第百六十二話 とある少女のプロローグ
前回書いたクッ〇ークリッカーのMODの話は自作するとかそういう大層な話じゃなくて、すでに某蒸気のワークショップにある「Dokidoki Wrinklers」ってのを衝動的にオススメしたくなっただけなんですよね!
権利的にクリーンかは分からないんで大っぴらに推すのもアレですが、クソキモイ虫がJust Monikaされてババアポカリプスがだいぶ明るくなるから入れると楽しいですよ!
今回は一度主人公視点から離れて、「主人公」の方を主人公にした話になります(主人公のゲシュタルト崩壊)
(……これ、ほんとに夢じゃないよね?)
目の前に広がる非現実的な光景に、わたしは何度も問いかけた自問自答をまた繰り返した。
だって、わたし……符良乃 真名は、ほんの数時間前まではただの高校生だった。
友達の七森 由佳と一緒に日直になって、日直の仕事が終わったらすぐに由佳の家に遊びに行こうって計画して、先生がわたしたち二人を呼ぶ声を無視するのにもドキドキするような、そんな普通の学生だったのに……。
今わたしの眼前に広がっているのは、明らかにファンタジーな光景。
わたしの生涯において、ゲーム画面の中でしかお目にかかったことのない景色だった。
「オレはラッド! お前は名前、なんて言うんだ?」
「……プラナ。プラナ・レインフォレスト」
簡素ながら本物の鎧や剣を装備した赤い髪の少年と、絶対に現実の世界にはいない長い耳を持った金髪の少女が、わたしのすぐ目の前で当たり前のように会話をしていた。
それに、わたしは彼らを知っている。
赤髪の剣士ラッド、長耳の弓使いプラナ、それから魔法使いの少年のニューク。
彼らはわたしが最後に〈ブレイブ&ブレイドGP〉をプレイしたデータの、最初にパーティを組む仲間たちの名前だ。
(……本当に、「かみさま」が願いを叶えてくれた、の?)
死んでしまう直前、わたしが「ブレブレのような世界に生まれ変わりたい」と願ったのは確かだ。
そして、もしこの光景がわたしの見ている夢じゃないんだったら、これがほかならぬ「自分」の願いの結果だというのは疑う余地がなかった。
(だってこの人たちの名前、ランダムだもんね)
チュートリアルの戦闘で全滅して、キャラメイクをやり直すためにゲームを最初からやり直すと、仲間になってくれるキャラたちの名前も変わっていた。
三人のうち一人の名前がゲームと同じ、というくらいだったら偶然として考えられなくもないけれど、三人全員の名前が偶然一致する、なんてことは確率的に考えてもありえない。
この世界は〈ブレイブ&ブレイドGP〉を基にした世界というだけじゃない。
「わたし」がプレイした〈ブレイブ&ブレイドGP〉を基にした世界なのは、間違いがなかった。
(わたし、本当にゲームの世界に来ちゃったんだ)
だとしたら、わたしたちはこれから初心者用のダンジョン〈試しの洞窟〉に行って、そして……。
(ま、待って!!)
あんまりゲームは進められていないけれど、何度もやり直したせいで、最初の流れだけははっきりと覚えている。
もしここが本当にブレブレの世界だとしたら、わたしはこれから〈試しの洞窟〉の封印を解いたせいで、ここの街が襲われてしまうことになる。
しかもそのあと、逃げる方向によってはこの人たちか、わたしの一番好きなキャラのレクス様まで死んでしまって……。
(ど、どうしよう……!)
魔物に襲われるって話をして、みんなに避難してもらう?
でも、そんなの信じてもらえるワケないし、かといってわたしにやれることなんて……。
そこまで考えたところで、不意に閃くものがあった。
(あ、そうか! わたしがイベントを始めなきゃいいんだ!)
やれることがないなら、やらなければいい。
(そうだよ! この世界はゲームだけど、ゲームじゃない。なんでもかんでも、ゲーム通りに進めなきゃいけないなんて、決まってるワケじゃないんだ!)
確か封印された悪魔が復活したのは、「主人公」が扉に触れたから。
つまりはわたしが〈試しの洞窟〉の奧の扉に触れさえしなければイベントは起こらないはず!
急に、目の前が明るくなった気がした。
すると、そこにいた三人、わたしのパーティメンバーになるはずの人たちが、心配そうにこちらを見ているのにやっと気付いた。
どうやら集中するあまり、この人たちに話しかけられているのに気が付いていなかったようだ。
「ご、ごめんなさい! ちょっと考え事をしてて……」
わたしが慌てて謝ると、ほっと場の空気が弛緩する。
それから代表するように、ラッドくん……赤い髪の剣士の男の子が、口を開く。
「い、いや、その、な。名前、教えてほしいなって言ってたんだけど……」
どこか照れた様子でそう口にした彼に向かって、わたしは大きくうなずいて、
「――マナ。マナ・フラノです!」
わたしはこの世界での第一歩を踏み出したのだった。
※ ※ ※
夢うつつの気分で、洞窟を進んでいく。
地球で学生をしてたんじゃ絶対に見ることの出来ないダンジョンの風景は息を呑むほどだったけれど、それでも気になるのはやっぱり、元の世界のこと。
――現実世界での符良乃 真名は間違いなく死んでしまった。
だからわたしはもう元の世界には戻れないだろうけど、それはしょうがない。
しょうがなくはないけれど、あきらめはつく。
(……でも、妹はきっと泣くだろうな)
その時のことを想像すると、つい涙が零れ落ちそうになって、ぶんぶんと首を振った。
家族には悲しまれるだろうけど、きっと乗り越えてくれる。
そう、信じるしかない。
前の世界に心残りがあるとすれば、あと二つ。
一つは、わたしを庇って轢かれてしまった、男の人のこと。
(たぶん、あの人も死んじゃった、よね)
見た目からしてわたしよりもひどい怪我だった彼が、生きているとはとても思えない。
でもどうか、あの人にもわたしと同じような奇跡が起こって、なんとかして無事でいてほしい。
ほとんどありえないことを願っていると知りながらも、そう祈らずにはいられない。
だって、わたしなんかと違って、命を懸けて他人を助ける勇気と優しさがある人なんだ。
そんな人が報われないなんて、絶対に間違っていると思うから。
……あともう一つ気になるのは、わたしが、わたしたちの一族がずっと「祀り」続けていた「かみさま」が、わたしが死んだあとどうなってしまうか、だけど……。
「……たぶん、ここにいる、よね」
こっちの世界に飛ばされた……いや、「転生」した時には動転して感じる余裕はなかったけれど、今なら分かる。
流石に世界を一つ作るのは、「かみさま」にとっても重労働だったのか。
あるいは「かみさま」本人も、「終わりたい」と思っていたのか。
あの「かみさま」が、この「世界」そのものに変化したのだという奇妙な確信が、わたしにはあった。
言い換えればそれは、わたしの願いを叶えるために、「かみさま」が消えてしまったということ。
「かみさま」に対して悪いことをしてしまったという感情があるけれど、同時にどこか安心もしていた。
やっぱり「かみさま」は、良くも悪くも人の運命を狂わせる存在なのは間違いない。
「かみさま」には悪いけれど、いなくなってくれた方がわたしの家族は幸せに暮らせるのではないかと思う。
(……前を、向こう!)
いまだに現実感がないし、わたしみたいな奴にそんなチャンスが与えられていいのかって葛藤もある。
でもこれは、「かみさま」がまさに自分の存在全てを懸けて与えてくれたチャンスであり、わたしを庇ってくれた名前も知らない「あの人」が命を懸けて与えてくれたチャンスでもある。
だって、わたしは結局死んでしまったけれど、もしあの人に庇ってもらわなければ、きっと何かを「願う」暇もなく即死していたはずだ。
二人に拾ってもらった命を投げ捨てることだけは、したくなかった。
元の世界でのわたしは、自分の運命を嘆いて、ただ状況に流されるまま、何も出来ずに死んでしまった。
だからこそ、今度の人生では後悔のないように前を向いて進んでいきたい。
「マナ、大丈夫か?」
だから、そう問いかけるラッドくんの声に、わたしは力強く答えた。
「はい! このダンジョン攻略、絶対に成功させましょう!」
※ ※ ※
意気込んではみたものの、このダンジョンの難易度は(ゲームの操作が壊滅的に下手ではなければ)そう高くもないし、わたしにとってはすでに何十回も通った道だ。
一人だけ答えをカンニングしているような罪悪感を覚えながらも、詰まった時はそれとなく答えに誘導するようにして、わたしたちはスムーズに〈試しの洞窟〉を進んでいった。
幸いにもゲームのコントローラーで操作していた時と違って、わたしの動きはスムーズだ。
ゲームもこんな感じだったら一発でクリア出来たのになぁ、なんて考えたり、自分が自然と「魔法」を使えることに自分で驚いたりもしながら、わたしたちはあっさりと洞窟の最深部に辿り着いた。
「へへっ! とうちゃーく!! じゃあ記念にみんなであの扉に触ろうぜ!」
なんてことをラッドくんが言い出して、わたしがビクッとする場面もあったけれど、
「……はぁ。まるっきり子供」
「な、なんだとぉ!」
「触るのはパーティに一人で十分。私はここにいる」
クールに提案を突っぱねたエルフさんに便乗して、わたしも必死に声を張り上げた。
「ご、ごめんなさい! わたしも、悪魔が封印されてるっていうのは怖いから……」
ラッドくんには悪いかな、と思ったけれど、ここだけは譲れない。
ちゃんと事前に「パーティメンバーの誰かが触れば合格」って聞いていたから、ルール的にも問題ないはず。
「……ま、まあ、そう言われりゃあ無理には誘えねえけどよ」
そう言いつつ、ラッドくんはもう一度、プラナさんの方を恨めし気にじろっとにらんでいたが、そこはニューク君がとりなしてくれた。
「まあまあ。なら、僕たち二人で触ってみようよ。もしかすると何か起こるかもよ」
「へっ! 何が出たって、この剣でぶった斬ってやる!」
二人で楽しそうに話しながら扉の方に向かっていくのを見て、わたしはホッと息をついた。
これで、なんとかイベントの発生は回避出来そうだ。
(あ、そういえば、イベントが起きないってことは、「あの人」とは会えないんだ)
ちょっとだけ、ううん、本当はだいぶ、残念に思う。
でもいくらわたしだって、人の命と天秤にかけてまで、憧れの人に会いたいなんて思いはしない。
ほんの少しほろ苦い気持ちと共に、わたしはラッドくんとニュークくんが封印の扉に手を伸ばすのを見届けて、
「――やめろぉおおおおおおおお!!」
その声が聞こえた瞬間に、心臓が跳ねた。
ただ声を聴いただけなのに、心臓がドクンドクンと激しく踊り出して、自然と顔が熱くなる。
頭の中には「まさか」と「どうして」が渦巻いているのに、現金なわたしの身体は、自動的に振り返ってその声の主を捜していた。
「……ぁ」
目に入ったその姿に、わたしの呼吸は止まった。
だって、だってそこには……。
「……レクス、様」
本当なら一生出会えるはずのない、ずっと憧れ続けた相手が立っていたのだから。
推しとの初遭遇!!
伏線回収パートに入りましたが、自分で簡単に伏線を確認したいなら漫画版なんかもオススメです!
メイジさんが頑張ってくれてるので、例えば二巻のレクスの育成講座の時なんか、分かってから読むとマナ一人だけめっちゃくちゃ露骨にほか三人と反応が違ってるのが楽しめますよ!
「主人公じゃない!」コミックス二巻は全国の書店、もしくは電子書籍ストアなどで好評発売中!!(こそせん)