第百四十九話 真なる邪悪
感想でありふれたせかいせいふくの解釈もらっちゃったのが嬉しくて、小説そっちのけで自分の歌詞解釈を無駄に長々と書き綴ってました!
せっかくだから活動報告に載せようかと思ったんですが、いっそジャンルをエッセイだかにしてなろうに投稿した方が見やすいですかねー
「……分かったよ。神の名前捜しには協力してやる」
喉の奥から息を押し出すようにして、俺は渋々と言った。
エッチなお願いだの巨乳派がどうだの、散々に無駄な紆余曲折を重ねた末、辿り着いた結論がこれだった。
(……まあ、仕方ないよな)
元より、「女神に名前を全く教えない」という選択肢はない。
少なくとも一つだけ、この女神に絶対に教えなければいけない名前があるからだ。
その名前とは、「フィーナレス」。
つまりは、このむっつりポンコツ女神の名前だ。
神の名前は「名前の持ち主」か「光の女神」かに伝えられるが、この女神の名前だけは名前の持ち主が女神本人のため、否応なく「光の女神」本人に伝えるほかない。
しかも、この女神の名前はストーリー上特に重要だ。
この名前を知ることが出来るのは、俺やレクスとも関係の深い場所。
俺がこの世界に転生した直後に魔物に支配された街、〈廃都アース〉の深部にある石碑でのみ見つけることが出来る。
ほかの名前と比べても発見難易度の高い名前であり、神々の中でも一際存在感のある〈救世の女神〉の名前だけあって、ゲームにおけるこの名前の効果は大きい。
名前を教えると女神はめずらしく素直に喜びをあらわにし、ほかの四属性神と同じように真の姿に変身……などは流石にないものの、大きく光ってちょっとだけゴージャスな姿になる。
ちなみにその時、服装だけでなく胸のサイズも少し豪華になるのが俺が依頼を受けた一因……いやとにかく、パワーアップを果たし、最終戦における悪神の封印と、開幕の女神による先制攻撃が強力になるのだ。
四属性神と違い、ノーリスクでラスボス戦が楽になるのだから、これは見逃す手はない。
そして何より、光の女神が本来の力を取り戻すことによって、〈光の勇者〉である「主人公」も覚醒する。
流石にほかの神の巫女ほどではないが、この覚醒でステータスが大幅に増強されることが、「主人公」の大きな強みの一つとなっている。
(いくらムカつくからって、「光の女神」の名前まで伏せるって選択肢はない)
ただ……。
「神の名前がありそうなところを調べればいいんだろ。それでもし神の名前っぽいもんを見つけたら、あんたに伝えるさ」
俺が「神々の名前を知っている」という事実は伏せる。
隣のレシリアが心なしか呆れたような視線を送ってくるが、これは当然の処置だ。
頼まれる前に教えてしまえば、「どうして俺がそんなもんを知ってるんだ」って話になりかねないし、「主人公」の覚醒による強化は「割合増加」なのだ。
元の値が高ければ高いほど成長値も大きい訳で、つまりは「光の女神」に名前を告げるタイミングはあとになればなるほどいいってことになる。
ついでに言えば、四属性神についても同じことが当てはまる。
女神に四属性神の名前を教えるメリットはラスボス戦だけだから、こちらもラスボス戦の直前までは回答を保留するのが安定択になるのだ。
《強情張らずに最初っからそう言ってれ……あ、いえ。とっても嬉しいですよ、ありがとうございますね》
「おい、心の声漏れてんぞ」
指摘されて、他所を向いてわざとらしく口笛を吹き出す光の女神。
(というかこの曲、ブレブレの主題歌じゃねえか)
女神の登場時にもBGMで流れていた名曲だ。
生まれて初めてサントラを買って聞こうかなと思ったが、ブレブレのサントラはそもそも発売されなかった、というほろ苦い思い出もある思い入れの強い曲だ。
懐かしい曲にほだされそうになるが、口笛のくせに無駄にテクニカルで、たまに変なアレンジとかも入れてるのがなんか腹が立ってきた。
はぁぁ、と息を吐いて意識して心を静める。
(結局うまいこと乗せられた気もするが、まあいい。俺がもう名前を知っていることは流石にバレてないみたいだしな)
「ふふん、やっぱり男なんてチョロいですね」と言いたげにない胸を張り、ドヤ顔で口笛にボイパまで織り交ぜ始めた女神の態度は癪に障るが、話の流れこそめちゃくちゃになっただけで、結果としてはほぼ既定路線と言っても差し支えない。
これ以上このポンコツに余計な真似をされても面倒だ。
俺は話を打ち切るように、口を開いた。
「――それよりいい加減、本題を片付けないか?」
言いながら、俺は女神の背後、正真正銘の〈闇深き十二の遺跡〉の最深部を指さす。
……周囲から隔絶され、一切の光が感じられないその場所には、可視化されるほどの邪気を纏う〈闇の像〉が、不気味にたたずんでいた。
※ ※ ※
「……うっ」
「ぐ……」
「これ、は……」
ラッドやレシリア、フィンまでが、最深部の瘴気にあてられ、顔を歪める。
(精神がゼロの俺が耐えられるか少し心配だったが、これくらいなら問題ないか)
こういう異常への耐性は〈精神〉の管轄のように思えるが、魔法を全て無効化する〈魔避けの紋〉が俺を守ってくれているのかもしれない。
取っててよかった〈魔避けの紋〉、というところだが、流石に像から漏れ出る邪気の影響はいかんともしがたく、この場に長く留まるのは危険だと本能が訴えていた。
幻の存在であるはずの光の女神すら苦しそうに顔をしかめ、彼女は像に対して敵意すら感じられる眼差しを向けた。
《封印に楔のように打ち込まれたこの邪気は、悪神が復活を果たすための足がかり。この像は場に満ちる邪気を際限なく吸い込み、今もわたしの力を衰えさせています》
そこで、物憂げな女神の瞳が俺たちに向けられる。
《あの像がある限り、わたしの光の力もここには及びません。どうかあの〈闇の像〉を破壊して、闇の神の企みを挫いてください!》
……うん。
正直今となってはこのまともな女神っぽい原作台詞はもはや白々しい演技にしか聞こえないが、像の破壊が必要なことなのは確かだ。
「……ラッド、頼んだ」
〈闇の像〉を破壊するには像に手を触れるだけでいいが、〈闇の像〉を壊したものは、報酬として女神からの恩恵をもらえる。
この遺跡で上昇する能力は〈生命〉。
誰に対しても効果を発揮する能力なので迷うところだが、ブレブレの育成の基本は長所を伸ばすこと。
なら、パーティのタンク役を務めるラッドが適任だろう。
「お、おう」
震える声でラッドが返事をすると、どす黒いオーラに包まれた歪な像に向かって一歩、また一歩と近付いてく。
そして……。
「……ぁ」
その手が像に触れた途端に、まるでガラス細工で出来ていたかのように、像がひび割れ、砕け散る。
「――ぐっ!?」
ついで、その中に込められていたおどろおどろしいもの……おそらくは悪神が貯め込んだ「邪気」が一気に解放され、押し寄せる風となって俺たちの方へ吹きつけ、一瞬の間に駆け抜けていく。
「これ、が……」
像の解放、か。
ゲームでやっていた時、画面越しでは実感出来なかったが、確かに像に込められた邪気というのはすさまじかった。
あんなものがずっと悪神の封印に打ち込まれていたなら封印が綻ぶのも不思議ではないし、あれが世界に散らばると魔物が強力になる、というのも納得出来た。
《ありがとうございます! これなら……》
唯一、動揺を見せなかったのは光の女神だった。
女神が祈るように手を組むと、彼女の身体が強く発光する。
「な……!?」
ラッドの驚きの声が鼓膜をかすめ、だが俺はそれに反応する余裕もなかった。
それはまさに、奇跡の光景。
部屋中に蔓延し、こびりつくように部屋に巣食っていた闇が、光の女神を中心にして消え去って、いや、吹き飛ばされていく。
女神が発する光はいよいよ大きくなり、あまりの光の強さに俺が思わず目を閉じた時、
《――闇よ、去れ!!》
女神の声と共に、その奇跡は終わりを告げた。
「す、ごい……」
気の抜けたようなマナの声に、俺もゆっくりと、目を開ける。
思わず口を開いてしまうほど、目の前の光景は先ほどまでと一変していた。
あれほどの存在感を見せていた〈闇の像〉や像が生む邪気は影も形もなく、部屋にこびりつくようにはりついていた闇の気配も今や微塵もない。
ただ、悪神の封印と思しき大きな魔法陣だけが、光を受けて煌々と輝いている。
《……もう、安心です。この場所の闇は、全て追い出しました》
そう口にして、女神は微笑む。
普段の言動がいかに残念でも、この時ばかりは彼女が本当に世界を救う女神に見えた。
そんな俺たちの様子に満足したのか、女神は優雅な仕種で礼をする。
《あなたがたのおかげで、最終決戦での勝利にまた一歩近づきました。では、この調子で次の遺跡も……》
そうして、別れの流れになりそうなところで、
「待った! 聞きたいことがあるんだ!」
俺は慌てて、女神を引き留めた。
《なんですか? せっかくいい感じに女神ムーブをやれてたところだったのに!》
さっきまでの優雅さはどこへやら、頬をふくらませて子供っぽく怒る女神だが、そんなお遊びに付き合っている余裕は今はない。
もうキャラ作りはあきらめろよ、と思いながらもグッとこらえ、俺は尋ねた。
「最終決戦での勝利に近付いた、って言ったけどさ。本当のところ、十二個全ての遺跡を解放する意味ってあるのか?」
《……どういう、意味ですか?》
まるで、痛いところを突かれた、と言わんばかりに女神の顔が歪む。
「こっちにはあんたと、場合によってはほかの四属性神まで味方にいるんだ。弱体化した悪神相手なら、遺跡を八個かそこら攻略すれば、それで十分なんじゃないか?」
《それ、は……》
女神が動揺するように、言葉に詰まる。
「それとも……」
そこで俺は、もっとも聞きたかったこと。
本命の質問を、ぶち込んだ。
「――〈闇の神〉を『完全に』倒すには、〈闇の像〉を全て破壊しなくちゃいけない、なんて理由でもあるのか?」
俺がそう口にした途端、女神は明確にハッと表情を変える。
それから表情を隠すように顔を伏せ、はぁ、と息をついて……。
《……そう、ですね。あなたの推測は、的外れとも言い切れません》
観念するように、そう答えた。
《神と言うのは存外、しぶといものです。四柱の属性神のように力を、名を奪われてなお、その存在が完全に消滅しないこともある。六柱の神の中で最強とも言える〈闇の神〉を完全に消滅させようというなら、確かに〈闇の像〉を全て破壊するのが一番の早道でしょう》
静かに、女神は語る。
そこには、今まで見せていたどこか頼りない女神の姿はなかった。
ただ真摯に、まるで俺たちに祈るように、あるいは懺悔するように、言葉を紡ぐ。
《ですが、心してください。それは茨の道。もっとも過酷な道程です。十二の遺跡全てを巡るのは、想像を絶するほどの過酷な旅になるでしょう。それに、自らの存在を完全に消滅させようとする相手に対して傍観するほど、神は寛容ではない。あなたが〈闇の像〉を全て破壊した、その時――》
彼女は怖いほどに透き通った瞳で、透徹した声で、予言のように告げる。
《――悪神の本当の姿に、〈最強最悪の悪神〉に対峙することになるでしょう》
ぞわりと、背筋が震えた。
「に、兄さん……」
怯えたようにレシリアが俺の手を引くが、俺は自分の唇の端が、自然と吊り上がるのを感じていた。
(……そう、か。そうだよ、な)
ずっと、違和感があった。
俺は確かに、何度もラスボスを倒した。
だが、単純に「簡単すぎる」ということとは別に、何かが物足りないと思っていたのだ。
その正体が今、はっきりと分かった。
(――ラスボスなのに、第二形態がないのはおかしいよなぁ!!)
これだけプレイヤーをギリギリまで追い詰めるのが好きなブレブレの開発が、「ラスボスの変身」なんておあつらえ向きな絶望要素を実装していないはずがない。
だが、その第二形態が悪神の切り札で、「存在の消滅」にまで追い詰められた時だけ見せるものだとしたら……。
(悪神の力がもっとも弱くなる〈闇深き十二の遺跡〉を制覇した時だけ本気の第二形態を見せる、というのもうなずける)
これで、全てに説明がつく。
俺がゲーム時代に見ていた「ノーマルエンド」。
あまりにも淡白な終わり方で、全ての問題が片付いたはずなのに全くハッピーエンド感がなかったのはなぜか。
それは、この終わりが単なる問題の先送りでしかなかったからだ。
単純にラスボス戦で悪神を「倒した」だけでは悪神を「消滅させる」ことが出来ず、世界はちょっとした猶予を得られるだけ。
つまりは本当にこの世界が救われ、そして俺がこの世界で安心して暮らすためには、全ての遺跡の制覇をする必要があるということ。
状況は、最悪だ。
ゲーム時代にでさえ達成したことのない遺跡の完全制覇を、現実になったこの世界で、セーブもロードも攻略本もwikiもない世界で成し遂げなければいけないという逆境。
なのに……。
「――やってやろうじゃねえか」
自然と、言葉が漏れ出していた。
自分でもびっくりするほどに、覚悟は決まっていた。
俺は、どんな手を使ってでも〈闇深き十二の遺跡〉を全て攻略する。
そして……。
――絶対に「主人公」を見つけて、そいつに最強の悪神を押しつけてやんよ!!
決して折れぬ硬い意志!!
これで女神との邂逅編は終わりですが、ここじゃ終われないので連続更新は続けます!
ここから一気に物語全体の謎に突っ込んでいくので、感想欄での展開予想とかネタバレだけは本当に注意をお願いします!
最近遅れ気味ですが次回の更新は明日、の予定なので評価とか感想とかいいねボタンでスパムとかして応援しててください!
それから……書籍と漫画の三巻が発売中なこと、時々でいいから思い出してください





