第百十四話 四ヶ月の重さ
ちょっと無理しすぎて気持ち悪くなってしまったので更新遅れてしまいました!
本当に申し訳ございません!!
いやぁ、今作3D酔いつらいですね!!
「――おーい! マナ! おっさん!!」
訓練場に近付くと、遠くから手を振りながら近付いてくる人影が見えた。
「ラッド! レシリア!」
思ったよりも遅くなったせいか心配をかけてしまったのかもしれない。
俺も心持ち足の速度を上げてラッドたちに合流する。
「兄さん。その方は誰ですか?」
事情を説明する前に、レシリアが胡乱な視線をルインに向ける。
あいかわらずひな鳥を守る親鳥のような態度に、俺は苦笑した。
「紹介しよう。ルイン・スラーツだ。俺が探していた『遺跡攻略者』と言えば通じるか?」
「そいつが……」
遺跡攻略者を探しているという話は、ラッドも聞いている。
だが、それが同年代の少年だとは思っていなかったようで、目を丸くしていた。
「事情があってな。しばらく鍛えてやることになった」
そう言ってルインを前に突き出す。
レシリアはやはり、というように目を細め、ラッドたちは驚きはしたものの、特に文句などはないようだった。
「ルインさん、はじめまして。僕は魔法使いのニューク。ここにいるみんなと四ヶ月前にパーティを組んで、冒険者をやりながらレクスさんに指導してもらっています」
一番の常識人であるニュークがそう言って頭を下げると、自然と自己紹介の流れになる。
「あ、そういえばちゃんと自己紹介してませんでしたね。わたしはヒーラーのマナです!」
「プラナ。アーチャー」
マナとプラナの女性陣二人が対照的な紹介を終えると、最後に赤毛の少年が前に出た。
「剣士のラッドだ! 目標はおっさんを超えることと、世界で一番の剣士になること! よろしくな!」
そう言って、ニカッと笑うとルインに手を差し出す。
だが、ルインはその手を取ることなく、冷え切った声で言った。
「ルイン・スラーツ。ここには、師匠に学んで世界一の剣士になるために来た」
「なっ!?」
当てつけのようにラッドと同じ目標を語るルインに、さしものラッドも鼻白む。
「オレは本気で、誰よりも強い剣士になるつもりでいる。悪いが、冒険者ごっこに付き合うつもりはない」
そう言って、差し出されたラッドの手を完全に無視して両腕を組むルイン。
当然、愛想がないを通り越して愛想マイナスなルインの態度に、短気なラッドは噛みついていく。
「し、失礼な奴だな! お前もおっさんの弟子になるんだったら、一応オレが兄弟子になるってことなんだぜ」
「失礼? 自分の師匠をおっさん呼ばわりしている相手に礼儀をとやかく言われたくはない」
出会って一分も経たないうちにいがみ合い、にらみ合う二人。
本来はルインをたしなめるべきところなんだろうが、なんというか、百点満点の「めんどくさい人嫌いの実力者」ムーブに、俺は感動すら覚えてしまった。
(こんなんゲームとか小説だったら、もう絶対あとからツンデレ化する奴の台詞じゃねえか)
そう思って内心にやにやしてしまうが、笑っている場合でもない。
顔面の筋肉を引き締めながら、真顔で注意を飛ばす。
「ルイン。俺の指示には従うって話だったはずだぞ」
「……あなたが彼らと仲良くやれと命令するなら、従います」
「はぁ。ちょっと来い」
冷静な奴だと思ったのだが、ここまで協調性がないと少し考えないといけないかもしれない。
ルインを引っ張ってラッドたちから少し離れた場所に連れていく。
「……すみませんでした」
自分がやらかしたことは分かっているのか、ルインはそう言って頭を下げてきた。
ただ、問題なのはその根っこだ。
「なぁ、ルイン。何が気に入らない?」
曲がりなりにもラッドたちは、ルインに友好的な態度で接していたはずだ。
これからのイベントの要となる「主人公」様がこんな狂犬では、今後の計画にも差し障る。
俺の視線を受け、ルインはしばらくの沈黙のあと、口を開いた。
「あなたは〈極みの剣〉です。町の誰もが知る、英雄です。それが、冒険者になってまだ数ヶ月の新人を弟子になんて……」
「冒険者になって日が浅いってのはお前も一緒じゃないのか?」
「オレは……オレたちは、『特別』なんです。物心ついた頃から魔物を狩って暮らしてきて、それが普通だとずっと思っていました。冒険者になるまでまともに魔物と戦ったことのない一般人とは違います」
ルインが顔を上げ、俺の目をはっきりと見つめる。
そこには、確かに単なる子供の癇癪ではない、何かの情熱が見えた。
「初めてニーバーの町に着いた時、今まで見たことがないたくさんの人を見て、安心しました。これならきっと、〈魔王〉に勝てる人もきっとどこかにいるって。でも、どんなに探しても、あそこにはオレより強い人間は、いえ、オレと一緒に戦えるような冒険者すら、一人もいませんでした! あなたは! やっと見つけた希望なんです!」
思ったよりルインの俺への評価が高くて、驚いてしまう。
だが、そうかもしれない。
俺の記憶にある限り、ニーバーの町の冒険者にストーリーのメインを張るような主要キャラはいない。
なら、ニーバーの町のトップ冒険者の実力は、おそらくヴェルテラン程度か、あるいはそれ以下。
ニーバーで一番強い冒険者でさえ、ルインの半分程度の能力しか持っていなかったということになる。
(そりゃ、焦るよな)
自分が〈魔王〉に勝てないと分かっているのに、その自分にすら及ぶ人間がいないのだ。
自棄になって強いと噂の〈光の王子〉の下に押しかけ、無理やりにでも戦おうとした、というのも少しは納得出来る。
けれど……。
「そんなあなたの力が、あなたへの敬意も何もない、ただの駆け出しの冒険者に浪費されてると思ったら、オレは……」
「それは、違うぞ」
まあ、こいつの心情は分かった。
だけどこいつは一つ、とんでもない勘違いをしている。
確かにあいつらは冒険者になってたったの数ヶ月。
この世界の基準で言えば、まだ駆け出しも駆け出しなんだろう。
「あんまり、俺の弟子を舐めない方がいい」
「え……?」
思いがけないことを言われたという顔をするルインに、俺はとびっきりの一言をぶつけてやる。
「言っておくがな。あいつらは、お前よりも強いぞ」
※ ※ ※
「で、なんでこんなことになってんだよ、おっさん」
ルインと向かい合い、訓練用の木剣を構えたラッドが、恨めしそうに俺を見る。
「後輩に道を示してやるのが先輩の役目だろ」
と肩をすくめてやると、
「おっさんはほんと、いつも無茶振りばっかしてきやがるよな」
何だか呆れたような視線と一緒に、ため息をつかれた。
――ルインにラッドたちの力を見せるため、練習用の剣で立ち合いをしてほしい。
その提案を、ラッドは文句を言いながらも受けてくれたのだが、どうにも覇気が見えない。
大丈夫だろうか。
「……言っておくが、ルインは強いぞ」
油断しているのかもしれないラッドに、そう釘を刺す。
「あいつは、言ってしまえば世界に選ばれた「英雄」だ。その素質は文句なく世界最高レベルで、レベルはお前よりも一つ低いのに、すでにあいつの能力は総合的に見てお前より高い」
木剣での試合、ということで、〈光輝の剣〉は使えないが、それを抜きにしてもルインの能力値はラッドの一回り上だ。
しかしそんな警告を聞いても、ラッドは楽しそうに笑うだけだった。
「そうか。よかった」
「よかった、って」
予想外の言葉に、俺が思わず聞き返すと、
「――だってさ。あいつがオレより強くなくちゃ、あんたの教えが最高だって、あいつに証明できないだろ?」
ラッドは不敵にそう言って、試合用の木剣を手に前に進み出たのだった。
※ ※ ※
はじめ、という合図と共に、二人が同時に前に出る。
互いが互いに止まらず、リングの中央でルインとラッドの剣が激突する。
ラッドとルイン。
純粋に体格を比べると、ラッドの方が優っている。
だが、この摩訶不思議ファンタジー世界に現実世界の尺度を持ち込んでも意味がない。
お互いの武器が同じ以上、筋力値がより高い方が押し勝つ道理。
―――――――
ルイン
LV 35
HP 740
MP 165
筋力 405(A-)
生命 320(B)
魔力 115(C-)
精神 335(B+)
敏捷 205(C+)
集中 360(B+)
能力合計 1740
ランク合計 64
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―――――――
ラッド
LV 36
HP 816
MP 178
筋力 350(B+)
生命 357(B+)
魔力 127(C-)
精神 269(B-)
敏捷 250(B-)
集中 221(C+)
能力合計 1574
ランク合計 60
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王都に来てから、ラッドたちだってただ遊んでいた訳じゃない。
むしろ、午前中は騎士団の指導にかかりきりだった俺に変わって、レベル上げが可能なダンジョンを積極的に回っていた。
そのおかげでラッドのレベルも二上がり、ルインを上回る三十六レベルとなっている。
しかし、ラッドはパーティの中で一番バランス寄りのステ振りをしていることもあって、筋力値ではルインに及ばない。
「くっ!」
弾かれ、後退したのは当然のようにラッド。
たたらを踏み、その斬撃の威力に顔をしかめるが、驚きに顔を歪めたのはルインの方も同じだった。
それはそうだろう。
ニーバーの町では、どんなベテランの冒険者も受けられなかっただろう、ルインの一撃。
それを、同年代の冒険者になってまだ数ヶ月の若者が、ほんのわずかに後退しただけで完全に受け切ったのだから。
そして、ふたたびラッドが踏み込み、応えるようにルインもまた前に足を踏み出す。
先ほどの焼き直しのような光景。
だが、その結果は同じとはいかなかった。
「――〈Vスラッシュ〉!」
ラッドが、アーツを使ったのだ。
絶妙なタイミングで放たれたそれは、先ほどとほぼ変わらない軌道を描き、ルインの剣とぶつかる。
「なっ!?」
今度は、弾き飛ばされたのはルインだった。
後ろに数歩後退し、それでも闘志は衰えない。
「そのくらい! 〈Vスラッシュ〉!」
同じように、ルインもアーツを放つ、が。
その一撃が、ラッドに当たることはなかった。
「なっ!?」
無造作に見えるように距離を詰め、逆に反撃の一撃でルインを追い詰める。
なんとかしのいだルインが、ふたたびアーツを放つが、
「くぅ! 〈稲妻斬り〉!」
ラッドはまたもそれをすり抜けるように回避した。
「な、んで……」
ルインは呆然と目を見開くが、そんなものは当然だ。
ルインがオートアーツを使っているのに対して、ラッドはマニュアルアーツを使っているから。
そんな単純で、しかし決定的な差は、やはり埋めがたい溝となる。
そこからは、一方的な展開になった。
定まった型でしか放てず、中断も軌道変更も出来ないオートアーツでは、マニュアルアーツに対応出来ない。
何しろラッドはルインが撃ってくる技の軌道が分かるのに、ルインにはそれが分からないのだ。
初めは一種類の軌道でしかマニュアルアーツを使えなかったラッドも、今ではもっと多くのアーツを、もっと多くの角度から使えるようになっている。
もともとの技の数の差に加えて、マニュアルアーツで上下左右の打ち分けが出来るようになるだけで、技の軌道は四倍になる。
ただでさえ多くのアーツを知らないルインに、それが対応出来るはずがない。
それだけじゃない。
マニュアルアーツの訓練は、それぞれのアーツの軌道を記憶させた。
技の速度、軌道、射程距離。
その全てがラッドの手の中だ。
そんなもの、ずっと後出しが出来るジャンケンをやっているようなもの。
勝負になんて、なるはずがない。
「まだ、だ!!」
何度も反撃を食らい、ボロボロになっていくルイン。
それでも彼は、折れなかった。
大きく距離を取り、最後の大博打に挑戦する。
「――〈バーニング・レイブ〉」
それは「選ばれし者」にだけ許された、必殺の技。
「追加主人公」のために実装されたその未知の技は、おそらくラッドの持つどのアーツよりも強力で、そしてラッドにだって技の軌道が分からない。
だが、オートアーツは一度放つと方向転換も技の中止も出来ない。
それは、どんな威力の高いアーツであっても同じだ。
ならば、それに対する最適解は単純。
技の軌道は分からなくとも、大きくその場から退避して安全圏でやり過ごしてしまえばいい。
そんなこと、今までずっとアーツと向き合ってきたラッドに分からないはずがない。
しかし、ラッドは逃げなかった。
「おおおおおおお!!」
むしろ距離を詰めるように前に足を踏み出して剣を振りかぶり、そして、
「〈稲妻斬り〉!」
裂帛の叫びと共に放たれた一撃が、空を切る。
その瞬間、戦いの行方を固唾を飲んで見守っていたマナやニュークの口から、思わず悲鳴のような声があがる。
……だが。
俺と、ラッド。
それからおそらく、目の前で相対したルインだけが、それに気付いた。
空を切ったラッドの剣は、まだ死んでいない。
大気を切り裂くその刃は、虚空を蹴って反転する!
「――〈オーバーアーツ〉〈一閃〉!!」
これが、四ヶ月の努力の結晶。
マニュアルアーツの奥義である〈ダブルアーツ〉。
輝きを増した練磨の一撃が、「主人公」の必殺の一撃と、激突する!
「……ぁ」
弾かれ、くるくると宙を舞って、コツンと地面に落ちる一本の木剣。
そして、ついに、
「――それまで! 勝者、ラッド!!」
ただの冒険者は、その手で選ばれし者に打ち勝ったのだった。
成長するメインヒロイン♂
3D酔いを克服出来なければたぶん今日更新!
もし村に適応してしまったら……