第百四十六話 溢れる想いと動いた心
絶賛発売中の書籍三巻とコミック三巻の宣伝を活動報告に書きました!
本当はそこに連載開始予定日直前、急にノベルゲー作りたくなる発作に襲われてティラノビルダーの勉強してたら連載開始が遅れた話をしようかと思ったんですが、これ知られちゃったら怒られる気がしたのでやめておきました!!
えらい!!
あ、あと比較的最近の話なんで忘れている人はいないとは思いますが、神様関係の情報が以前に出てきた話は「第十三話 もう一つのプロローグ」です
……いえ、ちょっと塩漬けしすぎましたよね、はい
――「神々の名前捜し」。
それは、ブレブレ後期における重要コンテンツの一つだ。
ストーリーにおいても、ゲーム攻略においても大きな意味を持つ。
これは、今のように初めて(初めてではない)〈闇深き十二の遺跡〉を攻略した時に始まるイベントで、だからこそ相応に難易度が高い。
神々の名前を知ることが出来る場所は大抵敵が強い場所か、イベントが進行しないと立ち入りが出来ない場所が多く、生半可な実力では達成不可能なのだ。
教団関連のイベントと同様、主にゲーム後半の攻略要素と言える。
……ただ、逆に重要なコンテンツであり、捜すのに苦労したからこそ、俺はどの神様の名前も所在も、はっきりと記憶している。
当然ゲーム知識をまとめた手帳にも真っ先に書いたし、なんだったら今でも空で言える。
つまりは俺がその気になれば、この女神の願い事は一瞬で解決するのだ。
しかし……。
(――まぁ、まだ言わなくてもいいよな)
実は、この神様の名前。
教えられる相手はこの女神だけじゃないのだ。
もちろんストーリー的、ゲーム的に綺麗なのは女神に教えるパターンなのだが、むしろ報酬の面で考えるのなら、「もう一つの道」の方が得るものが大きいとすら言える。
話の流れ次第だが、今のところはこちらからは何も情報を出さずに様子見をしておけばいいだろう。
俺はそこで意識して思索を切り上げると、いまだに混乱した様子のラッドたちに視線を戻した。
※ ※ ※
「か、神の名前を見つけるって、どういう……」
俺がニヤニヤと見守る中、ようやく動揺から立ち直ったラッドが、女神にそう問いかけた。
女神はその質問にしばし考え込む様子を見せたが、やがて口を開いた。
《その説明をする前に今の世界の状況を理解する必要があります。少し長くなりますよ?》
「だ、大丈夫です! 教えてください!」
ラッドの熱意に、女神は優しく目を細めた。
そして、彼女は仕方ないな、とばかりに微笑むと、
《分かりました。では、最初から解説しましょう。わたしのこの――特製紙芝居で!!》
呆気に取られるラッドたちの前に、お手製と思われる紙芝居を出して来たのだ。
「えっと……え? 紙しば……え?」
完全に固まってしまったラッドたちを前に、女神は慎ましやかな胸を張る。
《ふふふ。あなた方が何を言いたいかは分かっています。確かに今のわたしの姿は本体ではなく、魔法で作った映像にすぎません。仮に紙芝居を作ったとしても、本来ならそれが見えるはずもない》
全員の「いやツッコミどころそこじゃない!」という視線の中、「ですが!」と女神は声を張り上げた。
《わたしは不断の努力で魔法を極め、あたかもそこに存在するかのように紙芝居の映像をこの場に投影出来るようになったのです!》
あくまでドヤ顔でそう語る女神。
さっきまでとはまた違う、謎の緊張感が場に満ちる中で、
「ぎ、技術の無駄遣い……」
誰かが、ポツリとつぶやいたのが耳に届く。
……だが、残念ながら、これがこの女神の平常運転。
神託では神々しさと知的さを併せ持つ存在に見えた彼女だが、ぶっちゃけアレが彼女のピークだ。
救世の女神、光の女神、エルフの神……。
様々な肩書を持つこの女神フィーナレスだが、プレイヤーがその名前で彼女を呼ぶことはほとんどなかった。
――ドヤ顔ポンコツ女神。
それが、ブレブレのプレイヤーにおける彼女の通り名だったのだから。
※ ※ ※
《では女神プレゼンツ、「悪神ラースルフィと救世の女神」はじまりはじまりー》
奇妙な沈黙と緊張感の中で、フィーナレスの呑気な声が虚しく辺りに響く。
どこから見ても神々しくも高貴な彼女が、昭和感溢れる紙芝居を握っているのはどうにも違和感があった。
言うまでもなく、紙芝居とは大きな紙に書かれた絵と語りで物語を描く創作物ではあるが、その紙に書かれた絵の技量は、一言で言えば「画伯」レベル。
それも、決していい意味で使われない方の「画伯」だった。
《――さて、まずは登場人物紹介から》
ドヤ顔の女神がいきなりそんなことを言い出すが、ここで「紙芝居で登場人物紹介ってなんだよ」とツッコめる人間はいなかった。
謎のポンコツ女神ワールドに取り込まれ、その場の全員がそのヘタウマな紙芝居を注視する。
女神が紙芝居の最初のページをめくると、もしかしなくても〈救世の女神〉本人を描いたであろう、「わたし」と書かれたやけに胸を強調されたデザインのキャラクターと、「らーするふぃー」と書かれた、黒いクレヨンをぐるぐるに書きなぐった子供の落書きのようなキャラクターが描かれていた。
《はい! これがこの作品の主人公、救世の女神と悪神ラースルフィです!》
なぜかドヤ顔で女神が差し出した絵をよく見ると、イラストの横に注釈のように人物の特徴が書かれているようだ。
まず、「わたし」の方に目を向けると、
・光とエルフの神
・ちょーぜつびしょーじょ
・まほーがとくい
・破壊力ばつ牛ン
・きょにゅー
・ともだちがおおい
・そんけいされてる
などという内容が好き勝手に羅列され、その向かいの「らーするふぃー」の横には、
・闇とニンゲンの神
・めちゃくちゃわるいやつ
・集中力がすごいらしいけど見たことない
・ひきこもりにーと
・私服のセンスが壊滅的
・もちろんともだちもいない
・プチプチをつぶすのが趣味
・暗くてじめじめした場所に生息
・アリの巣に水を流し込んで喜ぶ
・キノコに話しかけてる
・たぶんオクラと納豆が好き
・足がくさい
と割と散々なことが書かれている。
なんかしょぼいことばかりだし、「なんでや、オクラと納豆に罪はないやろ!」とは思うが、女神はやはりドヤ顔だ。
それから、
・火の神
・なまえはわすれた
・すごい力持ち
・のーきん
とか、
・地の神
・なまえはわすれた
・がんじょう
・ふにんきぞくせいをきにしてる
などの紹介を経てから、ようやく神々の戦いの真実について話し始めた。
絶対普通に伝えた方が早い、そのグダグダな紙芝居から読み取れたことを噛み砕いて抜き出すと、
・闇の神であるラースルフィはもともとあまり強い神ではなかったが、その特性を用いた不意打ちでほかの神を襲い、その力を奪うことで強くなっていった
・火、水、地、風の四属性の神々が敗れ、最後に光の神である彼女だけが残ってギリギリで封印した
・封印される直前、悪神が最後のあがきとして、「名の剥奪」の呪いをかけた
ということらしい。
紙芝居のゴミみたいな出来と、そこから告げられた情報の重要さのあまりの落差にラッドたちが戸惑っていると、ようやく紙芝居を手放した女神が、もう一度口を開く。
《この「名の剥奪」の呪いの効果は、単に「人々の記憶から神々の名前を忘れさせる」だけではありませんでした。それ以外にもう一つ、「ほかの人間に神の名前を伝えられなくする」という悪辣な効果も残していったのです》
補足するようにそう告げた女神に、ラッドたちは目を見開いた。
「そんな……。でも、だったらもし僕たちが神様の名前を知っても、伝えられないからどうしようも……」
黙っていられなくなったのか、当然の疑問をぶつけるニューク。
だが、そこで女神は微笑む。
《落ち着いてください。一見完璧にも思えるこの呪いですが、この条件には抜け道があります》
「抜け、道……?」
子供の落書きのような絵を抱え、控えめな胸を反らせる姿はいかにも子供っぽい。
だが、それでも彼女は、やはり女神だった。
《――「ほかの人間」に言えなければ、「ほかの神様」に伝えればいいのですよ》
毅然と、凛然と、彼女は告げる。
「そ、そんな、トンチみたいな方法で……」
《ですが、有効です》
神の叡智を瞳に宿し、彼女は確信を持って話す。
《そして……。悪神に力を、そして名前までも奪われた四属性の神々ですが、彼らは完全に消滅した訳ではありません》
「えっ!?」
寝耳に水だったのだろう。
何度目になるか分からない驚きの声を、ラッドたちはあげた。
《力と名前を奪われた彼らはおそらく、自らが神であったことを忘れ、単なる精霊として各地に潜んでいます。ですが、わたしに彼らの名前と居場所を伝えてもらえれば、必ずや彼らの本分を呼び起こし、悪神と戦う戦士として決戦の場に呼ぶことが出来るでしょう》
そうして、自らの至らなさを悔いるように、彼女は唇を噛みしめた。
《人の身で、神を見つける。それがつらく、険しい道のりであることは、分かっています。ですが……。ですがこのままでは、闇の神がすぐにも以前の力を取り戻してしまいます! そして、そしてもし悪神が蘇った時、神の力をもって対抗出来なければ、今度こそ世界は悪神の手に落ちてしまう!》
それは、心からの叫びだった。
彼女が「女神」という言葉で想像するような潔癖な存在でなくても、普段がどれだけポンコツであっても、その想いは、心は、間違いなく本物だった。
《――人類の繁栄のため、そして、今度こそ本当に世界を救うために! どうかわたしに、力を貸してください!!》
そこで彼女は、この世界に残った唯一の神であり、世界で最も尊い存在である彼女は、大きく頭を下げた。
ただの人間に。
英雄でも、勇者でも、主人公でもない、ただの冒険者たちに、頭を下げたのだ!
「……兄さん」
「おっさん……」
レシリアの、ラッドの視線が、俺に突き刺さる。
そして、彼らの奧……顔を上げた女神の二つの瞳も、縋るように俺を見つめていた。
(……しょうがない、な)
本当は、ここで前に出るつもりはなかった。
会話自体はラッドたちに任せて、俺はただの傍観者でいるつもりだったのに……。
(でも、ここまでの「想い」を見せつけられたら、もうだんまりを決め込んでいる訳にもいかないよなぁ)
心の中でわずかに嘆息してから、足を前に踏み出す。
俺は、この話し合いが始まってから初めて、ラッドたちの前に出た。
実際のところ……。
色々と心の中で言い訳を並べ立てて先送りをしようとしても、その実、とっくの昔に腹は決まっていた。
両足を踏みしめて、正面から女神と向き合う。
真正面から叩きつけられるその神々しさに気圧されながらも、俺はしっかりと女神の視線を受け止めて、
「――持ち帰って、前向きに検討させていただきます!!」
綺麗な社会人式のお辞儀を決めたのだった。
レクス「行けたら行く」
なんかいきなり一日更新開いた気がしなくもないですが、これからマッハの速度で更新して読者を置き去りにする予定なので、感想投げたり評価入れたり三巻買ったり三巻(漫画版)買ったりして応援してくれると助かります(ニチャア
あ、あと、今さらの報告ですが「いいねボタン」なるものも(だいぶ前に)開放しました
これ調べた限りではポイントとかランキングとかにはたぶん関わらないものなので、皆さんもあまり身構えずに、気軽に押したり押さなかったり偶数回連打したりしちゃってください!!
皆さんがたくさん連打してくれたら、次回更新は明日です!
※追記※
早速いいねを連打してくれた読者の皆様から「エラー出た!」「スパム扱いされたんだけど!」と喜びの声が続々と寄せられています
よい子のみんな、いいねボタン連打するのは……やめようね!