第百十話 審判の時
そういえば今さらなんですが、エイプリルフール前に更新滞ってたのはゲーム作ってたからなんですよね
PC用のフリゲですが、〈ブレイブリーブレイド〉って名前で、こっちのブレブレの原案みたいなゲームです
活動報告の「自作ゲーム最新パッチ置き場」からダウンロード出来るので、暇な人はぜひテストプレイしてやってください
「――どうかオレに、剣を教えてください!!」
襲撃から、一転。
いきなり土下座をして頼み込んできたルインの姿には驚かされたが、こちらとしては渡りに船という状況に思える。
今まで仮想敵のように考えてきた「主人公」がいきなり弟子に、なんていうのは若干複雑な思いはあるが、その恩恵は計り知れない。
〈魔王〉と戦う上では〈光輝の剣〉はどんな武器よりも役に立つし、何よりも、
(ルインが「主人公」なら、その行動は出来るだけコントロールしたいんだよな)
もし「主人公」を好きに連れまわせるなら、ゲームと同じような感覚でイベントを発生させられ、その攻略が出来る。
仮にそこまで行かなくとも、「主人公」がどこにいるかを把握出来ればイベントの発生をある程度予見することも可能だろう。
〈薔薇の館〉での突然のイベント進行や、想像もしなかった〈壱の魔王ブリング〉との遭遇戦のようなイレギュラーをなくせると思えば、それだけで御の字だ。
一方で、俺が一番避けなければいけない展開が、ルインが勝手に高難易度のダンジョンやイベントに飛び込んで勝手に死ぬこと。
いきなり王子に斬りかかった今の無鉄砲さを見ると、その可能性は非常に高いとすら感じられる。
(むしろゲームスタートからの四ヶ月、よく無事だったよな、こいつ)
ルインは確かに三十というこの時期にしては破格のレベルを持ち、その能力はレクスとも比べ物にならないほどに高い。
ただ、それだけだ。
さっき戦って分かった。
ルインは確かに強いが、戦い慣れていない。
まあ、それも無理はないだろう。
詳しい話を聞かなければ分からないが、DLCの説明文を見る限り、魔の島というのは人のほとんどいない無人島に近い場所だったのではないかと思う。
そこで魔物だけを相手に独学で剣を振っていたら、剣術の技量や人相手の戦い方が身につかないというのも分かる。
分かるが、それではこの先を渡っていけないというのも事実だ。
ブレブレは難易度が高いゲーム。
正しい知識と準備、そして「ゲーム的な補助」があってようやくまともにプレイ出来る。
なのにルインの状況は、ゲーム初心者が初見のゲームをソロ縛りでノーリセットプレイをやっているようなもの。
いくらチート級の能力値があっても絶対にどこかでつまずいてしまうだろう。
(しかし、仮にも王族に襲いかかったこいつをどうやって……)
パチパチパチ、と横から拍手の音が聞こえてきた。
「いやぁ、見事な剣の冴えだったよ。流石は〈極みの剣〉だね」
「な……」
こいつ、何を言い出してんだ、と俺は抗議しようとするが、アインはパチリとウインクして「話を合わせろ」と伝えてくる。
そこで思わず黙ってしまったのがよくなかったのか、ルインも「やっぱりそうだったのか」という顔をして俺を見ている。
……いやだから誰だよ〈極みの剣〉。
「君、名前は?」
「え、あ、わっ、オ、オレはルイン! ルイン・スラーツです!」
間近で王族オーラを浴びて流石に動揺したのか、さっきまで襲撃していたと思えない様子でルインが答える。
「……ルイン・スラーツ、か。なるほど、ありがとう」
一方、さっきまで襲撃してきた相手にニコリと笑顔を見せるアイン。
完全に役者が違う。
場を支配したイケメン王子は、また俺の方に向き直って口を開く。
「さっきの立ち合いを見るに、ルインの実力は十分みたいだ。売り込みとしては些か乱暴だったけど、君がいいのなら弟子に取ってもいいんじゃないかと思うよ」
そう話しながら、ルインに見えないようにまた片目をつぶってきたことで、ようやくアインの意図が分かった。
俺が落としどころを探しているのを見て、ルインが「王子を襲撃してきた」のではなく、「実力者であるレクスに腕試しを試みた」という形にすり替えて、この場を収めようとしてくれているのだろう。
ちょっと気が回りすぎて怖い気がするが、ありがたいと言えばありがたい。
(それに……。アインがこうやって場を収めること自体は、イベントの流れなのかもしれないな)
戦いながら、考えていたことがある。
まず、ルインのステータスと俺のステータスを比較すると、
―――――――
レクス
LV 52
HP 542
MP 281
筋力 209(C+)
生命 204(C+)
魔力 214(C+)
精神 204(C+)
敏捷 210(C+)
集中 212(C+)
能力合計 1253
ランク合計 54
―――――――
―――――――
ルイン
LV 35
HP 740
MP 165
筋力 405(A-)
生命 320(B)
魔力 115(C-)
精神 335(B+)
敏捷 205(C+)
集中 360(B+)
能力合計 1740
ランク合計 64
―――――――
明らかにルインの方が強い。
ルインが〈魔の島の少年〉ならその初期レベルは30。
出会いの時期によって多少の差は生まれるだろうが、それでもルインとレクスの間のこのステータス差が覆ることはないだろう。
流石は追加主人公というべきか、ブレブレの登場キャラの中でもぶっ壊れに近い能力を持っていると言えるルイン。
しかし、そうは言っても……。
―――――――
アイン
LV 45
HP 1320
MP 660
筋力 600(S-)
生命 600(S-)
魔力 600(S-)
精神 600(S-)
敏捷 600(S-)
集中 600(S-)
能力合計 3600
ランク合計 96
―――――――
比較対象をアインにしてしまえば、流石に分が悪いと言わざるを得ない。
アインはあらゆる能力でルインに勝っているし、総合力では倍近い差をつけている。
その上、戦闘経験の足りないルインに対して、アインは百戦錬磨の戦いの天才。
いくら〈光輝の剣〉があったとして、ルインがアインに勝てる要素はないのだ。
だから本来のイベントの流れで言えば、ルインを叩きのめすのもルインに弟子入りをお願いされるのも、本当はアインの役目だったのではないだろうか。
「条件が、ある」
ならきっと、この流れに乗っていけば自然とイベントは収束するだろう。
だが、その前に、どうしても一つだけ確かめたいことがあった。
「簡単だ。弟子になるのなら、俺の指示には全て従ってもらう。どんなに理不尽に思えても、全てだ」
「それ、は……」
ルインは明らかに迷っていたが、二秒ほど目をつぶって、次に目を開いた時、そこには決意の色が宿っていた。
「……わかり、ました」
本当に全てを受け入れようと決めたのか、あるいは、嘘をついてでも俺の弟子になりたいと考えたのか。
どちらかは分からないが、どちらでもいい。
「なら、最初の指示だ」
そう言って俺は、インベントリからボロボロのブーツを取り出して、ルインの前に放る。
「これ、は……?」
「呪いの装備だ。本当に覚悟があるのなら、それを着けてみせろ」
俺の言葉に、ルインは息を呑む。
だが、躊躇っていた時間は、今度は一瞬だった。
「やり、ます!!」
ルインは迷いなくブーツを手にして、目の前で足を通していく。
「……レクス?」
隣からもの問いたげな視線が突き刺さるが、俺はルインを、ルインだけをずっと見つめ続けていた。
俺が渡したブーツは、ただの呪いの装備なんかじゃない。
あれこそが、俺が「主人公」発見のために用意した「切り札」。
あまりにも危険すぎて、ずっとインベントリに死蔵していた〈魔王の遺産〉。
〈壱の魔王〉のドロップアイテムだ。
【破滅のブーツ】
世界を呪う〈魔王〉が一角、〈壱の魔王ブリング〉の怨嗟が染みついたブーツ。
その呪いの力はアーツの効果を50%上昇させるが、同時に自身の最大HPを五分の一にまで激減させてしまう。
ただし、「光の女神の加護」を持つ者はこのデメリットを無効化出来る。
アーツを強めるという効果は強力だが、あまりにもマイナス効果が大きすぎ、誰にも着けることが出来なかった。
だが、もし……。
もしもルインが、本当に「主人公」――「光の女神の加護」を受けた〈光の勇者〉なら……。
「……着け、ました」
かすかに震える声で、ボロボロのブーツを履いたルインが俺に声をかける。
今さらになって心臓が早鐘を打つ。
間違いはないと思っているはずなのに、決定的な瞬間を前に、興奮が収まらない。
俺は万感の思いを込め、目の前の少年に〈看破〉をかける。
(……あぁ)
現れた数値を見た瞬間に、俺は思わず天を仰いだ。
熱くなった目頭を隠すように、手で目元を押さえる。
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ルイン
LV 35
HP 740
MP 165
筋力 405(A-)
生命 320(B)
魔力 115(C-)
精神 335(B+)
敏捷 205(C+)
集中 360(B+)
能力合計 1740
ランク合計 64
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ゲーム世界にやってきて、四ヶ月。
――俺はついに、「主人公」を発見した。
次回更新はあ、明日!
止まるんじゃねえぞ!