「一般冒険者」の平均が四なので、大抵ゲームで主力として使われるようなキャラはそれを当然のように超えてくる。
さらにさらに、この格差はゲーム後半になればなるほど顕著に表れる。
ブレブレは様々なクラスに転職していくことが出来るゲームではあるが、転職の条件にはそのキャラクターの能力値が必要だからだ。
上位のクラスほど転職条件は厳しいが強い技を使うことが出来、さらにはクラスによる能力値補正も大きい。
つまり強い奴ほどさらに強くなって弱い奴はどんどん遅れて……。
「あの、大丈夫ですか?」
レシリアから声をかけられて、やっと我に返る。
「あ、ああ。問題ない」
「体調が悪いのでは? もう休んだ方が……」
そう尋ねるレシリアは表情には乏しいが、どうやら本当に心配しているらしく、気遣わしげに声をかけてくる。
ただ、それは取り越し苦労だ。
ちょっと精神的にダメージを受けてしまったが、別に大したことじゃない。
(さて……)
「レクス」のステータスを見ることが出来たのは収穫ではあるが、レクスのステータス値なら、もう最初から分かっていたことだ。
本題は、レシリアのステータス。
(たぶん、〈看破〉で見ることが出来るだろうが……)
問題は、彼女の能力値がどのくらいか、ということだ。
レベルが一だとしても、その能力値で大体の成長値が分かる。
レベルが一の時の能力値は、原則としてレベル成長六回分と等しい。
例えば成長の平均が四だったら、能力値はおおよそ二十四になる。
(……成長値、キャラの素質は、覆せないこの世界の格差だ)
もちろん、ある程度なら愛や効率でカバー出来ないこともないが、当然そこには限界がある。
冒険者なら四が平均、とは言ったが、逆に言えば冒険者でなければもっと低いキャラクターはたくさんいる。
街の人間の平均成長値は、確かその半分、二程度だったはずだ。
(ボーダーは、十八だな)
能力の平均値が十八、つまり成長値が三まであれば、サポートさえあれば十分にパーティとしてやっていけるはず。
しかし、それ以下だったら……。
(本人には悪いが、戦いには参加させない方がいいかもしれない)
密かにそんな決意を固めながら、不思議そうな顔で俺を見ているレシリアを、〈看破〉する。
その能力値は、果たして……。
―――――――
レシリア
LV 1
HP 232 MP 71
筋力 118 生命 100
魔力 55 精神 88
敏捷 124 集中 64
―――――――
「………………は?」
目の前に表示された信じられない高ステータスに、俺は間抜けに口を開けるしかなかったのだった。
※ ※ ※
目を覚ますと、ぐっしょりと汗をかいていた。
「夢、か」
最前まで見ていた夢のせいか、ひどい気分だった。
夢の中での俺はMMOをやっていて、緑色の髪をしたエルフのアドバイスに従ってバランス型キャラを作ったのに、そのキャラクターは戦闘では何の役にも立たず、周りから「ねえねえあいつってバランスキャラなんだってー」「うわぁ、均等振りが許されるのは小学生までだよねー」「はいゴミキャラ~」と散々煽られるという最悪の夢だった。
原因は分かっている。
昨日見た、レシリアの衝撃的なステータスだ。
レベルが一であの数値というのは単純に異常。
ゲームでも、あれほどのおかしな能力値のキャラクターは見たことがなかった。
それに、引っかかっているのは、それだけじゃない。
あのステータスを見た時、つい、思ってしまったのだ。
(――この力がレクスにあれば、と)
もちろん、そんなことは起こり得ないと分かっている。
だが……。
「……起きましたか」
声に顔を向けると、そこにはレクスの妹、レシリアがいた。
昨日のことが思い出されて複雑な気分になるが、それを努めて表に出さないようにして、声をかける。
「ああ、その……おはよう。昨日は迷惑をかけたな」
昨夜あれからどうしたのかは、正直よく覚えていない。
あまりの衝撃に、軽く前後不覚になってしまったらしい。
「いえ。それより、少し待っていてください」
俺の謝罪を眉一つ動かさずに受け流すと、レシリアはドアを開けてどこかに歩き去った。
そして、数分して戻ってきた彼女の手には、何やら食事らしき器が載せられていた。
「……卵粥です。口に合うかは分かりませんが」
そう言って差し出すその手つきは、どこか昨日よりも優しかった。
「宿の方から聞きました。一昨日は、新人パーティをかばって死ぬほどの大怪我を負いながらも、悪魔を倒されたそうですね」
「え? ああ、まあ……」
解釈の仕様によってはそうなるのだろうか。
「きっと、疲労が溜まっていたのだと思います。……どうぞ」
「あ、ああ」
促されるまま、渡されたスプーンで粥をすくって口に運ぶ。
「……おいしい」
その味は、身体だけでなく、心まで癒やしていくのを感じる。
ファンタジー世界で米かよぉ、なんて無粋なツッコミも、うまみと一緒に喉の奥に引っ込んでいくようだった。
「ありがとう。もしかしてこれ、レシリアが作ってくれたのか?」
「……まあ。手慰みですが」
横を向きながら、不機嫌そうに言う。
どうやらこれ以上触れてほしくなさそうだと思った俺は、卵粥をゆっくりと平らげた。
「ごちそうさ……おっと?」
俺が感謝の言葉を口にする暇もなく、彼女は食器を奪い取るように取ると、「片づけますので」と言い捨てて、足早に部屋を後にしようとする。
しかし、
「……そういえば」
その足は、扉を開けたところでピタリと止まった。
そして、
「助けて頂いて、ありがとうございました」
「え……?」
「昨日は、言えなかったので」
早口にそれだけを言うと、レシリアは今度こそ振り返りもせずに部屋を出て行ってしまった。
けれど最後の瞬間、一瞬だけ見えたその横顔は、ほんのわずかに赤く染まっているように見えた。
パタパタとあわただしく階段を下りていく足音が、少しずつ遠ざかっていく。
「……情けないな、俺」
大の大人が、こんな女の子に心配されるようではダメだろう。
それ以前に、少し変わってはいるがこんな心根の優しい年下の女の子に、わずかといえど嫉妬してしまった自分の小ささが嫌になる。
最初から、「レクス」が弱い、ということは分かっていた。
なのに実際に能力格差を見た瞬間に、今さらになって「やっぱつれえわ」などと言い出すのは、あまりに格好が悪いというものだ。
(……考え方を、変えよう)
俺は今まで、ブレブレのゲームそのものの感覚でいた。
あれほど「自分は主人公じゃない」と言いながらも、いまだに主人公気分だったのだ。
ブレブレはアクションRPGで、世界を救う勇者となって自分から率先してバッタバッタと敵を切り倒していくゲームだ。
だけど、俺が演じるべき役割は、きっとそうじゃない。
例えるなら、そう。
――この世界を、シミュレーションゲームとして考えよう。
自分が、ではなく、他人を育て、魔物を倒せるグループを育成して、この世界を攻略していく。
それこそが、今の俺に出来る最上の選択、最適解。
4.戦力を充実させる
俺が最後にあげた目標の答えは、たぶんここにあった。
(ここで、レシリアと会えてよかったな)
中途半端なままでいたら、きっといつか、もっと大きな壁にぶつかっていただろう。
今なら、自分と比較してどうこう、ではなく、単純にレシリアが強いことを祝福出来る気がした。
「レシリア……」
だから、戻ってきたレシリアに、俺は自然と頼むことが出来た。
しっかりと彼女の目を見て、俺は昨日の答えとなる言葉を口にする。
「――君の力が借りたい。俺と一緒に、戦ってくれるか?」
突然のその問いに、彼女は一瞬だけ目を大きく見開き、
「……この剣を、あなたに」
そう言って、不敵に笑ったのだった。