第百五十二話 水の巫女
前回わざわざ「感想欄で予想はやめてね」って書いたのに、直後に感想欄でプラナについての予想大会が始まったのいくらなんでも予想外なんですけど!?
流石にあんまりひどい人はブロックさせてもらう可能性があるのでご了承ください
腐るものは腐らせ、焼くものは焼く……感想欄クリーン作戦だ!
今回の、〈水の都〉への遠征は初日からハードスケジュール。
イベントが発生する場所や「主人公」に関する情報をバリバリ集め、残りの時間はダンジョン探索に回して存分にレベルアップを図る……はずだったのに。
(……どうしてこうなった)
大きく「水の都にようこそ!」と書かれた横断幕の下。
俺はなぜか、〈水の都〉の住人たちが多数見つめる中で、彼らから熱烈な歓迎を受けていた。
港についたと思ったら、彼らに取り囲まれ、よく分からないうちに歓迎のセレモニーのようなものが始まって、
「レクスおにいちゃん! わたしたちのまちにきてくれて、ありがとう!!」
今は住人の代表として、フリルがたっぷりついた真っ白なドレスで精一杯におめかしした女の子が、舌っ足らずな挨拶と共に花束を差し出してきている。
カオスな状況に、頭が追いつかない。
思わず顔が引きつるが、まさかここで突っぱねる訳にもいかない。
「は、はは……。ありがとう」
俺が渋々花束を受け取ると同時に、「うおおおおお!」という叫び声と「レクスさまー!」なんていう歓声が沸き起こる。
万雷の拍手の中、俺は心の底から思った。
(――アインの野郎、絶対に許さないからな!)
……と。
※ ※ ※
この熱烈な歓迎の理由。
それはなんてことはない、アイン王子の差し金だった。
ギルドに置かれた通信装置によって、各都市はつながっている。
どうやらアインによって俺の出立は事前に通告され、この〈水の都〉に俺が向かうことは、いや、それどころか出発時間や到着予定時間までも〈水の都〉側に筒抜けになっていたらしい。
アインは曲がりなりにも王族だ。
彼が「レクスを歓迎してやってくれ」と一声かければ、その効果は推して知るべしだろう。
(あんの野郎、また面倒なことをしやがって……)
完璧なようでいて、どこか茶目っ気のあるアインのことだ。
俺へのちょっとしたサプライズとして、こんなことを仕掛けてきたんだろう。
まあ、それだけならいい。
それだけならまだよかったんだ。
今、俺が一番困惑しているのは、彼らに対してじゃない。
この歓迎セレモニーに便乗して、決してこの場にいるべきではない「とある人物」がやってきているという事実を、俺は警戒していた。
(ああクソ、次から次へと……)
内心でため息をつきながら、恨みがましい視線をその元凶へと向ける。
すると、
「……ふふ」
俺に花束を渡して誇らしげに胸を張る幼女の隣、微笑みながら彼女の頭を撫でていた一人の女性と、目が合った。
水色を基調としたゆったりとした神官服を身にまとい、柔和な笑みを浮かべた彼女は、まっすぐに俺を見つめて、口を開く。
「――この街に来ていただいて、ありがとうございます。高名な英雄のレクス様がいらっしゃって、〈水の巫女〉様も大層お喜びのことでしょう」
何を白々しいことを、と思うが、流石にこの場で追及は出来ない。
彼女が口にした〈水の巫女〉というのは、神に仕える巫女であると同時に、その強さと指導力から「女傑」とも評される〈水の都〉の最高権力者だ。
ただ、少なくとも一般のレベルにおいては彼女の正体は秘匿され、明らかにはされていない。
(俺が何も知らないと思っているんだろうが……)
しかし、俺に限ってはそんなごまかしは通用しない。
俺はゲームの中で、さらに言うなら〈水の巫女〉関連のイベントで、この女性の姿を何度も何度も目にしている。
そして、何より……。
俺の持つ技能が、目前の「彼女」の正体を正しく〈看破〉していた。
(――なんで水の巫女が、〈白の女王ハアト〉がここにいる!?)
焦りと苛立ちが、心を支配する中で……。
その元凶であり、俺の計画を狂わせる最大のイレギュラーと成り得る「彼女」は、ニコリと無邪気に微笑んだ。
※ ※ ※
それからハアトが表立って動くことはなく、その思惑も分からないまま、ただ謎の歓迎セレモニーは順調に進んでいく。
次に壇上に登ったのは、この街の冒険者ギルドのギルドマスターだった。
「――つまり、ここにいるレクス様は、冒険者の常識を一から変えてしまった偉人! 歴史の英雄なのだ! そんな彼が、今この街に立っている! その幸運に、わたしは……」
これって何の拷問だよ、と思いながら、やたらと誇張された俺の活躍を筋骨隆々のギルドマスターが熱く語っているのを聞いていると、
「ギルドマスター。……そろそろ、です」
神官服の女性がそっと彼に近付き、小声でそう告げる。
ずっと上機嫌に話していたギルドマスターはしかし、その言葉にピタリと動きを止めた。
「む。もっと話したいところだが、我が街を知ってもらうには、千の言葉を重ねるよりこの光景を見せるのが一番だろう。お客人方、それから我が街の皆! 時間だ! あちらを見てくれ!」
それからニヤリと男臭い笑みを浮かべると、力強い動きで背後を、街の中心を指さした。
「何が……」
言いかけて、すぐに思い出す。
(そうだ、ここは水の大精霊が眠る、水の街。そこには、確か……)
瞬間、街の方向から、光が迸る。
いや、違う。
それは「水」だった。
巨大な、現代の高層ビルくらい簡単に呑み込んでしまいそうなほどに大きく、高い水の柱が、突如として街の中心にそびえたつ。
「あれが、我が街が誇る〈水の御柱〉! この街が、大精霊様と歩んできたという証!」
光の加減だろうか。
わずかに緑のにじむ青い柱が、天に向かって突き上げられている。
簡単に言ってしまえば、それはただ大きい噴水。
だが、その大きさ、美しさは、現代の地球の科学ですら成しえない、まさに「神の御業」だった。
圧倒的な景色に、息を呑む。
その理由は、二つ。
一つは単純に、ゲームでも感動した、美しい光景を目の当たりにしたから。
そしてもう一つは……。
「では、あらためてようこそ! 大精霊様と、緑に輝く水の柱を擁する街……〈翠柱都市ヴァルツォダ〉へ!」
この街が、ちょっとしたイベントですぐに水中に没する、絶体絶命な都市だと思い出したからだった。
※ ※ ※
過去一よく分からない時間が終わり、突如始まった歓迎会が終わると、住人たちは三々五々に散っていく。
解散してからは全員が行儀よく、俺たちが見世物になるようなこともなかったが、中には親し気に声をかけてくる人や別れ際に拝んでくる人もいて、なかなかに対応に困る。
そんな中で……。
「――お疲れ様でした、レクス様」
例の幼女の手を引いた神官服の女性が、まるで世間話でもするように近付き、話しかけてくる。
「そういえば、レクス様はこの街の教会に興味はありますか? もしよろしければ、あとでご案内を……」
何も知らない一般人を装った、彼女の物言い。
だが俺はすでに、そんな演技に付き合う気力が失せていた。
「……茶番はやめろ。〈白の女王〉様は俺に話があるんだろう? だったら、今、ここで言えばいい」
吐き捨てるように、告げる。
「お、おっさん!?」
「レクスさん、一体何を言って……」
俺の言葉に、ラッドやニュークが驚きの声をあげるが、俺は視線を逸らさない。
神官服の女性は一瞬だけ大きく目を見開くと、すぐに楽しそうにうなずいた。
「流石は魔王殺しと名高い英雄レクス様。やはり貴方様には、隠し事は出来ませんね。……では、種明かしの時間といたしましょう」
その言葉に驚いたのはラッドたちだ。
「まさか……」
「〈白の女王〉って、もしかして……」
その視線を楽しむように彼女は笑みを浮かべ、そして……。
「――え?」
まるで自分の役目は終わったとばかりにスッと後ろに下がった。
空気が、凍りつく。
予想された流れを完全に外され、ラッドたちが疑問符を浮かべる中、その空気を壊すように「もう一人」が動いた。
神官服の女性が下がったことで、その場に取り残された「もう一人」の人物、すなわち「花束の幼女」はそのフリルの付いた純白のドレスの裾をわずかに持ち上げると、
「――はじめまして、レクスおにいちゃん! わたしが水の大精霊様の巫女、〈白の女王ハアト〉だよ!」
綺麗な礼と共に、鮮やかな名乗りをあげたのだった。
白の女王!
実はハアトは最初の構想では「まさに女帝!」って感じの大人の女性(既婚者)だったはずなんですが、昨日「あれ? 水の巫女ってノーム? ということはつまり…………ようじょ!!」と天啓を得てそれまで書いてた全てを放り投げて書き直したのがこちらになります
あ、ちなみに分割なので次回更新は(突然の天啓がなければ)ほんとに明日です!





