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主人公じゃない!  作者: ウスバー
第五部 力と代償
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第百二十七話 帰還

今回は解禁まで感想でもネタバレ我慢してくれていたようで助かりました!


いえ、トリックに気付いたら自慢したくなる気持ちはすごい分かるんですが、そうすると自力で考察とかしてない人でも感想読むだけで同じだけ分かっちゃうので、少なくとも感想欄でだけはその辺自重してもらえたらな、と


「ん? 人だかり?」


 無事に王都に辿り着いたが、何やら王宮の方が何だか騒がしい。

 騒ぎの中心は見えないが、「王子」とか「アイン」みたいな単語が漏れ聞こえたので、おそらくはアインたちが帰ってきたせいだろう。


(アインはやっぱり、慕われてんなぁ)


 そんな相手を救ったとなれば、俺も鼻が高いというものだ。

 とはいえ、今はあの人だかりに突っ込むような気力はない。


 俺は俺でやらせてもらおうと、いつもの訓練場に向かった。


(なんか、注目されてる、か?)


 街を歩いていた時から、なんとなく視線が集まっている気がする。

 もしかすると、俺が試練をこなしている間に何かあったのだろうか。


 知り合いがいたら事情を聞こうと訓練場に入っていくと、折よくラッドの姿が見えた。


「お、ラッド! ちょっと聞きたいんだが……」

「お、おっさん!!」


 ラッドに向かって手を振ると、なぜかラッドが大声をあげる。

 その鬼気迫る表情に、つい足が止まった。


「ど、どうしたんだよ、ラッド」

「どうしたんだ、じゃねえよおっさん! おっさんこそ一体何してたんだよ!!」

「へ……」


 すごいラッドの剣幕に、ついていけない。


「レシリアもプラナも、もちろんオレたちも、毎日おっさんの行方を必死に探してたんだぞ! この三週間、連絡一つ寄越さないだなんて、何考えてんだよ!!」


 三週間だなんて、一体何を言ってるんだ、と考えて、ふと思い至った。


 そういえば〈魂の試練〉の中は、一時間が一週間になる。

 だとしたら、あの中で三時間過ごしただけで、外では三週間が過ぎている訳で……。


 さーっと、顔から血の気が引いていくのが分かった。


〈魂の試練〉を成功させることに夢中で、そのあとのことは正直全く考えてなかった。

 特に、レシリアなどには試練でステをいじることがバレるとまずいと思っていたから、どこに向かうかすら言っていなかった。


「ラ、ラッド。ものは相談なんだが、俺が来たことはレシリアには黙っていてくれないか。い、いや、もちろんちゃんと話すつもりなんだが、俺にも心の準備って奴が」

「……別にいいけどさ。もう、遅いと思うぜ」


 その言葉に、恐る恐る背後を見やる。

 するとそこには、すごい勢いで俺に向かって駆けだしてくる、碧色の妖精の姿。


「っ!?」


 悲鳴は、声にならなかった。

 半分腰が引けた状態で、しかし逃げることも出来ず、俺はその場に立ち尽くし、



「――兄さん!!」



 胸元に衝撃を受けた、と思った瞬間、俺は地面に倒されていた。


 馬乗りになったレシリアが、俺を見下ろす。

 だが、予想していた叱責はなかった。


「遅いです、兄さん」


 レシリアは倒れた俺の胸にコツンとおでこを当て、くぐもった声で言う。


「兄さんのこと、ずっと、探してたんですよ。わたしを、ひとりに、しないでください」

「……悪い」


 レシリアが、顔をあげる。

 切れ長の瞳が、今は涙に濡れてキラキラと光っていた。


(綺麗、だな)


 こんなに可愛い妹をないがしろにしてしまったことに罪悪感を覚えるのと同時に、こんなにも自分を思ってくれる人がいることに、感謝の念を覚える。


 でもそれはそれとして、訓練場の真ん中で押し倒されているのは恥ずかしい。

 レシリアも落ち着いただろうから、そろそろ起きようと、身体に力を入れて……。


「ん?」


 身体が、全く動かないことに気付いた。

 いや、よく見ると、身体の要所要所が自然とレシリアの身体に抑えられていて、これってまるでレシリアが……。


「あ、あれ? なぁレシリア、なんか……」

「兄さん」


 レシリアの声に、言葉が遮られる。

 全身を絡みつけるようにして俺の動きを封じながら、レシリアは息がかかるほどの至近距離から俺の顔を覗き込んで……。



「――兄さんの身体、ずいぶんとおかしなことになってますよね? 説明、してくれますか?」



 その絶対零度の瞳に晒されて、俺は思った。



 ――俺の妹、ちょうこええ……。



 ※ ※ ※



 三十分後。

 俺は部屋で正座をさせられ、レシリアに向かって弁明をさせられていた。


「なるほど。以前に話していた〈魂の試練〉、ですか? それを受けていたのは分かりました。で、それで何がどうなって兄さんがそうなるのですか?」


 ベッドに腰かけて俺を見下ろすレシリアの目は、鬼教官のそれだ。

 その視線に気圧されながらも、俺は一縷の希望にすがって必死に誤魔化しにかかる。


「ええと、その説明をする前に〈魂の試練〉の仕組みを理解する必要がある。少し長くなるぞ」

「なら短くしてください」


 全く誤魔化されてはくれなかった。

 俺は「ま、まあ落ち着いてくれ」と言って、解説を始めた。


「つ、つまりだな。〈魂の試練〉が始まるとレベルがゼロになるんだが、これは要するに、レベルアップと逆の処理をしてるんだよ」


 試練開始時にレベルと初期ボーナス分、まあ早い話がレベル+5回分だけ、それぞれの成長値分の能力が下がるということ。


 例えばレベル50で成長値が全て4の初期レクスの場合、4×(50+5)で220だけ全ての能力が下がる。

 試練が終わったらこれとは逆に、4×(50+5)分だけレベルアップで能力が上がるため、普通であれば試練の前と後で能力値は変わらないのだが……。


「ただ、重要なのはレベルダウンで能力値が下がる場合、どんなに低くても0以下にはならないってことだ」


 例えば初期レクスは全能力が200なので220を引かれると本来は-20になってしまうところだが、基礎能力値はマイナスにならないので実際には0で止まる。

 要するに、実質的にはマイナス200しかされない訳だ。


 その後、試練が終わるとレベルアップで能力値が220になるため、結果としては全能力が200から220に増えることになる。


「これが、〈魂の試練〉で強くなれる理由の一つだな」


 この仕組みがあるため、例えば〈ファイター〉などの弱い職業でレベルアップしてきたキャラが、〈ソードマスター〉などの強い職業になってから試練を受けると、前よりも強くなれるのだ。


「一つ、ということは、それ以上のことがあるんですよね」

「ま、まあな」


 レシリアの鋭い眼光に気圧されながら、答える。


「今までのは、試練開始時と、試練終了時の成長値が同じ場合だ。だけど、どうにかして試練開始時と試練終了時の成長値を変更出来たら、どうなると思う?」


 そこで着目されたのが、「成長値が変動する装備」。


 例えば初期レクスの筋力成長値は4だから、試練の時に変動する値は220だ。

 しかし、試練開始時に「筋力成長値が下がる装備」で筋力成長値を3にしたら、レベルダウンで減る筋力値は165。

 そして、試練達成時に「筋力成長値が上がる装備」で筋力成長値を5にしたら、レベルアップで増える筋力値は275になる。


 165減って275増えるのだから、なんとそれだけで筋力が110も増えてしまうのだ。


「試練開始時に『成長値が下がる装備』を着けて、試練終了時に『成長値が上がる装備』を着ける。これが、〈魂の試練〉でのキャラ強化の基本なんだが……」

「待ってください。試練中はインベントリが使えないなら、どうやって装備を……あ」


 そこで、レシリアは気付いたようだ。


 試練にはインベントリは持ち込めないが、仲間は持ち込める。

 だからその仲間に必要な装備を身に着けさせて、中で交換すればいい。


 ただしその場合、装備を持ってきた同行者は「試練開始時に成長値が高く、試練終了時に成長値が低い」というキャラ強化とは真逆の状態になる。

 これによって強化対象が強くなった分だけ、同行者が弱体化されてしまう。


 ――これが、攻略メモに書いた「生贄」の仕組みだ。


「最低の所業ですね」


 というレシリアの素直な言葉には、視線を逸らせて対応するしかなかった。


「ですが、それだけでそんなに大きな効果が出るものなのですか?」

「まあ、あとはその応用だな」


 成長値を変動させる装備以上にステータス振り直しで大きな力を発揮するのが、〈~レオ〉系の職業だ。

 この系統の職業はクラスチェンジに像を必要とせず、〈ヤングレオ〉になった状態で特定の装備を身に着けることで転職が出来る。


 つまり、〈ブレイブソード〉や〈ルナティックサークレット〉のような装備品を試練に持ち込みさえすれば、試練の途中で転職が出来る、ということだ。


 例えば補正合計値が2しかない〈ヤングレオ〉でレベルダウンを受け、中で〈ブレイブソード〉を装備して補正合計値が15の〈ブレイブレオ〉になれば、それだけで差し引きで13ずつ余計に能力が上がることになる。


 装備品だと最大でも差し引き8程度の変化と考えると、このすごさが実感出来るだろう。


「あとは、こいつだ」

「指輪、ですか?」

「こいつは〈脱力の指輪〉。その名の通り、これを着けると筋力が一切成長しなくなるんだよ」


 これが、「主人公」は筋力特化型が強い、と言われる理由。

〈魂の試練〉における、最強チートアイテムだ。


 筋力が成長しなくなる、ということは、これを着けている間はレベルダウンしても一切筋力が下がらなくなる、ということ。

 要するに、これを使えば試練前の筋力値をそのまま持ち越し出来るのだ。


 その全てを実行し、完璧に完成させたのが今回のルインだ。



―――――――

ルイン


LV 40

HP 850

MP 180


筋力 475(A)

生命 370(B+)

魔力 125(C-)

精神 355(B+)

敏捷 235(B-)

集中 410(A-)


能力合計 1970

ランク合計 68

―――――――



 まず、これが試練開始前のルインのステータス。

 これに筋力と魔力以外に補正がなく、一番能力を管理しやすい〈ルナティックレオ〉に転職させ、装備品で成長値を削った結果、



―――――――

ルイン


LV 0

HP 500

MP 15


筋力 475(A)

生命 235(B-)

魔力 0(F)

精神 265(B-)

敏捷 145(C)

集中 95(D+)


能力合計 1215

ランク合計 48

―――――――



 レベルゼロの時点でずば抜けた能力を持つ怪物が出来上がった。


 念のため、最初は〈光輝の剣〉などで様子を見させたが、「正直こんなの〈魔王〉とか楽勝だろ」と内心で思っていたのは内緒だ。


 そしてその後、試練開始時に俺が身に着けていた「成長値が上がる」装備を渡し、成長値の高い〈シャイニングレオ〉に転職させてからレベルを上げた結果が、



――――――――――

ルイン


LV 30

HP 1180

MP 135


筋力 985(SS)

生命 545(A+)

魔力 90(D+)

精神 405(A-)

敏捷 355(B+)

集中 445(A-)


能力合計 2825

ランク合計 79

――――――――――



 このステータスお化け、ということになる。


「という感じで、俺はルインを強くしたんだよ」

「……分かりました」


 レシリアが静かにうなずいて、俺はホッと息をついた。

 分かったなら俺はこれで、と退室しようとしたが、


「でも別に、それはどうでもいいです。わたしは『兄さんに』何があったかが知りたいだけなので」


 しかし回り込まれてしまった!!


「あ、えーっと。それはだな」


 どうにか逃げられないかと視線を躍らせるが、レシリアの目はじっと俺を捉えて離さない。

 そして、沈黙が十数秒続いた辺りで、レシリアがぼそっと言った。


「……ステータス」

「え?」


 聞き返すと、レシリアは何事にも誤魔化されないと言わんばかりにもう一度言った。


「兄さんのステータス、見せてください」


 ダラダラと、冷や汗が流れる。


 ちらりと、手帳に目を落とす。

 もちろんここには、俺の今のステータスもメモしてある。


 だが……。



――――――――――

レクス


LV 75

HP 180

MP 1290


筋力 0(F)

生命 0(F)

魔力 1200(SSS-)

精神 0(F)

敏捷 0(F)

集中 0(F)


能力合計 1200

ランク合計 22

――――――――――



 誰よりも俺の、というよりレクスの身体の安全に気を配っていたレシリアに、これを見せたらまずいのではないかという予感が、俺にはあった。


 いや、だって生命とかゼロだし、HPだって出会った頃、レベル一桁だった時のラッド程度しかない。

 これは少し、刺激が強いのではないだろうか。


「何か、不都合でも?」


 完全に疑っています、という目でレシリアが俺を見てくる。

 これ以上、誤魔化す手段もなさそうだった。


「そ、その、あんまり驚かないでくれよ」


 と言いながら、そっと手帳を渡す。

 手帳を受け取ったレシリアは、そこでやっと表情を少し緩めた。


「もう、往生際が悪いですよ、兄さん。流石のわたしだって、兄さんが突拍子もないことをすることくらいは……」


 口にしかけた言葉が、手帳を目にした途端に止まる。


 顔から表情が一切なくなり、それから俺のステータス値を十秒ほど凝視していたレシリアは、やがて顔を上げると、まるで花が開くような笑顔を見せて、



「――なんだ、よかった。これ、夢ですね」



 そのまま卒倒したのだった。

レシリア、死す!!





明日はとうとう二巻&コミック一巻の発売日です!

二巻は正直言うと一巻ほど大胆な仕掛けは出来なかったんですが、闘技場メインで流れを組み直したので読みやすくなってるかなと

コミック一巻についてはこっちが何か言うのもおこがましいですが、まあ一話読んでよかったと思ってもらえたら残りも満足出来る出来になってると思うのでぜひ!


あ、あとたぶん明日も更新します、だって発売日だから!

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ちょっとした記入ミスで、登場人物も、世界観も、ゲームシステムも、それどころかジャンルすら分からないゲームのキャラに転生してしまったら……?
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― 新着の感想 ―
[一言] 防御力に極振りします!よりはマシだと考えてくれ、妹よ。
[一言] 正直数値とかネタバレとか読者は面白くないんですよね。 それに後出しジャンケンも多すぎるし、「例えば」で始まる文章を俯瞰で読めば分かりますが不要ですよね。 本筋だけは面白いので文章を絞らないと…
[一言] ラッドたちへのフォローもして上げて欲しいぜ!
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