第百五十八話 勇者のいない戦場で
今回遅れたのは純粋にPCトラブルのせいです!
なのでいつのまにやら風花〇月無双のプレイ時間が二十時間超えたりしてますが、これは更新の遅れとはたぶん全然まったくこれっぽっちも関係ないです!
「――大精霊の居場所が分かった以上、もはやお前たちに用はない! 沈みゆく都市の中で、偉大なる我が神のしもべとなった大精霊の姿を目に焼き付けるがいい!」
プラナを倒され、怒りに震えるラッドたちの前で、襲撃者はそんな言葉を残して彼らの目の前から消えた。
残されたのは、言い知れない怒りと振りまかれた疑惑、そしてぼんやりとした光を放つ転移魔法陣だけ。
今すぐ魔法陣に乗れば、おそらく襲撃犯を追いかけられることは分かっていた。
しかし、肝心の転移先は判然としない。
これ自体が罠である可能性もあり、未知の場所に自分たちだけで飛び込んでいくことには、流石のラッドでも躊躇いがあった。
だが、今まさに消えていきそうになる転移魔法陣の光を見て、追跡の続行を決断。
三人全員で魔法陣に踏み込んで、襲撃者を追いかけた。
ラッドはその決断が間違っていたとは思っていない。
不意を突かれて後れを取ってしまったが、襲撃犯の能力は技能によって測定済み。
「魔法関連の能力だけは異様に高いですけど、それ以外は大したことないみたいです! あの魔法にさえ気を付ければ……」
そう告げられた〈看破〉の結果に嘘はなかったし、実際、追い詰めた先での戦闘では、ラッドたち三人は連携して、余裕を持って襲撃者を追い詰めた。
しかし……。
(まさか、〈魔王〉が取りついてやがったなんて……)
襲撃者はただの「容れ物」でしかなかった。
もはや勝敗は決した、そうラッドたちが考えた時に、「奴」は襲撃者の身体から抜け出したのだ。
それは、かろうじて人らしいシルエットを保った不定形の怪物。
――〈参の魔王スプレド〉。
自分の身体を自由に散らばらせ、他者に取りつくことすら可能な、異端の〈魔王〉。
「劣等種族共の分際で、よくもやってくれる! だが、まあ良い。どうせ、大精霊を取り込むためにはこの身体は捨てる必要があった」
そんな愚痴とも負け惜しみとも取れるような言葉とは裏腹に、その行動はあまりに異様だった。
不格好に人を真似たような身体を揺らめかせ、その腕の先端から、ボタ、ボタと雫を滴らせる。
雫は地面に落ちると膨れ上がり、それ一つ一つが膨張し、次第に何かの形を……。
「――ラッド!」
緊張を含んだニュークの言葉に、やっと我に返る。
「っ! させるか!」
分裂か、増殖か、あるいはなんらかの攻撃か。
〈魔王〉の意図は分からないが、座して待つ必要もない。
ラッドは相手の態勢が整う前にと〈魔王〉の本体に攻撃を仕掛けたが、
「――残念。その判断は、少し遅かった」
その一撃は、〈参の魔王〉の前に現れた人影が、身を挺して庇うことで止められた。
いや、驚くべきはそこではない。
身を投げ出すようにラッドの攻撃を受け止めた人物、それが……。
「ウソ、だろ? 〈魔王〉が、二人……?」
攻撃を受けるはずだった、〈参の魔王〉と瓜二つだったのだ。
剣が食い込んだ〈魔王〉の姿をしたものが、ラッドの一撃を受けてドロリと崩れ落ち、不定形に戻って吸い込まれるように〈魔王〉の中に戻っていく。
だが、ラッドにはそれを悠長に眺めている余裕はなかった。
「二人? 何を言っている。そんなはずがないだろう?」
なぜなら、嗤う〈魔王〉の横。
そこには〈魔王〉の姿をした怪物が、新たに三体も立って嗤っていたのだから。
「う、あ……」
あまりにも信じがたい光景に、ラッドはよろめく。
戦意を失いかけたラッドを救ったのは、凛とした声だった。
「落ち着いてください、ラッドくん! あれは〈魔王〉の影! 分身体です!」
「ほう?」
ラッドたちが動揺する中で、唯一冷静さを保っていたのが彼女、マナだった。
持ち前の観察眼で、敵の本質を看破する。
「本体ほどの力はありません! 落ち着いて、本体を倒せば……」
それは、お手本のような〈参の魔王〉の攻略法。
だが……。
「――やらせると、思うか?」
それをやすやすと許すほど、〈魔王〉は甘い相手ではなかった。
「くっ!?」
三体の〈魔王〉の似姿と、〈魔王〉の本体。
計四つの影が迫り、奇襲の機会を逸したラッドは、仕方なく後ろに下がる。
「あ、あはは。これは、ちょっと厳しいことになりそうだね」
額に汗を浮かべたニュークの言葉にうなずく暇すらなく、
「――小賢しい羽虫共が。〈魔王〉の力に絶望しながら、逝くが良い!」
命懸けの戦いが、始まった。
※ ※ ※
「――〈紅蓮覇撃〉!!」
「――〈フレアカノン〉!!」
ラッドが、ニュークが、叫びと共に炎を飛ばす。
それは確実に〈魔王〉の姿を捉え、その身体を吹き飛ばすが、
「外れ、かっ!」
ラッドはあっさりと四散したその様子を見て、思わず悪態をつく。
この〈参の魔王〉の特性上、本体さえ倒せば、あとの影は消滅するはず。
そう思って本体を狙ってはいるものの、乱戦の中、常に影と入り乱れて戦う本体の位置を特定するのは至難の業だ。
(手数が、足りねえ!)
ここに来て、プラナの不在が響いてくる。
レクスの指示の下、最適と言えるようなクラスと装備選択によって成長したことで、この〈魔王〉にだって地力では負けていない。
それに、レクスが話していた〈魔王〉対策の筆頭、〈オーラ斬り〉のアーツがこの〈魔王〉に対しても有効だと言うのは、すぐに証明された。
この〈オーラ斬り〉を完璧な形で〈魔王〉本体に叩き込めれば、勝機はある。
だが、本体の位置が正確につかめないのに加えて、完全な前衛はこの中ではラッド一人だけ。
後衛二人にダメージが行かないように気を配る必要がある。
敵が分身も入れて四体なのに対してラッドたちは三人。
完全に手数で後れを取っていた。
(クソ! だったら!)
ラッドは開き直ると、叫ぶ。
「予定変更だ! 先に影を全滅させる!」
「ラッド!?」
ニュークが驚いて目を見開くが、何も考えなしに言った言葉ではない。
ラッドの見立てでは、〈魔王〉の本体が新たな影を生み出すのに必要な時間は、わずか数秒。
たったそれだけの時間で新たな敵が出てくるというのは実に驚異的だが、それはわずかな付け入る隙でもある。
「攻めて攻めて攻めまくる! 影を全部倒しちまえば、オレたちの勝ちだ!!」
流石の〈魔王〉も攻撃されている最中には影を生むことは出来ない。
そして、〈魔王〉が出せる影の数は最大で三体。
ならば、全戦力を集中して〈魔王〉が新たな影を生むよりも早く三体の影を全て倒してしまえば、あとは三対一。
そこから間断なく攻撃をし続ければ、もう〈魔王〉が新たな影を生み出すことはなくなる。
それが、ラッドの見出した細い細い勝ち筋だった。
「まったく、あとで泣きごと言っても聞かないからね! 〈アイスバーン〉!」
「わ、わたしも攻撃に回ります! 〈ホーリーランス〉!」
あまりにも無茶で無謀な作戦。
だが仲間二人はそれに乗ってくれた。
その信頼に、背く訳にはいかない。
「――〈バーニング・レイブ〉!!」
本体に叩き込むための〈オーラ斬り〉を除いた中で、最強の手札を切る。
それは、確実に分身体を一人葬ったが、
「無駄なことを……」
すぐに〈魔王〉が早速、新たな影を呼び出そうと手を伸ばす。
「させるかよ! 〈一閃〉!」
それを、ラッドは無理矢理に切り込んで止めた。
「馬鹿な! 死ぬ気か!?」
初めての、〈魔王〉の驚きの声。
だが、それも無理はない。
無理な介入のせいで影からの攻撃をよけきれず、ラッドの身体には分身体からの攻撃が突き刺さっていた。
「ラッドくん!」
後ろでマナの悲鳴のような声が聞こえるが、ラッドは痛みに顔をしかめながら、叫ぶ。
「かまうな! 倒せぇ!!」
これは、余力を全て注ぎ込んだ一発勝負。
ここを逃せば、〈魔王〉を倒せるチャンスはなくなる。
その意を組んだマナは唇を噛むと、回復ではなく攻撃の魔法を編む。
光の一撃は確実に〈魔王〉の分身、その最後の一体をよろめかせ、
「やれ、ニューク!!」
満身創痍の少年の想いを受けた、魔法使いの少年の魔法によって、結実する。
「トドメだよ! 〈フレイム――っ!」
……はず、だった。
「……え? ニュー、ク?」
ラッドの背後から、鈍い音が響く。
振り返った先には、いるはずのない「四体目の影」と、崩れ落ちるニュークの姿。
「う、ああああああ!!」
今ここから離れれば、作戦は瓦解する。
それが分かっていても、今まさに影に殺されようとしている親友を、無視することは出来なかった。
本体にあと一歩と迫っていたラッドは踵を返し、
「――〈オーラ斬り〉!」
本体に使うために温存していた最強の攻撃で、ニュークに襲いかかっていた影を葬る。
同時に、
「……ぐ、うっ」
ラッドの身体を襲う、倦怠感。
――魔力切れの、症状だった。
もうこれ以上、アーツは使えない。
そんな絶望的な状況の中、それでもふらつく足をなだめ、どうにか〈魔王〉を振り返ったラッドの目に映ったのは、さらなる絶望だった。
「――誰が『影は三体までしか同時に呼び出せない』なんて言ったのかね?」
ラッドの視界が、絶望色に染まる。
勝ち誇るように嗤う〈魔王〉。
その傍らに立つのは、同じ姿をした「六体」の影。
満身創痍のラッドたちを眺め、手出しもせずにニヤニヤと遠巻きに笑っている〈魔王〉たちの態度は、戦術的に考えれば悪手。
だが……。
(……かてるわけが、ない)
もうその程度のことで覆るような戦力差ではないことは、ラッドが一番強く理解していた。
魔力が切れて、ラッドはもはやアーツを使えない。
マナも同様に残り魔力が乏しいのか、ニュークにかける回復魔法の光はもはや弱々しい。
ニュークは傷に呻いていて、戦線復帰が可能かどうかすら分からない。
力の抜けたラッドの手から剣が零れ落ち、カランと硬質な音を立てる。
全てをあきらめたラッドが、その目を閉じようとした時、
「……ラッドくん。わたしが合図をしたら、全力で走って〈魔王〉を斬ってください」
ニュークの治療をしているマナが、ラッドに目を向けないまま、そう言った。
「マ、ナ……?」
呆然と、ラッドはマナに視線を向ける。
その目には、あきらめの色は微塵も浮かんでいない。
「――奥の手を、使います」
ただその瞳に映るのは、どこか仄暗い、いびつな光。
その瞬間にラッドの脳裏に浮かんだのは、〈サクリファイス〉という名の魔法。
己の全ての体力と魔力を捧げ、仲間たちを回復させる自己犠牲の奇跡。
「ダ、ダメだ、そんな……っ!」
「ごめん、なさい」
マナは、目を伏せる。
ただそれが、行動を思いとどまったがための謝罪ではないことは、明白だった。
いまだに遠巻きにこちらを眺める〈魔王〉たちを見据え、彼女は静かに口を開く。
「もっと前にわたしから話すべきだったのに、いくじなしで、ごめんなさい。なのに今さらになってつらい役目を押しつけて、ごめんなさい」
それはまるで、遺言のようで……。
不吉な予感に心臓が冷えていくのに、ラッドの口は凍りついたように動かない。
「ラッドくんは、御伽噺の勇者様に憧れてるんだって、そう、教えてくれましたよね」
「あ、ああ……」
かすれた声で、かろうじて肯定する。
すると彼女はほんの少しだけ嬉しそうに、けれど儚げに笑って、
「――だったら、お願いします。わたしの力で、あいつを倒してください」
その言葉を言い切ると共に、治療を終えたマナが立ち上がる。
決意を込めたその立ち姿を、しかし〈魔王〉は嘲笑った。
「愚かな。地を這う虫けらが何をしようが、届くものではない。おとなしく……なにっ!?」
笑う口元が、凍りつく。
「……え?」
それは、光だった。
圧倒的な、光。
祈るように両手を組んだマナの身体から、溢れるように光が迸る。
「マ、ナ……?」
「なんだ、その光は! それは、まるで、まるで……」
戦士の少年はその光景に目を見開き、〈魔王〉が動揺に声を荒らげる。
だが、そんな眩いばかりの光の中で、当事者であるはずのマナだけはただ遠くを、ここではないどこかを見つめていた。
「……悔しいけど、全部、言った通りだったね」
オリジナル版〈ブレイブ&ブレイド〉はそのシナリオが再評価されたものの、ゲーム攻略の難易度が高いという問題は依然として残っていた。
特に、女性プレイヤーの多くは戦闘に男性ほど興味を持たない傾向があるため、バトル時のアクション要素はその参入を妨げる大きな壁の一つであったのは事実。
「由佳の言った通り、やっぱりわたしには〈勇者〉なんて無理だ。だから……」
だから、アクション操作に不慣れな女性プレイヤーのために、リメイク作であるGPには新たなモードが追加された。
自分が〈勇者〉となって先頭に立って戦うのではなく、〈勇者〉を支える存在である〈聖人〉、もしくは〈聖女〉となって、「推しを〈勇者〉に選んで戦ってもらう」という、全く新しい「主人公」の形。
それが、ゲーマーである七森 由佳が、ゲームセンス皆無の友人に強引に選択させた「聖女モード」。
「……〈勇者〉の選定者、〈光の聖女〉マナ・フラノの名において命ずる」
なれば、〈聖女〉たる彼女が呼び出すものは当然、決まっている。
その総身に光を纏い、かつて符良乃 真名と呼ばれていた「主人公」の少女は、高らかに唱えた。
「――顕現せよ、〈光輝の剣〉!!」
ついに!!!!
ということで、マナが「主人公」だと推理した方々、正解です!!
おめでとうございます!!
そして考察勢の方々にはお待たせしました!
この件に関しては感想欄でも完全解禁とするので、マナが「主人公」だと分かった根拠を語るなり、自分が気付いた場面を話すなりして思う存分ドヤッてください!
逆に、「ええぇ、全然気付かなかったよー!」って人はぜひ最初から読み返してみてください!
マナに関する伏線はすぐ思い出せるものだけで十個以上、細かいものを入れたらたぶん二十個は超えてるかなー、というくらいには全編通してこれでもかと匂わせまくったので、マナの正体を知ってから読むと「うわぁこいつあからさまじゃねーか!」と要所要所でニヤニヤ出来るかと思います!
また、6/29現在、「主人公」当て投票の集計が終わりました!
次回分に記載しているので、結果をお楽しみに!





