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主人公じゃない!  作者: ウスバー
インタールード カジノ狂騒曲
11/184

第十話 とあるA級冒険者がギャンブルにハマって無一文になるまで・前編

直前に思いついてカジノの設定変えたらめっちゃ時間が……

ら、らすとるーきー……





【たったの一行ですぐ分かる、作中のおおよその貨幣価値】

1ウェン=1円


「よし。体力は全快、軍資金はばっちり。負ける要素がないな」


 俺は、ファンタジー然とした街に似つかわしくない、ギラギラとしたネオンが輝く店を前にニチャリと笑う。

 色とりどりの明かりに彩られたその看板には、「カジノ・グランリリム」の文字があった。


 ――俺の、人生が終わった日。


 あまりに長すぎた一日が終わり、夜が明けた。

 交通事故、死亡、転生、転生してからの死亡、からの復活、と我ながらとんでもない一日だったが、一晩たっぷりと眠って肉体的にも精神的にも少しは回復出来た。


(正直、もうあんな綱渡りみたいな真似は懲り懲りだ。ここからは安全第一。リスクを避けて堅実に行こう!)


 とりあえずはこれからの計画を立てないと、と思っていた矢先だった。

 偶然やってきたフリーレアの街の外れで一軒の店を見つけた瞬間、全ての予定は吹き飛んだ。



 ――カジノ〈グランリリム〉。



 どこかの街の外れにランダムで出現する「神出鬼没のカジノ」。

 どの街に出現するかは予測不可能で、しかも時期を逃せば次に出現するのは一年後という超レア店。


「序盤に見つけたらとにかく全力!」と某掲示板の〈ブレイブ&ブレイド〉スレにも書かれていたくらいの優良スポットだ。

 ここを外す手はない!


(今の手持ちでも勝負は出来る。けど、大きく儲けるなら初期費用は多ければ多いほどいいか)


 カジノの開店は夕方になってから。

 だから俺はそれまでの時間を有効活用することにした。

〈翼竜の散歩道〉まで戻って〈秘境の汽水〉を採取してきて売却、さらに街を駆けずり回り、「レクス」の持っていた少ない荷物の中から売れるものは全部売って、現金210万ウェンを用立てた。


 これをなくしてしまったら本当にすっからかんになってしまうので、少しだけ怖い思いはある。

 ……が。


(ま、問題ないな)


 何しろここは、ブレブレ掲示板で「初心者が絶対に負けないカジノ」とまで呼ばれていた序盤のオススメスポット。

 カラクリさえ知っていれば、絶対に儲けられるはずの場所なのだから!!



 ※ ※ ※



 意を決し、ファンタジー世界に似つかわしくないネオンに彩られた現代的な内装の店に、足を踏み入れる。


「へぇ……」


 中はいい感じに薄暗く、煌びやかでありながら同時に妖しげな雰囲気を漂わせるという絶妙の空気を醸し出していた。

 ゲーム画面越しには見ていたが、実際に中に入ってみると想像以上に雰囲気がある。


「あら。いらっしゃい」


 俺が中に入ると、奥に立っていた女性が近付いてくる。


 豪奢な金髪に、抜群のスタイルをしたバニーガール。

 ゲームと同じなら、このカジノにいる唯一の従業員だ。


 いることは知っていても、これもやはり、実際に生で見ると圧倒されてしまう。

 ゲーム画面越しには見ていたが、実際に生で見ていると想像以上に胸が揺れる。

 あ、いや、いやらしい意味ではなくな?


「ふふ……。夢と欲望の世界〈グランリリム〉にようこそ。わたしは夢の水先案内人、サーキュラよ」


 俺の傍まで近付いたその女性は、俺の不躾な視線を咎めようともせずに、むしろ微笑んでみせた。

 近付かれるとその度に甘い匂いが漂ってくる。


「初めての方かしら? よければ、わたしからカジノの遊び方を説明するわね」

「頼む」


 俺が短くうなずくと、彼女は妖艶に腰を振って歩きながら、部屋の真ん中にある二つの機械に向かった。

 これもやはりRPGの世界には似つかわしくないが、一言で言ってしまえば自販機のようなものだ。


「まず、これがトークン販売機。ここでは外のお金は使えないわ。だから、ここで専用のトークンを買って、それを使ってゲームを遊んでもらうの。レートは1000ウェンに対して1トークンだけど、お金は持っているかしら?」

「問題ない」


 俺が答えると、サーキュラは満足そうに笑った。


「そして、こちらが景品販売機。現金でトークンは買えるけれど、トークンを現金に戻すことは出来ないの。だから、ここで稼いだトークンはこの機械で景品に交換してあげてね。どれも自慢の品物ばかりよ」


 ここは、よくあるゲームのカジノと変わらない。

 俺はもう一度うなずいた。


「あ、ただし、ここの景品はどれも『お店では売れない』ものになっているから気を付けてね。あくまでここは夢の世界。お金儲けなんて考えずに楽しんでいってちょうだい。それから……」


 サーキュラは周りを見回す。

 俺も釣られて部屋に散らばる四つのエリアを確認する。


「ここには『ポーカー』『ルーレット』『スロット』『ブラックジャック』の四つの遊び場があるわ。ここのゲームはどれも全て一人で遊べるようになっているけれど、それぞれの説明は必要かしら?」

「いや、必要ない」


 思わず引き込まれるような笑み。

 だが、俺は鋼鉄よりも堅い意志で揺れる胸から視線を外した。


「あら、そう? なら説明は以上ね。……ああ、いえ。もう一つ」


 と、そこで、その女性はまるで今思い出した、というように付け加えた。


「イカサマ防止のために、ここでは『魔法や技、アイテムの類は禁止』にしているから注意してね。それでは、よい夢を」


 彼女は最後にウインクを一つして、店の奥のカウンターまで戻っていった。

 その後ろ姿を複雑な思いで見送ってから、俺は前に向き直った。


(まずは、景品の確認だな)


 このカジノは出現場所だけでなく、どんな景品が出てくるかも日によって違う。

 カジノの独自賞品以外に、普通のダンジョンにランダムドロップするアイテムがリストに並ぶこともある。


 まあ、サーキュラが言っていた通り、ここに並ぶアイテムは全て店売り出来ないものに限られるため、九割が呪いのアイテムになる訳だが、今回は果たして……。


「お……」


 そのラインナップに、俺は思わず声を漏らした。

 カジノでの交換品で一番高価なものが100万、次が50万トークンで交換可能なのだが、


(100万トークンの枠にメタリック王の剣。50万トークンの枠にはシューティングスターリング、三角帽子、それにバリアリング! これは、めちゃくちゃいいんじゃないか!?)


 やっぱり俺には、運が向いてきたようだ。

 欲しかったアイテムばかりが、そこには並んでいた。

 そして最後に一番下、1万トークンで交換可能なアイテムにも一応目をやって、


(ええと……脱力の指輪、スティールソードに、ゴブリンスローター!?)


 思わず、拳を握り締めた。


(オイオイオイ、死ぬわ俺!)


 欲しいアイテムばかりが並んでいる。


 我ながら、とんでもない強運だ。

 これは本当に、俺の方に風が吹いてきているのかもしれない。


 あとはただ、ゲームで勝てるかどうか。

 とはいえ、そっちの方は本当に、ほとんど心配はしていなかった。


(よし! 今日は稼ぐぞ!)


 俺は意気揚々と10万ウェンを機械に投入した。



 ※ ※ ※



 数あるゲームの中で、俺が選んだのはルーレットだ。


「あら、ルーレットで遊ぶのね。チップを置いたら、その水晶に触れてみて。自動的にルーレットが始まるわ」


 遠くからかけられた声に上の空でうなずいて、俺は目の前の卓を見る。

 ルーレットとは簡単に言えば、ホイールと呼ばれるたくさんの数字の書かれた円盤に小さな球を投げ入れ、その球がどの数字に落ちるかを当てるゲームだ。


 プレイヤーは事前にどの数字に球が落ちるかを予想し、賭ける先の書かれたテーブルにチップを投入する。

 本来なら赤や黒、1-12など色々と複雑な賭け方が出来るのだが、ブレブレのルーレットはかなり簡略化されていて、1や2などの数字にピンポイントで賭けるか、あるいは偶数か奇数に賭けるか、の二択しかない。


(……とりあえず、やってみるか)


 選んだのは一番無難な「奇数・偶数」の欄。

 テーブルの「奇数」と書かれた場所に、トークンを一枚置く。


 そして、準備完了の証に、テーブルの隅に置かれた水晶球に手を置いた。

 一瞬だけ不思議な感触がしたかと思うと、チップが置いてあるテーブルがカッと光を放ち、同時にガコンと音がして、奥のホイールに球が射出された。


「お、おお……」


 次に、テーブルの底が抜けて、テーブルの中にチップが吸い込まれていく。

 トークンの行方も気にならないでもないが、今はホイールだ。


 ホイールの淵をボールはぐるぐるぐるぐると回転し、ついには「11」と書かれたスポットの中に入った。

 11……つまり、奇数だ。


 テーブルの横に設置された穴から、カランカラン、とトークンが2枚落ちてくる。


 ……とまあこのように、偶数奇数を当てたら賭けた数の倍のトークンが、数字をぴったりと当てたら賭けた数の36倍のトークンがそれぞれ戻ってくる、という仕組みだ。

 まあ実際には数字の0だけは偶数にも奇数にも数えられないため、その分だけプレイヤーが損をするのだが、まあそれは今はいいだろう。


(しばらくは奇数賭けだけでいいか)


 俺はもう一度奇数の欄にチップを放ると、水晶球に手を触れた。



 ※ ※ ※



 七回連続で、ひたすら奇数に賭け続けた。

 結果は、偶数、奇数、偶数、奇数、奇数、奇数、奇数。


 最初の一回も含めると、六勝二敗、という圧倒的な戦果だった。


「あら、すごい! 四連勝ね」


 気が付くと、近くにサーキュラが立っていた。


「流石、一流の冒険者は運も一流なのね」


 しなだれかかるように俺の肩を撫でながら、蕩けるような笑みを浮かべる。

 だが、俺は知っていた。



 ――この女の浮かべている笑みが、上辺だけのものだということを。

 ――このルーレットの結果が、運によるものなどではないことを。

 ――そして、この女がカジノにやってきた新人冒険者から魔力を奪って殺す、悪魔だということも!!



(悪いけど全部、分かってんだよ)


 魅惑の笑顔も、空々しいおべっかも、肩を触りながらさりげなく胸を当てる技も、俺には微塵も通用しない。

 なぜなら俺は、読んでいるからだ。


 世界の真実が描かれた悪魔の書。

 本来知り得ない知識を知り得る禁断の書。

 すなわち……。



 ――ブレブレの早期購入特典についてきた、あのくっそ分厚い公式設定資料集を!



 目をつぶれば昨日のことのように思い出せる。


 店頭で付録としてつけられたものの、明らかにでかくて分厚くて邪魔で、でも要らないとも言えずに受け取ってしまったあの冊子。

 とりあえずテーブルの横に置いていたものの、お茶をこぼしてしまってガビガビになったあの冊子。

 後日読んでみて想像の五倍以上面白かったものの、読む度にページがパキパキ音を立てて不快だったあの冊子を!



 そこには、このカジノについての設定が、イカサマの内容も含めて細かく記してあった。


 このカジノのゲームは、プレイする度に少しずつ生気を吸い取られる。

 だから、少ないお金を握り締めてやってきた新人冒険者には、甘い体験を用意するのだ。


 ルーレットで言えば、今のように1トークンを奇数か偶数に賭けた場合、イカサマによってその的中率は八割になる。

 すると当然冒険者のチップは増えていき、止め時を見失って何度もプレイし続ける。


 カジノ内では魔法もアイテムも使えないため回復することも出来ず、何かおかしいと気付いた時にはもう遅い。

 力を奪われてヘロヘロになった冒険者を、あのサーキュラという悪魔がおいしく頂く、という寸法だ。


 実際、俺も初めてゲームでこのカジノに入った時はあっさりと引っかかり、何も分からずに殺された。

 あの時の混乱と不安は、今も覚えている。


 だが、そんなものは所詮は初見殺し。

 ネタが分かってしまえば恐れるようなものでもなく、そのイカサマを逆手に取って、レベル一桁の初期主人公でも楽に貴重アイテムを手に入れる方法が確立された。


 そして、俺は「レクス」になったことで、初期の主人公とは比べ物にならないほどの体力、そして財力を持っている!

 初期主人公では出来なかったことが、今の俺になら出来る!


 冷静に計算をしながら、俺は次の算段を立てる。


(ここのルーレットにイカサマがあることも、数回程度ゲームをやっても「レクス」の体力なら問題ないことも分かった。次勝負に出て、もしうまくいったら今度はでっかく賭けていこう)


 何も知らず、全てがうまく回っていると錯覚しているであろうサーキュラに向かって、俺は昏い笑みを浮かべる。


(悪いなサーキュラ。世の中、欲の皮の突っ張った奴は破滅するって、相場は決まってる)


 策士策に溺れる。

 あんたはもうすぐ、自分の仕掛けた罠で破滅するんだ!


果たして破滅するのはどちらなのか!



次回、第十一話

「とあるA級冒険者がギャンブルにハマって無一文になるまで・後編」

は明日更新です! お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 早急に直して欲しい所があります。 ゼロは偶然奇数では無いと書かれていますがゼロは偶数では無いでしょうか?もし違っていたらすいません。
[気になる点] 私が考えるに、タイトルに何か今後のヒントが隠されているように思えますね…
[一言] 攻略法を知ってても本人が弱ければ意味が無い・・・。
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