第百五十五話 想定外の事件
主人公当て投票、思った以上にたくさんの人が投票してくれて素直に嬉しいです!
いえ、流石に投票会0人とかはないと思ってましたが、推理ガチ勢の人が5、6人同じ人に投票して終わり、みたいなのもすげーリアルに想像出来ちゃってたので!
想定よりも票が割れているのも作者的にはニヤニヤポイントですが、それもこれも色々気付いてた人がこれまで感想欄でネタバレをこらえてくれてたおかげなので、本当にありがたいなと!
これからもよろしくお願いしますね!!!!(圧)
「……兄さん、本当に大丈夫ですか?」
「え? あ、ああ」
レシリアの声に、ハッと我に返った。
だが正直に言えば、まだ頭の中では千々に乱れる思考が渦巻いている。
(……まさか、なぁ)
〈英霊碑〉に書かれた想像もしていなかった真実。
俺が転生した世界が、俺の全く知らないリメイク版だったという事実にショックは隠せなかった。
(……いやまあ、ほんのちょっとだけ、おかしいとは思ってたんだが)
俺は死ぬ直前にブレブレの宣伝ページらしきものを開いていたが、あれは別に自分で検索した訳ではなく、適当にネットを巡回していた時に偶然見出しが目に留まっただけだ。
懐かしさで思わず開いてしまったのだが、考えてみればそれは不自然。
だって、俺がやっていたブレブレは、もう数年も前のゲーム。
しかも、鳴かず飛ばずでネットでの知名度も底辺だった。
そんなマイナーゲームの紹介ページが、都合よく俺の目の前に出てくるはずがないんだ。
(――最近リメイクが発売されて知名度が上がってた、ってことだろうなぁ)
ついでに言うと、俺が見た紹介ページ自体がオリジナル版「ブレブレ」ではなく、リメイクの「ブレブレGP」の記事だった可能性が高い。
最後まで目を通してないので何とも言えないが、確か「充実の追加要素と変更点」とか何とかいう文面があったのを、なんとなく覚えている。
あの時は特に引っかかりは覚えなかったが、今思うとあからさまだ。
紹介している内容自体はオリジナルのブレブレとほぼ共通だったから違和感がなかったが、要するにアレは新発売したリメイクゲームの販促ページだったってことだろう。
(……はぁ。就職してからは忙しくてゲームどころじゃなかったからなぁ)
最近は少し余裕が出来ていたとはいえ、ゲーム系の情報から縁遠くなっていたのも確か。
まさかそれが、こんな不利益を生むなんて思ってもみなかったが……。
ただ、これ以上レシリアに心配をかけるのもしのびない。
「いや、とにかく用事は済んだ。帰ろう」
俺は無理矢理に気力を奮い立たせると、レシリアと一緒に街へと歩き出す。
「なら、いいですが。……あまり、無理はしないでくださいね」
たまに鬼のよ……いや、ちょっと苛烈な一面を見せるレシリアだが、俺が弱った時はとことんまで優しい。
そんな彼女に温かい気持ちを覚えながらも、やはり俺の頭の中を支配するのは、「主人公」のこと。
(……とにかく、これで「主人公」捜しは一から考え直しだ)
もちろん、「主人公」が女性である可能性が出てきたというだけで、必ずしも「主人公」が女性であるとは限らない。
まず、「俺が現実で助けようとした少女が転生者」なんて根拠のない妄想だし、そもそも「副題が『ガールズプラス』だから女性の主人公を追加したはず」というのも推測に過ぎない。
単に「女性NPCを多数追加しました!」みたいな意味だという可能性もあるし、仮に推測があっていた場合でも、「ガールズサイド」などではなく「ガールズプラス」という副題にしてあることから考えると、リメイク版のブレブレは「主人公を男性から女性に置き換えた」ゲームではなく、「主人公を男性だけでなく女性も選べるようにした」ゲームである可能性は高い。
とはいえ、これだけ俺が捜しても見つからなかったのは、俺が「主人公」の性別を取り違えていたから、と考える方が自然に思えるのも確かだ。
(性別を理由に弾いた奴らは、全員「主人公」候補に逆戻りだな)
とはいえ、言うほど候補は多くはない。
今までたくさんの女性キャラに出会ったが、大半がゲームにも出てくるユニークキャラクターだ。
普通に考えれば女性主人公は男性の主人公を性別だけ反転させたようなキャラになる。
そうなると、フィンがバッチリと合致するが……。
(んー。でも、フィンではワールドイベントを起こせなかったんだよなぁ)
そんなことを考えながら街へ近づいていくと、どこか慌ただしいというか、騒がしい様子なのが見て取れた。
人の流れを見ても、街の中心の方から急いで逃げ出しているような……。
――なぜだか、猛烈に嫌な予感がした。
慌てた様子で通りを走る通行人の一人を、呼び止める。
「悪い、少しいいか? ずいぶんと急いでいるようだが……」
俺が引き留めると、その男性はギョッとしたような顔をしたが、すぐに俺の正体に気付いたようだった。
「あ、あんたもしかして英雄の……。だ、だったら広場に行ってくれないか!?」
「広場?」
俺が驚いて尋ね返すと、
「ああ! 広場で女の子が襲われたみたいなんだよ!」
「なっ?」
その言葉に、最悪の想像が頭をよぎる。
「襲われたって、何に?」
「そ、そこまでは知らねえ。だけど、魔法みたいなもので狙撃されて、女の子が倒れたって……」
ドクン、と心臓が跳ねた。
「その場にいたその子の仲間が犯人を追ってるみたいだけど、子供たちだけじゃ……」
「助かった!」
俺は礼の言葉もそこそこに、レシリアとうなずき合って、広場に向かって走り出す。
――広場での、魔法による狙撃。
(間違いない! 「白の女王襲撃事件」だ!)
人の流れに逆らうように走りながら、俺の頭の中には疑問符が浮かんでいた。
どうして、今になって襲撃が?
まさか、本当の「主人公」が今さらになって街にやってきたのか?
と、そこまで考えて、違和感が膨れ上がる。
(……待て、待てよ。こういうこと、今までに何度もなかったか?)
これまでにも何度も、俺は「主人公」がトリガーになるはずのワールドイベントにニアミスしている。
……アリの襲撃、〈魔王〉との遭遇、〈光輝の剣〉の出現、吸血鬼イベント、その他、イベントらしきものは無数にあった。
俺たちがそのイベントに遭遇したのは、ゲームが現実になった弊害、いわばバグのようなものによってイベントが誤作動した結果だと思って片付けてきた。
だが、そうじゃなかったとしたら?
――もしかすると本当は、俺の身近なところに「主人公」はいるのでは?
ちらりと、横を並走するレシリアを見る。
彼女は、違う。
ハアトの襲撃イベントが起こるのは、「ハアトと一緒に広場に入った」時。
前に広場に入った時、レシリアは一緒にいたし、今回については俺と行動を共にしている。
だとしたら怪しいのはラッドたち四人、いや、ラッドは前回は俺と一緒にいたので残りの三人ということになる。
だがラッドたちが「主人公」じゃないことは、転生初日に「封印の扉」に触れても反応がなかったことで、すでに――
(――いや、違う!!)
そこで俺はとんでもない思い違いをしていたことに気付いた。
俺がラッドたちの中に「主人公」がいないと決めつけたのは、一体どうしてだ?
それは、「主人公」が触れたらイベントが発生するはずの「封印の扉」にラッドたちが触っても何も起きなかったからだ。
……だが、今思い返せばそれは正確じゃない。
あの時に扉に触れていたのは、ラッドとニュークの二人だけ。
俺は「主人公」は男だと思っていたから、それ以上考えることなく、ラッドたち四人を「主人公」候補から外した。
だが、もしも……。
「主人公」が女性だったとしたら……。
《――私を、命を懸けて助けてくれた人だから》
唐突に脳裏によみがえるのは、とある日に聞いた言葉と、物憂げな顔をした「彼女」の横顔。
(まさ、か……)
ずっと、違和感はあった。
確かに俺はドゥームデーモンからラッドたちを救ったが、あの台詞を「彼女」が口にするのは少しおかしい。
だって、「彼女」はドゥームデーモンが襲いかかってきた時、街に応援を呼びに行っていた。
ラッドたちの中で唯一、命の危険から遠い場所にいたのだ。
――なのに、「彼女」が最初から異様に俺に好意的だったのは、「あの時」以外に俺に助けられていたからじゃないのか?
日本で過ごした最後の光景。
横断歩道に立ち尽くす少女の姿と、金色の髪をしたエルフの少女の姿が、重なる。
もし……。
彼女の、プラナの言う「命を懸けて助けた」ことが現実世界の出来事で、「恩を返したい相手」が現実世界の「俺」だというのなら、全ての辻褄が合う。
(あるのか? そんな、奇跡みたいなことが)
いや、可能性としては、例えば本編開始前、「俺」になる前のレクスが彼女を助けたならそれでも理屈は通る。
だが、それも冷静に考えればありえないだろう。
プラナがいたのは、排他的で有名な〈エルフの里〉だ。
いくらレクスがA級冒険者だからといって、ただの冒険者がおいそれと足を踏み入れられる場所じゃない。
それに……。
(プラナが「主人公」なら、不可思議だったニルヴァの態度にも、これで説明がつく!)
あの剣にしか興味がないようなニルヴァがプラナに興味を持ったのは、プラナの「主人公」としての力か、その過酷な運命に気付いたから。
下手をすると、俺が決闘騒ぎに発展させてこじれさせただけで、本来ならあれが「女主人公」と〈剣聖ニルヴァ〉との遭遇イベントだった可能性すらある。
(男主人公の場合でも、ニルヴァとの遭遇イベント自体はあった。それが女主人公になって、男性NPCのイベント全般が強化されていたのなら……)
推測とも言えないような妄想。
だが、それには妙な説得力があるような気がしていた。
(いや、仮にそれが深読みだとしても、それ以外にも……)
これまでの旅路を、新たな目線で振り返る。
〈壱の魔王〉が襲撃してきたのはプラナたちと一緒に〈大空洞〉を攻略している時だし、〈光輝の剣〉が出た時も当然プラナは傍にいた。
そして、アリの襲撃イベントや吸血鬼イベントが発生したのは、ちょうどプラナたちがダンジョンやクエストの攻略を済ませて、街に戻ってきた時だ!
そう考えれば、これほど分かりやすいこともない。
今まで偶然だと片付けていたことが、プラナが「主人公」だと仮定するだけで、まるでパズルのようにピッタリとハマっていく。
(どうして今まで、気付かなかった!)
ここまで条件がそろえば、間違いはない。
――現実世界からの本来の転生者、この世界の「主人公」は、プラナだ!!
※ ※ ※
「――兄さん!」
叱責のようなレシリアの声に、俺は遅れかけていた足並みをそろえる。
プラナが「主人公」だと分かった以上、尋ねる機会はいくらでもある。
今はそれよりも、目の前の事態を何とかする方が先決だ。
――プラナが「主人公」だと考えると、襲撃事件が起こった理由は単純だ。
このイベントは「ハアトと一緒に広場に入る」と開始されるが、前回ハアトが広場に入った時、プラナは先回りして敵の襲撃地点に陣取っていた。
だからその時はイベントの条件を満たせず、今回ハアトの護衛をするために一緒に広場に足を踏み入れたことによって、初めてイベントのトリガーを踏んだのだろう。
(――だとしたら、まずいぞ!)
混乱を起こす通りを駆け抜けながら、俺は唇を噛む。
襲撃イベントからの一連の流れは、戦闘の難易度は大したことはない。
ここで出てくる〈魔王〉はめちゃくちゃ厄介だが、その性質上〈光輝の剣〉に滅法弱い。
もしもプラナが「主人公」だという前提が正しいなら、苦戦はしないだろう。
ただ、戦闘に勝利したとしても、対応を間違えるとあっさりとこの街は水没する。
その場合は「主人公」であるプラナとそのパーティは生き残るが、当然街の人間、それから俺たちもただでは済まないだろう。
(とにかく、急いでハアトを助けて、それから……)
焦る心を隠して走り続けると、ようやく広場が見えてきた。
「どいてくれ!」
人垣をかき分けるようにして、その中心部に飛び込む。
そこに、いたのは……。
「レクス、おにいちゃん……」
痛々しく肩を押さえ、俺を見上げるハアト。
それから……。
「――嘘、だろ?」
彼女を庇うように倒れたまま動かない、金色の髪の少女の姿だった。
想定外が呼ぶ想定外!
次はだいぶ短くなるので今日の夜に更新!
……出来るといいですね!
あ、投票所については皆さんのおかげで集計してもしょっぱい気持ちにならない票数が集まってくれましたので、今週末か来週頭くらいに集計して結果を発表出来たらいいなーと思ってます!